第 3 章 トルコ語の形容詞的分詞とタ・テイルの形容詞的用法
3.3. タ・テイルの形容詞的用法
3.3.4. 形容詞的なタとテイルの対応関係
最後に、タと同様に、テイルの場合も動詞と形容詞的形式が同じで、名詞のみが変わ ると、述語動詞のアスペクト的な意味と同時に文全体の意味も変わり、後戻りの可能 性・不可能性の解釈が異なる。
(66) a. 彼女は前歯が折れている。
b. 彼女は足が折れている。
歯が折れる場合、それ自体が自然に治ることができない性質を持つため、「前歯が折れ ている」という状態は恒常的であると考えられる。しかし、骨が折れる場合は、それ自 体には再生メカニズムがあるため、一時的状態である。
このようなことは、トルコ語のように、日本語においても後戻り可・不可の区別が形 容詞的形式の意味や性質のみによって左右されるわけではなく、動詞・形容詞的形式・
名詞の意味と性質とも深く関連していることを表している。
て使われる語彙的形状動詞は述定性を完全に失いやすいため、例 (67) のように連体修飾 節が一要素述語の場合、タが使われやすくなる。それに対して、例 (68) のように主要素 である述語以外に補足語、付加語などの要素が存在する「多要素述語」は述定性が高い ため、テイルの容認度が高くなる (p.162)。
構造的形状動詞の場合は、主節のテイルを連体修飾化すると、テイルがタに交替する ものが多いが、それに関して砂川 (1986) は、「「シテイル」や「シテアル」の形で、な にかのできごとの結果として存在する状態をのべる文は、名詞を修飾するとき、そのま まの形でもつかわれるが「シタ」の形になることもおおい (p.82)」と述べ、以下の例を 挙げている。
(69) a. びんに薬が入っています → 薬が入った/入っているびん
b. びんに薬が入れてあります → 薬を入れた/薬を・が入れてあるびん
同様に、森田 (1988) は連体修飾節においてタもテイルも現れる形容詞的用法について 言及し、別の形式での言い方の場合はその連体修飾節が成り立たないか、成り立っても 意味が違ってしまうと述べている。
(70) 先の尖った/尖っている鉛筆≠先の尖る鉛筆 (森田 1988:164)
形容詞的なタとテイルの意味については、3.3 節でも述べているように、「主体のある 様子を他者と比較して、特徴づけている」ことが挙げられ、これらの両形式は主体の単 なる状態やある状態、性質・属性を帯びているとされている(金田一 1955, 寺村 1984, 森
田 1988)。森田 (1988) は「タ+名詞/テイル+名詞」形式には、「積もった/積もって
いる雪」のような自動詞の立つ例と、「赤い靴を履いた/履いている女の子」のような 他動詞の立つ例があり、いずれも過去に、ある(瞬間)動作や作用が行われて、その結 果が動作主の姿や状態を変えて一つの属性として現在に及んでいる場合であると述べて いる。過去になした行為や受けた作用の結果、動作主の現状が新しい状態に置き換わり、
現在も存続していると判断されるときの表現であるという(p.165)。
また、連体修飾節における形容詞的なタには動詞的解釈と形容詞的解釈が存在する
(例 71)のに対し、形容詞的なテイルには形容詞的解釈のみが存在する(例 72)。
(71) (ゆでた卵)
a. 太郎がゆでた卵 (再掲、例 42)
b. 昨日ゆでた卵 (同上)
c. 自分の部屋でゆでた卵 (同上)
d. 大急ぎでゆでた卵 (同上)
e. テレビを見ながらゆでた卵 (同上)
(→ a〜e は動詞的解釈あり)
f. テーブルの上にゆでた卵(ゆで卵)がある。 (作例)
(→ f は形容詞的解釈あり)
(72) (割れているガラス)
a. *太郎によって割れているガラス
b. *昨日割れているガラス c. *病院で割れているガラス
d. *我知らず割れているガラス
e. *テレビを見ながら割れているガラス
(→動詞的解釈なし)
f. 割れているガラスはここで交換できません。
(→形容詞的解釈あり) (作例)
これらの形容詞的解釈ではタとテイルは「単なる状態」と「結果の状態」という意味 を持っているが、構造的形状動詞に見られる連体修飾節におけるタとテイルの両形式の 使用が可能な場合は、タは平生の恒常的状態を表す(例 53)のに対し、テイルはたまた まその折にことさら取られた一時的状態を表す(例 54)とされている(森田 1988)。
3.4. -Ik・-mIşとタ・テイルの対照
3.2 節では、トルコ語には -Ik、-mIş と -(I)lI の3つの形容詞的分詞が存在すると述べ、
それぞれの形式の形態的、統語的、そして意味的な特徴と成立条件について記述し、対 照を行った。目標状態分詞とされる -(I)lI は目的の解釈というムード的な意味を持ってお り、単なる状態や結果の状態の意味を表す -Ik と -mIş と意味的な面でも形態的な面でも 対応する場合が非常に少ないため、また目的の意味を持っていることで本論文の対象で あるタとテイルよりテアルに対応すると考えられるため、本節以降分析から除くことに する。
以下では、トルコ語の形容詞的分詞の -Ik と -mIş の形態的、統語的、そして意味的な 特徴と成立条件に再び触れ、タとテイルの形容詞的用法とはどのような点が類似してい るか、またどのような点が相違しているかについて考察を行う。