第 6 章 「共創」の理論化の試み
「わっぱの会」と「もやい」は、障害を持つ者や路上生活者の生活を支える「場」や「し くみ」を、制度に先駆けて独自に創り出してきた。ここで「場」と表したものは、「わっぱ の会」の働く場や共同生活の場、「もやい」が定期的に開催している「サロン・ド・カフェ こもれび」や「グリーンネックレス」等のことである。「しくみ」の例としては、「わっぱ の会」の「共働事業所」や「分配金」、「もやい」の「連帯保証人提供事業」等がある。
「わっぱの会」と「もやい」の軌跡には、以下のような共通点が見いだせる。彼らは、
障害者や路上生活者の生活課題に取り組むにあたって、制度の枠内の支援策では十分では ないことを認識し、行政に対し、繰り返し交渉を行ってきている。同時に、行政の対応や 法制度の不備の指摘に収まらず、自らの手で、独自の方法で、生活課題への取り組みとし て必要な「場」や「しくみ」の創出を成し遂げている。こうして創出されたものは、結果 的に、制度の限界を超えた先駆的モデルとして、社会的意義を持つものとなっている。さ らに、もう1つの重要な特徴として、彼らのチャレンジは持続しているということである。
つまり、1つのイベントの達成や講座の開講という種類のものではなく、人々の生活に関わ
り続けている。彼らの創出のプロセスは現在進行形で継続中である。
「わっぱの会」と「もやい」の創始者らは、双方とも、目の前の課題に向き合い続けて きた結果、気が付いたら今現在の位置にたどり着いた、という趣旨の発言をしている88。 つまり、彼らには、活動のスタート時に、自らが取り組む活動がどのような経過をたどる のか、どこに到達するのかについて、明確なプランは存在しなかったということだ。これ は、企業における一般的な事業プロジェクトの進み方や、障害者や路上生活者の支援の一 般的な形態とは異なり、「共創」、すなわち、そこに集う者と「共に創る」ということが前 提の場に特有の事象であるといえよう。
一般的なプロジェクトの場合、目標が先に設定され、それに見合った人員配置が施され る。また、通常の支援領域でも、到達目標や「あるべき姿」に向かって入念にプランを練 り、そのプランに沿って任務が遂行される。いわば、「目的遂行型」の事業展開である。こ れにひきかえ、「わっぱの会」や「もやい」では、「その人ありき」89――その時、その場 に集った「共に生き共に創る」関係に入った人たちを、能力や効率で入れ替えることをし ない――で事業を遂行する、いうなれば「人中心型」である。
では、目の前の課題に向き合い続けてきた結果、気が付いたら、新しい「場」や「しく み」を創り出していた、と実践者たちが自ら表現する活動の展開のプロセスとは、一体ど のようなものだろうか。なぜ、プランや到達目標がなくても、ここまで継続することがで きたのだろうか。本章では、第3,4,5章で行ってきた分析を踏まえて、「共に創る」プロ セスの展開を描き、その特徴を導き出す。
第 6 章 「共創」の理論化の試み 154 第 1 節 「共創」のプロセスの展開と「共創」の特徴
「わっぱの会」と「もやい」の創始者らは、双方とも、活動の開始時点で明確なプラン はなく、目の前の課題に向き合い続けてきた結果、気が付いたら今現在のような多岐にわ たる活動が創られていた、という主旨の発言をしている。このプロジェクトにおけるある 種の唯一の決まりごとは、「その人ありき」ということであり、能力や効率その他の事情で
「共創」から人を排除しないということである。では、この「共創」にみられる力動を理 論化するために、まず、「共創」のプロセスはどのように展開してきたのか、第3章と4章お よび5章までの分析から導き出したことをもとに、プロセスを描くことにしよう。
図1は、「共創」のプロセスの展開を図示したものである。この図の上方に、参考と して、一般的な「目的遂行型」のプロジェクトの進み方を記した90。「共創」をベースに したプロジェクトは、概ね、以下①~⑥のような順番で進む。ここでは便宜上、直線的に 記しているが、実際は紆余曲折をはらみ、メンバーの分裂や再統合が起こったり、新たな 団体が立ち上がるなど、複雑な動きをしている91。
図 1 「共創」のプロセスの展開
第 6 章 「共創」の理論化の試み 155
① 出逢い
障害者や路上生活者など通常の社会生活を送ることが困難な状況にいる人(便宜上、以降、
「当事者」)と、その人と共に生活を創っていこうとする者(便宜上、以降「健常者」)の 出逢い。
