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第 4 章 電極添加酸化物が液滴飛散現象に与える影響

4.3 実験結果

4.3.1 添加酸化物種の影響

タングステン電極における添加酸化物は陰極時の仕事関数低下の目的で添加されている.

直流アークにおいても,TIGアーク溶接などで金属酸化物添加タングステン電極が用いられ ており,添加酸化物種により電極温度や消耗量が変化することが報告されている[2].本節 では,多相交流アークにおいて,異なる添加酸化物種における電極消耗量を計測し,電極 温度の計測・溶融部挙動の観察を行った.

(a) 電極消耗速度

Fig. 4.2に異なる添加酸化物種・酸化物濃度における電極消耗速度を示す.全体の電極消

耗速度は5分間の放電を行い,放電前後の電極の質量差から算出した.放電相数12相,電

流値100 A,電極間距離100 mm,アルゴンシールドガス流量2 L/minとし,電極にはすべて

φ6.0 mm電極を用いた.酸化物添加の影響を検討するため,純タングステン電極と,酸化 物を添加した電極を複数種用意した.2.0wt%ThO2 添加電極,2.0wt%CeO2 添加電極,

2.0wt%La2O3添加電極,0.37wt% ZrO2添加電極は一般的なTIG溶接でも使用される電極であ

る.また,一般的な電極以外の有用な電極を検討するため,1.49wt% Nd2O3添加電極,1.85wt%

HfO2添加電極を作成し,比較した.さらに,複数の添加物種が電極消耗に与える影響を検

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討するため,複数種の酸化物を1本の電極に添加した0.3wt%HfO2+0.3wt%ZrO2添加電極を 用意し,比較した.

結果,純タングステン電極の消耗速度が約80 mg/minであるのに対し,2wt%ほど金属酸 化物を添加した電極の消耗速度は30 mg/min以下であり,酸化物添加により消耗が1/2~1/3 程に抑えることができた.また,純タングステン電極の消耗はそのほぼすべてが液滴飛散 による消耗である.結果,酸化物を添加することで液滴飛散による消耗を 1/5~1/8 程まで 抑えることができ,液滴飛散による電極消耗量を大幅に低減化できた.添加濃度が 1.0wt%

未満である0.37wt%ZrO2添加電極と0.3wt%HfO2+0.3wt%ZrO2添加電極は,添加濃度2.0wt%

であるThO2添加電極,CeO2添加電極,La2O3添加電極の2倍以上の消耗速度を示した.し たがって,添加濃度が電極消耗に与える影響も無視できない.そこで,本節では添加酸化 物種の影響を考察するため,添加濃度が等しいThO2添加電極,CeO2添加電極,La2O3添加 電極の3種類の電極における現象を比較した.添加濃度が与える影響に関しては4.3.2,4.4.1 (b) 節で考察する.

ThO2添加電極,CeO2添加電極,La2O3添加電極の液滴飛散による電極消耗速度に着目す る.ThO2添加電極の消耗速度が最も大きく,最も少ないLa2O3添加電極の1.5倍もの消耗速 度を示した.このことから,添加濃度が等しくとも添加酸化物種により液滴飛散現象は大 きく影響を受けることがわかった.本節では添加酸化物種が液滴飛散現象に与える影響を 考察するため,上記の3種類の電極における電極温度計測・電極溶融部挙動観察を行った.

(b) 電極温度

Figs. 4.3〜5にThO2添加電極,CeO2添加電極,La2O3添加電極の交流1周期中の溶融部挙 動と二次元電極温度分布を示す.撮影タイミングはFigs. 4.3〜5 (c) の電流波形と同期して いる.いずれの電極においても,電極先端温度がタングステンの融点(3695 K)以上となり,

先端が溶融した.放電前には電極の先端角度は60度に調整しているが,放電中には電極の 溶融により先端が丸みを帯びる様子が確認できる.

Fig. 4.6に添加酸化物種違いにおける交流1周期中の電極先端温度の時間変動を示す.測

定された電極先端温度は 3 周期分以上の平均値である.いずれの電極においても陽極時・

陰極時の電流ピーク付近で電極温度が上昇しており,交流周期由来の電極温度の変動が見 られた.また,それぞれの電極における温度を比較すると,陽極時では大きな差が見られ るものの,陰極時においては100 K程しか差がなく,添加酸化物種が電極の仕事関数に与え る影響は非常に小さいことが明らかになった.

Fig. 4.7に各添加酸化物における陰極時の一次元電極温度分布を示す.また,Table 4.4に

タングステンと各種添加酸化物の仕事関数や融点を示す.前述したように,多相交流アー クにおいて,陰極時の電極温度に添加酸化物種が与える影響は小さかった.直流アークの タングステン陰極においては,添加酸化物種によって電極温度に数100 Kもの差が発生する ことが報告されている[2, 3].多相交流アークにおいて,異なる酸化物種を添加したにも関

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わらず,陰極時の電極温度に大きな差がない原因を以下のように考察した.

異なる酸化物種を添加した電極の温度にほぼ差がないことから,多相交流アーク電極に おける熱電子放出は添加酸化物に依存しないことがわかった.2.2.1 節で述べたように,多 相交流アーク電極の先端ではタングステン・添加酸化物が共に溶融する.そのため,溶融 部の主要成分は電極の主要材料であるタングステンである.したがって,多相交流アーク 電極においては主にタングステンから熱電子を放出する.添加酸化物種を変えても,主に タングステンから熱電子を放出する機構は変わらない.多相交流アーク電極では実効仕事 関数はタングステンに依存するため,電極温度は添加酸化物種にほとんど影響を受けなか った.

