• 検索結果がありません。

大統領令による憲法修正と市民権規定の変更 (1) 議会選挙型大統領の成立

ドキュメント内 【論文の要約】 氏名: (ページ 30-33)

第3部 分離・独立直後の独立国家建設期における憲法体制 第3章 分離・独立後における「憲法典」の整備と独立国家の建設

2 大統領令による憲法修正と市民権規定の変更 (1) 議会選挙型大統領の成立

1965年の「憲法(改正)法」(3条)は、「シンガポール州憲法」の「州長」(Yang de-Pertuan Negara) を「大統領」(President)と改称した。大統領は、国会によりシンガポール市民権を有する者の中か ら投票議員の過半数をもって選出され(41条1項)、「総議員の三分の二以上の賛成による国会の議決 にしたがって解任される」(1条3項)。大統領は、このように国会によって選出または解任される結 果、国会に完全に依拠することになる。こうして、多数党の意思、ひいては首相の意思に従属する議 会選挙型大統領が現われることになった。

(2) 大統領令による憲法修正

議会選挙型大統領に対して、1965年の「シンガポール共和国独立法」は、国家元首(Head of State) の地位を与え(2条)、さらに、憲法典を含む成文法(現行法)に「必要かつ適当と認められるような

修正(modification)」を、分離・独立日から3年間、命令(order)の形式で行いうる権限を付与し

た(13条3項a号)。この「シンガポール共和国独立法」は、憲法典における自由・人権規定等の欠 如を暫定的に補う憲法法であると共に、国家元首たる大統領に独立後の憲法典整備に必要な一定の権 限を時限的に付与する憲法法でもあった。

シンガポールにおいて、元首的機関の命令による法令修正は、「シンガポール州憲法」(105条)、「マ レーシア法」(74 条)等で認められたことがある。しかしこれらの場合、命令による憲法典修正まで を認めるものではなかった。「シンガポール共和国独立法」が大統領に付与した法令修正権には、憲法 典を修正する権限までが含まれている点が特徴的である。

1966年3月、大統領は「シンガポール共和国独立法」の13条3項a号上の権限を行使し、「シン ガポール州憲法」の修正版たる憲法典の規定に、独立国シンガポールに適用するのに必要な“字句に 関する修正”を加えた。これは、同月23日(公布)の1966年の「(シンガポール憲法を含む)諸法 の修正命令」(The Modification of Laws(Constitution of Singapore)Order,1966)」によって行わ れた。「(シンガポール憲法を含む)諸法の修正命令」によって、例えば、“Yang di-Pertuan Negara”

が“President”と改められ、憲法典の規定施行のために必要な事務的な修正が行われた。

(3) 大統領令による市民権規定の変更

大統領令によって、憲法典の規定内容....

についても修正が行われた。例えば、1966年12月9日の「(シ ンガポール憲法典を含む)諸法の修正(NO.2)命令」(The Modification of Laws (Constitution of Singapore) (NO.2) Order,1966) は、後述する1966年の「シンガポール憲法のリプリント」(諸修正 憲法規定を整理統合した憲法典)の55条(市民権の得喪)に、それの2項として、市民権の喪失に 関する規定を追加した。この規定は、成人した者(満21歳)が外国に対する忠誠の放棄と、シンガポ ールに対する忠誠の宣誓を行わない場合にはシンガポール市民たる資格を喪失することになる旨を定 めるものであった。これは、とくにシンガポール国内のマレー系住民にとっては重大な選択(忠誠を 誓うのは、シンガポールに対してか、それともマレーシアに対してか)を迫るものであり、字句の修 正というレベルに留まらないことはもちろんのこと、内容的にも市民権の喪失にかかわる重要な修正 であった。

- 31 -

大統領令による憲法修正については、「追放」・独立という緊急事態において、国会における野党の 不存在(国会審議ボイコット)という民意反映にかかわる問題が存在した。すなわち、野党の存在が 民主主義の条件とされる場合、PAPによる議会独占は、反PAP(政府)勢力にとっては格好に攻撃 材料となりえた。事実、すでに分離・独立以前、マレーシアの大蔵大臣によって「PAPの一党支配(PAP’s one-party rule)」に対する批判がなされていた。

こうして大統領令による憲法修正については、分離・独立後の野党の存在しない議会の状況が考慮 されて、国家元首....

