第 3 章 アーク条件が液滴飛散現象に与える影響
3.3 実験結果
3.3.1 極性における液滴飛散挙動の観察
多相交流アークにおいては,2.3.2 節で述べたように,飛散する液滴の粒径が交流周期に 大きく影響を受ける.液滴飛散による消耗の70%以上を占める粒径250 µm以上の液滴は陰 極時にのみ生じるため,液滴飛散による消耗は主に陰極時に発生する.本節では陰極時・
陽極時における詳細な液滴飛散挙動を高速度カメラにより観察した.
95 (a) 陰極時における溶融部挙動の観察
Fig. 3.4 (a) に高速度カメラを用いて撮影した陰極時における液滴飛散時の電極溶融部挙
動のスナップショットを示し,Fig. 3.4 (b) にそれと対応した電流波形を示す.撮影タイミ
ングはFig. 3.4 (b) の電流波形と同期している.放電相数12相,電流値100 A,電極間距離
100 mm,アルゴンシールドガス流量3.5 L/minとし,電極にはφ6.0 mmの2wt%ThO2添加タ
ングステン電極を用いた.2.3.2 節で述べたように,多相交流アークにおいては比較的電極 温度の低い陰極時においても先端温度はタングステンの融点(3695 K)を超え,先端が溶融し ている.また,Fig. 3.4より,周期中10.2~11.2 ms時において溶融部が隆起し,隆起と共に 隆起径が絞られる様子が観察された.その後,隆起部が分離・飛散することで液滴飛散が 生じることがわかった.
(b) 陽極時における溶融部挙動の観察
Fig. 3.5 (a) に高速度カメラを用いて撮影した陽極時における液滴飛散時の電極溶融部挙
動のスナップショットを示し,Fig. 3.5 (b) にそれと対応した電流波形を示す.撮影タイミ
ングはFig. 3.5 (b) の電流波形と同期している.2.3.2節で述べたように,陽極時においては
粒径250 µm以上の液滴は飛散しない.しかし,大粒径の液滴飛散前に発生する溶融部の隆
起現象は陽極時においても発生した.同時に,陽極時にはその隆起部は分離して液滴とし て飛散することはなく,電極溶融部側へと戻ることがわかった.このように,各極性にお ける電極の観察により,陰極時と陽極時において異なる電極溶融部挙動を示した.このよ うな溶融部挙動の違いにより,液滴飛散による消耗は主に陰極時に生じることが明らかに なった.極性により異なる溶融部挙動を示す原因については,3.4.2節で考察する.
3.3.2 電極径の影響 (a) 電極消耗速度
Fig. 3.6にφ3.2 mm電極とφ6.0 mm電極の全体の消耗速度と液滴飛散による消耗速度を
示す.放電相数12相,電流値100 A,電極間距離100 mm,アルゴンシールドガス流量2 L/min とし,電極は2wt%ThO2添加タングステン電極を用いた.全体の電極消耗速度は放電前後の 電極の質量差から算出した.全体の消耗速度と液滴飛散による消耗速度の差が蒸発による 消耗速度である.Fig. 3.6より,φ3.2 mm電極の全体の消耗速度はφ6.0 mm電極の2倍以上 であった.また,φ6.0 mm電極においては全体の消耗速度における液滴飛散による消耗速 度の割合が50%以上であるのに対し,φ3.2 mm電極においては液滴飛散による消耗は大幅 に低減化された.異なる電極径における液滴飛散機構は3.4.2 (b) 節で考察する.
(b) 電極温度
Fig. 3.7にφ3.2 mm電極の交流1周期中の溶融部挙動と二次元電極温度分布を示す.撮影
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タイミングはFig. 3.7 (c) の電流波形と同期している.φ6.0 mm電極と同様に,電極先端温 度がタングステンの融点以上であり,溶融していることがわかった.また,Fig. 2.29におけ るφ6.0 mm電極の温度分布図と比較すると,φ3.2 mm電極は電極先端が全体的に溶融し,
電極径以上の溶滴が電極先端を覆うことがわかった.また,溶融部挙動観察の結果,溶融 部の隆起現象がφ3.2 mm電極においては陽極時・陰極時どちらにおいても発生しなかった.
