第 2 章 多相交流アークにおける電極消耗現象の可視化
2.2 実験方法
2.2.4 電極表面および液滴観察方法
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本来,Fig. 2.5に示すように,放電中の電極の観察は輝度の強いアークの発光により難し い.そこで本研究では,装置上部に設置した高速度カメラと特定の波長の発光のみを透過 するバンドパスフィルターにより電極表面および液滴表面を可視化した.バンドパスフィ ルターの波長は電極近傍の発光分光分析から選定した.Fig. 2.10に発光分光分析の計測ポイ ントを示す.Fig. 2.11にその計測ポイントにおける発光スペクトルを示す.プラズマからの 線スペクトルに加えて,電極の熱放射由来の連続スペクトルが確認できた.そのため,電 極からの連続スペクトルのみを高速度カメラで撮影することで,輝度の高いアークの発光 を除いた電極表面の観察が可能となる.そこで,Fig. 2.12に示すように,中心波長785 nm
半値幅2.5 nmのバンドパスフィルターを電極表面および液滴表面の観察に使用した.高速
度カメラに取り付けたMSI2にバンドパスフィルターを設置し,電極表面を観察した.また,
2波長発光の測定は必要ないため,溶融部の観察時には1光路に限定し,長時間の観察を行
った.Fig. 2.13にバンドパスフィルターなしで撮影したスナップショットと,電極観察用の
バンドパスフィルターを通して電極を撮影したスナップショットを示す.図に示すように,
アークの発光をできる限り除去した上での電極の観察を可能とした.
2.2.5 電極温度測定方法 (a) 電極温度測定原理
本論文での電極温度算出には,赤外線二色放射測温法を用いた.赤外線二色放射測温法 は,非接触式測温法であるため熱電対等を用いる必要がなく,画像解析により容易に温度 分布を算出できる.放電中の多相交流アーク電極を対象とした場合,赤外線二色放射測温 法はプラズマアークからの輻射(200~400nm 付近)を受けにくい.また,単色放射測温法よ りも放射率の変動に影響されにくい.したがって,多相交流アーク電極の温度計測には赤 外線二色放射測温法が適している.
赤外線二色放射測温法は,プランクの法則を応用した測温法である.以下に放射率εを用 いて,単位波長当たりに換算した灰色体の分光放射輝度を表す式を示す.
𝐼𝜆= 𝜀2ℎ𝑐2
𝜆5 1
𝑒𝑥𝑝(𝑘𝜆𝑇ℎ𝜈)−1 (2-4)
Eq. (2-4)においての,hはプランク定数,cは光速,νは振動数,kはボルツマン定数を示し
ており,分光放射輝度Iλは,波長λと温度T の関数であることを示している.Eq. (2-4)の 定数項をCa=hc2,Cb= hν/kを用いて整理するとEq. (2-5)となる.
𝐼𝜆= 𝜀2𝐶𝜆5𝑎 1
𝑒𝑥𝑝(𝐶𝑏𝜆𝑇)−1 (2-5)
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放射率εが等しいと仮定し,またexp(x)のxが十分大きい場合にexp(x)-1はexp(x)に近似で きることを用い,Eq. (2-5)の比をとると以下の式となる.
𝑅 =𝐼1
𝐼2= (𝜆2
𝜆1)5 𝑒𝑥𝑝(𝐶𝑏/𝜆2𝑇)
𝑒𝑥𝑝(𝐶𝑏/𝜆1𝑇) (2-6)
Eq. (2-6)をTについて解くと以下の式が導かれる.
𝑇 =𝐶𝑏(𝜆𝜆1−𝜆2)
1𝜆2 [ 1
𝑙𝑛𝑅+5𝑙𝑛(𝜆1
𝜆2)] (2-7)
Eq. (2-7)より,異なる二波長を選択し,それぞれの発光強度を測定することで温度を算出で きる.
Fig. 2.14 に上述の二波長それぞれの発光強度を計測するための高速度カメラシステムの
概略図を示す.レンズから入ってきた光は分光器により二分割され,バンドパスフィルタ ーを通過することで,高速度カメラの CCD 面に異なる二波長の画像を同時に結像させる.
このシステムにより,高速度カメラに光を2光路に分割するMSI2を取り付け,2種類のバ ンドパスフィルターを設置することで2波長の発光の同期計測を可能とした.
二色放射測温法によって電極温度測定を行う場合,電極表面の観察と同様に,いかに電 極由来の連続スペクトルのみの測定が行えるかが重要となる.Fig. 2.11の放電中の電極近傍 における発光スペクトルより,785 nm,835 nm,880 nmの付近において線スペクトルが存 在しないため,これらの波長範囲が二色放射測温法に用いる波長として適切と判断した.
Eq. (2-6)を計算することで得られた,異なる二波長での発光強度比と温度の関係を Fig.
2.15に示す.ここで,青線は785 nmと835 nmの組合せ,赤線は785 nmと880 nmの組合 せを示している.多相交流アークでは電極先端が溶融するため,電極先端部の温度はタン グステンの融点(3700 K)以上と予想される.Fig. 2.15より,この温度域を測定する場合,785
nmと880 nmの組み合わせを用いた方が,発光強度比変化における温度の変動が小さい.
