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多目的最適設計問題の場合

多目的最適設計問題におけるシステムの構成要素を図3.8に示す。

図3.8: 多目的におけるシステムの構成要素

多目的最適化問題では,パレート最適解集合を求めて解候補の提示を行い,使用者のニー ズに合わせて解を選択できるようにするのが目標となる。そのため,多目的最適設計には 以下の2つの事が重要となる。

パレート最適解への収束性

パレート最適解への収束性とは,解の最適性に関わるものである。この収束性が弱い と,パレート解が得られても,目的を満たす性能を得ることができないことがある。

解の多様性

解の多様性とは,得られる解の種類の多さである。パレート最適解をバランスよく 得てパレート最適解集合を構成することができれば,使用者のニーズに合わせて解 を提示する事が可能である。

本研究において,解の多様性を向上させるために,混雑距離の概念を導入した。

第3章 システムの構成要素 25 解の多様性維持のための混雑距離の導入

多目的最適化問題を解く際,パレート最適解への収束性と共に,解の多様性を維持する ことが重要な要素となる。そこで本研究では,各パレート解に対して集中度合いを測る指 標として混雑距離を用いた。混雑距離はある個体周辺に存在する個体の密集度を表す値で ある。混雑距離のイメージを図3.9に示す。このように評価値情報の空間において,各点 と隣接する点との距離がその点の混雑距離となっている。

図3.9: 多様性維持における混雑距離のイメージ

この混雑距離をサンプル点の追加時,及び最適化手法として用いた Multi Objective Pariticle Swarm Optimization(MOPSO)においてのパレート解の評価に用いた。

3.2.1 Multi Objective Pariticle Swarm Optimization

APSOは単一目的最適化問題に対する手法であるため,多目的最適化問題に適用するこ とができない。そこで本研究では,Coelloらが提案したMulti Objective Pariticle Swarm

Optimization(MOPSO)に着目し,モータ汎用最適設計システムに適用を行った。

第3章 システムの構成要素 26

MOPSOの基本的な構造はPSOと同様であるが,1探索の過程で得られたパレート解

を保存すること,2gbestは保存されたパレート解から1点選択すること,3pbestは各探 索点が探索した中で全ての目的関数において優れている解,また探索点がパレート解を発 見している場合は新たに見つかったパレート解とすること,という点がPSOと異なる。

Coelloらが提案するMOPSOのgbest選択方法は,探索空間を分割し各空間に存在する

パレート解の数から混雑度を計算,混雑度の小さい空間に存在するパレート解を選択する という方法を用いている。しかしこの方法では,分割の割合や分割の基準を決定すること が非常に困難であることが知られている。そこで本研究では,解の多様性維持のために定 義した混雑距離を用いてgbestを選択した。以下に本研究で用いたMOPSOのアルゴリズ ムを示す。

Multi Objective Particle Swarm Optimization

Step 0:[準備]

Particle数 2≤m ∈R1,Particleのパラメータ0< w ∈R1を設定し,k = 1とす る。また,最大反復回数Tmaxを設定する。

Step 1:[初期化]

各Particleの初期位置x0i と初期速度v0i を実行可能領域内にランダムに与える。更 に,重み係数c11ic12iを0< c11i <3,0< c12i <(3−c11i),i= 1,2,· · · , mに示す領 域内にランダムに設定する。gbest更新回数のカウンターをgi = 0,i= 1,2,· · · , m とする。

pbest0i =x0i, i= 1,2,· · · , m

Step 2:[評価値情報の取得及び混雑距離の計算]

各Particleの評価値を計算し,パレート解を全て保存する。保存したパレート解の

評価値情報において混雑距離を計算する。

Step 3:[gbestの選択]

混雑距離の大きさを用いてルーレット選択を行い,gbestを選択する。ルーレット選 択については,別枠として説明する。

Step 4:[速度と位置の更新]

各Particleの速度viと位置xiを次式で更新する。

vijk+1 =w·vkij +ck1i·rand1ij ·(pbestkij −xkij)

第3章 システムの構成要素 27

+ck2i·rand2ij ·(gbestkj −xkij) xk+1ij =xkij +vijk+1, i= 1,2,· · · , m; j = 1,2,· · · , n Step 5:[終了判定]

k=Tmaxならば終了。さもなければk =k+ 1としてStep 2へ行く。

ルーレット選択

ルーレット選択について説明する。ルーレット選択とは,評価値(混雑距離にお いては大きさ)に比例した割合で選択する方法である。本研究におけるルーレット 選択のアルゴリズムを示す。

Step 1:[準備]

各点の混雑距離をdcとし,各点の混雑距離の合計dsumを求める。

Step 2:[乱数の発生]

選択乱数rsrs =rand×dsum として求める。この時randは0〜1の乱数である。

Step 3:[選択]

各点の混雑距離を加算していき,加算した数がrsより大きくなれば,その時加算し た混雑距離を持つ点を選択する。

3.2.2 サンプル点の配置方法

多目的最適設計問題は,単一目的最適設計問題と異なりパレート解が存在するため,探 索過程で得られた最良解を一意に決定することが困難である。単一目的最適設計問題と多 目的最適設計問題の大きな違いとして,以下のような点が考えられる。

(1) 均一・広範囲なパレート解を求める必要がある。

(2) 最良解が一つでない。

本研究では,コンセプトは単一目的最適設計問題の場合と同様に,1最良解周辺の近似精 度向上のために,良い解周辺にサンプル点を配置,2解空間全体の近似のために,疎な領 域にサンプル点を配置するとし,最良解の選択にMOPSOと同様に「多様性維持における

第3章 システムの構成要素 28

混雑距離」を用いた。以下に具体的なサンプル点の配置方法について述べる。なお,良い 解周辺に配置するサンプル点の数,疎な領域に配置するサンプル点の数,及び良い解周辺 の定義などは単一目的最適設計問題と同様に式(3.16)〜(3.19)を用いるとした。

疎な領域への配置

単一目的最適設計問題と同様にサンプル点の配置を行う。総距離・混雑距離により 疎な領域を判定し,式(3.16)により決定した点数分を配置する。

良い解周辺への配置

良い解の候補をこれまでの探索により得られたパレート解,及び応答曲面上でMOPSO を行い得られた応答曲面上でのパレート解とする。そして,これらの良い解候補の 応答曲面上での評価値を算出し,その評価値において図3.9のように混雑距離を計算 する。求められた混雑距離を用いてルーレット選択により良い解を1点選択し,そ の良い解の周辺に単一目的最適設計問題と同様の式3.18,3.19を用いて良い解周辺 の点を配置する。

4 サーフェスモータの最適 設計

本章では,本研究におけるサーフェスモータの設計方針についての説明を行う。

本研究で最適設計の対象として用いたサーフェスモータについて述べる。そして,

サーフェスモータにおける,単一目的最適設計問題についての設計方針,多目的 最適設計問題についての設計方針について述べる。