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実験結果および考察

ドキュメント内 多相交流アークにおける電極消耗機構の解明 (ページ 188-192)

第 5 章 電極添加酸化物が電極蒸発現象に与える影響

5.3 実験結果および考察

5.3.1 添加酸化物種の影響

本節では,添加酸化物種が電極金属の蒸発現象に与える影響について考察するため,添 加酸化物種の異なる2.0wt%ThO2添加電極,2.0wt%CeO2添加電極,2.0wt%La2O3添加電極に おける蒸発現象を観察・比較した.それぞれの電極において電極消耗速度計測,電極温度 計測,タングステン蒸気挙動観察を行った.

(a) 金属蒸発による電極消耗速度

Fig. 5.5に異なる酸化物種添加電極における,蒸発による消耗速度を示す.蒸発による消

耗速度は全体の消耗速度と液滴飛散による消耗速度の差から算出した.放電相数12相,電

極間距離100 mm,アルゴンシールドガス流量2 L/minとし,電極にはすべてφ6.0 mm電極

を用いた.また,比較的電極温度を高くするため,電流値を120 Aとした.Fig. 5.5に示す ように,添加酸化物種によって,タングステン蒸発速度に大きく違いが出た.La2O3添加電 極はThO2添加電極の約2倍の蒸発速度を示した.このことから,陰極時における仕事関数 低下の目的で電極に添加された添加酸化物がタングステン蒸発に大きく影響を与えること が明らかとなった.

(b) 電極温度

Figs. 5.6〜8にThO2添加電極,CeO2添加電極,La2O3添加電極の交流1周期中の電極の発 光のスナップショットと二次元電極温度分布を示す.撮影タイミングはFigs. 5.6〜8 (c) の 電流波形と同期しており,電流波形中の0〜8.3 msが陽極時,後半8.3〜16.7 msが陰極時で ある.いずれの電極においても先端温度はタングステンの融点(3695 K)以上となり,電極先 端が溶融した.

Fig. 5.9に各添加酸化物種における交流1周期中の電極先端温度の時間変動を示す.測定

された電極先端温度は 3 周期分以上の平均値である.いずれの電極においても陽極時・陰 極時の電流ピーク付近で電極温度が上昇しており,交流周期由来の電極温度の変動が見ら れた.また,それぞれの電極温度を比較すると,陽極時において電極先端温度に大きく違 いが見られた.

(c) タングステン蒸発挙動の観察

本節では,高速度カメラとバンドパスフィルターを用いることで,ms オーダーでのタン グステン蒸気挙動の観察を行った.また,高速度カメラ観察により計測したタングステン 蒸気発光強度から,相対強度分布を算出し,タングステン蒸気挙動を評価した.

Figs. 5.10~12 に各添加酸化物種における交流 1 周期中のタングステン蒸気の発光(393

nm)とアルゴンの発光(738 nm)の発光挙動,それらから算出した相対強度分布を示す.撮影 タイミングはFigs. 5.10〜12 (d) の電流電圧波形と同期しており,前半が陽極時,後半が陰

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極時である.いずれの電極においても陰極時にはほとんど蒸発せず,陽極最大電流時付近 に電極からタングステン蒸気が細く局所的に発生する様子が観察された.

Fig. 5.13に観察された蒸気の発光を二次元的な面積として捉え,交流周期中における蒸気

面積として表したグラフを示す.測定された蒸気発光面積は3周期分以上の平均値であり,

前半が陽極時,後半が陰極時である.いずれの電極においても蒸気の発光は主に陽極時に 観察され,交流周期中の電流値の上昇に伴い,蒸気発光面積が増加することがわかった.

これは交流周期における電流値の上昇に伴い電極温度が上昇するため,それに起因してタ ングステン蒸気量が増加したためである.また,多相交流アークにおいて主に陽極時にタ ングステン蒸発が発生する原因には,2.3.3 (b) 節において述べたように,タングステン蒸気 由来の金属イオンが電場の影響を受けるためである.高温のアーク中において金属蒸気は イオン化し,電極近傍における電場の影響を受ける.陰極時においては発生した蒸気の大 部分が電極側に戻るため,タングステン蒸発は主に陽極時に発生する.

