第 6 章 数値座標変換による 3 次元逆解析
6.5 数値座標変換による 3 次元逆解析計算例
前述のアルゴリズムを用いて、6つの地下構造モデルについて数値実験を行った。各モデ ルの中心断面について、イメージ図とパラメータをFig.6.3に示す。
また、以下の検討では、Fig.6.4に示すA、B、Cの3つを電流電極とした基本送受信セッ トによる基本データセットを用いている。
0 100 m ρ = Ω
0 100 m
ρ = Ω
1 20 m
ρ = Ω ε=4m
5 a= m
15 d = m
0 100 m
ρ = Ω
0 100 m
ρ = Ω
1 20 m
ρ = Ω ρ1=300Ωm
15
d = m d =15m
5
a= m a=5m
ε=4m ε=4m
5
h= m h=5m
5 h= m
0 100 m
ρ = Ω
Model-1 Model-2
Model-3 Model-4
Model-5 Model-6
0 100 m
ρ = Ω
1 20 m
ρ = Ω 5 a= m
ε=4m 25
d = m
Fig.6.3 Models and their parameters used in the inversion numerical test.
-50 0 50 -50
-40 -30 -20 -10 0 10 20 30 40
50 C
A B
X1
X2
Fig.6.4 The birds-eye view of electrode grid system in physical space: triangle markers show the current electrodes chosen for the Basic Set measurements to give surface grid system in the computational space. This current electrode choice is used through all the 6 Models.
Model-1:半無限均質大地モデル
用いたモデルは、比抵抗100Ωmの地表平坦な半無限均質大地モデルである。
-50 -40 -30 -20 -10 0 10 20 30 40 50
-50 -40 -30 -20 -10 0 10 20 30 40 50 -60 -50 -40 -30 -20 -10 0 10
99.8 99.85 99.9 99.95 100 100.05 100.1
Fig.6.5 Inversion result: recovering model, Homogeneous half earth (
ρ
0= 100 Ω m
)適合させる計算空間地表グリッド系座標は、半無限均質大地の理論解を用いて求めた。
グリッド系の規模は
41 × 41 × 25
である。逆解析は、反復回数1回で収束解が得られた。解析結果をFig.6.4に示す。
極めて精度良く均質大地を再現できていることがわかる。生じた誤差は最大でも0.3%程 度であり、地表付近に集中している。これは、初期グリッドの
s
3方向を、地表付近で密と する、非一様な設定としたためである。地表付近のグリッド密度を高くする設定は、とく に起伏地形に対する解析精度の向上に有効となる(汪・野口、2001)。次に、同様のモデルで、測定データがノイズを含む場合について検討した。
-50 0 50
-50 -40 -30 -20 -10 0 10 20 30 40 50
C1 C2 C3 C4 C5 C6
C7 C8 C9 C10 C11 C12
C13 C14 C15 C16 C17 C18
C19 C20 C21 C22 C23 C24
C25 C26 C27 C28 C29 C30
A B
X1
X2
Fig.6.6 Illustration of the surface electrode system in space (
x
i) and the current electrodes chosenFig.6.6に示すように、物理空間地表グリッド(電極)系において、電極A、BおよびC25を
電流電極として選び、理論計算により、電極系の基本データセットおよび計算空間地表グ リッド系を求め、計算空間地表グリッドの最大間隔の5%に相当するランダムノイズを各節 点座標に加えた。結果をFig.6.7に示す。
このノイズを含む計算空間地表グリッド系を用いて逆解析を行ったが、解析過程は非常 に不安定となり、収束解を得ることはできなかった。その1回目の逆解析計算結果をFig.6.8 に示す。ノイズの影響が地表から深部まで広がっていく様子がわかる。とくに深部ではグ リッドが大きく乱れており、後の反復計算における発散の要因となった。
