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第 9 章 読みの視知覚メカニズムにもとづく日本語電子リーダーの設計 106

9.2 総合考察

本節では,第4章から第8章までの各提案手法とその結果を統一的に分析し,電子リー ダーへの効果的な適用を図るための設計について検討するべく,各手法の停留数および 読み速度の変化量を,刺激文章の原本紙面をスキャンしてiPad上に表示した1 行38文 字の縦書きページ型レイアウト「(0) 縦書きページ型固定長改行」における値を基準とし て算出した1

図9.6は,本論文で見出した各手法における1刺激文章あたりの平均停留数の変化を示 したものである2.1 刺激文章あたりの停留数の比較には,1000 文字で正規化した値を用 いた.縦軸は刺激文章1000 文字あたりの平均停留数の増分,横軸は平均行長,誤差範囲 は標準誤差である.

図9.7は,各手法における読み速度の変化を示したものである2.縦軸は読み速度の増 分,横軸は平均行長,誤差範囲は標準誤差である.

以下,図9.6および図9.7にもとづいて考察を進める.

 読み速度の向上は停留数の削減で実現 図9.6および図9.7より,各手法の停留数の減 分は,読み速度の増分と対応していることがわかる.平均停留時間については,各手法の 平均停留時間を示した図5.3,図6.3,図7.5,図8.5より,各手法間で有意な差が認められ ないか,おおむね同一水準にあることがわかった.一方で,停留数については,図9.6お よび前章までの図5.4,図6.4,図7.6,図8.6より,本研究で見出した手法において,有意 な停留数の減少が認められた.すなわち,本研究で見出された表示手法による読み速度の 向上は,停留時間の短縮ではなく,停留数の削減によって実現していることがわかった.

 短行ほど読み効率は低下 図9.6および図9.7全体として,1 行の長さが短くなると,

停留数は増加し,読み速度は低下する結果となった.

1停留数においては,一部の実験協力者で「(0)縦書きページ型固定長改行」の眼球運動を測定しなかっ たため,「(0)縦書きページ型固定長改行」の平均停留時間を全実験協力者一律に240 msと仮定し,読み時 間を平均停留時間240 msで除算した値とした.なお,240 msの値は,「(0)縦書きページ型固定長改行」の 138文字に対して,140文字と行の長さが近い「(1)固定長改行」における平均停留時間を採用した ものである.

2本論文では,手法(3)(4)(5)の効果検証時の基準を「(2)文節間改行」としていたため,「(0)縦書きペー ジ型固定長改行」を測定していない.そこで図9.6および図9.7における手法(3)(4)(5)のプロットにあたっ ては,手法(0)(1)(2)の効果検証時に得た「(2)文節間改行」の値を基準とした.

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(0)

(1) (2)

(3) (4) (4)

(5)

-150 -100 -50 0 50 100

Alteration in number of fixations per 1000 characters

50 40

30 20

10 0

Mean line length (char.)

(0) vertical writing with fixed-length line (1) fixed-length line

(2) bunsetsu-based linefeed

(3) bunsetsu-based linefeed + stepped-line (4) bunsetsu-based linefeed + vibration (5) 1 bunsetsu/line + step indentation

9.6 各手法における平均停留数の変化と平均行長の関係.(0)縦書きページ型固定長改行,(1) 定長改行,(2)文節間改行,(3)文節間改行+文節単位の階段状ベースライン,(4)文節間 改行+文節単位の微振動テキスト,(5)単文節行+階段インデント.誤差範囲は標準誤差.

 横書きの方が速く読める 原本である縦書きの読み速度と,本研究で最も基本的なレ イアウトである横書き縦スクロール型レイアウト「(1) 固定長改行」の読み速度を比較す ると,1 行20∼ 40 文字の範囲ならば,横書きの方が1 分あたり約150 文字も速く読め ることがわかった.従来研究の2.4.7 項で述べたように,縦書きと横書きの読み効率は慣 れの影響が大きいとされる(田中16,永野60).本研究の実験協力者である19∼ 23歳の情報学 系大学の学生においては,ページ型の縦書き文章よりも,読者自身が縦スクロールする 横書き文章の方が速く読める結果となった.

 文節間で改行すると速く読める 改行位置が文節間になるように調整したレイアウト

「(2) 文節間改行」を採用すると,全行長にわたって「(1) 固定長改行」よりも速く読める ことがわかった.文節間で改行すると,次行へ視点移動が1 回のサッカードで完了する 確率が増していることから,改行によって文節を分断しないように配慮したレイアウト が,次行への視点移動の効率化につながることがわかった.