また,Fig. 5.13において添加酸化物種の違いに着目すると,添加酸化物種によって蒸気面 積が大きく異なることがわかった.La2O3添加電極の蒸気発光面積は ThO2添加電極,CeO2

添加電極の蒸気発光面積の約 4 倍の値を示し,添加酸化物がタングステン蒸発量に大きく 影響を与えることがわかった.また,蒸気発光面積だけでなく,タングステン蒸気が発生 し始めるタイミングにも違いがあり,交流周期において蒸気が発生するタイミングはLa2O3

添加電極が最も早かった.

蒸気発光面積はLa2O3添加電極,CeO2添加電極,ThO2添加電極の順で大きく,交流周期 における蒸発タイミングもLa2O3添加電極,CeO2添加電極,ThO2添加電極の順で早いこと がわかる.Table 5.3に各添加酸化物の融点・沸点を示す.各添加酸化物の融点・沸点はLa2O3, CeO2,ThO2の順で低く,蒸気発光面積・蒸発タイミングは添加酸化物の融点・沸点に影響 を受けると予想された.Fig. 5.14に添加酸化物の融点とタングステン蒸発タイミングの関係 を示す.蒸発タイミングは陽極時の電流の立ち上がり時を0 msとし,陽極時においてタン グステンが蒸発し始めるタイミングを示している.添加酸化物の融点が低いほどタングス テンは早いタイミングで蒸発しており,La2O3添加電極は最大電流時(4.2 ms)よりも前に,

CeO2添加電極とThO2添加電極は最大電流時付近でタングステンの蒸発が発生した.また,

Fig. 5.15に添加酸化物の融点と最大蒸気発光面積の関係を示す.添加酸化物の融点が低いほ

どタングステン蒸気発光面積は大きく,最大電流時よりも前にタングステンの蒸発が発生 するLa2O3添加電極において著しいタングステンの蒸発が確認された.このように,添加酸 化物の融点・沸点によりタングステン蒸発挙動が大きく異なる原因を以下に考察した.

Fig. 5.16に多相交流アークにおける,金属酸化物を微量添加した電極のタングステン蒸発

機構を示す.添加酸化物の融点・沸点が低いほどタングステン蒸発タイミングが早いこと から,添加酸化物の蒸発がタングステン蒸発のトリガーとなることがわかる.まず,添加 酸化物が蒸発すると,添加酸化物由来の金属蒸気がアーク中に混入する.金属蒸気がアー ク中に混入すると,局所的に電気伝導度が上昇し,電流密度の上昇,アーク温度の上昇に

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つながる.結果,アークから電極に流入する熱量が増加し,電極金属であるタングステン の蒸発が発生する.

添加酸化物の蒸発がタングステン蒸発のトリガーとなるため,タングステン蒸発のタイ ミングは添加酸化物の融点・沸点に依存する.添加酸化物の融点・沸点が比較的低い場合,

交流周期における最大電流時前にタングステン蒸発が発生し,交流周期の電流値の増加に 伴う電極温度の上昇と,アーク中への蒸気の混入による電極温度の上昇の影響を共に受け る.そのため,Fig. 5.13に示すように,La2O3添加電極において著しいタングステンの蒸発 につながった.

5.3.2 添加酸化物濃度の影響

本節では,添加酸化物濃度がタングステン蒸発現象に与える影響について考察するため,

添加酸化物濃度の異なる純タングステン電極,0.60wt% Nd2O3添加電極,1.05wt% Nd2O3添 加電極,1.10wt% Nd2O3添加電極,1.49wt% Nd2O3添加電極の5種の電極を比較した.前節 と同じく,それぞれの電極において電極消耗速度計測,電極温度計測,タングステン蒸気 観察を行った.

(a) 金属蒸発による電極消耗速度

Fig. 5.17に各添加酸化物濃度における蒸発による電極消耗速度を示す.蒸発による電極消

耗速度は全体の消耗速度と液滴飛散による消耗速度の差から算出した.放電相数12相,電

極間距離100 mm,アルゴンシールドガス流量2 L/minとし,電極にはすべてφ6.0 mm電極

を用いた.また,前節と同様に,電極温度が比較的高い電流値を120 Aの条件で実験した.

