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同相写像

ドキュメント内 2000年度『数学展望 I』講義録 (ページ 39-45)

第2章  Brouwer の不動点定理

C. 同相写像

D 1

1

図 B.7:

さて,A 地点を出発する瞬間の棒の傾きに対応するDの点をP と,またB 地点に到着した瞬間の棒の傾きに対応する D の点をQ とする.Qは初期条件 P により完全に決定されるから,P の関数と考えられる.すなわち,Q=ϕ(P) とすることにより,写像ϕ:D→Dが 定義される.この写像は連続である.し かもバスがA地点を出発する際に棒を倒しておけば,棒はそのまま動かず倒れた ままであると仮定していたから,すべてのP ∈∂D に対しϕ(P) =P が成り立 つ.したがって系 2.9より ϕが全射であることが保証される.とくにϕ(P)が 円板 Dの中心となるような P が存在する.そしてこのP に対応した仕方で最 初棒を傾けておけば,到着時には棒が直立していることが従う.

C 同相写像

X を平面内の図形,すなわちR2 の部分集合としたとき,もしX からそれ自身 への任意の連続写像が不動点を有するならば,Xに対して不動点定理が成り立つ と言うことにしましょう.定理2.3によれば,単位円板 Dに対し不動点定理が 成り立ちます.しかし,平面内のどんな図形に対しても不動点定理が成り立つわ けではありません.例えば,円環領域 A={(x, y)R2 : 1≤x2+y2 4} を考えてみて下さい.それを平面内に図示すると図 C.1 のようになります.

例えばこの円板を原点を中心として90だけ回転させる写像を考えましょう.少

x y

O

1 2

図C.1: 円環領域A: 1≤x2+y2 4

なくとも直感的にはこの写像が連続であることは明らかだと思います.一方,こ

の写像が不動点を持たないこともただちに分かります.したがってこの図形Aに 対しては不動点定理が成り立ちません.この例が示すように,どんな図形に対し ても不動点定理が成り立つわけではないことに注意しましょう.

それでは,平面内の正3角形の周および内部 ∆はどうでしょう.実は∆に対 しては不動点定理が成り立ちます.実際,このことは Brouwer の不動点定理,

すなわち円板Dに対し不動点定理が成り立つことから従います.しかしそれを説 明するためには以下に述べる逆写像および同相写像の概念が必要です.

図 C.2: 正 3角形の周および内部 ∆

いま写像

ϕ:X→Y

がとくに全単射であると仮定します.すると各y∈Y に対し,ϕ(x) =yとなる x∈Xが一意的に存在します.そこで,各y∈Y に対しこの条件ϕ(x) =yを 満たすx を対応させることにより,Y からX への写像が定義されます.その写 像を ϕの逆写像といい記号 ϕ1 で表します:

ϕ1:Y →X.

逆写像もまた全単射になることを注意しましょう.例えば,関数f : [0,)R

f(x) = x2 で定義すれば,これは明らかに全単射です.そしてその逆写像

(あるいは逆関数)が f1(x) =

x であることも直ちに分かるはずです.

X Y

ϕ ϕ1 x

y

図 C.3: 逆写像

さて次は同相写像の定義です.

C. 同相写像 35

定義 2.10. −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

X, Y を R2 の部分集合とする.X から Y の上への全単射であって,それ自身 およびその逆写像が連続であるものを,X から Y の上への同相写像と呼ぶ.ま た,もしX から Y の上への同相写像が存在するならば,XY とは 同相で あると言われる.

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

平面内のふたつの図形が仮にゴム幕のような伸縮自在な物質で出来ているとし たとき,一方の図形を破くことなく変形して他方の形に出来ることだというの が,同相であることの直感的な理解の仕方です.このゴム膜を用いた直感的な 理解の仕方に基づけば,例えば円板 D と楕円 x2+ 4y2 = 1 の周および内部 E ={(x, y)R2 :x2+ 4y21}が同相であることが分かります. また円板

図 C.4:

円板と楕円(の周および内部)は同相である.

D と正3角形∆が同相であることを見るのも決して難しくないと思います.

同相性に関する簡単な問題をひとつ出しましょう.

問題 2.11. −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

次の平面図形(だたしそれらは幅を持たない「曲線」であると見なす)を同相な ものに分類せよ.

