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マイノリティの権利保障のあり方と 1966 年憲法委員会の提言

ドキュメント内 【論文の要約】 氏名: (ページ 41-55)

第 4 章 マイノリティ(マレー人)差別立法を抑止する憲法体制の構築 はじめに

2 マイノリティの権利保障のあり方と 1966 年憲法委員会の提言

(1) マイノリティの権利保障における個人的権利保障方式と集団的権利保障方式

「1966 年リプリント憲法典」89 条規定の趣旨は、先住民としてのマレー人(集団)の利益の特別 保護および他の種族的マイノリティ(インド人等)の利益保護を図るべきことを、政府(国家)に義 務づける、というものである。

ここで採用されているマイノリティ(集団)の利益ないし権利の保護方式は、マイノリティ(集団)

に属する個人の権利.....

保護という問題を迂回する、「国策の指導原則」的規定(いわゆる「国家目標規定」) の果たす作用に似たものがある。とすれば、そこには、政府(国家)による政治の作用への期待があ

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り、国家指導・統治の重要性を確認させる意味も見出されることになる。

マイノリティという集団..

を権利(人権)主体とする考え方は、国際人権法の中で発達してきており、

例えば、国際人権規約(1966年の第21回国連総会において採択され、1976年に発効B規約(自由 権規約)の27条は、権利主体に関連して、「エスニックな、宗教的な、または言語的マイノリティ」

を挙げている。B規約27条の場合、「エスニックな、宗教的な、または言語的マイノリティが存在す る国において、当該マイノリティに属する者は」と定めており、この点から、権利主体ないし受益者 は個人であって集団ではない、ということがいわれる。ただ、この場合の個人は、「単なる個人ではな く、あくまでもマイノリティ集団の構成員としての個人である」という点に注意する必要があろう。

こうして、「個人の権利の保障だけでは、マイノリティに属する人たちの権利は必ずしも保障され ない。だから、集団の権利というものが必要となる。そういう観点からは、個人

が民族的な文化を共有する権利や、言語の保障を実効化するためには、やはり集団としての権利を保 障する制度が必要なのでは」ないかという問題が生じてくる。さらに、集団の権利としてのマイノリ ティの権利保障については、それを憲法で保障すべきか否かという問題も存在する。この点に関して、

アジア諸国には、集団としての......

(先住民やマイノリティの)権利..

を保障する憲法..

例が散見される。

そのなかでシンガポールの場合は、憲法上、集団としての権利である種族的、宗教的マイノリティ の権利を保護対象とする条項が存在するという点において、さらには、多種族国家における個人的権 利保障方式と集団的権利保障方式の問題、特にそれら方式の前提条件の問題を考える上で示唆的な条 項を有するという点において、注目に値する。

すなわち、後述するように、1973年の憲法改正によって、シンガポール憲法には、一般的に、マイ ノリティ(マレー人)保護を定める憲法規定とともに、法制上、個人的権利保障方式から集団的権利 保障方式へと重点を移行したマイノリティ権利保障制度、つまり、「マイノリティの権利のための大統 領諮問会議」 (Presidential Council for Minority Rights、PCMR)に関する条項が存在する。「マイ ノリティの権利のための大統領諮問会議」条項に基づいて、シンガポールの立法過程においては、法 案は(緊急法案、治安維持法案等を除き)立法過程・第三読会を通過した後、大統領の同意を取得す る前に、「マイノリティの権利のための大統領諮問会議」に提出される。

「マイノリティの権利のための大統領諮問会議」は、法案の規定が、いずれかの種族的、宗教的マ イノリティに対する差別的な内容を含むと判断する場合には、当該法案の修正を国会に促すことがで きる機関である。したがって、「マイノリティの権利のための大統領諮問会議」条項とは、実定憲法に よって、集団としての権利である種族的、宗教的マイノリティの権利の保障を試みるものであり、ま た、マイノリティ(マレー人)保護に関する他の憲法規定の存在を前提にして、立法過程において、

種族的、宗教的マイノリティに対する差別的立法を抑止し、マイノリティの権利の保護を試みるもの でもある。

シンガポールの場合、マイノリティ保護を憲法の射程範囲の問題として捉えている点が特徴的であ る。

(2) 1966 年憲法委員会の設置とマイノリティの権利保護に関する提言

①1966 年憲法委員会の設置と審議事項の内容

PAP政府は、多種族主義に則った国家建設に資する憲法(制度)を模索し、マレーシアからの分 離・独立後、1966年、憲法委員会(Constitutional Commission)を設置した。

1966 年の憲法委員会は、委員長(最高法院の首席判事)、副委員長(国会議長)および9名の委員 に よ っ て 構 成 さ れ 、 次 の よ う な 目 的 を も つ 組 織 で あ っ た 。 す な わ ち 、 憲 法 で 多 種 族 主 義