即ち,より測定誤差の少ない温度測定が可能である.よって,本論文中において電極温度 計測に用いるバンドパスフィルターは,Fig. 2.16に示すように,785 nmと880 nmを用いる こととした.また,波長によってCCDの感度が異なり,785 nmの方が880 nmよりもCCD の感度が良い.そのため,バントパスフィルターの波長域は中心波長785 nm半値幅2.5 nm,
中心波長880 nm半値幅5 nmを選定した.Fig. 2.17に実際に2波長のバンドパスフィルター
を用いて電極からの熱放射のみを観察した様子と,それらから算出された二次元電極温度 分布図を示す.このように,高速度カメラと 2 波長のバンドパスフィルターを用いること
36 により,電極温度測定を可能とした.
(b) 電極温度測定における誤差
本研究では,高速度カメラとバンドパスフィルターにより 2 波長の電極からの熱放射強 度を測定し,二色放射測温法を用いて電極温度分布を算出した.本節では,算出された電 極温度が含む誤差について考察する.
この手法を用いて電極温度を測定する場合,以下の誤差要因が考えられる.
(1) アークの線スペクトルの混入による誤差 (2) アーク由来の連続光の電極への被覆による誤差 (3) 光学素子における分光特性に由来する誤差
(4) 各波長におけるタングステンの放射率の差に由来する誤差 (5) 計測機器に由来する誤差
これらの誤差要因についてそれぞれ考察する.
(1) アークの線スペクトルの混入による誤差
赤外線二色放射測温法を用いる場合,アーク由来の発光の影響をいかに抑えるかが重要 となる.Fig. 2.16 (b) において,870 nm付近の窒素の発光ピークが中心波長880 nmのバン ドパスフィルターの検出領域に近接していることがわかる.この発光ピークが,880 nmの バンドパスフィルターを用いた発光強度測定に及ぼす影響を検討した.Fig. 2.18 (a) に中心
波長880 nmのバンドパスフィルターの透過率,Fig. 2.18 (b) にFig. 2.16 (b)の発光強度と透
過率を掛け合わせることで得られた発光強度を示す.870 nm付近の窒素の発光ピークは,
バンドパスフィルターによって十分に減光される.したがって,アークの線スペクトルの 混入による温度計測誤差は無視できる.
(2) アーク由来の連続光の電極への被覆による誤差
アークの発光には線スペクトルの発光だけでなく,連続スペクトルの発光も存在する.
アーク由来の連続光の影響はバンドパスフィルターにより除去することが難しい.そこで,
実際に観察されたアークの連続光が電極温度測定与える誤差を考察した.
Fig. 2.19に陽極電流ピーク時における785 nm,880 nmのバンドパスフィルターを用いた
電極近傍の観察結果と,その時の電流波形を示す.放電相数12相,電流値100 A,電極間
距離100 mm,アルゴンシールドガス流量3.5 L/minとし,電極にはφ6.0 mmの2wt%ThO2
添加タングステン電極を用いた.Fig. 2.19はアークの連続光の影響が最も大きくなる電流ピ ーク時における結果を示している.電極の発光と共に,電極近傍にアークの連続光が確認 できた.アークは電極を覆うように存在し,高速度カメラ側に存在するアークの連続光は
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電極の発光と重なって観測されるため,それが電極温度測定に及ぼす影響を考察した.Fig.
2.20に,Fig. 2.19から観測した陽極時における電極上の発光の発光強度と,アークの連続光
の発光強度分布を示す.赤が電極上の発光の発光強度を,青がアークの連続光の発光強度 を示している.赤の発光は電極からの熱放射の他に,電極近傍のアークの連続光を含んで いる.そのため,赤の発光強度と青の発光強度の差を計算することで,電極からの熱放射 のみの強度を算出できる.電極の熱放射のみ(赤と青の発光強度の差)から算出した電極温度 と,アークの連続光を含む発光強度(赤の発光強度)から算出した電極温度を比較すると,陽 極時における温度誤差は最大40 K程であった.
Fig. 2.21に陰極電流ピーク時における785 nm,880 nmのバンドパスフィルターを用いた
電極近傍の観察結果と,その時の電流波形を示す.また,Fig. 2.22にFig. 2.21から観測した 陰極時における電極上の発光の発光強度分布と,アークの連続光の発光強度分布を示す.
赤が電極上の発光の発光強度を,青がアークの連続光の発光強度を示している.陽極時と 同様に,電極からの熱放射のみ(赤と青の発光強度の差)から算出した電極温度と,アークの 連続光を含む発光強度(赤の発光強度)から算出した電極温度を比較すると,陰極時における 温度誤差は最大70 K程であった.
(3) 光学素子における分光特性に由来する誤差
本研究では高速度カメラで発光強度を測定する際,レンズやフィルター等の光学系を経 由した発光をCCDへと導入している.各光学素子は,それぞれ異なる分光特性を持つため,
測定したスペクトル強度は真のスペクトル強度ではない.したがって,真のスペクトルを 得るためには,発光分光特性が検定されている標準光源を用いた分光補正が必要になる.
そのため,スペクトル強度の校正に分光放射照度標準電球(100 V, 500 W)を標準光源として 用い,発光強度を校正した.実際のサンプル測定時と同じ条件で標準光源の発光強度を測 定し,測定値と標準光源が持つ検定値の比を用いて発光強度を校正した.標準光源の検定 値をISTD,標準光源を測定値をI'STD,真の発光スペクトル強度をIPlasma,実験で測定された 発光スペクトル強度をI'Plasmaとすると,光学素子の分光特性を考慮した式は次式で表すこと ができる.
Plasma Plasma STD
STD
I I I
I
'
'
(2-8)STD STD Plasma Plasma
I I I
I ' '
(2-9)Eq. (2-9)に示すように,実験で測定した発光強度に標準光源の測定値に対する標準光源の 検定値の比(ISTD/I'STD)を乗じることで,発光強度の補正を行っている.したがって,光学素