第2章 Brouwer の不動点定理
D. ベクトル場のゼロ点の存在
せん.それを見るためには,たとえば xn=n により定義される数列{xn} を 考えれば十分です.この数列は,もちろん xn ∈ [0,∞) (n= 0,1,· · ·) を満 たします.一方,数列 {xn} は n→ ∞のとき +∞ に発散します.したがっ て,その任意の部分列もまた発散します.このように,{xn}は収束部分列を持 ちませんから,区間 [0,∞) はコンパクトでないことになります.また,区間 (0,1]もコンパクトではありません.なぜならば,たとえばその中の数列として,
xn= 1/nなる数列 {xn}をとると,この数列自身,したがってまたその任意の 部分列もゼロに収束しますが,0は区間(0,1]に入っていないからです.
これらが,コンパクトでない集合の初等的な例です.それでは,コンパクト集 合の例としては,どのようなものがあるでしょう. それに答えるためにはまた定
d
c
a b
y
x O
図 D.1: 長方形[a, b]×[c, d]
義を行う必要があります.いま,a,b,c,dを,a≤b,c≤dを満たす実数とし たとき,
[a, b]×[c, d] ={P = (x, y)∈R2 :a≤x≤b, c≤y ≤d}
を平面内の4 本の直線x=a,x=b,y=c,y=dで囲まれる長方形(の周お よび内部)とします.(図 D.1).
定義 2.16. −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
R2 の部分集合X に対し,もしX を含むような長方形が存在する,すなわち,
X⊂[a, b]×[c, d]
なる a, b, c, d(ただし a≤b, c≤d)が存在するならば,X は有界であると 言われる.
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
少々乱暴な言い方をするならば,有界集合とは平面の中での「広がり具合」が有限 のものを言います.たとえば,R2の開円板D(P◦ ;r) ={Q∈R2 :|Q−P|< r}, および閉円板 D(P;r) ={Q∈R2:|Q−P|< r} がともに有界であることが
D. ベクトル場のゼロ点の存在 41
y
x O
P r
(a)D(P;r)
y
x O
P r
(b)D(P;◦ r)
y
x O
1
(c){(x, y)∈R2: 0≤x≤1}
図D.2: 有界・非有界な集合の例
(a), (b)平面内の円板はそれが開であるか閉であるかによらず有界である.(c)ところが
一方,領域{(x, y)∈R2: 0≤x≤1}は有界ではない.
容易に判ります.一方,たとえば R2 の部分集合{(x, y)∈R2 : 0≤x≤1}は 有界でないことも明らかだと思います.
定義 2.17. −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
R2 の部分集合X が,以下に述べる条件を満たすとき,X は R2 の閉集合であ ると言う:
{Pn} を X の収束点列としたとき,必ず lim
n→∞Pn∈X が成り立つ.
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
収 束 に 関 し て 閉 じ て い る 集 合 , そ れ が 閉 集 合 で す . 例 え ば ,R2 内 の 閉 円 板 D(P;r) = {Q ∈ R2 : |Q−P| ≤ r} は 閉 集 合 で す が , 開 円 板 D(P;◦ r) ={Q∈R2:|Q−P|< r}はそうではありません.これらの事実の証 明は容易だと思いますので皆さんにお任せしましょう.
さて,コンパクト性の判定条件を述べる準備がようやく整いました.
定理 2.18. ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
平面 R2 の部分集合に対し,それがコンパクトであるための必要十分条件は,そ
れが有界かつ閉であることである.
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この後すぐに実際に経験することと思いますが,コンパクト性に比べて,有界 性および閉であることの判定の方が容易です.この定理の利点はそこにあります.
たとえば,閉円板Dや3角形∆がコンパクトであることがこの定理から直ちに 従います.なお,この証明は §Fで行う予定です.
もうひとつ,定理2.14 の証明には次の組み合わせ論的な補題が重要な役割を 果たします.
補題 2.19 (Sperner の補題). |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
∆ を図のように小さな正3 角形に細分する.しかもこの図に現れる小 3 角形の 各頂点に 3 つのラベル α,β,γ のいずれかひとつが次の規則に従って与えられ ているとする.
規則1:もとの大きな正3角形 ∆の 3頂点 A, B, C にはそれぞれラベ ル α, β, γ が与えられている.
