第 4 章 聴覚の内因性注意の時間特性に関する検討 72
4.2 実験 1:聴覚の内因性空間的注意の時間特性の検討
4.2.4 実験結果・考察
この実験でも,回答された単語のすべてのモーラが一致した割合を単語了解度とし て算出し,指標として用いた.
実験の結果を図4.3に示す.縦軸と横軸はそれぞれ単語了解度と手がかり音の呈示 から標的音の呈示までの時間差を示す.単語了解度はISIが500 msまでは単調増加
し,500 ms後は値がわずかに減少することが見て取れる.この結果について,ISI条
件(4; 100,200,500,1000 ms)を要因とする1要因分散分析を行ったところ,有 意な結果は得られなかった(F3,15= 1.25, p=.328, ηG2 =.006). この結果は,メタ的 には注意の成長が見られたが,統計的に有意な経時的な変化は見られないことを示し ている.
また,音像定位の方位依存性による効果も考慮し [74],角度ごとの了解度の経時 変化に関する分析も行った.実験の結果を図4.4に示す.縦軸と横軸はそれぞれ単語 了解度と手がかり音の呈示から標的音の呈示までの時間差を示す.結果を見てみる と,その傾向は角度により異なり,0◦と±60◦に比べて,±120◦で了解度が比較的低 いことを示している.これらの結果について,角度条件(5; 0◦,±60◦,±120◦)× ISI条件(4; 100,200,500,1000 ms)を要因とする2要因分散分析を行ったとこ ろ,角度条件の主効果が有意であった(角度:F4,20= 6.58, p=.002, ηG2 =.180,ISI: F3,15= 0.92, p=.457, ηG2 =.034,角度×ISI:F12,60 = 1.30, p=.243, ηG2 =.072).以 上の結果は,有意な経時変化は見られないが,角度における了解度の違いが影響して いるかもしれない.
図 4.3: 実験結果.縦軸と横軸はそれぞれ単語了解度と手がかり音の呈示から標的音 の呈示までの時間差を示す.誤差棒は標準誤差を示す.
図 4.4: 各方向における単語了解度の経時変化.縦軸と横軸はそれぞれ単語了解度と 手がかり音の呈示から標的音の呈示までの時間差を示す.誤差棒は標準誤差を示す.
実験1の結果は,統計的には有意な差が見られないものの,ISIが200〜1000 msの 間に注意効果が最も高い点があることを示している.これは,方向の手がかり音とな るホワイトノイズが提示されてから,注意を向けて聴くまでの時間的な流れを反映し ていることが考えられる.過去の研究では,いわゆる「音脈の分離+定位」に関係す るプロセスは聴覚系中枢(蝸牛神経核〜第一次聴覚野)にて行われ,それにはおよそ
300 msほど要することを報告していることから(総説として[85]),本研究で得られ
た結果とは矛盾しない.しかし,今回の結果はホワイトノイズに対する音像定位にか かる時間も含まれており,また音像定位にかかる時間についても過去の研究で明らか になっていないことから,実際に注意の移動にかかる時間は推定できない.そこで次 の実験では,手がかり刺激として視覚刺激と聴覚刺激をそれぞれ採用し,その結果を 比較することで,音像定位に関連する要因を排除する.
また,了解度が正面(0◦,±60◦)と後方(±120◦)で異なることや,各角度におけ る試行数が少ないことなど問題点も多い.そこで次の実験では,標的音声の提示角度 をこれまでの条件と合わせた正面5方向(0◦,±30◦,±60◦)とし,十分に試行数を 設けたものとする.