・大統領に....

、自国への忠誠要請という市民権の得喪.................

、ひいては独立国家建設にかか.............

わるセンシティヴな憲法修正の役割が託された.....................

と見ることができるであろう。

三 「リプリント憲法典」の成立とその展開

1 「1966 年リプリント憲法典」の成立とその意義

分離・独立後、修正が加えられた憲法の規定は、法務長官(Attorney-General)が大統領から委任 されて行う「リプリント(reprint)」によって、随時、整理統合された。

この「リプリント」について、分離・独立前の「シンガポール州憲法」は、「憲法の公認リプリン ト」(Authorised reprints of the Constitution)に関する規定として、その93条で定めていた。分 離・独立後も、1966年の「憲法のリプリント」(Reprint of the Constitution)の93条として継承 した(Republic of Singapore, Government Gazette, Reprints Supplement, Published by Authority, NO.14 Friday,

March 25,1966, p.461.)。その規定内容は、次のとおりである。すなわち、「大統領は、いつでも、政府

印刷当局者に対して、当該時点において効力を有しているすべての改正条項を含む本憲法の写しをプ リントする権限を与えることができる。また、このようにしてプリントされたいずれの写しも、すべ ての用途のための真正の写しであるとみなされる」(93条)とするものであった。

「リプリント」とは、修正が加えられた諸憲法規定を整理統合して、その時点の成文憲法がどうな っているかを示すものである。「リプリント」の主体およびその権限内容については、1965 年の「解 釈法」(The Interpretation Act)38 条が具体的に定め、それによれば、法務長官は、憲法改正(修 正)により追加または削除することになる事項を、「憲法のリプリント」に追加または削除する権限、

「憲法のリプリント」を行うに当たって条文の配列を変える権限等を有するとされた(1965年の「解 釈法」38条参照)。

「憲法のリプリント」は、分離・独立後、まず1966年3月に行われた。1966年3月25日、1966 年の「シンガポール憲法のリプリント(Reprint of the Constitution of Singapore,1966)」(以下、

「1966年リプリント憲法典」と略称する。)が公布され、この憲法典の公布によって、1965年の「憲 法(改正)法」と「1966年の(シンガポール憲法を含む)諸法の修正命令」(1966年3月23日公布)

が改正・修正を加えた諸憲法規定が整理統合された。

さらに、1980年3月31日には「1980年のシンガポール共和国憲法のリプリント」(Reprint of the Constitution of the Republic of Singapore,1980)が公布された。後述するように、この憲法典に は、「シンガポール共和国独立法」によってシンガポールへの準用が認められたマレーシア憲法の「基 本的自由」規定(第2章5条~12条)が、字句の修正が若干加えられてはいるが、ほとんど原文のま ま編入され、成文化された。憲法典上条文化されたのは、生命・身体の自由(1980年の「リプリント 憲法典」9条)、奴隷的拘束および強制労働の禁止(同10条)、刑罰不遡および一事不再理(同11条)、 法の下の平等(同12条)、シンガポールからの追放の禁止および移動の自由(同13条)、言論、集会 および結社の自由(同14条)、宗教の自由(同15条)および教育における差別の禁止(同16条)に 関する規定であった。

分離・独立(1965年)から1980年の「リプリント憲法典」が公布されるまでの期間、シンガポー ルの憲法典には権利宣言が存在しなかった。この間の憲法典は、基本権保障という目的を欠いた「統 治活動をスムーズに行うための規則」たる統治の手段の面に重点を置いたものであった。分離・独立 後のシンガポールにおいて、緊急法や根本法規の視点から憲法体制の構築・整備が試みられた結果、