例1: 「人として」「仲間として」「対等」「管理する側/される側がない」(わっぱの会)
例2:「個々の実存と出会う」「IとYouの関係」(もやい)
② 関係の深まりと社会構造に対する問題意識の芽生え
お互いが繰り返し顔を合わせたり、会話を重ねたりすることや、共同作業・共同生活を通 して、相手の成育歴や現在の心の居所を知る。「健常者」は、「当事者」の障害や貧困自体 を問題として捉える視点への違和感や抵抗感を覚えはじめる。そして、「健常者」の視点が、
「当事者」を生活困難に陥いらせていく社会構造上の問題へと移る。現代社会は、様々な 事情を抱えた人が、そのまま生きることができない社会である、という認識の確立。
例 1:「これは、障害者への差別・偏見に基づいた、隔離政策ではないか」(わっぱの会 斎藤 第3章1節冒頭、障害者施策の主軸であったコロニー政策に対して)
例 2:「確かに不器用だけど、何も悪いことはしていない。そういう人たちが、道端で、
寝る。そういう世の中はあってはならない。」(もやい、湯浅 第4章1節2項)
③ 「当事者」の事情、「健常者」の事情を含めた付き合い。
程度は個々の関係性によって異なるが、通常の支援の現場では公私混同とされるような付 き合いや、生活事情を含めた付き合いがはじまる。
例1:「たとえば仕事場で公私を混同しちゃあかんとか、私を持ち込むな、みたいな感覚 は全くないですよね……」(わっぱの会、齋藤 第3章第2節)
例2:「近しい人間の1人として…うまくいかなかった時も当事者の人に『まあ、しょう がないよ』と苦笑いして許してもらえるような関係性はあった。」(もやい、冨樫 第 4章1節4項)
④ 当事者性の移行と共通の祈りや願いの誕生
「健常者」は「当事者」が抱える生きることの困難が、「健常者」自身にとってもそのまま 見過ごせないことになっていく。「当事者」の重荷を背負うという行為の主体、または「当 事者」が希望がもてるような社会の創造を願う行為の主体になることにおいて、「当事者」
となっていく。この関係性の中に、「当事者」が希望を持てるような社会、そのままで生き られるような社会の渇望(祈りや願い)が生まれる。
例1:工藤さんのような人が希望がもてるような社会(もやい、稲葉 第5章1節1項)
例2: CさんやCさんの兄のような人たちが、強く自分の生をまっとうして生きること
第 6 章 「共創」の理論化の試み 156 ができる社会 (わっぱの会、筆者、第5章1節4項)
⑤ 社会の壁との直面
「当事者」の生活上の困難や、よりよい生活を求めて動く過程でぶつかる困難に直面。こ の刺激がインプットとなり、⑥の創造へ向かう。
例1: 障害の有る者も無い者も共に働く作業所では生活が成り立たず、「このままでは『共 に働く場』が丸ごと経済的に差別されたままになってしまう」(わっぱの会)
例 2:住民票がないから、お金を稼いでも、施設から出てもアパートに暮らすこともで
きない。一度路上に出てしまったら、ほとんどやり直す手立てがない。(もやい)
⑥ 共生・共働へのアクション
自らが共に願う世界を共に創る主体になる。
例1:「共に働く場」が丸ごと経済的にも差別されたままになってしまう。→事業化の準
備(共に創れる手仕事の開拓、パン屋への弟子入り)→「共働事業所」設立、「わ っぱん」製造・販売開始(わっぱの会)
例 2:住民票がないから、保証人がいないから、路上から抜け出せない→もやい設立→
連帯保証人提供事業開始(もやい)
ここまで、「わっぱの会」と「もやい」の事例を参考に、「共創」のプロセスを記した。
おそらく、「共に創る」という関係性をベースにした場では、おおむね、このようにプロセ スは展開していくと考えられる92。一般的なプロジェクトのプロセスには、あらかじめ設 定された目標や「あるべき姿」が通底音のように流れているのに対して、「共創」のプロセ スでは、関係の継続と共に生きる世界への願いや祈りが通低音として流れている。④の祈 りや願いが生まれて以降のプロセスは、危機(共創の継続)に直面することでアクション
(創造)が生まれ、また危機に直面することで創造が進むというようにループ状に進んで いく。このプロセスの中で、祈りや願い、関係性自体、常に更新されつづけている。
では、次に、「共創」を特徴づける要素をまとめる。内容によっては、支援領域(医療 や福祉)との比較を用いて説明する。さらに、支援と「共創」のパラダイムの違いを示し、
最後に「共創」の観察されうる場所を記述する。
1. 関係性の継続志向
一般的な支援(医療や福祉)領域では、あらかじめ設定された目標や「あるべき姿」が