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(0) (5)

(4)

(1) (2) (3) (4) 400

300 200 100 0 -100 -200 -300

Alteration in reading rate (char./min)

50 40

30 20

10 0

Mean line length (char.) (5) 1 bunsetsu/line + step indentation (4) bunsetsu-based linefeed + vibration (3) bunsetsu-based linefeed + stepped-line (2) bunsetsu-based linefeed

(1) fixed-length line

(0) vertical writing with fixed-length line

9.7 各手法における読み速度の変化と平均行長の関係.(0)縦書きページ型固定長改行,(1) 定長改行,(2)文節間改行,(3)文節間改行+文節単位の階段状ベースライン,(4)文節間 改行+文節単位の微振動テキスト,(5)単文節行+階段インデント.誤差範囲は標準誤差.

 比較的長行に効果的な文節単位の階段状ベースライン 「(3) 文節間改行+階段状ベー スライン」は本論文で見出された最速の手法となった.原本である「(0) 縦書きページ型 固定長改行」の平均読み速度728文字/分を考慮すると,文節間改行と階段状ベースライ ンを組み合わせた手法は,最高で1068 文字/分の平均読み速度を実現しており,読み速 度を約 1.5 倍に引き上げる効果をもつと言える.このとき,実験協力者全員が理解度を 維持し,91 %の実験協力者が読み心地の低下を感じることなく読めていたこともわかっ た.「(3)文節間改行+階段状ベースライン」は文節単位の視点移動を促す効果を有してお り,隣り合う文節が上下にずれて配置されるレイアウト上の視覚的特徴が,次の停留先 を選定する視覚処理系に正の影響を与えている可能性が推察された.一方で,比較的短 い行長では充分な効果が得られないこともわかった.

 比較的短行に効果的な文節単位の微振動テキスト 1行の文字数が10 文字程度の短い 行長では「(4) 文節間改行+微振動テキスト」が最も速く読める手法となった.このとき,

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実験協力者全員が理解度を維持し,76 %の実験協力者が読み心地の低下を感じることな く読めていたこともわかった.短い行長では平均順行サッカード長が文節長よりも短く なる,すなわち1 文節内で何度も停留する傾向が強くなるため,長い行長の場合よりも 強く文節単位を視知覚させる仕組みが必要であった.動的な文節間の境界情報によって 文節単位を認知させる「(4) 文節間改行+微振動テキスト」は,1 行あたり10 文字程度 の短い行長においても文節単位の視点移動を促す効果を有しており,微振動する文節の まとまり自体や動的な疎密変化による境界情報が,視点移動の新たな手がかりとして機 能した可能性が推察された.

 単文節行に効果的な眼球運動とスクロール操作の協調設計 最も短い行長で最も速く 読める手法が「(5) 単文節行+階段インデント」である.1行あたり約5 文字という短い 行長では,「(1) 固定長改行」のみならず「(2) 文節間改行」や「(4) 文節間改行+微振動 テキスト」においても読み速度の向上は限定的であり,長い行長の読み速度には及ばな かった.しかし,1行を1文節で構成する単文節行レイアウトに加えて,行頭の階段状イ ンデントという視覚的な特徴を追加することで,目の動きと指先によるスクロール操作 の協調的な連携を容易にする効果を狙った「(5) 単文節行+階段インデント」では,1 行 あたり約5 文字という短い行長にもかかわらず,1 行あたり20 ∼ 40 文字という長い行 長の「(1) 固定長改行」と同等の読み速度に至った.「(5) 単文節行+階段インデント」で は,スクロール移動する文字の動きと,文字を読む目の動きが協調的に連携しており,あ たかも長い一行を短いサッカードで次々読んでいくような目の動きによって,約5 文字/

行と短い行長を維持したままでも,1 行あたり29 文字の「(1) 固定長改行」と同等の速 度で読めることがわかった.このとき,85 %の実験協力者が読み心地の低下を感じるこ となく読めていたこともわかった.

 各手法の効果的な適用範囲 本論文で見出した手法には,それぞれ効果的な適用範囲 があり,1 行が5文字程度の短行で電子リーダー上に表示する場合には「(5) 単文節行+

階段インデント」,1行が10文字程度の行長で表示する場合には「(4) 文節間改行+微振 動テキスト」,1 行が20 文字以上で表示できる場合は「(3) 文節間改行+階段状ベース ライン」を適用することで,読み心地や理解度を維持したまま読み効率を向上できるこ とがわかった.文節にもとづく改行位置の調整,文節単位の視認性を高めるための階段 状ベースラインや微振動の付与,さらにスクロール操作と目の動きを協調的に連携させ て読む新しい表示手法によって,従来の日本語レイアウトであれば読み効率の低下が避

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けられなかった1行あたり20文字に満たない短い行長を含む,5 ∼ 40文字/行の幅広い 行長範囲で日本語文章を読み進める際の非効率な視点移動が改善され,読み速度向上に 至ったことがわかった.