溶融部の隆起現象は液滴飛散につながる現象であり,電極径の違いによる溶融部挙動の違 いがφ3.2 mm電極における液滴飛散量の大幅な低減化につながった.
Fig. 3.8にφ3.2 mm電極とφ6.0 mm電極の交流1周期中の電極先端温度の時間変動を示
す.測定された電極先端温度は 3 周期分以上の平均値である.どちらの電極においても,
陽極時・陰極時の最大電流値付近で温度が上昇した.また,極性における総伝熱量の違い から,陽極時における温度の方が陰極時における温度よりも高くなる傾向があった.した がって,交流1周期を通してφ3.2 mm電極の方がφ6.0 mm電極よりも先端温度が高いこと がわかった.
Fig. 3.9にφ3.2 mm電極とφ6.0 mm電極の陰極時における一次元電極温度分布を示す.
φ6.0 mm電極の場合,先端から2.0 mmの位置において2500 K程度まで温度が下がった.
一方,φ3.2 mm電極の場合,先端から2.0 mmの位置では融点付近であり,広い範囲で電極 が溶融した.また,Figs. 3.8,3.9より,φ3.2 mm電極はφ6.0 mm電極よりも最高温度・溶 融面積共に大きく,電極温度が高くなることがわかった.
(c) 電極溶融面積
Fig. 3.10にφ3.2 mm電極とφ6.0 mm電極の交流1周期中における電極溶融面積の時間変
動を示す.測定された電極溶融面積は3周期分以上の平均値である.Fig. 3.7 (a) に示すよう に,φ3.2 mm電極先端は全体的に溶融し,電極先端が電極径以上の溶滴で覆われている.
そのため,φ6.0 mm電極と比較して溶融面積が非常に大きいことがわかった.
3.3.3 電流値の影響 (a) 電極消耗速度
Fig. 3.11に電流値80,100,120 Aにおける全体の消耗速度と液滴飛散による消耗速度を
示す.全体の電極消耗速度は5分間の放電を行い,放電前後の電極の質量差から算出した.
放電相数12相,電極間距離100 mm,アルゴンシールドガス流量3.5 L/minとし,電極には φ6.0 mmの2wt%ThO2添加タングステン電極を用いた.電流値の上昇によりアーク出力が 増加するため,液滴飛散による消耗速度も金属蒸発による消耗速度も増加しており,全体 の消耗速度にも顕著な増加傾向が見られた.
(b) 電極温度
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Figs. 3.12~14に,電流値80, 100, 120 Aにおける交流1周期中の溶融部挙動と二次元電極
温度分布を示す.撮影タイミングはFigs. 3.12~14 (c) の電流波形と同期している.異なる 電流値において,電極溶融部挙動には大きな変化は見られなかった.それに対して,電流 値の増加に伴い,電極温度は上昇した.Fig. 3.15に電流値80,100,120 Aにおける1周期 中の電極先端温度の時間変動を示す.測定された電極先端温度は 3 周期分以上の平均値で ある.いずれの電流値においても陽極時・陰極時の電流ピーク時において電極温度が上昇 し,多相交流アークにおける特徴的な電極温度の変動を示した.また,電流実効値の増加 により電極先端温度は上昇した.電流値80 A時には極性が変わるタイミングで先端温度が タングステンの融点以下となるのに対し,電流120 A時には常にタングステンの融点以上の 電極温度を示した.これは,電流値の上昇により出力が上昇しており,アーク中のジュー ル加熱が上昇し,アークから電極に流入する熱量が増加したためである.また,Fig. 3.16
に電流値80,100,120 Aの陰極時における一次元電極温度を示す.電流値が高いほど電極
へ流入する熱量が高いため,電極はより広い範囲で溶融することがわかった.
(c) 電極溶融面積
Fig. 3.17に電流値80,100,120 Aにおける交流1周期中における電極溶融面積の時間変
動を示す.測定された電極溶融面積は3周期分以上の平均値である.Fig. 3.15の電極先端温 度の時間変動との比較により,アークからの入熱量が増加する電流ピーク時において電極 温度・溶融面積共に増加することがわかった.また,電流値の増加によりアーク中のジュ ール加熱が増加し,アークから電極に流入する熱量が増加するため,120 A時に最大の電極 溶融面積を示した.