GISは地理学の母胎から,情報科学を父として生まれた先端科学であるといわれる(野 上ほか,2001p.129)ように,GISは地理学との結びつきが非常に強い。したがってGIS
と地理教育との間にも強い親和性があると推測される。しかしながら,地理教育のどの部 分にGISが位置づけられるのか,あるいはどのように活用することができるのか,具体 的な研究は多くない。
本章では,地理教育における教育カリキュラムとGISの整合性を検討する。具体的に は地理的技能どGIS技能との整合性を分析したい。まず①学習指導要領を分析し,地理 的技能の重要性が高まっていることを明らかにする。続いて②地理的技能とGIS技能の 整合性にっいて,先行研究を概観した後,③地理的技能およびGIS技能の内容について 考察する。そして④それぞれの技能の要素について整合性の分析をする。
地理的技能とGISの技能との整合性を検討することの意義としては,次のようなこと が考えられる。
地理的技能という言葉は,平成11年度版高等学校学習指導要領(文部省,1999c)で登 場したばかりで量),学校教育ではなじみが薄く,ともすれば技能を「内容知」に還元して 教授してしまいがちである。地理的見方・考え方と地理的技能を区別することや,地理的 技能を体系的に身に付けさせることは,教員には困難を伴うように思われる。ところがGIS で地理情報を処理すれば,地理情報を収集(コンピュータに入力)し,コンピュータで処 理し,その結果を画面上や印刷物として表示させることができる。したがって地理的技能 を「目に見える形で操作」することができる。またコンピュータ操作は段階を追って進行 するので,地理情報処理の一連の流れを「分解」することができる。つまり,地理的技能
を部分に分けて順番に身に付けさせることができる。
まとめてみると,地理的技能とGISを扱う技能とが整合することが明らかとなれば,
地理的技能の視覚化と部分化が可能になることを意味している。またコンピュータを用い ることにより,手作業と比べて試行錯誤もおこないやすいので,地理的技能を身に付けさ せることも容易になると予想できる。
なおここでいうGIS技能とは,GISを扱う技能のことで,具体的には,GISをツールと して地理情報を処理する技能と定義する。
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第1節 地理的技能
(1)高等学校学習指導要領における地理的技能に関する記述
高等学校学習指導要領の地理(地理Aおよび地理B)において,地理的技能がどのよう に記述されているのかを検討する。検討にあたっては,昭和54度版高等学校学習指導要 領解説社会編(文部省,1979 以下,昭和54年度版),平成元年度版高等学校学習指導要 領解説地理歴史編(文部省,1989 以下,平成元年度版),平成11度版高等学校学習指導 要領解説地理歴史編(文部省,1999C以下,平成lI年度版)を用いて,地理的技能に関 する記述を抜き出し,表にまとめた(表3・1)。地理的技能を抜き出すにあたっては,地 理的技能・地域調査・地図・地理情報といった用語をキーワードとした。
昭和54年度版においては,中項目として「地図の利用」,「地域と調査」がみられる。
内容の取り扱いでは,「指導計画の中に野外調査の時間を設けて実施すること」とあり,
野外調査を重視していることが伺える。
平成元年度版になると,地理は地理Aと地理Bに分かれるが,そのどちらにおいても「地 図」と「地域調査jが中項目として取り上げられており,内容的な枠組みは昭和54年度 版と変わっていない。注目されるのは地理Bの中項目において,「地理情報と地図」の項
目がみられることである。「地理情報」の名称が登場することにより,教科書においてGIS の説明が掲載される下地をっくることになったと考えられる。また内容の取り扱いにおい ても,作業的な学習の時間を適切に確保することが求められ,学習指導要領解説における
「指導計画の作成と指導上の配慮事項」においても,作業的,体験的学習についての記述 量が,昭和54年度版と比べて約2倍に増えている。
平成ll年度版では,はじめて地理的技能が大きく取り上げられている。地理Aにおい ては,2つの大項目のうち1っが「(1)現代世界の特色と地理的技能」となり,大項目に 地理的技能の言葉が掲げられた。その内容の取り扱いにおいても「…地理的技能を身に付 けさせる」と述べられている中項目が多く,大項目全体の目標が,地理的技能を習得させ ることにあることを明確にしている。
一方地理Bの中項目においては,r市町村規模の地域調査」,r地図化してとらえる現代 世界の諸課題」などがみられ,技能の内容的な枠組みを踏襲している。特にr地図化して とらえる現代世界の諸課題」では投影法など複雑で高度な内容に深入りせず,地図を有効 に活用できる技能を身に付けることに主眼が置かれている。また地域区分に関する技能が 新しく取り上げられているのも注目される。内容の取り扱いでは,「地理的技能を身に付
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けることできるよう指導するjという記述もみられ,地理Aほどではないが,地理的技能 を身に付けることが強調されている。