このように、測定データにノイズが含まれると、計算空間地表グリッドが乱されるばか りでなく、それが深部のグリッドをさらに大きく乱す要因となる。したがって、データに 含まれるノイズを、事前に、できるだけ減らしておく必要があることがわかる。
このノイズ除去のために、複数の基本データセットを用いて、すなわち、多数の基本送 受信セットを設定して多数の基本データセットを用意し、それぞれの基本データセットご とに計算空間地表グリッドを求めて検討した。
この、多数の地表グリッド系に適合するモデルを推定する問題はOver-determined problem となり、最小2乗法を用いる必要がある。
-0.8 -0.6 -0.4 -0.2 0 0.2 0.4 0.6
-0.8 -0.6 -0.4 -0.2 0 0.2 0.4 0.6
Fig.6.7 Surface grid system in space (
s
i) with artificial noises (5%) added.-60 -40 -20 0 20 40 60
-100 -50 0 50 100
-60 -40 -20 0 20
94 95 96 97 98 99 100 101 102
Fig6.8 Result of inversion after 1st iteration with the noise contaminated data showing in fig.6.6
しかし、ここでの最適推定問題は計算空間地表グリッド系を介して解かれるため、次の2
つの手順を踏めばよい。
手順1:多数の基本データセットを用いて、それぞれで求められる多数の計算空間地表 グリッド系から、最小2乗法的に確かな計算空間地表グリッド系を求める。
手順2:数値座標変換を用いた逆解析法により、地下比抵抗構造を推定する。
ここで、最小2 乗法は手順1だけで適用され、手順 2 とは完全に分離して考えることが できる。手順1 で用いられる最小2 乗法は線形最小 2乗法であり、結果として得られる計 算空間グリッド系は、各基本データセットから求められたグリッド系節点のベクトル平均 である。
-0.8 -0.6 -0.4 -0.2 0 0.2 0.4 0.6
-0.8 -0.6 -0.4 -0.2 0 0.2 0.4 0.6
Fig.6.9 Surface grid system in space (
s
i) after vector average to 30 sets of noise contaminated data.次に、この計算手順に従ってノイズ軽減をはかり、逆解析について検討した。
電流電極として選択した電極は、Fig.6.6 に示す A、Bと C1〜C30 である。このとき、A とBは必ず用いることとし、第3の電流電極としてC1〜C30のうちの1つを用いる、30セ ットの基本データセットを用意した。前と同様に、それぞれ5%のランダムノイズを加えて 30 通りの計算空間地表グリッド系を求め、各節点で、それらのベクトル平均を行い、最小 2乗法的に確かな計算空間地表グリッド系を求めた。結果をFig.6.9に示す。
地下比抵抗分布の推定は、このノイズ除去操作により平均化された計算空間地表グリッ ド系との適合により行った。
逆解析は反復回数2回で収束した。その結果をFig.6.10に示す。図より明らかなように、
半無限均質大地が精度良く再現されていることがわかる。
-60 -40 -20 0 20 40 60 -60
-40 -20 0 20 40 60 -60 -40 -20 0 20
99.2 99.4 99.6 99.8 100 100.2 100.4 100.6 100.8
Fig6.10 Convergent inversion result by fitting the surface grid showing in Fig.6.8 Model-2:山型地形を有する均質大地モデル
用いたモデルは、比抵抗100Ωmの山型地形を有する均質大地モデルである。
なお、これ以後に検討する各モデルでは、理論解が存在しないため、数値座標変換によ る順解析のアルゴリズム(Fig.5.1)を用いて基本データセット (基本送受信セットにおける 3 つの電流電極は、Fig.6.4のA、B、Cとする。)を算出し、それにより計算空間地表グリッ
-50 -40 -30 -20 -10 0 10 20 30 40 50
-50 -40 -30 -20 -10 0 10 20 30 40 50 -50 -40 -30 -20 -10 0 10
98 99 100 101 102 103 104 105