(c) 電極溶融面積

Fig. 4.8に添加酸化物種違いにおける交流1周期中の電極溶融面積の時間変動を示す.測

定された電極溶融面積は 3 周期分以上の平均値である.電極温度計測においては,各添加 酸化物種における温度分布に大きな差はなかったが,溶融部観察により計測した電極溶融 面積にはそれぞれの電極において明らかな違いが見られた.Fig. 4.9に各酸化物添加電極の 陰極電流ピーク時における電極溶融面積を示す.陰極時において,添加酸化物種により溶 融面積が変化しており,高速度カメラによる電極溶融部観察により,添加酸化物が電極溶 融面積に大きく影響を与えることがわかった.このことから,多相交流アークにおいて,

添加酸化物は電極温度への影響は小さいが,電極溶融面積には大きな影響を及ぼすことが わかった.

Fig. 4.7 に電極表面における液相と固相の境界の位置と,そこでの電極温度をプロット

(ThO2添加電極:○,CeO2添加電極:□,La2O3添加電極:◇)している.液相と固相の境界 の位置は高速度カメラによる電極溶融部の観察により計測した.いずれの電極においても,

液相と固相の境界温度はタングステンの融点以下であった.また,添加酸化物種によって も境界温度は異なることがわかった.ThO2添加電極では約3500 K以上の温度域において溶 融部が確認されるのに対し,La2O3添加電極では約3300 K以上の温度域において溶融部が 確認された.これらのことから,添加酸化物の影響により液相と固相の境界温度が変化す ると予想された.電極溶融部における点k酸化物の影響を以下で考察する.

Fig. 4.7,Table 4.4より,添加酸化物の融点が低い電極ほど溶融面積は大きいことがわか

る.このことから,溶融した添加酸化物が電極溶融部に混入することで,タングステン電 極における液相と固相の境界温度が変化すると予想された.多相交流アークにおいて,電 極先端はタングステンと添加酸化物が共に溶融し,混在している.その場合,混合物の融 点降下,または溶融部内においてタングステンと添加酸化物が化合物となることで液相と 固相の境界温度が変化する.添加酸化物の融点が低いほど広い範囲で添加酸化物は溶融し,

電極溶融部に含まれる添加物量が多くなる.したがって,融点の低い酸化物を添加した電 極ほど液相と固相の境界温度は低下し,Fig. 4.9に示すように電極溶融面積は大きくなった.

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電極溶融面積は液滴飛散の駆動力である電磁力に大きく影響する重要なパラメータである.

添加酸化物種が液滴飛散現象に与える影響は4.4.1節で考察する.

4.3.2 添加酸化物濃度の影響

多相交流アーク電極において添加酸化物濃度が液滴飛散現象に与える影響について述べ る.前節において,電極に金属酸化物を添加することで電極溶融面積に大きな影響を与え ることがわかった.本節では,添加酸化物濃度の影響を検討するため,タングステンにNd2O3

を0.60wt%,1.05wt%,1.10wt%,1.49wt%添加した,添加物濃度が異なる4種の電極におい

て電極現象を観察した.

(a) 電極消耗速度

Fig. 4.10にNd2O3の添加濃度と電極消耗速度の関係を示す.全体の電極消耗速度は5分間

の放電を行い,放電前後の電極の質量差から算出した.放電相数12相,電流値100 A,電

極間距離100 mm,アルゴンシールドガス流量2 L/minとし,電極にはすべてφ6.0 mm電極

を用いた.結果,全体の消耗速度に大きな違いはなかったが,液滴飛散による消耗速度に 着目すると,添加濃度1.49wt%の電極は添加濃度0.60wt%の電極の約1/2程の消耗速度を示 し,添加濃度を増加させることで液滴飛散量の低減化に成功した.

(b) 電極温度

Figs. 4.11〜14にNd2O3を0.60wt%,1.05wt%,1.10wt%,1.49wt%添加した電極の交流1周 期中の溶融部挙動と二次元電極温度分布を示す.撮影タイミングはFigs. 4.11〜14 (c) の電 流波形と同期している.いずれの電極においても,電極先端はタングステンの融点以上と なり,先端が溶融した.また,Fig. 4.15に各添加酸化物濃度における交流1周期中の電極先 端温度の時間変動を示す.測定された電極先端温度は 3 周期分以上の平均値である.いず れの電極においても交流周期中の電流値の上昇に伴って電極温度が上昇しており,交流周 期由来の電極温度の変動が見られた.また,それぞれの電極における温度を比較すると,

添加濃度による電極温度の差はほぼなかった.

Fig. 4.16に各添加酸化物濃度における陰極時の一次元電極温度分布を示す.また,Fig. 4.16

中の点は高速度カメラにより観測した液相と固相の境界の位置と,そこでの電極温度をプ ロット(0.60wt%添加:○,1.05wt%添加:□,1.10wt%添加:◇,1.49wt%添加:△)してい る.多相交流アークにおいては異なる添加酸化物濃度の電極においても陰極時の電極温度 に大きな違いは見受けられなかった.これは,多相交流アーク電極においては,主に熱電 子を放出するのは溶融部の主要成分であるタングステンであり,実質仕事関数が添加酸化 物濃度に依存しないためである.

ドキュメント内 多相交流アークにおける電極消耗機構の解明 (ページ 153-157)

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