第 5 章 結論
5.2. 対照研究的側面について
第 3 章において、トルコ語の形容詞的分詞と日本語の対応形式であるタとテイルにつ いて詳細な説明を行い、両言語の形容詞的分詞形式の対照を行った。それぞれのトルコ 語の形容詞的分詞の形態的・統語的特徴や連体修飾節を形成する際に見られる制限につ いて概観したのちに、それらの分詞接辞が接続する動詞と被修飾名詞による意味的特徴 について考察を行い、それぞれの分詞接辞の対応関係を明示した。また、トルコ語の形 容詞的分詞に対応する日本語のタとテイルの形容詞的用法の形態的・意味的な特徴と動 詞を形容詞化する際の成立条件について概観し、両形式の動詞との関係と構造的位置に よる対応関係について記述した。最後に、それらの形式の特徴に基づき、両言語の形式 の対照を行い、類似点と相違点を明確にした。
両言語の形式を対照言語学的な観点から考察すると、以下の結果が得られた。
• 両言語の形式は全て非対格動詞に接続する特徴を共有しているが、-Ik、タとテイル は他動詞にも接続しうるのに対し、-mIş のみが他動詞と共起できない。
(1) a. yırt-ık/ yırt-ıl-mış/ *yırt-mış kazak 破る-PRT 破る–PASS-PRT 破る-PRT セーター ‘破れた/破れているセーター’
b. 破れた/破れているセーター (自動詞)
c. 眼鏡をかけた/かけている男の人 (他動詞)
• それらの形式が付加できる動詞の種類に関しては、トルコ語の形容詞的分詞は達成 動詞と共起でき57、日本語に見られる典型的な形容詞的動詞とそうでない形容詞的 動詞(構造的形状動詞)といった分類に基づいては区別されない。
(2) a. *koş-muş atlet(活動動詞)
走る-PRT アスリート ‘走ったアスリート’
b. *bil-miş öğrenci(状態動詞)
知る-PRT 学生
57 限界性を表す表現の付加によって -mIş と共起できない活動動詞と状態動詞は -mIş と
共起できるようになる。到達動詞は限界的であるが、非持続的/瞬間的であるため、 -mIş とは共起できないが、その瞬間的な含意が限界性のあるプロセスに移行するような 表現を付加すると、-mIş と共起できるようになり、文法的になる (cf. 第3章の例14’) (Slobin and Aksu 1982, Nakipoğlu 2000, Gürer 2014)。
‘知った学生’
c. *var-mış yolcu(到達動詞)
到着する-PRT 旅客 ‘到着した旅客’
d. inşa ed-il-miş ev(達成動詞)
建てる-PASS-PRT 家
‘建てられた家’ (再掲、第3章の例14)
(3) a. 語彙的形状動詞:
この事件は馬鹿げている → 馬鹿げた/*馬鹿げている事件58 b. 構造的形状動詞:
このおもちゃは壊れている → 壊れた/壊れているおもちゃ
(再掲、第3章の例67)
• それらの形式の補足語/付加語との関係に関しては、-mIş とタは出来事中心の様態 副詞と両立できる点で同様の振る舞いをしており、-Ik とテイルはそれらの様態副 詞とは両立できない点で共通している。
(4) a. *özensizce kes-ik kağıt-lar (再掲、第3章の例3) 雑に 切る-PRT 紙-PL
‘雑に切れている/切れた紙’
b. özensizce kes-il-miş kağıt-lar (再掲、第3章の例10)
雑に 切る-PASS-PRT 紙-PL ‘雑に切っている紙’
c. 大急ぎで眼鏡をかけた男の人 (作例)
d. *大急ぎで眼鏡をかけている男の人 (作例)
• 期間を表す表現との両立についても -mIş とタ、-Ik とテイルは共通しており、-mIş とタはそれらのような表現と共起できないのに対し、-Ik とテイルは共起できる。
(5) a. Hala uyuş-uk olan el (再掲、第3章の例76) まだ 痺れる-PRT である 手
‘まだ痺れている手’
58 語彙的形状動詞は連体修飾節においていつもタを取るわけではなく、タよりもテイル
の方が自然に思われる場合がある(cf. 第3章の例 68)。
b. *Hala uyuş-muş olan el (再掲、第3章の例76)
まだ 痺れる-PRT である 手
c. *まだ濡れたタオル (再掲、第3章の例43)
d. まだ濡れているタオル (作例)
• 構造的位置による形容詞的な形式の使用については、日本語では語彙的形状動詞の 場合、主節においてテイルのみが使われ、それを連体修飾化すると、タのみが使用 されるが、構造的形状動詞の場合は、主節のテイルは連体修飾節においてタにもテ イルにも成りうる。一方、トルコ語には典型的な形容詞的動詞とも呼ばれる語彙的 形状動詞が存在せず、構造的形状動詞と同じ振る舞いをすると考えられる -Ik と
-mIş は主節においても連体修飾節においても自由に使われる。
(6) a. 語彙的形状動詞:
この事件は馬鹿げている → 馬鹿げた/*馬鹿げている事件
b. 構造的形状動詞:
このおもちゃは壊れている → 壊れた/壊れているおもちゃ
(再掲、第3章の例67)
(7) a. Cam kır-ık → Kır-ık/ kır-ıl-mış cam ガラス 割る-PRT 割る-PRT 割る-PASS-PRT ガラス ‘ガラスが割れている → 割れている/割れたガラス’
b. Cam kır-ıl-mış → Kır-ık/ kır-ıl-mış cam ガラス 割る-PRT 割る-PRT 割る-PASS-PRT ガラス
‘ガラスが割れている → 割れている/割れたガラス’ (再掲、第1章の例1)
• トルコ語と日本語の形容詞的な形式は全て「結果の状態」の意味を共有している。
• -Ik、タとテイルは「単なる状態」を表す特徴を持っているが、-mIş のみが「単な
る状態」の意味を持たない。
• 後戻りの可能性については、-Ik とテイルは一時的な状態を表し、-mIş とタは恒常 的な状態を表すとされている(森田 1988, Gürer 2014)が、両言語においてもその ような区別は形容詞的形式の意味や性質によって左右されるわけではなく、動詞・
形容詞的形式・名詞の意味と性質とも大きく関連している。
• 形容詞的な形式は全て形容詞的な解釈を持っているが、動詞的解釈を持っている場 合もあり、それは -mIş とタによる分詞のみ可能である。