第2章 で紹介したルイス・M(1995)の研究にみら れるように、恥は自己意識が芽生えてから生じる自己
第3節 恥意識と他の非行抑制要因との関係
前節においては、現代における日本の若者iHr代の恥 意識構造と特徴が異なることが示唆された。本節では、
若者世代の恥意識が行動抑制要因としてどのように異 なるのかを明らかにする。行動抑制要因としての恥意 識を分析するのに、すでに行動抑制要囚であることが 示されている(中里ら,1997)3つの要因との関連を検 討した。3つの行動抑制要因とは、道徳意識、愛他意 識、価値観である。なお、調査対象者は、第2節にお ける恥意識構造の世代差調査と同様である。
1.恥意識と道徳意識の関係
「道徳意識」について、中里(2000)は、[誰でもが、
少なくとも]一良いこと一tとは思わないであろう社会的 行動、もしくは、どんな社会でも求められるであろう 1社会的エチケット』」に対する規範意識であるとして いる。また中里(2000)は、道徳的行動を促進したり 抑制したりする根源的な要因には、共感性や自制心と いったものがあるが、それらの表層部分に「道徳意識」
があるのではないかという指摘している。
そして、本研究では、主に中高生を対象にしている ことから、ここでの「道徳意識」とは、非行に関連す るであろう「道徳意識」という位置づけである。本研 究では、この道徳的行動の促進や抑制と関係する「道 徳意識」という特性項目を用いて、それらと恥の特性 を測定する尺度である「恥意識尺度」との関連を検討 する。これまで非行抑制抑制要因として実証的に明ら かにされている「道徳意識」と「恥意識」との問に何
らかの関係がみられれば、恥意識が「行動抑制要因」
となり得るという知見が示されることになる。
分析の結果、若者世代全体において、恥意識と道徳
意識には、中程度の有意な相関関係がみられた
(r=.506,p<.01)。そして、世代差としては、小学生に おいて最も高い正の相関(r=.574,p<.01)を示し、大
学生における恥意識が最も低い正の相関
(r=.378,P<.01)を示した。他の特徴は、中学生
(r=.503,p<.01)から高校生(r=.398,pく、01)への落
差が最も大きかった。
表3−14 恥意識と道徳意識の相関関係
道徳意識 世代全体の恥意識
小学生の恥意識 中学生の恥意識 高校生の恥意識 大学生の恥意識
.506**
.574**
.503**
.398**
.379**
**P〈.01
2.恥意識と愛他意識の関係
愛他意識とは、中里(1997)がいう「愛他性」の別 称であり、他者のためを考えて何かしようとする態度 のことである。「愛他性」について、松井(1983)は次 のようにとらえている。「「対人関係』のうち、他者に 親切にする、他者に何かをあげる等の他者にプラスの
効果をもたらす行動は「向社会的行動(prosocial
behavior)』といい、「向社会的行動』のうち、行動の 動機が自己の利益ではなく、他者への同情や、他者の 福利を大切にすべきだというような価値観等の内初的 な動機によって、自己の損失を省みずに自発的に行わ れる行動を『愛他的行動』といい、また、そのような 心を『愛他心』、「愛他性(altruism)』という」。この
ように愛他性は、社会的に望ましい行動にとってきわ めて重要な役割を果たしているといえる。
また、中里・松井ら(1997)は、愛他性におけるの
4つの因子(第1因子:分与、第2囚子:援助、第3
因子:緊急援助、第4因子:奉仕・寄付)において、5力国(日本・中国・韓国・トルコ・アメリカ)の若者 たちを対象とした比較調査を行っている。そのなかで、
日本は、特に「寄付・奉仕」が、他の4力国に比べ、非 常に低い評価結果であることが示されている。
本調査では、中里・松井ら(1997)の結果に基づき、
愛他性の第4因子をさらに、「寄付」・r奉仕二と分けた
うえで、愛他意識を「援助」、「緊急援助」、「分与」、「寄
付」、「奉仕」の5つの場面に分けた。さらに、場面ご とに1項目を設定し、場面想定による4段階評定によ
る質問紙調査を行なった。
分析の結果、愛他意識との関連において、!ru意識は 世代による違いがみられた(表3−15)。
表3−15 恥意識と愛他意識の相関関係
援助緊急橿助寄付 分与 奉仕
若者全体の恥意識
小学生の恥意識 中学生の恥意識 高校生の恥意識 大学生の恥意識
.234** .107** .240** .067 286**
.333** .247** 384** .266** 375**
