第 3 章 フルンボイル市の小規模民族学校を事例として
第 1 節 フルンボイル市における少数民族教育と文化伝承
一. フルンボイル市の概要
内モンゴル自治区(以下、内モンゴルと省略)(図3-1-1)は、1947年5月1日に内モン ゴル東北ウランホト市(Ulanhota・興安盟)でその設立が宣言された。五つの少数民族 自治区のなかで最も早く設立された自治区である1。内モンゴルの現在の首都はフフホト 市(呼和浩特市)である。本論の研究対象地域は内モンゴルフルンボイル市(呼倫貝爾市)
(図3-1-2)の中の異なる旗に位置するZ・Xソムである。
図3-1-1:内モンゴル自治区地図
図注:全国行政区划信息査詢平台 http://xzqh.mca.gov.cn/map から引用
図3-1-2:フルンボイル市地図
図注:全国行政区划信息査詢平台http://xzqh.mca.gov.cn/mapから引用
(一) 地理環境と人口
フルンボイル市は内モンゴルの東北に位置し、境界内のフルン湖とボイル湖にちなん でその名が名付けられ、南部はヘンガン盟と隣接している。その中のハイラル(海拉爾)
にフルンボイル市政府が置かれている。東部は嫩江(嫩江→ドンコウは江の名前)を境に 黒龍江省と隣接し、北と西北部は額爾古納(エルゴナ)河を境にロシアと接し、西と西南部 はモンゴル国と国境を接している。総面積は25.77万平方キロメートルで、内モンゴル自 治区の面積の21.4%を占めている。フルンボイル市は中国全土の1/40を占め、山東省と 江蘇省の2省の面積の合計に相当する。フルンボイル市はロシア、モンゴルとの国境線は 1733.32キロで、中国ロシア境界は1051.08キロ、中国モンゴル境界は682.24キロであ る。2018年の地域総生産(GDP)は1252.9億元である2。2010年に行われた第六回全国 人口統計によると、全市の常住人口は 2,549,278 人である。そのうち、漢族人口は
2,098,400 人、82.31%を占め、モンゴル族は 230,008 人、9.02%、ほかの少数民族は
220,870人、8.66%である。2018年の各地域の人口分布は(図3-1-3)の通りである3。
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図3-1-3 フルンボイル市の各地の人口分布
図注:全国行政区划信息平台4を参考にして筆者作成
(二) 「撤郷設鎮」5
内モンゴルというと、少数民族のモンゴル族が主に居住していると思われるかもしれ ないが、経済発展や民族の移動に伴い変わってきている。上に提示した2010年に行われ た第六回全国人口統計の数字を見てわかるように、現在のフルンボイル市は少数民族地 域と言われているが、実際は漢族が大多数を占め、モンゴル族とダオール族、エウェンキ 族、回族、満州族、ロシア族、オロチョン族、朝鮮族などの多民族集団が雑居している。
1984年に「撤郷設鎮」政策を実施し、2018年現在、フルンボイル市は全部で14の県級 行政区を管轄している。2つの市管轄区、5つの県級市、4つの旗、3つの自治旗を含む
(表3-1-1)(ハスゲレルによると中国と日本の行政区分比較は(表3-1-2)通り)。それ
ぞれハイラル区、ジャライノル区、マンシュウリ市、ヤクシ市、ジャライトン市、エルグ ナ市、コンコウ市、アロン旗、モリンダワダオール族自治旗、オロチョン自治旗、エウェ ンキ族自治旗、新バルグ左旗、新バルグ右旗、陳バルグ旗などがある。フルンボイル市人 民政府はハイラル区に駐在している。その中で、エウェンキ族自治旗、陳バルグ旗、新バ ルグ左旗、新バルグ右旗は、「牧業四旗」6と呼ばれている。
1984年に国務院から「国務院批転民政部関与調整建鎮標準的報告的通知」7(国務院に よる民政部の鎮を調整建設することについての報告を批准した通知)が出され、民政部の 鎮を調整建設することとなった。
0 5 10 15 20 25 30 35 40 45
「撤郷設鎮」政策の実施後、フルンボイル市の多くのソム・ガチャが合併されたため、
多くのソム政府が鎮に移った。これはソム政府がなくなった地域の学校の統廃合の進展 を促したとも言える。
表3-1-1:フルンボイル市の今の行政区画
直轄区(2) 市(5) 旗(4) 自治旗(3)
ハイラル区 マンシュウリ市 アロン旗 エブンキ族自治旗 ジャライノル区 ヤクシ市 陳バルグ旗 オロチョン自治旗
ジャラントン市 新バルグ左旗 モリンダワダオール族自治旗 エルグナ市 新バルグ右旗
コンコウ市
表注:8全国行政区划信息査詢平台http://xzqh.mca.gov.cn/map を参考に筆者作成
表3-1-2:中国と日本の行政区分9
行政区 内モンゴル自治区 少数民族中心地 漢族中心地域 日本 省レベル 自治区 自治区 省・直轄市・特別行政区 県 地レベル アイマグ(盟)・市 自治州 市(地級市) 郡 県レベル ホショー(旗)・県 自治権 市(県級市)・県・特区 市 郷レベル ソム(蘇木)・鎮 自治郷 郷・鎮 町 村レベル ガチャ(査)・村 村 村・組 村 表注:中華人民共和国行政区画http://www.xzqh.orgを参考に作成したハスゲレル『中国モンゴル
民族教育の変容―バイリンガル教育と英語教育の導入をめぐって』現代図書、2016、p.17引用
(三) 多民族多文化の共存
フルンボイル市は、モンゴル族以外にも、多くの民族が居住しており、「三少民族」10
