第 3 章 Hall 代数と対称関数環 81
3.3 対称関数環
ある.U =giFnq1 が
U 'Vµ, Vλ/U'Vν
をみたすための必要十分条件は gi−1xgi=
Ãx0 ∗ 0 x00
!
∈P(n1,n2)(q)
かつx0∈Cµ, x00∈Cνが成り立つことである.つまり gλµν= P
g−1i xgi∈P(n1,n2)(q)
πµ£πν(g−1i xgi)
であるから,gλµν =πµ◦πν(x)を得る. ˜ C-代数Aにはπµ による基底とGLn(q)(n= 0,1,· · ·)の既約通常指標の なす基底があるが,各既約通常指標をπµ の一次結合で表すと,係数は代数的 整数であり,これらの係数は指標表の成分に他ならない.
類関数のなす空間の基底がわかっただけでは既約通常指標を計算することは できない.今の場合では基底πµがわかっていてもこれだけから既約通常指標 を計算することはできない.類関数がさらに既約通常指標のZ-係数で書ける ことがわかってはじめて指標理論が使えるからである.であるから,GLn(q) の既約通常指標が求まったのは大きな進展であり,Deligne-Lusztigに始まり,
Lusztig, Shojiによるより一般のLie型有限群の既約通常指標の決定に理論は 発展していくのである.そこでは既約通常指標のZ-係数で書けることを示す のにDeligne-Lusztig多様体の`-進コホモロジー群が使われ,有限群の表現論 の大きな転機となった.
をf(X1,· · ·, Xm)7→f(X1,· · ·, Xn,0,· · · ,0)で定めると (i) ρnn= Id
(ii) ρmn◦ρlm =ρln
をみたす.すなわち射影系をなす.そこで,
Λd= lim←−n Z[X1,· · · , Xn]Sdn
と定義して,Λdの元f(X1, X2,· · ·)を無限変数のd次斉次対称式と思う.また,
Λ= ⊕
d≥0Λd
とおき,対称関数環とよぶ.
定義 3.15 r次斉次対称関数er∈Λを E(t) = Q
i≥1
(1 +Xit) = P
r≥0
ertr∈Λ[[t]]
により定め,r次基本対称関数とよぶ.より正確に書けば,
Qn i=1
(1 +Xit) = P
r≥0
er(X1,· · ·, Xn)tr として,er= lim←−n er(X1,· · ·, Xn)である.
対称多項式の基本定理より
Z[X1,· · ·, Xn]Sn=Z[e1(X1,· · ·, Xn),· · ·, en(X1,· · ·, Xn)]
なので,Λは無限変数多項式環Z[e1, e2,· · ·]になる.
定義 3.16 r次斉次対称関数hr∈Λを H(t) = 1
Q
i≥1
(1−Xit) = P
r≥0
hrtr∈Λ[[t]]
により定め,r次完全対称関数とよぶ.その正確な意味は基本対称関数の定義
のときと同様である.
基本対称関数と完全対称関数の関係は次式で与えられる.
(a) en= det(h1−i+j)1≤i,j≤n (b) hn = det(e1−i+j)1≤i,j≤n
実際,H(t)E(−t) = 1より Ps
r=0(−1)rerhs−r=δs,0
であり,この漸化式の解e1, e2,· · · はh1, h2,· · · から一意的に決まるから
det
h0 h1 · · · · · · hn−1 hn
h0 h1 · · · · · · hn−1 hn
0 h0 · · · · · · hn−2 hn−1
0 . ..
. .. ...
0 h0 h1
= 0
を第1行に関して余因子展開した式に注意すれば(a)を得る.
(b)の場合は,同じ漸化式を解h1, h2,· · · がe1, e2,· · · から一意的に決まる と思えば同様の議論で示される.
(b)よりh1,· · ·, hn−1も代数的に独立であることがわかるから,Λは無限 変数多項式環Z[h1, h2,· · ·]でもある.
以上から,Λはer7→hrで定義される代数自己同型をもつ.これを ω:Λ→Λ
で表す.(a),(b)よりω2= 1である.
定義 3.17 r次斉次対称関数pr∈Λを P(t) = P
i≥1
Xi
1−Xit = P
r≥1
prtr−1∈Λ[[t]]
で定め,µ∈ P に対し,pµ=pµ1pµ2· · · をベキ和対称関数という.
