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= 需要

第5節 :小括

本章では、環境的持続可能性および経済的持続可能性それぞれの状況が危機的であるこ とを論じた。

環境的持続可能性においては特にエネルギーの視点からみたが、それは経済規模の拡大 にともなってエネルギー使用量も増大しており、経済活動とエネルギーが密接な関係であ ることによるものである。現在、エネルギーは約8割を化石エネルギーに依存している。

それは燃焼時に CO2 を排出し、環境問題の中でも大きな問題である地球温暖化の主因と なっている。したがって、化石エネルギーに依存した経済活動という構造そのものが問題

といえる。そして、経済規模は BRICs などの振興国を中心にさらに拡大が見込まれ、当 然エネルギー需要も増大すると予測されている。そして、化石エネルギー依存度は 2035 年においてもほぼ8割と予想されており、現在と変わらない。したがって、地球温暖化問 題などの更なる悪化が懸念される。また、エネルギー供給に関しても、特に原油は資源開 発にかかわるコストの増大が現在でもすでにみられ、将来的にはエネルギーコストの上昇 が心配される。このまま化石エネルギーへの依存を続ければ、環境負荷やコスト面での負 担はさらに大きくなるのであって、これは持続的とは言えないであろう。

環境的持続可能性の危機に対する経済的手法による対策としては、主に環境税や排出権 取引がある。課税は経済的手法の中でも最もポピュラーであり、外部費用を内部化するこ とによって、例えば炭素税ならば CO2 の排出に対する抑制インセンティブを与えること ができる。しかし、課税による対策はあくまでも排出抑制、つまり output に対する課税 である。経済規模の拡大にともなってエネルギーをはじめ消費される資源も増大する。絶 対的デカップリングが未だに達成されていない状況においては、資源の消費= input をい かに抑制できるかが環境負荷低減には決定的に重要になり、そうした意味においては課税 による対策にも限界があると言わざるを得ない。

また、排出権取引は近年活発になり取引量も年々増加している。排出権取引も一定の有 効性はあると考えられるが、先物などのいわゆるデリバティブとしての取引形態が多くな ってきており、利潤をあげる金融商品としての性格が強くなることによって CO2 の排出 抑制にどれほどの効果を発揮するのか疑問がつくところである。そもそも、利潤の源であ る商品は絶えず供給され続けることが求められるのであって、減らそうと試みている対象

= CO2 を商品とすることは根本的に矛盾をはらむものである。総じていえば、環境的持 続可能性の危機に対する現在の経済的手法にはいずれにしろ限界があるといえる。

一方で、サブプライム・ローン問題にみられるように経済の金融化が進展している。サ ブプライム・ローン問題は、主にアメリカにおける住宅ローンにかかわる問題である。甘 い審査を経てサブプライム層(低所得者層)に貸し付けられた住宅ローンが証券化されて 金融市場に取引できる商品として登場し、それがリスクを内包しているものであったこと に起因している。この問題をつきつめると、資本主義経済におけるローンの性質が、ケイ ンズによって否定されたセイの法則が実は現代において現象していると考えられるのでは ないだろうか。例えば、ある企業が商品を100作ったら100売りたいのが当然である。と ころが需要が50しかない場合は、企業は宣伝やセールスを行って残りの50に対する需要、

つまり消費者の欲求を喚起する。さらに支払い手段としてのローンを用意することで、欲 求をかきたてられた消費者が手持ちの現金がなくても将来の所得から購入できるようにな る。

資本主義経済において企業は利潤をあげて存続することが使命である。企業は財・サー ビスの生産を行い、その全部を売りたいのであるから、供給に見合うだけの需要が必要で ある。そこで宣伝やセールスを用いて需要を創造しつつ、支払い手段としてのローンがそ れを有効需要に昇進させるのである。まさにローンを道具として供給が需要を創造するの である。

資本主義経済が本質的にセイの法則を貫徹させようと動いているとすれば、企業はより 利潤をあげるためにより多く生産し、より多く売ることを可能にするし、企業が可能なら

しめようとする。この動きは資源消費の拡大に直結するのであって、現在の化石エネルギ ーに依存した経済は環境的持続不可能性をより深刻化させざるを得ない。したがって、環 境的持続可能性の危機を回避するには、経済の仕組みそのものから転換することも必要に なるのである。

66)植田和弘(2010)「持続可能な発展をめぐる諸問題」『環境経済・政策研究』Vol.3, No.1 p1.

67)上田和弘「同上」p1.

2章 持続可能な社会が立脚する道徳観念に関する検討

本章では、持続可能な社会がどのような道徳観念に立脚するか検討する。道徳観念は人 々が価値や善・悪、正・不正などについて判断する際に何らかの共通の尺度を与え、それ が法体系や経済制度などの有り様を決めることにつながるのである。いわば社会の根底を 支える最も基礎的なものである。

前章で明らかなように、環境および経済の両面において持続不可能性が高まっている中 で、持続可能な社会へと転換していくことが求められており、それは必然的に思想なども 含めてどのような社会を目指すのか再検討することになる。そこで、環境と経済を含めて その持続可能性について様々に議論され、環境問題における現代のキーワードである Sustainable Development(以下、SD)概念の整理を足がかりにして、本論文における持続 可能な社会の道徳観念について検討する。

なお、Sustainable Developmentの日本語訳としては一般的に「持続可能な発展」が使用 されることが多いが、都留重人や宮本憲一は「維持可能な発展」としている。また、以 下にみるように概念も多様であるため、本論文においては引用などを除いて、そのまま 英語表記としたい。