が特徴的である。歴史からみると、この「三少民族」は以前からこの地域に居住していた。
1950年代、民族ごとに内モンゴルではそれぞれエウェンキ、ダオール、オロチョンとい う「三少民族」自治旗(エウェンキ族自治旗、モリンダワダオール族自治旗、オロチョン 自治旗)が設置された(「中国人民政治協商会議共同綱領」による)。これにより、民族 地域において自治が行われるようになり、少数民族が自主的に自民族の内部のことを管 理する権利が与えられた。
岡本は中華人民共和国の少数民族政策の根幹は、民族区域自治制度だ11と指摘している。
1984年5月31日に公布された民族区域自治法12によって民族区域の自治が保障され、同 法第一九条に基づいて各地で自治州条例や自治県条例が制定されている。
フルンボイル市人民政府の2017年の公開情報によると、「三少民族」の人口は以下の 通りである(表3-1-3)。そして事例校のA学校はエウェンキ旗(図3-1-4)に属するZ ソムにある学校である。エウェンキ族自治旗(以下、エウェンキ旗と省略)は1958年8
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月1に成立し、現在、エウェンキ旗は鎮が四つあり、ソムが五つある。エウェンキ旗の総 人口は14.4万人である(図3-1-5)13。1953年から現在までのエウェンキ旗の主要な民族 の人口は表3-1-4・図3-1-6のとおりである。
以上の民族以外にはバルグ氏族も存在し、主に陳バルグ旗、新バルグ左旗、新バルグ右 旗に分布しており、歴史上はバルグ民族とは呼ばれていない。モンゴル族に属するが独自 の方言、バルグ弁を持っている。これらの「三少民族」とバルグ氏族が独自の文字を持た ないが、民族文化、習慣、民族服装、民族祭りなどを有している。そして事例校としての B学校は新バルグ左旗(図3-1-7)に属するXソムにある学校である。
表3-1-3:フルンボイル市の「三少民族」の人口及び自民族言語使用人口比率
民族 人口
エウェンキ族 ダオール族 オロチョン族
市総人口 21252人 77851人 4092人 旗総人口 10979人 28310人 2782人 自民族言語使用人口 8100人 15000人 400人 自民族言語使用比率 73.7% 53% 14.3%
表注:フルンボイル市人民政府の2017年の公開情報により、筆者作成
図3-1-4
図注:国家統計局のデータを参考にして筆者作成 エウェンキ旗
鎮
巴彦托海鎮 大雁鎮 伊敏河鎮 紅花爾基鎮 ソム
巴彦嵯岗ソム 锡尼河东ソム
辉ソム 锡尼河西ソム
Zソム
吉登嘎查 ガチャー 红花尔基 ガチャー
毕鲁图 ガチャー 阿贵图 ガチャー 巴彦塔拉 ガチャー
伊敏 ガチャー 苇子坑 ガチャー
図3-1-5
図注:エウェンキ旗のホームページにより筆者作成 http://www.ewenke.gov.cn/Category_9/Index_1.aspx
表3-1-4 1953年第一次人口統計から現在までのエウェンキ旗の主要な民族の人口
民族 全旗 エウェンキ族 モンゴル族 漢族 ダオール族 時期 総人口 人口 人口 人口 人口 第一次
(1953)
6,399 2,311 2,580 317 1,170
第二次
(1964)
18,861 3,588 6,473 4,246 4,340
第三次
(1982)
91,309 6,465 16,124 54,611 11,710
第四次
(1990)
128,733 8,621 21,674 79,125 13,929
現在 144,000 11,193 27,809 85,157 14,239
表注:「エウェンキ族自治旗志」と「エウェンキ族自治旗人民政府网」に基づいて筆者作成
漢族 モンゴル族 59%
19%
エウェンキ族 8%
他の民族 14%
エウェンキ旗の人口比率
漢族 モンゴル族 エウェンキ族 他の民族
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図3-1-6 1953年から現在までエウェンキ旗の主要な民族の人口
図注:「エウェンキ族自治旗志」と「エウェンキ族自治旗人民政府网」に基づいて筆者作成 図3-1-7
図注:国家統計局のデータを参照して筆者作成
総人口 人口 人口 人口 人口
全旗 エウェンキ
族 モンゴル族 漢族 ダオール族
第一次(1953) 6,399 2,311 2,580 317 1,170
第二次(1964) 18,861 3,588 6,473 4,246 4,340
第三次(1982) 91,309 6,465 16,124 54,611 11,710
第四次(1990) 128,733 8,621 21,674 79,125 13,929
現在 144,000 11,193 27,809 85,157 14,239
0 20,000 40,000 60,000 80,000 100,000 120,000 140,000 160,000
新バリグ左旗
阿木古郎鎮
嵯岡鎮
Xソム
辖西林贝尔 ガチャー 诺干诺尔 ガチャー
巴音贡 ガチャー 萨如拉扎木
图 ガチャー 萨如拉图布
ガチャー
萨如拉图雅 ガチャー 呼和诺尔
ガチャー 乌兰诺尔
ガチャー
阿拉哈达 ガチャー
甘珠爾ソム 吉布胡郎図ソム
新宝力格ソム 罕達蓋ソム
このように多民族が雑居し多文化が共存している社会では、少数民族教育がどのよう に行われているのか、民族文化がどのように継承されてきたのかを以下に見てみよう。
(四) 民族学校