第1節 家庭背景の影響
今どきの高校生は、親とはかかわりなく自分の好きな進路選択をし ているように見えるが、実際は生徒自身の家庭背景が大きな影響を与
えている。
2章では、進路多様校の生徒の自己を充足させるシステムと進路選 択の関係性について、6名の事例に基づいて検討をおこな・)たが、そ こでは、H男や1子のような安定した家庭的な背景をも・)生徒(表2
-2)と、その他のいずれも困難な家庭背景を抱えている生徒の間に は、進路選択の過程では、差異が認められプご,
その差異は、単に親の生徒の進路に対する関心の高低や、経済力の 強弱といったことが基本的なものではあるが、実際には多くの要因が 複雑に関係し合っている。しかしながら、これまで学校現場でも生徒 の進路選択家庭に家庭背景がどのような影響を与えているか分析的に 検討されたことは、質的調査による教育社会学研究のなかでは多くは
ない。
生徒が進路選択を行なう際の障害や困難は、多くの場合それぞれが 独立して生成されるのではない。生徒自身とその外部環境である学校 と家庭との相互作用のなかで生じるので、そのダイナミクスは複雑で ある。そこで、本章では家庭背景がもととなって、学校における進路 選択を妨げるダイナミクスについて、再び事例に基づいて分析するこ
とを試みることとする。
その前に、ここでは進路多様校における…般的な学校と家庭の関係 性について基礎的な整理をおこなう。高校生の親子関係は、社会的な 自立への過程にさしかかる時期に重なるので複雑な様相を呈しており、
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進路多様校でもその例外ではなく、むしろ経済的に不安定な家庭の割 合が他の高校より高いので、親の不安定さの影響も加わることもある.、
また、そもそも入試レベルの低位な進路多様校には、家庭状況や環境 に起因する理由から低学力や不登校に陥った結果、入学してくる生徒 も少なくなく、家庭背景がその後の進路選択まで大きな影響を及ぼす 場合が多くみられるのである。
一方、従来、高校は小中学校と比較すれば家庭とのつながりは希薄 であり、成績、出欠席、素行などに問題がない限り、保護者と個別に 連絡をとるようなことは、三者面談などを除けばあ主りなかった,、そ の点では、問題なく予定通りのトラックに乗って進路選択を無難に果 たす生徒については、たとえ、家庭に何らかの問題があ・)ても担任や 学校にはわからないといえる。
したがって、本報告のケースはいずれも、成績や生活指導上σ)問題 があったり、進路選択を行なう上での問題が生じたりしたために学校
(=主として筆者)が介入した事例である。
第2節 家庭背景と学校の関係についての先行研究
家庭背景と学校生活での生徒との関係、さらにはそのことに対する 学校の社会的機能を分析した先行研究は多くはない。その理由として は、質問紙による方法では個人情報などの問題から家庭背景の調査が 困難であることが第一の理由として挙げられる。現在では、生徒が通 っている学校でさえ、家庭的な内容を一律に記録した「生活の記録」
などの作成は困難であり、外部機関からの調査はより実施が困難な状
況である。
質的研究では、古賀(2001)が「教育困難校」の構築過程をあきら かにしているが、家庭背景との関係はほとんどあきらかでないt、また、
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志水ほか(2001)の研究では、・」・中学校におけるニューカマーの生徒 の家庭背景について分析がなされているが、一・般的な生徒の問題をと
らえているとはいえない。さらに、酒井ほか(2003)の研究では、進 路多様校の生徒の進路選択支援の課題として家庭背景の問題を部分的 にあきらかにしているものの十分ではない.、本論文では、進路多様校 という高校レベルでの日本人生徒の家庭背景と進路選択の過程におけ る障害や困難のダイナミクスについて整理しておくことは・恒要である と考えられる。
第3節 家庭背景の要素
まずここでは、分析を進めるにあたって、家庭背景は以ドの4つの 要素から成立するものとして、事例の分析を行うものとする,,
(1) 家族構成、家族関係
人数、構成のほか、血縁関係の有無。構成員間の関係性の良否、親 戚や離婚した片親とのつながりなど。
(2) 経済状態、住居・労働状況
収入や雇用形態など家族の経済的基盤の状態や生活費の負担割合な ど。さらに家族を共有する住まい状況や時間共有の状況などについ
て。
(3) 親の価値観、子どもへの意識・態度
