第3章 写像度とその応用
C. ベクトル場の回転数
置き換えることが可能です.さらにそのベクトル V(P)/|V(P)|を始点が原点 に一致するように平行移動します.するとその終点は原点を中心とする単位円 S1 ={P ∈R2 :|P|= 1}上の点となります.その点を f(P) と書くことによ り,∂D =S1 からそれ自身への写像f が定義されます.あるいは,手短に言え ば,f は各点P ∈∂D に対し,ベクトル V(P) の「向き」を対応させる写像と 言えるでしょう. もちろん写像 f は連続です.したがってその写像度を考える
V(P)
f(P)
P D
O S1
∂D
| V(P) V(P)|
図 C.1:
ことが可能です.それをベクトル場 V の周 ∂D に沿っての回転数 (winding number)と呼び,記号 wind∂DV ないしwindV で表します:
wind∂DV = windV = degf.
D V
図C.2: 回転数の計算例
D上の連続ベクトル場V の周∂D上での振る舞いが例えばこの図の様な 場合,その回転数はwindV = 2となる.
このとき次の定理が成り立ちます.
定理 3.6. ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
V を円板 D上の連続ベクトル場とする.しかも,V は周 ∂D 上にゼロ点を持
C. ベクトル場の回転数 67
たないと仮定する.このとき,もし
windV = 0
であるならば,V のゼロ点が D の内部に存在しなければならない.
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
図 C.3:
V が∂D上にゼロ点を持たないようなD上の連続ベクトル場とする.も しV の∂Dに沿っての回転数windV がゼロでなければ,V はDの内 部にゼロ点を有する.この図の場合,windV = 1である.
この定理も実は第2章で勉強した系2.6の一般化になっていることに気付かれ たでしょうか.実際,もし D上の連続ベクトル場V がDの周上ゼロ点を持た ずしかも内向きであるならば,degV = 1 が成り立ちます.
定理3.3 の証明は 定理3.6の証明に帰結されます.それを問題として提出し ましょう.解答は,系2.6と極めて似ていますので,第2章の内容を理解してい る人にとっては簡単かと思います.
問題 3.7. −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
定理 3.6 を仮定して定理3.3を証明せよ.
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
解答. 連続写像ϕ:D→Dが,ϕ(∂D)⊂∂D かつdegϕ|∂D= 0 を満たすと する.さらにϕが全射でないと仮定して矛盾を導こう.背理法の仮定から,点Q を D\Imϕ=∅ からとることが出来る.さらに,D 上の連続ベクトル場を
V(P) =Q−ϕ(P), P ∈D
で定義する. このときwindV = degφ= 0が成り立つことが容易に分かる.し たがって定理3.6よりV は Dの内部にゼロ点を持たなければならない.ところ がそれをP ∈Dとすると,ϕ(P) =Qが成り立つ.しかしそもそも Q∈Imϕ であったからこれは矛盾である.
Q
ϕ(P) Imϕ V(P)
図 C.4:
正 3 角形(の周および内部)∆ 上で定義された連続ベクトル場V に対して も,もしそれが ∆の周 ∂∆上にゼロ点を持たなければ,その周に沿っての回転 数 wind∂∆V = windV が定義されます.そのとき,定理3.6が次の定理と同 値であることが,正3角形∆と円板Dが同相であることから直ちに従います.
定理 3.8. ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
∆ 上 の 連 続 ベ ク ト ル 場 V が ∆ の 周 ∂∆ 上 に ゼ ロ 点 を 持 た ず , し か も wind∂∆V = 0 を満たすとする.このとき,V は ∆の内部にゼロ点を持つ.
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この定理は,第2章の定理2.14の一般化になっています.定理2.14は∆の コンパクト性とSperner の補題という組合せ論的な事実を用い証明されました.
定理 3.8 の証明にもやはりSpernerの補題に相当する組合せ論的な事実が必要 となります.次に述べるのがそれです.ただそれを読む前に,どんな組合せ論的 な補題が必要か,各自考えてみることを強くお勧めします.