A B C D E F G H I J K L M N O P Q R S T U V W X Y Z

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

解答. 以下の9 種類に分類される:

第 1 種: A R

第 2 種: B

第 3 種: C G I J L M N S U V W Z

第 4 種: D O

第 5 種: E F T Y

第 6 種: H K

第 7 種: P

第 8 種: Q

第 9 種: X

実は,平面内の図形に対し不動点定理が成り立つかどうかは,「同相である」と いう関係により遺伝します.すなわち,次が成り立ちます.

命題 2.12. ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||

平面内に互いに同相なふたつの図形が与えられたとする.もし一方に対し不動点 定理が成り立つならば他方に対してもまた必ず不動点定理が成り立つ.

||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||

証明には合成写像の概念が必要です.まずそれについて説明しましょう.いま,

ϕを集合Xから 集合Y への写像と,またψを集合Y から集合Z への写像と します:

ϕ:X→Y, ψ:Y →Z.

このとき,各 x X に対しその ϕ による像 y = ϕ(x) は集合 Y の要素で す.したがって,さらにそれに写像 ψ を適用することにより,集合 Z の要素 ψ(y) =ψ(ϕ(x))が決まります.元の x∈X によりこの ψ(ϕ(x))を対応させ ることにより,集合 Xから集合 Z への写像が決まります.それを写像ϕ,ψの 合成と呼び,記号 ψ◦ϕで表します:

ψ◦ϕ:X→Z.

例えば,f, g :RR をそれぞれ f(x) = sinx,g(x) =ex で定義したとき,

それらの合成写像は (g◦f)(x) =esinx, (f◦g)(x) = sinex となります.

命題 2.12 の証明. X, Y を R2 の同相な部分集合とする.定義により,同相 写像 H :X Y が存在する.さらに X に対し不動点定理が成り立つと仮

C. 同相写像 37

X Y Z

ϕ ψ

ψϕ

x

y=ϕ(x)

ψ(y) =ψ(ϕ(x))

図 C.5: 合成写像

定する.示すべきは,Y に対しても不動点定理が成り立つことである.そこで ψY からそれ自身への任意の連続写像とする.すると,ϕ=H1◦ψ◦HX からそれ自身への連続写像となる.15 X は不動点定理を満たすと仮定し

X −−−→ϕ X

H



H Y −−−→ψ Y

ているから,ϕ(P) =P なる点 P ∈X が存在せねばならない.このとき,

Y の点Q=H(P)に対し ψ(Q) =Qが成り立つことがただちに分かる.よっ て Y の連続写像ψ は不動点を有することが分かった.

すでに述べた通り,正3 角形の周および内部 ∆と円板D は同相です.した がって,Brouwer の不動点定理 2.3を証明するためには次の定理を証明できれ ば十分な訳です.

定理 2.13. ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||

∆ からそれ自身への連続写像は必ず不動点を有する.

||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||

さらにこの定理の言い換えを行いたいと思います.いまV を∆上のベクトル場 としましょう.さらにV は∆の周∂∆上にゼロ点を持たないと仮定します.この とき,周上の各点P ∈∂∆に対し十分小さな >0 をとるとP+V(P)∆ が成り立つとき,V は ∆の周上内向きであると言うことにします(図 C.6).

このとき,定理2.13の証明は次の定理の証明に帰着されます.

15一般に,X,Y,Z R2 の部分集合,φ:XY,ψ:Y Zを連続写像としたとき,そ れらの合成写像ψφ:X Z も再び連続写像となります(この証明は各自で行って下さい).こ のことから,上の写像H1ψH が連続であることが従います.

(a) (b) (c)

図 C.6: ∆上のベクトル場の内向き・外向き

(a)内向き.(b)ベクトルの向きが周の向きと一致する場合にも内向きで あることに注意されたい.(c)外向き.

定理 2.14. ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||

V が ∆上の連続ベクトル場で,しかも∆の周上ゼロ点を持たずかつ内向きで あるならば,V は少なくともひとつゼロ点を有する.

||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||

ところで,この定理と以前証明した系2.6との類似性に気付かれたでしょうか.

「定理 2.14 = 定理 2.13」の証明. ϕ: ∆ ∆ を任意の連続写像とする.

∆の各点 P において,

V(P) =ϕ(P)−P

とすれば,V は ∆上の連続ベクトル場である. しかも,P がとくに周∂∆

P

ϕ(P) V(P)

図 C.7:

の点であるときには V(P) が内向きであることも明らかである.したがって,

V がゼロ点 P ∆を有することが定理 2.14 より従う.ところが,この点 Pϕの不動点であること,すなわちϕ(P) =P が成り立つことはV の定義か らこれまた明らかである.

ドキュメント内 2000年度『数学展望 I』講義録 (ページ 39-45)

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