補題 3.8 Λの自己同型ωに対し,ω(pr) = (−1)r−1prが成立.
証明 対数微分法により
H0(t) =H(t)P(t), E0(−t) =E(−t)P(t) がΛ[[t]]中で成立することに注意する.
P
r≥1
rhrtr−1= (P
r≥0
hrtr)(P
r≥1
prtr−1) にωを施した式
P
r≥1
rertr−1= (P
r≥0
ertr)(P
r≥1
ω(pr)tr−1) にt7→ −tと代入すると
E0(−t) =E(−t)(P
r≥1
(−1)r−1ω(pr)tr−1) となるから,
P(t) = P
r≥1
(−1)r−1ω(pr)tr−1
すなわちω(pr) = (−1)r−1prを得る. ˜
次で導入するSchur多項式には,簡約複素Lie群GLn(C)の既約複素正則 表現の指標という意味づけもあり,対称群の既約通常指標とGLn(C)の既約 複素正則表現の指標がSchur-Weyl相互律で結ばれる.以下ではWeylの指標 公式にもとづいてSchur多項式を定義するが,sh(T) =λの半標準盤から定 まる単項式の和
sλ(X1,· · ·, Xn) = P
sh(T)=λ
X1µ1(T)· · ·Xnµn(T)
という表示もある.T がsh(T) =λの半標準盤とは,λのYoung図形に各行 左から右に単調非減少,各列上から下に単調増加となるように1,· · ·, nを書 きこんだものをいい,書きこまれた数字iの重複度をµi(T)で表す.
本書では,Schur関数をGLn(q)の既約通常指標をHall代数を通じて記述 するのに用いる.
定義 3.18 整数列(α1,· · · , αn)に対し
D(α1,· · ·, αn) =
¯¯
¯¯
¯¯
¯¯
X1α1 · · · X1αn ... . .. ... Xnα1 · · · Xnαn
¯¯
¯¯
¯¯
¯¯
とおく.D(α1,· · ·, αn)は交代式であるからXi−Xj (i > j)で割り切れ,
Q[X1,· · · , Xn]が一意分解整域であることより D(n−1, n−2,· · ·,0) = Q
n≥i>j≥1
(Xi−Xj)
かつD(α1,· · · , αn)はD(n−1, n−2,· · ·,0)で割り切れるが,Z[X1,· · ·, Xn] の中で割り切れていることもわかる.そこで,λ∈ P がk > nに対しλk= 0 をみたすとき,
sλ(X1,· · · , Xn) = D(λ1+n−1, λ2+n−2,· · · , λn)
D(n−1, n−2,· · · ,0) ∈Z[X1,· · ·, Xn]Sn をSchur多項式とよび,
sλ= lim←−
n
sλ(X1,· · ·, Xn) をSchur関数とよぶ.
Schur関数を対称関数環の生成元h1, h2,· · · を用いて表すと次のようになる.
補題 3.9 sλ= det(hλi−i+j)1≤i,j≤nが成立.
証明 正確な証明を書くにはまず有限変数で議論してのち射影極限をとる べきだが,ここでは無限変数のまま証明を述べる.まず
E(k)(t) = P
r≥0
e(k)r tr= Q
i6=k
(1 +Xit)
と定めるとH(t)E(k)(−t) = (1−Xkt)−1であるから,αi ∈Z≥0に対し Pn
j=1
hαi−n+j(−1)n−je(k)n−j=Xkαi
が成り立つことに注意する.ゆえに,(α1,· · ·, αn)∈Zn≥0に対し M = ((−1)n−je(k)n−j)1≤j,k≤n, Aα= (Xkαi)1≤i,k≤n
Hα= (hαi−n+j)1≤i,j≤n
とおくとAα=HαM が成り立つ.α= (n−1,· · ·,0)とすると
¯¯
¯¯
¯¯
¯¯
X1n−1 · · · 1 ... . .. ...