親がどのような価値観をもち、子育てや子どものキャリア形成に対 してどのようなスタンスをもち、具体的にかかわっているのか。
(4)子どもの行動、価値観、親への意識・態度
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生徒自身が学校、アルバイト、友人関係・遊びなどでどのように行 動しているか、またその3っの間の優先川頁位などの価値観、、親に対 する意識と生徒自身の対応L,
(1)~(4)は相互に関係しあう要素である、、この要素の連関の中で、生 徒の進路意識がどう形成されるのか、また、学校側はいかに介在しう
るのかについて、いくつかの事例をもとに比較検討するf、
第4節 家庭背景に注目した質的調査
調査対象は第2章と同様、大都圏にあるA商業高校であるが、進路 選択における家庭背景の影響という視点での記録を採り始めた2001 年以降について事例とする。再掲するがA商業高校は、1学年4クラ スの小規模校で、全校生徒は約400人、男女比は概ね1:4である。
卒業生の進路先は年度により多少ことなるが、2003年度は就職25%,
進学35%,未定40%であったc,
商業科の高校であるが、ほかにいける普通科の高校がなかったので 入学したという生徒も少なくない。したがって進路志望は就職志望が 多いものの未定や進学も一定割合存在し、第2章2節で述べたように 進路多様校化している。
A商業高校の生徒の多くは高校に対して、卒業できればよいという 低い目標をもち、授業などに対しては、なるべく無理をしないでやり すごせるように「うまくやる努力」で乗り切っているが一般的である。
部活動なども低調で、一部を除けば生徒は放課後、すぐにド校してし まうような状況である。
本章では、2001年から2003年の間に、卒業あるいは退学した生徒 4名を事例として取り」二げる。4名の概要は、表1の通りである。氏
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名はいずれも仮名である、分析には、筆者の指導記録及観察記録、4 名及び保護者に対するインタビューを資料としてもちいる、、
表3-1事例の概要
番号 氏名 出席状況 学業成績 卒業年度
1 M男 欠席多 中位 2004
2 N子 欠席多 下位 2002退学 3 0子 ほぼ皆勤 上位 2003 4 P子 欠席多 中位 2003
第5節 4事例の進路選択過程
(事例1 M男)
(1)家庭背景について
①家族構成、家族関係
M男は家族5人、父母と3人兄弟の長男、小中学校ともに地兀であ る。小学校からカブスカウト、中学でボーイスカウトと活動しボラン ティア経験や異年齢集団との交流経験が豊富であるe
中学卒業後、一度、他の高校に入学するが怠学により1年生の途中 で中途退学し、A商業高校には1年遅れで過年度生として入学してい る。とくにM男はバイクで夜遅くまで出歩くことや外泊することも多
い。
②経済状態、住居・労働状況
A商業高校から徒歩15分の高層都営住宅に居住し、周辺の環境はオ フィスビル街であるが、少し奥に入れば、占い住宅街もある。父親は
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自営業で母親もバートに出ている。不況で収入が少ないのと了どもが 3人いるので、経済状況は楽ではないものの一応安定している.
③親の価値観、子どもへの意識・態度
三者面談などを通じて母親は一貫して大学進学をさせたい意向を担 任に伝えながら、M男が一向に学習をせずに成績不振なことを心配す るとともに、いくら勉強するように促しても聞く耳を持たないと嘆い
ている。
その一方で、M男君に対して、中学前半までの優等生だったイメv-・一・
ジを今だに保持しており、やる気になりさえすれば、できる能力のあ る子どもであると思っている。
④子どもの行動、価値観、親への意識・態度
地元の中学卒業後、一度、他の高校に入学するが、怠学により1年 生の途中で中途退学し、A商業高校には1年遅れで過年度生として入
学している。
A商業高校で3年間めんどうみた担任はM男を評して、「あいつはと にかくめんどうくさがり、なまけ者なんですよ。頭だって悪くはない のに努力しない、朝は起きられない、授業にあきたら帰っちゃう、要 するに我慢てのができない。だから、中学のときの友達なんかにもば かにされてるんですよ。」と述べている。授業にでなくても試験の成績 はよく成績は中位であるが、遅刻欠席も多く学校にいないことが多い ので、クラスの生徒のなかでの存在感は強くない。
母親に対しては、迷惑をかけているという意識はあるものの、言動、
行動に反映されていない。