なお,平成元年度版地理Bの中項目でみられた地理情報は,平成ll年度版指導要領の 項目からは消えている。しかし地理Aの内容の取り扱いや地理Bの解説では,r地理情報 の収集,選択」,「諸資料の地理情報化」,「地理情報に関心をもたせ」といった表現がみ られる。このことから,地理清報という言葉がすでに定着しているとみなしていると推測 される。また,地理Bの中項目「地図化してとらえる現代世界の諸課題」の解説において,
r例えば衛星画像や空中写真,デジタル地図を活用したり,インターネットや地理情報シ ステム(GIS)などで得られる新しい時代の地理情報に関心をもたせたりするよう工夫す ることが望まれる」とあり,学習指導要領解説において初めてGISという言葉が登場し
ている。
以上のことから,地理的技能という言葉は昭和54年度版・平成元年度版には存在せず,
「地図」や「地域調査」といった単元として指導するものとされていた。ところが平成11 年度版では,地理的技能がクローズアップされ,地理Aの大項目に取り上げられるほどに
なっている。また内容の取り扱いから分かるように,様々な作業を通して地理的技能を身 に付けさせるよう指導しようとしていることが分かる。
最後に中学校学習指導要領についても若干触れておきたい。中学校学習指導要領社会の 地理的分野においても,地理的技能が平成10年度版より登場している。またその解説に おいても地理的技能についての説明がなされている。その内容は後述する高等学校学習指 導要領と同じ内容で,中学校,高等学校といった生徒の発達段階を考慮していないという 批判はあるものの(戸井田,1999),中学校・高等学校教育を通して地理的技能を身に付
けさせることを重視していることが分かる。
(2)学習指導要領における地理的技能の内容
さて地理的技能については,平成11年度版では,地理A・地理Bどちらも「内容の取 り扱い」(1)イにおいて,「地理的な見方や考え方及び地図の読図や作図,景観写真の読 み取りなどの地理的技能を身に付けさせることができるよう系統性に留意して計画的に指 導すること。」とある。つまり地理的技能とは,「地図の読図や作図,景観写真の読み取
りなど」のことであると述べている。
さらに平成U年度版の学習指導要領解説では地理的技能について,①地理情報の活用 に関する技能と②地図の活用に関する技能の2っがあげられると指摘し,そして②の技能
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は①の技能に含まれるとしている。①の技能については4つ,②の技能については5つの ポイントに要約をしている(資料3−1)。その上で,「学習をくり返す中で次第に習熟の程 度を高めるかたちで身に付けさせるj点と,「これらの地理的技能は相互補完の関係にあ
る」点を指摘している。
以上のことから学習指導要領において,近年地理的技能が非常に重要視されていること が明らかとなった。地理的技能とは,地理情報の活用に関する技能であり,特に地図の活 用に関する技能が主体であることが分かった。筆者は序章で,GISを「コンピュータ技術 を用いて,地理情報を収集・整理・分析し,その結果を地図によって表現すること」と定 義した。学習指導要領における地理的技能とGISの定義とを比べると,「コンピュータ技 術」といった言葉を除くと,両者は非常に近い関係にあるように思われる。
ところで平成11年度版において,地理的技能を強調したことは,十分評価できるもの の,学習指導における地理的技能の記述の不十分さも指摘できる。例えば技能の詳細が述 べられず,断片的な紹介にとどまっており,体系化が図られていないことなどがあげられ
よう。
(3〉地理的技能についての先行研究
前項では学習指導要領における地理的技能の記述について,検討をおこなった。その結 果,地理的技能の説明が不十分であることを指摘した。そこで本項では地理的技能につい ての先行研究の議論を整理する。
地理的技能についての議論は,①地理的技能の内容構成,②地理的技能の構造化,③地 理的技能と地理的見方・考え方,④地理的技能と公民的資質,⑤地理的技能のシークエン スの5つの論点にまとめることができる(吉田,2003)。本項ではこのうち①地理的技能 の内容構成に焦点をあてて検討する。
先行研究では,地理的技能の内容をどのようにとらえるかについて,大きく①地図に関 する技能,②地理情報の処理に関する技能,③地理的な問題解決・価値判断の技能の3つ に分けることができる(図3−1)。
a.地図に関する技能
西脇(1993)は地理的技能にっいてこれまでr読図を典型とした地理学固有の技能を指 す」狭い意味で用いられてきたことを指摘した。このことから西脇(1993)以前には,地 図に関する技能だけを地理的技能とみなす考え方があったことを示唆している。例えば田 中(1978)は,地図作製や統計のグラフ化などの作業学習などの技術的な技能を中心的に
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