Xnn−1 · · · 1
¯¯
¯¯
¯¯
¯¯
= detM
であり,α= (λ1+n−1,· · · , λn)とすると
¯¯
¯¯
¯¯
¯¯
X1λ1+n−1 · · · X1λn ... . .. ... Xnλ1+n−1 · · · Xnλn
¯¯
¯¯
¯¯
¯¯
= det(hλi−i+j)1≤i,j≤n·detM
であるから題意の式を得る. ˜
補題 3.10 Λは{sλ}λ∈PをZ-自由基底にもつ.また,Λの自己同型ω をこの基底に関して表示するとω(sλ) =stλ である.
証明 f ∈Z[X1,· · ·, Xn]Snならばfdet(Xin−j)1≤i,j≤nは整数係数交代 多項式であるから,
fdet(Xin−j)1≤i,j≤n= P
α=(α1,···,αn)
cαX1α1· · ·Xnαn
と書くと,w∈Sn に対してcwα= (−1)`(w)cαなので,fdet(Xin−j)1≤i,j≤n
はdet(Xiαj)1≤i,j≤n のZ-係数一次結合である.ゆえに,
{det(Xiαj)1≤i,j≤n|α1>· · ·> αn≥0}
のZ-係数一次結合でもあるから f ∈M
λ∈P
Zsλ(X1,· · · , Xn) を得る. 故にΛ= ⊕
λ∈PZsλが成立し,Λは{sλ}λ∈P をZ-自由基底にもつ.
次にp, q∈Z≥0とし(p+q)次行列H, E を
H= (hi−j)0≤i,j≤p+q−1, E= ((−1)i−jei−j)0≤i,j≤p+q−1
で定めると,s >0のとき Ps r=0
(−1)rerhs−r= 0より P
j≤k≤i
(−1)i−kei−khk−j =δij
であるからEH =I,すなわちH−1 =E である.一般にdetH = 1かつ H−1=E とし,
{i0<· · ·< ip−1}G
{j0<· · ·< jq−1}={0,1,· · ·, p+q−1}
としよう.するとH のi0,· · · , ip−1行0,· · · , p−1列から作る小行列式とE のp,· · · , p+q−1行j0,· · ·, jq−1列から作る小行列式は符号の違いを除けば 等しいことが簡単な外積代数の計算からわかる.そしてその符号は順列
i0,· · ·, ip−1, j0,· · ·, jq−1
の符号で与えられる.ここでp≥tλ1, q≥λ1ととれば {λi+p−i}1≤i≤p
G{p−tλj+j−1}1≤j≤q ={0,1,· · · , p+q−1}
である.実際,λのYoung図形を縦の長さがp横の長さがqの長方形の中に 左上に詰めて書いてみれば,Young図形を左下から右上に至るジグザグな道 と思うことができるので,その道でたどるYoung図形の辺に最初から順番に 0,1,· · ·, p+q−1と名前をつけると,縦に進む辺には
λp, λp−1+ 1,· · · , λ1+p−1
と名前がつき,横に進む辺には
p−tλ1, p−tλ2+ 1,· · ·, p−tλq+q−1 と名前がつくからである.そこで,
{i0<· · ·< ip−1}={λp<· · ·< λ1+p−1}
{j0<· · ·< jq−1}={p−tλ1<· · ·< p−tλq+q−1}
とすれば,
(λp−i+1+i−1)−(j−1) =λp−i+1+i−j より,考えるH の小行列式はdet(hλp−i+1+i−j)1≤i,j≤p であるが,
i7→p−i+ 1, j7→p−j+ 1
とすればこの小行列式はdet(hλi−i+j)1≤i,j≤pに等しい.他方,
(p+i−1)−(p−tλj+j−1) =tλj−j+i だから,考えるべきEの小行列式は
det((−1)tλj−j+ietλj−j+i)1≤i,j≤q= (−1)|λ|det(etλj−j+i)1≤i,j≤q
である.i0,· · · , ip−1, j0,· · ·, jq−1の転倒数,すなわち λi+p−i > p−tλj+j−1
となる(i, j)の個数を調べよう.(i, j)がλのYoung図形に含まれるときは i≤tλj かつj≤λi であり,含まれないならi >tλj かつj > λi であるから 転倒数は|λ|に等しい.以上から
det(hλi−i+j) = det(etλi−i+j) を得る.sλ= det(hλi−i+j)であったから
ω(sλ) = det(eλi−i+j) = det(htλi−i+j) =stλ
となり題意の式が得られた. ˜