東京都教育委員会『地域教育連携促進事業』
NPO世田谷まなびばネット(東京都世田谷区)
【コーディネーターのバックグラウンド】
コーディネーターの NPO 世田谷まなびばネットは、世田谷区の教育委員会と 協力し教育関連事業をおこなっている。多くの会員の子どもが現役の小・中学 生だ。また会員のほとんどが PTA 経験者だ。
これまで同 NPO は世田谷区教育委員会の教育ビジョンに沿って地域教育基盤
(プラットホーム)に関する基礎調査をおこなってきた。教育委員会との協働 事業の「学校支援コーディネーターの育成事業」では、コーディネーターの役 割を6点でまとめている。
1、教員へ専門的なサポートをおこなう。2、ニーズに合わせプログラムを提 供する。3、学校外の教育資源・人材を発見して学校に結びつける。4、学校と 外部関係者との窓口となる。5、人や情報のネットワークづくりをおこなう。6、
広い視野・視点で学校教育へ提言をおこなう。このような視点を重視して、本 プロジェクトのコーディネーターをつとめている。
その他に、ソシオエンジン・アソシエイツと協力して job job (生徒が企 画・製作するフリーペーパー)の作成を支援している。
「子どもたちがさまざまな生き方を知って、自己肯定感を持つことがキャリ ア教育なのです」と、前代表の M さんは言う。M さんはそれまで体験型の教育 事業をおこなっており、授業以外のことに感銘を受け前向きに進路を選択する 生徒の姿を沢山見てきた。
ある中学生は地域の高校の文化祭で名物の太鼓の出し物に感動し、「自分も先 輩たちのように真剣に打ち込んでみたい」と同高校へ進学を決意した。M さん は子どもたちには多くの体験の場が必要で、前向きに自分の進路と向き合って 欲しいと願っている。
そして効果的にキャリア教育を実施するためには、子どもに興味のある話を 聞かせ自然にやる気を出すようにすることが大切だ。「身近にいる人から笑顔に していくことで自分もうれしくなる」。そう語ってくれたのは、コーディネータ ーの K さんだ。日常的に子どもと接する保護者として、子どもの興味を把握す ることは重要だ。
【地域資源の発掘・ネットワーク構築】
企業を発掘する際に、企業がキャリア教育に期待することは宣伝効果だ。つ まり事業内容や CSR 活動を PR できることに期待している。また企業は単に知ら
せたいだけでなく、社会に果たすべき責任として教育をしようと考えている。
たとえば、ある環境系の企業の場合、子どもたちが環境問題を知り、学習する ことで将来的に環境問題解決に好影響を与えて欲しいと考えている。
社会人講師の発掘は、まず学校に対しておこなったアンケート調査から学校 の抱えている不安を分析した。その調査はこれまでの社会人講師授業の目的と 既存カリキュラムとのつながりや、外部人材の探し方に関する調査だった。
調査の結果として、1.外部人材の情報がない、2.既存の授業との連携の方法 が分からない、3.計画段階で打診や日程調整が煩雑である、という 3 つの課題 が明らかとなった。そのため、PTA やコーディネーターの情報網を利用し外部 人材の情報を集めることや、コーディネーターが日程調整を担うことで教員の 負担を軽減させた。
ある学校では総合学習のなかで 命 に関する授業をおこないたいというニ ーズがあった。そこでコーディネーターが「 命 に関する話といってもどのよ うな分野の話しを聞かせたいのか」と教員に尋ねた。すると教員は「 福祉の分 野 で 命 の大切さを語って欲しい」とコーディネーターに伝えた。
そこで関連するテーマの著書などをいくつか読み、「いのちの授業」を各地の 学校で講演しているホスピス医を知り、学校へ提案した。ホスピス医は多忙で 時間調整が難しかったが、学校が時間や日程を合わせることで授業を実現する ことができた。
ネットワーク構築に関しては、2007 年(平成 19 年)にHP上でこれまでの 職場体験学習の事例を紹介する「まなびサポートネット」を開設した。これは 区内の教員を対象にして、区内の学校で授業をおこなった社会人講師の話や情 報を掲載している。教員がHPを確認し、まなびばネットに要請すれば社会人 講師との時間調整や謝礼についての連絡をおこなってもらうことができる。
【プログラムの作成】
プログラムの作成に関して、地域で子どもと大人のコミュニケーションを成 り立たせるために社会人講師授業を活用したいと意識して作成した。地域の人 がいきなり子どもに挨拶や礼儀について話をしたところで聞く耳を持たない。
しかし社会人講師授業で大人が自分の生き方を直球な語り口で話すことで、子 どもたちが普段目にしない大人の姿に感銘を受ける。すると子どもが大人の意 見や発言に興味を持つようになり、それがきっかけで子どもと大人のコミュニ ケーションがはじまる。
社会人講師授業は学校・社会人両者のよいところを活かしつつ、計画してい った。ある学校では小学 4、5 年生に、ホスピス医が社会人講師授業をすること があった。教員はホスピス医に「小学 4、5 年生の感動を誘う具体的な体験を話 して欲しい」と期待していたが、講師は「生きるとはなにか」など根源的な問