補題 3.9. ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
1辺の長さが 1の正 3角形 ABC を,1 辺の長さが 1/n の小正3 角形に分割 し,さらに小3角形の各頂点に,ラベルα,β,γ のいずれかを与える(図C.5参 照).このとき,もとの大きな正 3 角形 ABC の周上に現れる(長さ 1/n の)
小辺で,とくにその2 端点に与えられたラベルがα,β であるものを考える.こ れら小辺のうち,もとの大きな3角形ABC の周に反時計回りに向きをいれたと き,両端点に与えられたラベルが α,β の順になっているものの本数をM+ と,
また逆に β,α の順になっているものの本数を M− とする.もし M+−M−= 0
であるならば,この図の中の(辺の長さが1/nの)小正 3角形で,その3つの 頂点に与えられたラベルとして α,β,γ がちょうど1度づつ現れるようなものが 少なくともひとつ存在する.
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C. ベクトル場の回転数 69
A B
C
α β α α α
β β
β β
γ γ
α
α α
β
図 C.5: Sperner の補題の一般化
この図においては,M+= 3,M− = 2である.したがって,補題3.9に よれば,3頂点に与えられたラベルがα,β,γであるような小3角形が存 在するはずである.実際,この図の場合にはそのような小3角形が3つ存 在する.
この補題の証明も是非みなさんに考えて頂きたいと思います.ひとつそのため のヒントを出しましょう.
この分割に現れる小正3 角形で,その3 つの頂点に与えられたラベルとして α,β,γ がちょうど1度づつ現れるようなものを次のような仕方で2種類に分類 します.すなわち,その小正3角形の周を適当な頂点から出発して反時計回りに 1周したとき,3頂点に与えられたラベルが順にα,β,γ であるものを第1+ 種,
逆に γ,β,αであるものを第1−種と呼ぶことにします.さらに,第1+種に属 する小正 3角形の個数をN+,第1− 種に属する小正3角形の個数をN− とし たとき,
N+−N−=M+−M−
が成り立つことを示すのが証明の要点になります.ちなみに,図C.5で与えた例 においては,N+= 2,N−= 1 です.
β α
γ (a)第1+ 種
β α
γ
(b)第1−種
図 C.6: 2種類の小3 角形
補題 3.9 の証明. 小正3 角形のおのおのの周を反時計回りに 1 回転したとき,
端点に与えられたラベルが α,β であるような辺が何本現れるかを数え,次いで それをすべての小正3 角形に関し足しあわせた結果をE としよう.ただし,次 のような仕方で向きと符号を考慮する:ラベル α,β がこの順に現れる辺を+1 本と,逆順で現れるものを−1 本と数える.このE を以下に述べるふた通りの 仕方で計算する.
第1 の計算方法を実行するにあたって,まず次のことに注意しよう.α,β を その頂点に与えられたラベルの一部として持つ小3 角形は,図 C.7に挙げた4 種類に分類される.そのうち最初のふたつは,第1+ 種,第1− 種の小3角形と 呼ばれたものである.残りふたつをそれぞれ,第2 種,第3種の小3 角形と呼 ぶことにする. すると第 1+ 種の小正 3角形1 個から両端点のラベルが α,β
β α
γ (a)第1+種
β α
γ
(b)第1−種
β
α α
(c)第2種
β α
β (d)第3種
図 C.7: 4種類の小3 角形
である辺がちょうど +1本得られる.逆に第1− 種の小正3角形からは −1本 得られる.一方,第 2種の小正3角形からは(+1) + (−1) = 0本の辺が得られ ると勘定する.したがって,第2種の小正3角形はいま行っている数え上げには 影響を与えないわけである.同様な理由で第3種の小正3角形も考える必要がな いことになる.したがって
E =N+−N−
を得る.
