講演会レジメ
平成 25 年度第2回講演会「ハラール食を考える」
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平成 25 年度第2回講演会「ハラール食を考える」
第1の講演
「ムスリム生活とハラール食」
イスラーム研究所長 森 伸生
1 イスラーム世界とイスラーム法
(1) ムスリム人口
現在 16 億人 ⇒ 2030 年 21 億人
(2) 人口順にみると
⇒インドネシア、南アジア3国(パキスタン、バングラデシュ、インド)、
ナイジェリア、中東3国(トルコ、イラン、エジプト)
(3) イスラーム諸国協力機構 57 か国=宗教の紐帯で国家が作る唯一の国際 機構
(4) 共通の土台としてのイスラーム法(シャリーア)
2 イスラーム法(シャリーア)と地域性
(1)シャリーアの語義:水場に至る道→転じて、現世・来世にて幸を得る ための人の行うべき規範=イスラーム法
(2)シャリーアの基本:アッラーの言葉・クルアーン、ムハンマドの言行・
スンナ、イジュマー(法学者の合意)、キヤース(類推)
(3)シャリーアの特徴
1)主権在神:クルアーンがいわゆる憲法 2)シャリーアの遵守:信仰の体現
3)属人主義の法:ウンマ(イスラーム共同体)の構成員が法の担い手 4)来世での賞罰が基本:犯罪に対しては現世での刑罰も定める。
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(4)シャリーアの内容:生活全般を律する包括的な法 1)人と神の関係:信仰箇条(神学として分離)、信仰行為 2)人と人の関係:社会的行為、国家的行為
(5)シャリーアによる人の行為の分類
1)義務行為(ワージブ):アッラーが信徒に義務として命じた行為 2)禁止行為(ハラーム):アッラーが禁じた行為
3)推奨行為(マンドゥーブ):アッラーが推奨している行為 4)忌避行為(マクルーフ):アッラーが忌避を求めている行為
5)許容行為(ムバーフ):アッラーが信徒に実行の選択を委ねている行 為
(6)イスラーム法学と地域性
1)ハナフィー学派:祖師アブーハニーファ(699? - 767):法解釈を行 う際に個人的見解に基づく判断を重視する学派。現在の主要分布地域 は、シリア、アナトリア、中央・南アジア、中国などである。
2)マーリク学派:祖師マーリク・イブン・アナス(708・16 - 95):クルアー ンとハディース重視、自己の判断を抑制する学派。現在の主要分布地 域は、北、西アフリカとアラビア半島東部、クウェート、アラブ首長 国連邦などである。
3)シャーフィイー学派:祖師アッシャーフィイー(767 ~ 820):「典拠重視」
と「判断重視」を統合して、イスラーム法学の基礎を確立、理詰めの 学派。現在の主要分布地域は、東アフリカやとくに東南アジアなどで ある。
4) ハ ン バ ル 学 派: 学 祖: 祖 師 ア ハ マ ド・ イ ブ ン・ ハ ン バ ル(780 ~ 855):典拠重視の学派。現在の主要分布地域は、サウジアラビア、カ タールなどである。
(7)イスラーム法学者と一般信徒の関係
1)イスラーム法学者はシャリーアの解釈者である。聖職者ではない。
2)イスラーム法学者には一般信徒に法解釈を教える義務がある。
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3)イスラーム法相談所の存在=信徒は生活の指針を求める。
4)解釈の多様性
3 イスラーム法学と食規定の解釈
(1)イスラーム法における規定
1)ハラール:イスラーム法上合法なもの、こと 2)ハラーム:イスラーム法上非合法なもの、こと
3)シュブフ:ハラールかハラームか疑わしいもの、こと:ハラームとし て考える
(2)飲食の基本 1)精神と肉体の重視
2)生命維持のための飲食の義務⇒宗教的義務の遂行 3)暴飲暴食の禁止
【アーダムの子孫よ。どこのマスジドでも清潔な衣服を体につけなさい。
そして食べたり飲んだりしなさい。だが度を越してはならない。本当に かれは浪費する者をお好みにならない。】(7 章 31 節)
4)食物はハラールでタイイブ(良いもの)でなければならない。
5)人々は大地から有益なものを得る権利がある。
【あなた方のためにすべての物を創られた】(2 章 29 節)
【人々よ、地上にあるものの中ハラールでタイイブなものを食べよ】(2 章 168 節)
(3)植物に対する規定:すべてハラールであるが、次のものを除く。不浄な もの、害になるもの、酩酊させるもの。
【汚悪なものをハラーム(禁忌)とする】(7 章 157 節)
【あなたがた自身を殺し(たりして害し)てはならない。】(4 章 29 節)
【自分の手で自らを破滅に陥れてはならない。】(2 章 195 節)
【誠に酒と掛矢、偶像と占い矢は、忌み嫌われる悪魔の業である。これ を避けなさい。おそらく、あなたがたは成功するであろう。】(5 章 90 節)
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(4)水棲動物に対する規定:すべてハラール