憲法を政治、ひいては国家建設のための手段として活用する現象が現われた。すなわち、権利宣言不

- 32 -

存在という現象のほか、近代立憲主義に否定的な、新憲法典不制定、外国憲法典の準用、大統領令に よる成文憲法の修正、軟性憲法化といった現象が現れたのである。

2「1966 年リプリント憲法典」上の統治機構の概要

「1966年リプリント憲法典」は、議院内閣制を導入し、国会によって選出される大統領(議会選挙 型大統領)について、次のような規定を置いた。

(1) シンガポールの大統領は、国会により選出される(1条1項)。

(2) 大統領は、いかなる裁判所のいかなる訴訟手続にも服さない(1条2項)。

(3) 大統領は、その職務開始の日から4年間、その職に就く。ただし、国会議長に対して自筆の文

書の提出により、いつでも辞任することができる(1条3項)。

(4) 大統領は、国会の総議員の3分の2以上の賛成による議決によって解任される(1条同項)。

(5) 大統領が、病気もしくはシンガポールに不在の場合、または他の理由によってその職務を遂行 することができない間、内閣は大統領の職務を代行する者を任命することができる。ただし、大 統領として任命される資格を有しない者は任命されない(1条4項)。

(6) 大統領は、「マラヤ生まれのシンガポール市民」(a citizen of Singapore born in Malaya)の 中から選出される(2条1項)。

「1966 年リプリント憲法典」1 条が規定した大統領とは、「出席し且つ投票する議員の投票の過半 数」(41条1項)で選出され、「総議員の3分の2以上の賛成による議決によって解任される」(1条3 項)大統領である。

「1966 年リプリント憲法典」は、「シンガポール州憲法」の規定の趣旨を引き継ぎ、大統領として 任命される資格を有する者について、「マラヤ生まれのシンガポール市民」と規定した(2条1項)。

大統領の権限行使に際しての内閣の助言制については、その5条1項において、大統領は、この憲 法もしくは法令に基づき、その権限を行使する際には、内閣または内閣から一般的に権限を委任され た大臣の助言に従って行動しなければならない旨を規定した。このように、分離・独立後の「1966年 リプリント憲法典」においても、首相・内閣が国政の実質的な担当者である旨を定める規定が置かれ た。

大統領の行政作用、なかんずく自由裁量権については、「シンガポール州憲法」の規定そのものを 継承し、次の2つの場合には、大統領の自由裁量を認める旨を定めた(「1966年リプリント憲法典」5 条2項)。

① 首相の任命

② 国会の解散要求に対する同意の留保

「1966年リプリント憲法典」の第3章は「行政部」について定めたが、「シンガポール州憲法」の 規定を引き継ぎ、大統領にイギリス女王に似た権限・役割を期待し、行政作用に関する大統領の権限 について、次のように定めた。すなわち、大統領は、行政権が帰属する主体であり、本憲法の規定に 従って、内閣または内閣から権限を委任された大臣とともにその行政権を行使する(7条1項)。

また、内閣の長たる首相の任命についても、イギリスの憲法習律が盛り込まれた。すなわち、大統 領は、自らの判断で、国会の過半数の議員の信任を得ると認める(1名の)国会議員を首相に任命し、

その他の大臣の任命については、首相の助言に基づき、国会議員のなかから大臣を任命するとされた

(9条1項)。

このように、「1966年リプリント憲法典」は、「シンガポール州憲法」の規定およびその内容を引き 継ぎ、自由裁量による首相任命制、首相の助言制、閣僚全員の(議員と大臣との)兼任制を定めた。

大統領の自由裁量権について、首相が国会の過半数の議員の信任を得ていないとされる場合、「シ ンガポール州憲法」の規定を継承し、「1966 年リプリント憲法典」は、次のように規定した。すなわ ち、大統領は、自らの判断で、首相が国会の過半数の議員の信任を得ていないと認めるときには、文 書によって首相の地位が空位である旨を宣言する。ただし、その空位の宣言を行うに当たっては、事 前に、首相にその旨を通知する。首相が解散を要求する場合には、空位宣言にかえて、国会を解散す ることができる、とされた(10条1項b号)。

大統領の立法作用に関する権限についても、「シンガポール州憲法」の規定を継承し、「1966年リプ

ドキュメント内 【論文の要約】 氏名: (ページ 30-33)