本節では建築外皮に実際に用いられる仕様について述べる。
まず、実際に用いられる材料や外装などについて全調査対象の調査結果を述べる。
次に外皮性能を決定する際に参照した基準や規格および法律などについて、全調査対 象の用いた文献を整理する。
最後に建築外皮性能については各国の中で最も詳細な情報を得られた 1 社ずつを対象 として各社が設定した要求性能値を比較する。
4.3.1実際に用いられる外皮仕様
建築外皮仕様について、代表的な要素として、用いた材料(ガラス及びフレーム)、色
(ガラス及びフレーム)、外皮の形式(全面ガラスもしくは一部にガラスを使用するかな ど)、外装の仕上げを表4.3-1にて示す。本分析では十分な結果が得られたタイ8社、香 港1社、ベトナム5社、シンガポール2社を対象とする。グレーの部分については未回答 であるため、分析対象外とする。
まず各国の傾向について分析を行う。
タイについては、全面ガラスのプロジェクトが多くみられた。また日よけなどの室内環 境に配慮した外装を採用する事例も約半数で見られた。近年では安価であるため中国製 品を採用する事例が増えている。
香港については、全面ガラスであり、ガラスの種類を使い分けていた。
ベトナムについては、全面ガラスよりも一部にガラスを用いる事例が多く、また外装に 日よけやルーバーなどを用いていることが分かった。全面ガラスは室内が暑くなり、エネ ルギ消費効率を考慮すると一部にガラスを用いる方が良いという声も聞かれた。
シンガポールについても、外装に日よけを用いる例などもあった。
全体を通してわかることとしては、すべての国で Low-E ガラスを用いる事例が多いた め、アジア蒸暑地域においてグリーン建材の普及が進んでいることがわかる。フレーム材 料についてはアルミニウムを用いることが多い。またガラスの色に関しては環境的側面 よりも意匠的側面から選定されることが分かった。
4章 アジア蒸暑地域における建築外皮仕様決定の実態
97
JPHK
ABCDEFGHIJ
職種製造製造
ガラス材料合わせガラス複層ガラスLow-E反射ガラス Low-E合わせ
複層ガラス Low-eガラス合わせガラスLow-eガラス 外)DGU
内)強化、Low-e、
倍強化ガラス
フレーム材料アルミニウムアルミニウムアルミニウムアルミニウムアルミニウムアルミニウムアルミニウム
ガラス色ClearGray GreenBlue GrayCleargreen solid
aluminum tinted greenblueブルー系
フレーム色dark graygraynaturalnaturalgrayグレー
外皮の形式全面ガラス窓全面ガラス全面ガラス全面ガラス窓全面ガラス全面ガラス
外装 shading, double
skin system, IGU unitized
curtain wall shading/
ダブルスキン ブラインド垂直フィン
KLMNOPQRS
職種F設計F施工製造施工
ガラス材料Low-eガラス合わせガラス強化ガラスLow-eガラスLow-eガラス 合わせ、
Low-eガラス 強化、合わせ、
Low-eガラス ー
フレーム材料アルミニウムアルミニウムアルミニウムアルミニウムアルミニウムアルミニウムアルミニウムー
ガラス色bluetransparentlight greenlight blueガーディアンNeutralTransparent, grayー
フレーム色graywhitewood opticgraygraygrayBeigeー
外皮の形式一部にガラス窓全面ガラス一部にガラス全面ガラス全面ガラス一部にガラスー
外装shading air flow window
system shading shading, louver, airflow window
system louver shading,louver なしー TH
設計F施工建築施工
VNSG
設計設計 表4.3-1実際の建物外皮仕様
4章 アジア蒸暑地域における建築外皮仕様決定の実態
また、各プロジェクトにおいて使用されたガラスの供給国を表4.3-2にて整理する。グ レー部分は未回答である。
