• 検索結果がありません。

実測データに基づくダイバーシチ効果の評価と考察

第 8 章 地上デジタル放送の移動体受信における電波信号処理型最大比合成

8.4 実測データに基づくダイバーシチ効果の評価と考察

て,周波数領域での1シンボル分のブロックデータを作成する.このブロックデータのIFFT 処理を行うと,得られる信号は,入力信号と同じLow IF信号,すなわち,実数領域の信号 になる.なお,コピーする代わりに負の周波数成分を0とおき,このブロックデータのIFFT 処理を行い,その実数成分を使用することでも,目的とする信号が得られる.この説明か ら分かるように,入出力信号形式が複素数信号であるか,実数信号であるかを除き,信号 処理そのものはベースバンド信号処理も電波信号処理も,本質的に同じである.

本論文では,受信信号の特性を評価するのに,ベースバンドの信号処理の節で述べたと おり,市販チューナによる復調とCNR表示を利用するため,この信号を高周波信号にアッ プコンバートしてテレビチューナに入力する.Low IF段階で取り入れた信号の最大比合成 処理を,ベースバンドへ変換して行うという手間を省いたことが特徴になる.

図8.8:電波信号処理による帯域分割型最大比合成ダイバーシチの信号処理

同じ性能になるはずである.そこで,ベースバンド信号処理による合成結果を示した後に,

電波信号処理における結果を示し,両者が性能的に同一であることを確認する.なお,受 信品質は一般民生用チューナに具備されているCNR出力値を用いるが,パソコンへの自動 読取りができないため,CNR表示のある出力映像をいったんDVDに記録し,これをコマ 送り機能を用いて3秒ごとに人が読み取る方法をとっている.表示されるCNR値は,全帯 域について 1 秒程度の積分値であり,整数値で表示されるので,種々の方式で同時刻の性 能を比較する際には3秒以内の時間ずれが生じている.このことによるCNR値の変化はた かだか1[dB]であることを確認している.

図8.9は,アンテナ1とアンテナ2の2ブランチ合成ダイバーシチを,帯域分割数(グ ループ数M)をパラメータに帯域分割型最大比合成を行った結果のCNR分布のメジアン値

(累積確率0.5)に対して,アンテナ2を基準としたCNR増加量をグループ数に対して示 している.分割グループ数1とは最大比合成のみ適用した2ブランチダイバーシチである.

図より,グループ数20から100付近で改善の最適値があることが分かる.グループ数が小 さいと,遅延が大きい環境における周波数選択性フェージング改善の感度が鈍ること,グ ループ数が大きくなると周波数特性変化に対する感度が上がるものの,相関行列を得るた めのメンバ数が少なくなり,相関行列が安定しなくなり,このことが劣化要因となる.こ のケースでは,信号帯域幅にあるFFT出力ポイントは約6,400であるが,M=100では,メ ンバ数64,M=800では8個である.図では,20分割に最良点が認められるが,実際には,

より,厳しい遅延広がりがあることを想定して,100分割(帯域幅∆B=56[kHz],対域内ポ イント数 64)を以下の解析では採用する.なお,ここで示したデータは,送信局(東京タ ワー)から20~30[km]西方にある市街地及び郊外地の平均的な環境での一例であり,最適 分割数に関する一般的な議論には,より広範な環境でのデータによる評価が必要である.

図 8.10は,4本の素子アンテナごとの CNRの累積分布,及び 2 ブランチ合成(A1 と A2の合成)と4ブランチ合成(A1~A4の合成)のそれぞれのCNRの累積分布を,ベー スバンド信号処理で行った結果について示している.図より,各ブランチのCNRには若干 のばらつきがあるが,最もCNRの低いブランチ(ブランチ2)を比較基準にして,累積確 率の50%値で,2ブランチ合成で4.5[dB],4ブランチ合成で 7.3[dB]の効果が得られてい ることが分かる.地上デジタル放送はその信号形式から,CNRが20[dB]以上でほぼ正常受 信(=乱れのない映像)になることが知られており,本出力信号の復調後の映像評価でもそ れを確認している.同図より,東京タワーから20[km]付近にある調布市界隈では,移動受 信においては高品質映像(12セグメントのハイビジョン映像)は,単一アンテナでは20%

程度のエリアでしか可能でないが,2素子のダイバーシチを行えば,そのエリアが40%に,

また,4 素子のダイバーシチを行えば 50%程度まで広げられることが分かる.尚,単一ブ ランチ・ダイバーシチ適用後の累積分布のグラフの傾きがほぼ同一となっているが,実際 のフィールド環境で収録したデータを用いているため,受信電力の変動が著しいこと,例 リーフェージング環境が一定ではないことが要因として挙げられる.

図8.11は,ベースバンド信号処理と電波信号処理(Low IF対信号のままの処理)で行っ た2ブランチ合成(A1とA2の合成)と4ブランチ合成(A1~A4の合成)のそれぞれの CNRの累積分布を比較して示している.同図より,両者が極めてよく一致しており,電波 信号処理の原理的妥当性が確認できたといえる.なお,完全に一致せず,最大1[dB]程度の 差が見られるのは,前述のとおり,二つの出力信号のCNRの読取りの同時性に3秒以内の 誤差を有するためである.

本論文では,ベースバンド信号に対する信号処理と電波信号処理を比較して示し,性能 には同等であることを述べた.両方式の比較においては,一方に優位性や実用性があると いう二者択一的なものではなく,例えば,Low IF信号でDA変換された信号(あるいはそ のようにして蓄えられた信号)に対しては,そのままの信号が使える電波信号処理が有効 であり,ベースバンド信号が入力信号にとなるシステムでは,当然ベースバンド信号処理 で何も問題はない.夫々の信号形式に適した効率的な信号処理があることを示したもので あり,IF 帯のままでも十分な信号処理ができること,すなわち信号処理に対して選択の幅 を広げたことに,本論文の特徴がある.

図8.9:ダイバーシチ効果の帯域分割数依存性

図8.10:各素子のCNR特性とダイバーシチ合成結果

図8.11:二つの信号処理によるダイバーシチ効果の比較