(multi-racialism)の確立を保障し、かつ、マジョリティに属するとマイノリティに属するとを問わ ず、一個人(an individual)ないし一市民(a citizen)としての平等を保障するため、その明文化 を促すという目的である。これは、分離・独立後、マレーシア憲法の基本的自由を成文憲法化しない で、1965年の「シンガポール共和国独立法」によって依然シンガポールで有効とされたマレーシア憲 法規定のうち、それの8条、すなわち、何人も法の前に平等で、法の平等保護を受ける権利を有し(1 項)、市民は宗教、種族、血統または出生地を理由として法によって差別されない(2項)旨の規定の

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実効化をねらいとしたものである。憲法委員会の目的は、シンガポール市民が宗教・種族・出生地等 のエスニック集団性を理由として(つまり、あるエスニック集団に属していることをもって)不利益 を被るような場合、その人を保護するのにはどうしたらいいかについて、その方法を検討し、検討の 結果を具体的な憲法制度として提言することにあった。

憲法委員会は、PAP政府から付託された次の4つの事項を審議し、それに関する提言を行った。

(1)種族的、言語的および宗教的マイノリティの権利が、どのようにすれば憲法上十分に保障され うるかということについて、意見を聴収し、検討すること。

(2)いかなる規定も、それが実際に適用されればいずれかの種族的、言語的または宗教的集団の成 員に対し差別的であるとみなされるとき、その規定は、それによって不利益を被ることになる当事者 に意見表明の機会が与えられた後でなければ制定されない、ということ。このことを保障するために どのような規定を設けるべきか検討すること。

(3)政府、行政機関、法廷機関または公共機関の行為もしくは決定によって差別されたと主張する 市民または市民集団のために、いかなる救済方法を採用すべきかについて検討し、そうした苦情を処 理するための機構を具体的に答申すること。

(4)それら規定を憲法上どのように「特別に保障する(entrench)」かについて、検討すること31

以上要するに、(1)では、憲法によって族種的、言語的および宗教的マイノリティの権利を(十分 に)保護する方法、(2)では、いずれかの種族的、言語的または宗教的集団の成員にたいする差別的 立法を抑制しうる制度の創出、(3)では、差別的な行動活動に対する市民からの苦情を救済ないし処 理する方法(機構)、(4)では、特定の規定を憲法上特別に保障する方法、これらが政府からの検討 を要請された問題であった。

憲法委員会の提言内容は、同委員会が1966年8月21日に大統領に提出した『1966年の憲法委員会 報告書』(Report of the Constitutional Commission,1966)に示されている。

付託された4つの事項のうち、(1)「憲法によって種族的、言語的および宗教的マイノリティの権 利を保護する方法」および (2)「いずれかの種族的、言語的または宗教的集団の成員に対する差別的 立法を抑制しうる制度の創出」に関する提言が、「大統領諮問会議」(Presidential Council)の創設 に繋がることになった。

② マイノリティ権利保護における個人的権利方式の採用

1966年の憲法委員会は、(1) のエスニック・マイノリティの権利保護について、シンガポールの種 族 的 、 言 語 的 お よ び 宗教 的 マ イ ノ リ テ ィ の 権利 を 保 護 す る の に も っと も 適 し た 方 法 は 、 個人ないし市民の基本権を憲法によって特別に保障する (entrench)ことである、という提言を行っ た。種族、血統、出生地または宗教を理由とする差別的取扱の禁止は、こうした基本権(fundamental

rights)に含まれるとされた。これがマイノリティ保護の方法について、憲法委員会の報告書が示した

基本的な考え方であった。知られるように、多民族的な多様性への対応方式には、個人的権利による 場合と集団的権利による場合とがある。同報告書では、多種族的な多様性への対応方式として個人的 権利による方式が採用されている。このうち、集団的権利によるアプローチを採用している国の例と して、たとえば(程度の差はあるが)マレーシア、インド、カナダなどが挙げられる。このアプロー チの方法については、次のような難点が指摘される。すなわち、「集団的権利によるアプローチを選択 すれば、集団間の相違はますます大きくなり諸集団の個人的権利にもとづく満足を獲得できなくなる」

し、あるいは「欲すると否とにかかわらず…法によって社会をさまざまな人種的集団に永久に分割す ることになる」といった難点が指摘される。

1966 年の憲法委員会報告書には、これと似たような見方が見出される。例えば、特定集団(エスニ ック・マイノリティ)の権利保障に資する上院の設置や比例代表制の導入を拒否しているが、その理由 に関して、そうした制度の創設は種族的なラインに沿った政党政治をもたらしたり、コミュナルなラ インに立脚する政党の結成を促すことになる、という懸念が示されている。つまり、集団的権利を中 心に据える問題解決の方向は、種族的な違いを永存させ、それを強化することになるし、そのため多

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