使用ガラスの供給国は十分な回答が得られた企業 9 社中7 社において自地域内におけ る製品を使用していた。特にタイ、ベトナム、シンガポールでは自地域内における工場へ 製造を依頼することが多いといえる。
従って建築外皮性能担保には、地域内における外皮に用いる製品の品質保証が保たれ ているかどうかが重要である。
表4.3-2 使用ガラスの供給国
タイ 香港
地元 日系 日系
B C D E F G H I J
職種 設計 F施工 建築施工 製造
ガラス
材料 合わせ 複層 Low-E
反射
Low-E 合わせ複
層
Low-e 合わせ Low-e
強化、
Low-e、
倍強化 ガラス
供給国 TH, CN TH, JP CN
ベトナム シンガポール
地元 日系 地元
K L M N O P Q R S
職種 設計 F設計 F施工 製造 設計 施工
ガラス
材料 Low-e 合わせ 強化 Low-e Low-e 合わせ、
Low-e
強化、合 わせ、
Low-e
ガラス
供給国 VN VN VN CN SG SG
4章 アジア蒸暑地域における建築外皮仕様決定の実態
99
4.3.2外皮性能決定時に参照した基準等
建物外皮性能(ガラス:日射熱取得率など、全体:気密性能など)を決定するときにつ いて、決定する際には参考となる文献から値を決定することが多い。そのため、参照する 文献が定める性能レベルによって、建築外皮性能にばらつきがあるのではないかと考え られる。
そこで本節では参照した基準や規格を調査し、各文献の性能レベルと合わせて分析を 行う。本分析では十分な結果が得られたタイ6社、香港1社、ベトナム5社、シンガポー ル2社を対象とする。グレーの部分については未回答であるため、分析対象外とする。各 プロジェクトにおいて性能決定時に参照した基準や規格について表4.3.2にて示す。
基準や規格についてはヒアリング時には自由回答としており、選択肢は設けずに調査 を行った。表4.3-3に示す基準や規格は、3章にて調査を行った文献に加え、ヒアリング にて収集した文献を選定した。
まず各国が参照する基準や規格の特徴について整理する。
タイ・香港・シンガポールについては自国の基準だけでなく、先進国である日本・アメ リカ・イギリス・オーストラリア・中国などの規格を用いて性能を決定していることが分 かった。
ヒアリング調査によると自地域の基準・規格では定義されていない事項も多くあるた め、足りない内容を補うために他地域の規格等を用いているとのことであった。
さらにタイでは自地域のレベルよりも他地域の基準(先進国の基準)の方が高い基準を 設けているため、建築の性能をさらに高めるために他地域の基準を参照することもある との意見も聞くことができた。
ベトナムについては主に自国の基準を参照することが多く、先進国の規格を用いる事 例は1事例のみと少数であった。特に2社では、法律として扱われるQCVNの参照のみに とどまり、性能が十分であるのか疑念が残る。
またタイにおいては、国内の高層建築の建設初期にアメリカ人設計者が多く携わった ことや、多くのタイ人がヨーロッパよりもアメリカで教育を受けているためアメリカの 基準を使用することが多いとの声が聞かれた。
シンガポールにおいては、Singapore StandardはBSを基に作成されており、ヨーロッ パの基準を参照することも多く、イギリス統治時代があったことが影響している可能性 が考えられる。
4章 アジア蒸暑地域における建築外皮仕様決定の実態
表4.3-3 性能決定時に参照する基準
J
P TH H
K VN SG
日
系 地元 日系 日
系 地元 日
系 地元 A B C D E F G H I J K L M N O P Q R S
規 格
現 地 調 査 国
JIS ○ ○
TIS
TCVN ○ ○
SS ○ ○
現 地 未 調 査 国
JGJ ○
ASTM ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
AAMA ○ ○ ○ ○ ○
BS ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
EN ○ ○
AS/NZ ○ ○ ○ ○ ○