Fig. 5.17に示すように,添加酸化物濃度が高くなるほど,タングステン蒸発速度は大きくな

った.1.49wt%添加電極は純タングステン電極の約6倍の蒸発速度を示し,添加酸化物濃度

は多相交流アーク電極におけるタングステン蒸発速度に大きく影響を与えることがわかっ た.

(b) 電極温度

Figs. 5.18〜21にNd2O3添加濃度の異なる電極の交流1周期中の発光のスナップショット

と二次元電極温度分布を示す.撮影タイミングはFig. 5.18〜21 (c) の電流波形と同期してお り,前半が陽極時,後半が陰極時である.いずれの電極においても,先端温度がタングス テンの融点(3695 K)以上となり,電極先端が溶融した.

Fig. 5.22に各添加酸化物濃度における交流1周期中の電極先端温度の時間変動を示す.測

定された電極先端温度は 3 周期分以上の平均値である.いずれの電極においても陽極時・

陰極時の電流ピーク付近で電極温度が上昇しており,交流周期由来の電極温度の変動が見 られた.また,それぞれの電極温度を比較すると,陽極時において電極先端温度に大きく

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違いが見られ,添加酸化物濃度が陽極時における電極温度にも大きく影響を与えることが わかった.

(c) タングステン蒸発挙動の観察

本節では,高速度カメラとバンドパスフィルターを用いることで,ms オーダーでのタン グステン蒸気挙動の観察を行った.また,高速度カメラ観察により計測したタングステン 蒸気発光強度とアルゴンの発光強度から相対強度分布を算出し,タングステン蒸気挙動を 評価した.

Figs. 5.23〜27に各添加酸化物濃度における交流1周期中のタングステン蒸気の発光(393

nm)とアルゴンの発光(738 nm)の発光挙動,それらから算出した相対強度分布を示す.撮影 タイミングはFigs. 5.23〜27 (d) の電流波形と同期しており,前半が陽極時,後半が陰極時 である.相対強度分布より,比較的添加酸化物濃度の高い1.05wt%添加電極,1.10wt%添加

電極,1.49wt%添加電極において,陽極最大電流時付近で電極からタングステン蒸気が細く

局所的に発生する様子が確認された.それに対して,添加酸化物濃度の低い純タングステ ン電極,0.60wt%添加電極では陰極時のみならず,陽極時においてもタングステン蒸発はほ とんど発生しなかった.

Fig. 5.28に観察された蒸気の発光を二次元的な面積として捉え,交流周期中における蒸気

面積として表したグラフを示す.測定された蒸気発光面積は3周期分以上の平均値であり,

前半が陽極時,後半が陰極時である.添加酸化物濃度が増加するほどタングステン蒸気発 光面積は増加することがわかった.Fig. 5.29に添加酸化物濃度とタングステン蒸発タイミン グの関係を示す.蒸発タイミングは陽極時の電流の立ち上がり時を0 msとし,陽極時にお いてタングステンが蒸発し始めるタイミングを示している.結果,添加酸化物濃度による 蒸発タイミングの違いはほとんど見られなかった.それに対し,Fig. 5.30には添加酸化物濃 度と最大蒸気発光面積の関係を示す.蒸気発光面積は添加酸化物濃度に大きく影響を受け ており,純タングステン電極においてはタングステンの蒸気の発光はほぼ確認されなかっ た.このように,添加酸化物濃度によってタングステン蒸気発光面積に大きく違いが出た

のは,5.3.1 (c) 節において述べたように,添加酸化物の蒸発がタングステン蒸発のトリガー

となるためである.

添加酸化物種はいずれの電極においても Nd2O3 であるため,添加酸化物の蒸発するタイ ミングはほぼ等しく,タングステンの蒸発タイミングにも大きく違いは見られなかった.

また,添加酸化物濃度が高いほど,添加酸化物の蒸発により発生する金属蒸気量は多くな るため,それをトリガーとして発生するタングステン蒸気量も多くなった.これらの結果 から,添加酸化物濃度を低くすることで,タングステン蒸発による消耗量を低減化できる ことが見出された.

ドキュメント内 多相交流アークにおける電極消耗機構の解明 (ページ 188-192)

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