いを子どもに投げかけたいと考えていた。そこで講師にはこれまでの福祉分野 での学習状況を伝え、具体的な話を随所に組み込んでほしいという学校の要望 を伝えた。これにより体験談や具体的な活動を踏まえて話をしてもらうことが できた。一方で学校では事前に福祉分野の仕事についての学習、事後に感想文 を記入することで、講師のねらいを活かした授業が実施された。
【マネジメント・実施の円滑化】
マネジメントに関して、学校、企業との協力体制をつくる際に困難であった のはそれぞれの常識が互いに理解されないことだ。
たとえば教育関連の企業が提案するプログラムは教える内容が多く、教員の 運営が追いつかない場合があった。そのため打ち合わせをして教員が実施しや すいように時間数を削った。ある学校ではイントロダクションの時間を半分に して教員が実施しやすいようにした。その代わりに、教員がキャリア教育以外 の授業でも職業とのつながりを意識した話ができるように企業と一緒にキャリ ア教育の目的を話し合った。
また教員がレールを引きすぎて子どもたちが自由に活動できないという事例 もあった。その際、教員には「企業や家庭や地域では、初めから完璧な答えを 出すことは不可能だ、また完璧である必要はない」と説得した。
学校とのコミュニケーションに関しては、担当の教員だけではなく管理職の 教諭ともプログラムの目的や内容を話した方がよい。これらを怠らないことで、
学校内でキャリア教育の連絡が密になり、それをきっかけに他の学年へキャリ ア教育が波及した。
実施の円滑化のため、職場体験に関しては、学校との役割分担を明確にした。
職場体験先での子どもたちの礼儀・対応を教えるのは学校の役割だと話をした。
このように役割分担することで教員の責任感が増し、事前に職場体験先に電話 で話をしておく習慣がついた。また学校現場の忙しさや煩雑さを協力企業と事 前に話し合うことで、全ての責任を学校の力不足にすることを防ぎ、円滑な運 営となることを目指した。その他に土曜日の補助教室の円滑な運営のため、地 元の大学生を活用し活動をおこなっている。例えば子どもたちに縄跳びを教え、
子どもたちの居場所づくりに貢献している。
【評価・修正】
評価に関しては、授業ごとの子どもたちの変容をチェックして成果を分かり やすくした。さらに外部評価や情報共有という目的のもと、東京各地域の学校 と学者を呼んで報告会をおこなった。しかし東京ではそれぞれの学校が独自の かたちでキャリア教育を推進している場合が多く、効果がなかなか共有されな かった。
地域教育プラットフォーム構想におけるキャリア教育
NPOスクール・アドバイス・ネットワーク (東京都杉並区)
【コーディネーターのバックグラウンド】
NPO スクール・アドバイス・ネットワーク(以下、S.A.Net)の理事長である I さんのこれまでの道のりは、肩書きは変わっていくものの地域や学校のため に力を注ぐという点では、ずっと変わらない。
きっかけは、自身の子どもが通う杉並区内の中学校の PTA 会長をつとめたこ とだ。その活動は、「少しでも多くの保護者に PTA 活動に興味をもってほしい、
学校に足を運んでほしい」という願いから、教員を交えた学年懇談会や保護者 向けの勉強会をひんぱんに開くことから始まった。研修会の講師は電話でのア プローチにより、有名・著名人を招聘することも多かったという。PTA 会長時 代の I さんのこのパワフルな行動力、踏み出す力が、現在の S.A.Net を支える 原動力にもなっていることは確かである。
この PTA 活動は、徐々に子どもたちの学習を支援するところにまで及ぶ。当 時は学校に総合的な学習の時間が入る前であったが、ある教員が地域での職場 体験を取り入れたいという案を持っていた。普通なら、学年の教員たちが実施 計画を練り地域を回って受け入れを要請し実施に至るところなのだが、ここで I さんたちがその一部の役割をかって出た。
それは、「職場体験の必要性の説明も含めた要請の文書は、学校がつくってく ださい。それを持って私たちが受け入れ先を探してきます」という提案だった。
近くの商店街で子どもたちが体験できそうな職種の店に、「子どもたちの将来に つながる学びのために、ご協力いただけませんか?」とお願いをして回った。
「店内が狭い、忙しいから」という理由で断られた花屋のような例もあったが、
「では、ディスプレイをやってもらいましょう」と自ら案を出してくれたスー パーマーケットのような例もあった。様々な職種の受け入れ先を確保し、当日 の子どもたちの安全対策として保護者が地域に立つ役割も果たした。
そして、PTA 会長を退いた翌年に S.A.Net を立ち上げた。メンバーは区内の 他の学区の PTA 会長たちで、現在も同法人の副理事として中核を担っている。
S.A.Net は、学校・家庭・地域の教育力を再構築するしくみとして、「地域教 育プラットフォーム構想」を掲げている。これは、「先生方から教わること」「地 域の方々から教わったほうが、説得力があるもの」「地域の方からしか教われな いもの」「家庭から教わるもの」が統合されれば、心ゆたかな子どもの育成につ ながるという考えだ。これらをつなげる役目、つなげるためのプランを提供す る役目として、S.A.Net の活動がある。