.193* .082 .10 −.074 .260**
一.001 −.080 .170* 一.014 .116
.197** .002 .108 .025 168**
**P〈.01 *P〈.05
若者世代全体の恥意識は、「分 ∫一を除く愛他意識と 弱いながらも正の相関関係がみられた。世代差におけ る顕著な特徴として、小学生の恥意識と愛他意識の相 関の高さがあげられる。他の世代に比べ、小学生のみ、
愛他意識の5つの下位カテゴリーすべてに有意な相関 があった。他方で、高校生の恥意識は、わずかに「寄 付」において弱い相関関係(r=.170,r<.01)がみられ たのみであった。
中学生の恥意識は、「援助」と「奉仕」のみに弱い相 関を示し、大学生と同じようなパターンがみられた。
恥意識と愛他意識との関係をまとめれば、恥意識は 愛他意識と低いながらも有意な関係が示されたが、分 与についてはその傾向はみられない。そして、世代差 の特徴は、小学生の恥意識が愛他意識と最も関係が強 く、高校生の恥意識が最も関係が弱いということにな
るだろう。
3.恥意識と価値観との関係
調査で用いた価値観項日は、中里ら(1997)の項日 である。中里らは、この価値観を人生態度と位置付け、
5つのカテゴリーに分類している。その5つのカテゴ リー軸は、①「人に何といわれようとも自分が納得す る人生が大切か、それとも自分だけでなく人のことを 考えることが大切か(自己中心一他者中心)一…、②「お 金が何より大切か、それとも人生はお金だけではない か(物質主義一精神主義)」、③「人生は努力よりも運 か、それとも運よりも努力が大切か(外的統制一内的 統制)」、④「今が楽しければよいか、それとも現在よ りも将来が大切か(現在志向一将来志向)1、⑤[何よ りも自分の生活の充実か、それとも社会全体の・?1:せ重 視か(個人生活重視一共同体重視)」である。
また、中里らは、そのなかでも、思いやり意識(愛 他意識)の高い者の特徴として、他者中心的であり、
精神主義的であり、内的統制的であり、将来志向的で あり、共同体重視的であることを.1:張しており、要約 すると、「自分以外の存在を大切にすること」と、「自 己努力をすること」の価値観をもっていることになる
という。
この調査でも、「思いやり意識」につながり、行動抑 制要因でもある価値観と恥意識に関連がみられるのか、
そして、その世代差について明らかにすることが目的
であった。
また、本調査では、価値観のカテゴリーのひとつ、
「何よりも自分の生活の充実か、それとも社会全体の 幸せ重視か(個人生活重視一共同体重視)」を、 共同 体 では、対象者によってとらえる範囲が大きく異な る可能性があることから、「個人志向一社会志向」とい う価値観カテゴリーととらえた。カテゴリーごと対の 2項目を合算し(反対の概念である一一一方の得点は逆転)、
5つのカテゴリー得点を算出、相関分析を行った。世 代差の結果は、表3−16のとおりである。
表3−16 恥意識と価値観の相関関係
他者中心 精神主義 内的統制 将来志向 社会志向
若者全体の恥意識 .338**.227**A85**.257**289**
小学生の恥意識.427**.243**.237**、283**353**
中学生の恥意識 」50*.325**.195**.153*」57*
高校生の恥意識.289**.1 37 一〇34.253**.220**
大学生の恥意識.345**.176**.158*.263**.263**
**P〈.01 *P〈.05
分析の結果、すべての世代において、恥意識は行動 抑制要因としての価値観と有意な相関関係を示した、。
特に、恥意識は、他者中心という他者を思いやる態度
と最も高い相関関係にあった(r=.338,P<.01)。このこ とから、恥意識の高い者は、「自分以外の存在を人切に する」という人生態度、いわば生き方態度をもってい ることが明らかになった。
世代間での顕著な特徴は、小学生の恥意識が行動抑 制要因である価値観と最も高い相関関係を示した。他 方で、高校生の恥意識は、他の世代とは異なり、「精神 11義」や「内的統制」とは有意な相関がみられなかっ た。これは、高校生においては、恥意識の高い者ほど、
人生はお金だけで幸せになれるとは思わず、努力が運 よりも大切であるという価値観を有しているわけでは ないことを示している。このように、高校生は、価値 観との観点から、他の若者世代に比べてもかなり異質 の恥意識であることが明らかになった。