一方,両端点のラベルがα,β であるような辺のうち,とくに元の大きな正 3 角形 ∆の内部に現れるものを考えよう.このような辺に対しては,それを1辺 として有する小正3角形がふたつ存在し,しかもおのおのの小正3角形からその 辺に誘導される向きが反対であることより,結局E の数え上げに際しては互いに 打ち消しあう.すなわち,E の計算においては∆の周に現れるものしか影響を 与えない.よって,
E =M+−M−
C. ベクトル場の回転数 71
α β
図 C.8:
が従う.
以上から,
N+−N−=E =M+−M−
を得る.とくに,M+−M−= 0であるならば,N+= 0またはN−= 0でな ければならないことから補題が従う.
定理3.8の証明は,第 2章で Spernerの補題を用いた定理2.14 の証明と極 めて似通っています.下の証明を読む前に各自証明を試みましょう.
さてそれでは定理3.8 の証明を始めましょう.V : ∆→R2 を,境界∂∆上 ゼロ点を持たず,しかも wind∂∆V = 0を満たす連続ベクトル場とします.定 理2.14の証明でやったように,3角形∆の各辺をn等分することにより∆を 小さな3角形に分割します.その小 3角形の辺でしかも元の大きな3角形∆の 周上に現れるものを順にI1, I2,· · · , I3nと呼ぶことにします.いま,点P が辺 Ik (k= 1,2,· · · ,3n)の一方の端から他方の端まで動くとしましょう.ベクトル 場 V は∆の周上ゼロ点を持ちませんでしたから,V(P)= 0,したがって各点 P ∈Ik におけるベクトル場の向きV(P)/|V(P)|が考えられます.そしてそれ は単位円 S1 ={Q∈R2:|Q|= 1} 上の点と考えられます.すなわち,辺 Ik
から単位円 S1 への写像
Ik→S1, P → V(P)
|V(P)|
が得られた訳です.この写像の像は単位円 S1 上の円弧になります.そこでその 中心角を θn,k(ただし0≤θn,k <2π)としましょう.さらに θn,1,· · · , θn,3n
のうち一番大きなものの値を Θnとします:
Θn= max{θn,1,· · · , θn,3n}.11
もちろん,0≤Θn<2π が成り立ちます.nが変化すれば一般にΘnの値も変
11有限個の実数a1,· · ·, amに対し,その最大値を max{a1,· · ·, am} で表します.
化するはずですから,{Θn} は数列と考えられます.そしてその数列に対し次が 成り立ちます.
I1
I2
I3n
Ik
∆
S1 θn,k
P
V(P)/|V(P)|
図 C.9:
補題 3.10. n→ ∞ のとき,Θn はゼロに収束する.
いつもの様にこの補題の証明は次の節まで保留して,12 定理3.8の証明を続け ましょう.以降の議論は背理法によります.そこでV がゼロ点を一切持たないと 仮定します.一方,十分大きな nに対し
Θn< 2π
3 (3.5)
が成り立つことが補題 3.10により保証されます.以下,n はこの条件を満たす ものと仮定します.そして∆の分割に現れる各頂点に定理2.14 の証明と全く同 じ仕方で,ラベルα,β,γ のいずれかを与えます.さらに補題3.9にあるように M+,M− を定めましょう.すなわち,まず元の大きな3角形∆の周上に現れる 小さな辺でその両端点に与えられたラベルがα,β であるものを考え,そのうち∆ の周上を反時計回りに眺めたとき,ラベルがα,βの順で現れるものの本数をM+
と,また逆に β,α の順に現れるものの本数を M− とする訳です.このとき,
wind∂∆V =M+−M− (3.6)
が成り立ちます.点P が∆の周上を反時計回りに1回回転したとき,ベクトル V(P)の向きV(P)/|V(P)|がどれだけ変化するのか,その総量を表すのが回転 数 wind∂∆V でした.一方,点P がとくに分割の頂点上にあるときのベクトル V(P)の向きに関するおおよその情報がその頂点に与えられたラベルから判りま す.実はそれだけから回転数wind∂∆V が完全に再現出来ることを主張するのが
等式 (3.6)です.でも,なぜそんなことが言えるのでしょう.それを説明しなけ
ればなりません.
12申し訳ありませんが,次節はまだ完成していません.