1)海の生き物はすべてハラール:魚類、クジラなど
【海で漁撈し、また獲物を食べることは、あなたがたにも旅人にも許さ れている。】(5 章 96 節)
ハディース「海は清浄である。その水は死肉を浄化するものである」
2)浮いている魚についての見解 ・法学者間全体の見解:ハラール ・ハナフィー学派:マクルーフ 3)両生類:カエルについての見解 ・法学者間全体の見解:ハラーム ・マーリク学派:マクルーフ
(5)クルアーンで禁じられているもの
【あなたがたに禁じられたものは、死肉、(流れる)血、豚肉、アッラー 以外の名を唱え(殺され)たもの、絞め殺されたもの、打ち殺されたもの、
墜死したもの、角で突き殺されたもの、野獣が食い残したもの、(ただ しこの種のものでも)あなたがたがその止めを刺したものは別である。】
(5 章 3 節)
・死肉:自然死、病死、事故死した動物の肉、シャリーアに即して屠畜さ れなかった動物肉も含む。
・流れる血:動物から流れる血で、屠畜後に体内に残った血ではない ・豚肉:「豚肉」は不浄なものとされており、豚の体内から抽出した物、
脂肪や皮や毛などすべてを含む。また、豚や豚由来のものに触れたもの も不浄とされる。
・アッラー以外の名を唱え(殺された)もの:シャリーアに即して屠畜の 際に「ビスミッラー〈アッラーの名によって〉」と唱えて屠畜されたも の
(6)食糧となる家畜
1)家畜:ラクダ、牛、羊など、鶏、アヒルなど
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2)見解の異なる家畜:馬
・法学者間全体の見解:ハラール
アスマーによるハディース:「私たちはアッラーの使徒時代に馬を屠 り、それを食べた。」
ジャービルによるハディース:「預言者はハイバルの戦いでロバ肉を 食することを禁じたが、馬肉については特別に許可した。」
・マーリク学派:ハラーム
【また(かれは)馬とラバとロバ(を創られた)。これらはあなたがた の乗用と飾りのためである。またかれはあなたがたの知らない、(外の)
色々な物を創られた】(16 章 8 節)
・ハニーファ学派の見解:マクルーフ
【かれらに対して、あなたの出来る限りの(武)力と、多くの繋いだ 馬を備えなさい。それによってアッラーの敵、あなたがたの敵に恐怖 を与えなさい】(8 章 60 節)。
(7)家畜化したロバ肉の食についての規定 1)法学者間全体の見解:ハラーム
ジャービルによるハディース:「私たちはハイバルの時、馬と野生 のロバを食べた。預言者は私たちに家畜のロバを禁じた。」
2)マーリク学派:マクルーフ
ガーリブ・イブン・アブジャルによるハディース:「ある年、私た ちは(飢饉で)苦しんでいた。当時、私には家族に食べさせるものは ロバしかいなかった。確かに、アッラーの使徒は家畜のロバを禁じた ことを知っていた。そこで、私はアッラーの使徒の許へ行き、『アッラー の使徒さま、今年は私たちは(飢饉で)苦しいです。私にはロバの油 しか家族に食べさせるものがありません。あなたは家畜のロバを禁止 しました。』と言った。すると、預言者は『あなたはロバの油で家族 に食べさせなさい。ロバが村の家畜の糞を食べたから、それを禁じま した。』と言った。」
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(8)捕食性猛獣についての見解
1)法学者間全体の見解:例えば、狼、ライオン、トラなどはハラーム アブーサアラバ・アルハシャニーによるハディース:「アッラーの使 徒は牙を有する猛獣を食べることを禁じた」
2)マーリク学派:マクルーフ
クルアーン【言ってやるがいい。「わたしに啓示されたものには、食 べ度いのに食べることを禁じられたものはない。只死肉、流れ出る血、
豚肉-それは不浄である―と アッラー以外の名が唱えられたものは 除かれる。」】(6 章 145 節)に記されているものだけが禁止(ハラーム)
されている。
(9)食糧となる昆虫
1)バッタ:法学者間全体の見解:ハラール
イブン・ウマルによるハディース:「アッラーの使徒は次のように言っ た。『私たちには二つの死肉と血が許されている。二つの死肉とは鯨 とバッタである。二つの血とは、肝臓と腎臓である』」
2)他の(昆)虫:サソリ、蛇、鼠、蟻、蜂など
・法学者間全体の見解:ハラーム:それらの毒性や汚さによる。
・マーリク学派:ハラール
(10)食糧となる爬虫類:ダッブ(トゲオアガマ:砂漠に生息しているトカゲ)
1)法学者間全体の見解:ハラール
イブン・ウマルによるハディース:「預言者は大トカゲを食べないが、
それを禁じなかった。」
2)ハナフィー学派:マクルーフ
タハーウィヤによるハディース:「アーイシャはトカゲの肉を預言者 に差し出した。預言者はそれを食べるのを禁じた。そこへ、ある女性 が訪ねてきたので、アーイシャは彼女にそれを出そうとした。そこで、
アッラーの使徒は『あなたが食べないものを出すのですか?』と言っ た。」