規則 2:小 3 角形の頂点でとくに ∆の辺 AB 上に現れるものに対して は,ラベルα ないしβ が与えられている.また辺BC 上に現れる頂点に はラベルβ ないしγ が,さらに辺 CA上に現れる頂点にはラベル γ な いし α が与えられているとする.16
このとき,この分割に現れる小 3 角形で,3頂点に与えられたラベルが α,β, γ であるものが少なくともひとつ存在する.
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Spernerの補題および定理2.18 を仮定して定理2.14の証明を済ませてしま いましょう.
定理 2.14 の証明. 背理法による.そこで V がゼロ点を持たないと仮定する.
(第1段) ∆の各辺をn等分することにより,∆を小さな正 3角形に分割す る.さらにこの分割に現れる各頂点P に対し,その点におけるV の向きに応じ てα,β,γ いずれかのラベルを次の規則に従って与える:x-軸正の方向とベクト
16規則は,このふたつだけです.したがって,元の大きな3角形ABC の内部に現れる頂点に 対するラベルの与え方は全く自由であることになります.
D. ベクトル場のゼロ点の存在 43
A B
C
α β
γ
α α α α
α
β
β β
β γ
γ γ
図 D.3:
ル V(P)= 0 のなす角度を θ(ただし 0≤θ <2π)としたとき,
0≤θ <2π/3 ならば α, 2π/3≤θ <4π/3 ならば β, 4π/3≤θ <2π ならば γ.
V が ∆の周上内向きであることから,このラベルの与え方がSpernerの補題
O
x α
β
γ
V(P)
図 D.4: ラベルの与え方
この図のような場合,点P に与えられるラベルはαになる.
におけるふたつの規則をともに満たしていることが従う.よって,Spernerの補 題よれば,3頂点に与えられたラベルがα,β,γ であるような小3 角形が存在す る.その小3角形の頂点でとくにラベルαが与えられたものをAnと,ラベルβ が与えられたものをBnと,またラベルγ が与えられたものをCnと呼ぶことに する.
(第2段)狭義単調増加な自然数列{mn} を適当に取り,点列 {An},{Bn}, {Cn} の部分列 {An},{Bn},{Cn} を An=Amn,Bn=Bmn, Cn =Cmn (n= 0,1,· · ·) により定義したとき,これら 3 つの部分列 {Amn}, {Bmn}, {Cnm} のおのおのが ∆内の点に収束することを証明したい.
まず∆が点列コンパクトであったことを思い起こそう.したがって第 1の点 列{An}の部分列で,∆の点Aに収束するものが存在する.それを{An}とし よう:
An→A (n→ ∞).
{An}は {An} の部分列であるから,適当な狭義単調自然数列{kn} を用いて,
An=Akn (n= 0,1,· · ·) と書ける.そこで点列 {Bn} の部分列{Bn} を,
Bn =Bkn (n= 0,1,· · ·)
により定義する.この点列{Bn}も ∆の点列であるから,やはり∆の点B に 収束するような部分列 {Bn} を有する:
Bn→B (n→ ∞).
この部分列 {Bn} は,{kn} の適当な部分列{(n} を用いて,
Bn=Bn (n= 0,1,· · ·) と書ける.そこで点列 {Cn} の部分列{Cn} を,
Cn=Cn (n= 0,1,· · ·)
により定める.これもまた点列コンパクトな集合∆の点列であるから,収束部分 列を有する.それを {Cn} と,またその極限を C としよう:
Cn→C (n→ ∞).
{Cn}の各項は,{(n} の部分列{mn} を用いて Cn=Cmn (n= 0,1,· · ·)
と表される.さて,元々の点列 {An},{Bn} の部分列{An},{Bn} を,
An=Amn, Bn=Bmn (n= 0,1,· · ·)
により定義する.{mn}は{(n}の部分列であり,{(n}は{kn}の部分列であっ たから,{An},{Bn} はそれぞれ点列 {An} ={Akn}, {Bn}={Bn} の部 分列であることに注意しよう.しかも,点列 {An}, {Bn} はそれぞれ∆ 内の 点 A,B に収束することが既に分かっている.したがってまたそれらの部分列 {An},{Bn} も それぞれ点A,B に収束することが保証される:
An→A, Bn→B (n→ ∞).
E. SPERNER の補題の証明 45