法 規
現 地 調 査 国
タイ法規 ○
QCVN ○ ○ ○ ○ ○
シンガポール 法規
香港BD ○
環 境 認 証 制 度
現 地 調 査 国
TREES LOTUS BEAM Green Mark 現
地 未 調 査 国
LEED ○ ○
BREEAM そ
の 他
CSI ○
4章 アジア蒸暑地域における建築外皮仕様決定の実態
101
次に3章にて調査を行った各文献が定める性能項目と合わせて分析を行う。
本分析では外皮性能(気密性能、水密性能、耐風圧性能、断熱性能)とガラス性能(日射熱 取得率、遮蔽係数、熱貫流率、可視光透過率、反射率)の9項目について、各文献にて記述が ある場合に各項目1点とし、点数を加算することとする。
(例)日本の規格JIS:すべての性能について記述があり → 外皮 4点、ガラス 5点
それぞれの基準、規格について作成した点数表を表4.4-3に示す。
表4.3-4 各文献の点数表
基準名
外皮性能項目 ガラス性能項目
合 耐風 計
圧 水密 気密 断熱 合計 SH
GC SC U値 VLT 反射
率 合計
対 象 国
JIS 1 1 1 1 4 1 1 1 1 1 5 9
TIS 1 1 1 0 3 0 0 0 0 0 0 3
TCVN 1 1 1 0 3 1 0 0 0 0 1 4
SS 1 1 1 1 4 0 1 0 0 0 1 5
未 対 象 国
JGJ 1 1 1 1 4 0 4
ASTM 1 1 1 1 4 1 1 1 1 1 5 9
BS 1 1 1 1 4 1 1 1 1 1 5 9
AS/NZ 1 1 1 1 4 1 0 1 0 2 6
対 象 国 法 規
タイ法規
(BCA、建築規 制法に基づく省
令)
0 0 0 0 0 0 0 0 0 1 1 1
QCVN 0 0 0 0 0 1 0 1 1 0 3 3
香港BD(建築
条例、Codes and design manuals)
1 1 1 3 1 1 1 1 1 5 8
環 境 認 証 制 度
TREES 0 1 0 0 1 0 0 0 0 1 1 2
LOTUS 0 0 1 1 2 1 - 1 1 0 3 5
BEAM 0 0 1 1 2 1 1 0 1 1 4 6
Green Mark 0 0 1 0 1 0 1 1 0 0 2 3
LEED 0 0 1 0 1 0 0 0 0 1 1 2
BREEAM 0 0 1 1 2 0 0 0 0 1 1 3
4章 アジア蒸暑地域における建築外皮仕様決定の実態
ここで表 4.3-4 から各調査対象企業が参照した文献と、表4.3-3 から各文献の点数表より、
図 4.3-1 にて各プロジェクトが参照した文献がすべての性能を網羅しているのか示す。各項目
については、自国の基準により外皮の基準が定められる場合はその項目数を青により、ガラスの 基準が定められる場合は水色により示す。他国の基準により外皮の基準が定められる場合はそ の項目数を緑により、ガラスの基準が定められる場合は黄緑により示す。図 4.3-1 より各国の特 徴について整理する。
タイのプロジェクト(B~G)については自国の基準を参照することは少なく、ほとんどの性能に ついて他国の基準を参照していることがわかる。
香港のプロジェクト(J)については、自国の基準でほぼ網羅することができるが、足りない項目 を他国の基準により補っているといえる。
ベトナムのプロジェクト(K~O)については、5 社中 4 社で自国の基準のみしか参照していな いため性能項目数が不足していることがわかる。特にK社およびO社では、QCVNのみの参照 であるため、外皮性能については基準の参照ができておらず、ガラスの性能についても遮蔽係 数と反射率の参照もできていないといえる。またTCVNの参照も行っている L社およびM社に ついても、外皮性能についても断熱性能の言及がないため、参照する値がないといえる。
シンガポールのプロジェクト(Q、R)については自国の基準により外皮性能やガラスの遮蔽係 数については参照しつつ、不足しているその他のガラスの性能項目について他国の基準を参 照しながら定義していることが分かった。
図4.3-1 各基準が網羅する外皮性能項目数