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憲法「第2A部 司法部」に見るシンガポールの司法制度 (1) 裁判所の構成と管轄権

ドキュメント内 【論文の要約】 氏名: (ページ 34-38)

第3部 分離・独立直後の独立国家建設期における憲法体制 第3章 分離・独立後における「憲法典」の整備と独立国家の建設

2 憲法「第2A部 司法部」に見るシンガポールの司法制度 (1) 裁判所の構成と管轄権

司法権は、「最高法院」(Supreme Court) と現行の成文法が定める他の「下位裁判所」(subordinate court) に付与される(憲法52A条)。

司法部に関する憲法規定(第 2A部)は、最高法院判事の任免要件、身分保障等を定めるものであ り、裁判所の種類やその管轄権、審理手続き等については関係法律に委ねられている。

シンガポールの司法制度は、アジア諸国の中では最もイギリスの司法制度を忠実に模倣している。

シンガポールの裁判所は、イギリスのそれを模して、最高法院に属する裁判所と下位裁判所に属する 裁判所に2分される(憲法52A条)。最高法院の管轄権、審理手続き等は「最高法院法」(Supreme Court of Judicature Act, Act No 24 of 1969)に規定され、下位裁判所の管轄権、審理手続き等は「下位 裁判所法」(Subordinate Courts Act, Act No 19 of 1970)に規定された。

ちなみに、イギリスの最高法院は、高等法院(High Court)、控訴院(Court of Appeal)および刑 事法院(Crown Cort)をあわせて最高法院(Supreme Court of Judicature、Supreme Court)と呼ぶ。

このイギリスの伝統を受け継ぎ、1969年の「最高法院法」は、「海峡植民地」解体(1946年)前にシ ンガポールに置かれていた「海峡植民地最高法院」(Supreme Court of the Straits Settlement)を 再構築し、高等法院(High Court)、控訴院(Court of Appeal)および刑事控訴院(Court of Criminal Appeal)によって構成される最高法院を定めた。

「最高法院」は司法行政上の呼称であり、司法管轄上は、1969年の「最高法院法」においては、第 一審裁判所たる高等法院と、上訴事件を管轄する控訴院および刑事控訴院からなるとされた。このう ち刑事控訴院は、1973年の法改正によって廃止され、それ以降、最高法院は、高等法院とシンガポー ルにおける「最高位の裁判所」である控訴院という2つの裁判所からなっている。

① 最高法院

1969年の「最高法院法」は、最高法院の特徴とその構成について、最高法院が上級記録裁判所(a

superior court of record)であり、高等法院、控訴院および刑事控訴院の三つから構成される旨を定

めた。「記録裁判所」(court of record)とは、裁判所侮辱の処罰権を持ち、司法手続きが記録および 証拠として保存される所であるが、シンガポールの最高法院は、イギリス司法の伝統を受け継ぎ、裁 判所侮辱に対して科罰権を有している。最高法院の判事には、最高法院主席判事のほか6名の最高法 院判事が任命される。高等法院は重要な第一審の事件を取り扱い、それとともに、控訴事件をも所管 する。裁判は第一審と上訴審の二審制である。このように、「最高法院」と呼ぶ裁判所が、第一審ない し控訴審の審理を担当する例は、香港やニューヨーク州にその例を求めることができる。

(ア) 高等法院

1969年の「最高法院法」によれば、高等法院(High Court)は、原則として1人の判事によって審 理され、最高法院主席判事が高等法院の開廷場所・時間、各判事の業務分担等を定める。高等法院は、

第一審管轄権および上訴管轄権という2つの管轄権を併せ持っている。

高等法院は第一審裁判所として、すべての民事事件および刑事事件について管轄権をもつ。高等法 院は下位裁判所の管轄に属する事件よりも高額の民事事件および重大な刑事事件を所管する。

高等法院は、第二審裁判所として、地区裁判所(District Court)やマジストレート裁判所

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(Magistrate’s Court)からの民事・刑事の上訴事件について管轄権を有する。

なお、高等法院は、下位裁判所の刑事事件および民事事件の訴訟手続について、「改訂」(revision) をなす権限を有し、一般的に下位裁判所で係属中の訴訟についてはあらゆる段階において介入する権 限が認められ、訴訟手続の違法を是正することができる。この改訂手続においては原則として証人尋 問などの審理(hearing)は行なわれない。

(イ) 控訴院

1969 年の「最高法院法」によれば、控訴院(Court of Appeal)は、高等法院の民事判決に対する

上訴を管轄する。法律に別段の規定のない限り、第一審判決であるか、上訴審判決であるかを問わな い。この上訴については、訴額1,000シンガポールドル以上の事件に限られるなどの制約がある。

控訴院は、原則として最高法院主席判事を裁判長(President)とする 3 人以上の奇数の判事によ り構成される。

この控訴院は、1993年の憲法改正により、刑事に関する刑事控訴院と一体化した結果、控訴院は民 事・刑事に関するシンガポール終審裁判所、シンガポールでは最高位の裁判所として位置づけられる に至った。

(ウ) 刑事控訴院

1969年の「最高法院法」によれば、刑事控訴院(Court of Criminal Appeal)は、高等法院の有罪 判決(第一審判決)に対する上訴を管轄する。無罪判決に対する上訴は許されず、法律問題を含むと きに限って、検察官から刑事控訴院に事件の再審査(review)の申立てをすることができ、これに応 じて宣言判決(declaratory judgment)がなされるにとどまる。すなわち、この判決は高等法院の無 罪判決を覆すものではないが、以降のすべての裁判所を拘束する。

高等法院には、第一審刑事管轄権の行使に際して、一定の法律問題について留保することが認めら れており、この場合刑事控訴院は事件を再審査することができる。また高等法院の刑事上訴管轄権の 行使に際しても、当事者は公共の利益にとって重要な法律問題に関して刑事控訴院の決定を申立てる ことができる。

② 下位裁判所

「下位裁判所法」(Subordinate Courts Act, Act No 19 of 1970)によれば、「下位裁判所」(2014年 3月7日の法改正により、Subordinate CourtsはState Courtsと改称された。)には、(ア)地区裁判 所、(イ)マジストレート裁判所、(ウ)少年裁判所、(エ)検屍官裁判所の4裁判所があるとされた。大 統領は必要と考える数の下位裁判所を設けることができる。

下位裁判所において「憲法問題」(憲法規定の解釈や効力に関して提起される問題)(Constitutional

Question)が提起された場合には、高等裁判所への照会に基づいて判決を下すべきことが義務づけら

れている。

(ア)地区裁判所

地区裁判所(District Court)は、高等法院より下位の第一審裁判所であるが、その管轄権は民事・

刑事の両事件に及ぶ。マジストレート裁判所よりは、やや高額ないし、やや重い民事事件・刑事事件 を管轄している。

民事事件に関しては、地区裁判所は記録裁判所とされ、下級裁判所法はその管轄権について詳しい 規定を設けている。

刑事事件に関しては、地区裁判所は刑事訴訟法その他の制定法に従って一定の犯罪について管轄権 を有する。

(イ)マジストレート裁判所

マジストレート(治安判事)裁判所(Magistrate’s Court)は、最も低額・軽微な民事事件・刑事 事件を所管する第一審裁判所である。民事については、不法行為や金銭回復訴訟など地区裁判所の管

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轄事件の一部で訴額1000ドル以下の事件について第一審管轄権を有している。

刑事事件については、その管轄権は刑事訴訟法または制定法に従う一定の犯罪に限られている。旧 刑事訴訟法8条は、その裁判管轄権を最高3年以下の拘禁または罰金のみを科しうる犯罪に限定して いる。

マジストレート裁判所は、その裁量または当事者の申立にもとづき事件を地区裁判所に移すことが できる。その判決に対する上訴は高等法院に対してなされる。

(ウ)少年裁判所

少年裁判所(Juvenile Courts)は、1949年の「子供・若年者法」(Children and Young Persons Act) に基づき設置された裁判所である。同法において、「子供」(children)は14歳未満、「若年者」(young person)は14歳以上16歳未満、「少年」(juvenile)は7歳以上16歳未満の者とされている。この ように少年裁判所は、16歳以下の少年事件(殺人など一定の事件を除く)について管轄権を有する。

(エ)検死官裁判所

検死官裁判所(Coroner’s Court)は、刑事訴訟法上検死官に付せられた権限を行使する。この裁 判所はシンガポールで1ヵ所設けられている。

この他にも一定の司法権限を与えられた機関である特別の裁判所が存する。一つは労働事件など社 会経済事件について一定の司法権限の行使を認められている下記「労使仲裁審判所」に代表される準 司法機関である。もう一つは、イスラム教について設けられた「シャリア裁判所」である。

(ア) 労使仲裁審判所

1968年の労使関係法(Industrial Relation Act)は、「労使仲裁審判所」(Industrial Arbitration Court)の設置について定めている。この審判所(tribunal)の所長(president)・副所長(deputy

president)は内閣の助言にもとづき大統領により任命され、最高法院の判事と同一の特権を与えられ

る。この審判所は、所長、副所長、使用者および労働者からの各1名の代表により構成される。裁判 所は労使紛争について仲裁を行なう権限を有する。

(イ)シャリア裁判所

イスラム教徒に関する事件を管轄する裁判所は、「ムスリム法施行法」(Administration of Muslim Law Act, Act 27 of 1966)に基づき、シャリア裁判所(Shariah Court)とその上訴機関としての「上 訴委員会」(Appeal Board)が設置される。

(2) 最高法院判事の任免要件とその身分保障

司法部に関する憲法規定(第 2A部)は、最高法院判事の任免の要件、身分保障等を中心とするも のである。

アジア諸国の中で最もイギリスの司法制度を忠実に模倣しているといわれているシンガポール司 法制度において、最高法院の判事は、イギリスの最高法院の判事と同じく、職務の重要性から身分保 障が十分認められている。

最高法院判事の任命について、主席判事および判事は、首相の助言に基づいて大統領によって任命 される(憲法52C条1項)。主席判事は控訴院と刑事控訴院の裁判長を兼ねる。最高法院判事の被任 命資格は、1966年の法曹法(Legal Profession Act, Ordinance 57 of 1966)2条に基づく有資格者 の期間が10年以上ある者、シンガポール司法機関の成員であった期間が10年以上ある者、または、

その双方を通算して10年以上ある者は、最高法院判事に任命される資格を有する(52D条1項)。こ のように、最高法院の判事の任命は、1991年までは首相の助言に基づいて大統領がこれを行ってきた が、1991年の憲法改正により、公選大統領が自由裁量で行う決定事項とされた(「1992年リプリント 憲法典」95条1項)。

最高法院判事の在職期間の保証については、定年は 65 歳であるが、大統領が承認する場合には、

65歳に達した後、さらに6ヶ月を超えない期間、その職務を保持することができると規定している(52

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