Fig.6.11 Inversion result: recovering model, Homogeneous half earth (
ρ
0= 100 Ω m
) with mountain like surfaceド系を与えた。グリッド系は、
41 × 41 × 25
の規模を用いている。山型地形を有する均質大地モデル(
ρ
0= 100 Ω m
)では、逆解析は反復回数3回で収束した。その結果をFig.6.11に示す。ほとんどの部分で精度良くモデルが再現されているが、地形変 化の大きい所で偽像が生じていることがわかる。とくに、山頂付近に誤差のほとんどが集 中しているのは、山頂が数値座標変換法にとって特異点となるためである。このような偽 像を生じにくくするためには、地形変化の激しい所ではデータを密にとる、すなわち、測 定電極を増やすことが重要であると考えられる。
Model-3:均質媒質中に連続的な比抵抗変化を有する低比抵抗埋没球が存在するモデル
用いたモデルは、比抵抗100Ωmの地表平坦な大地中に、比抵抗20Ωmの低比抵抗の球体 が、球中心深度15mに埋没しているモデルである。
逆解析は反復回数5回で収束し、その結果をFig.6.12に示す。図より、比抵抗異常体であ る埋没球の形状、位置を良く再現できていることがわかる。しかしながら、異常体の比抵 抗値は真値よりも高く、大きさは若干大きくなっている。
これは、比抵抗異常体の上方に偽像が生じていることから、異常体の存在する深度付近 の情報を反映するデータ密度(電極密度)が不足しているためと考えられる。さらに、この解 決策として、坑井などを利用した、地下深部方向に電極を配置するトモグラフィ測定が有 効となると考える。
-60 -40 -20 0
20 40 60
-60 -40 -20 0 20 40 60 -60 -50 -40 -30 -20 -10 0 10
40 50 60 70 80 90 100
Fig.6.12 Inversion result: recovering model, Buried conductive sphere (
ρ
1= Ω 20 m depth , = 15 m
,a=
5 ,m ε=
4m) in Homogeneous half earth (ρ
0= 100 Ω m
)Model-4:均質媒質中に連続的な比抵抗変化を有する低比抵抗埋没球が存在するモデル
用いたモデルは、Model-3の埋没球中心深度15mを25mと、異常体の深度を深くしたモ デルである。
逆解析は、反復回数8回で収束し、その結果をFig.6.13に示す。
Model-3の場合と同様に、異常体の形状、位置は良く再現できているが、異常体の比抵抗
値の戻りは悪くなっている。Model-3の場合に比べて、異常体の上部に生じた偽像の強度は 小さくなっているが、その範囲は広がっている。
-60 -40
-20 0
20 40
60
-60 -40 -20 0 20 40 60 -70 -60 -50 -40 -30 -20 -10 0 10
60 65 70 75 80 85 90 95 100
Fig.6.13 Inversion result: recovering model, Buried conductive sphere (
ρ
1= Ω 20 m depth , = 25 m
,a=
5 ,m ε=
4m) in Homogeneous half earth (ρ
0= 100 Ω m
)Model-5:均質媒質中の山型地形の下に連続的な比抵抗変化を有する低比抵抗埋没球が 存在するモデル
用いたモデルは、Model-3の平坦地表を山形としたモデルである。
逆解析は反復回数8回で収束し、その結果をFig.6.14に示す。
異常体の形状、位置を良く再現していることがわかる。しかし、異常体の比抵抗値の再
現はModel-3の結果より悪くなっており、それは地形の影響によるものと考えられる。
-50 -40 -30 -20 -10 0 10 20 30 40 50 -50
-40 -30 -20 -10 0 10 20 30 40 50 -60 -50 -40 -30 -20 -10 0 10
60 65 70 75 80 85 90 95 100
Fig.6.14 Inversion result: recovering model, Buried conductive sphere (
ρ
1= Ω 20 m depth , = 15 m
,a=
5 ,m ε=
4m) in Homogeneous half earth (ρ
0= 100 Ω m
) with mountain like surfaceModel-6:均質媒質中の山型地形の下に連続的な比抵抗変化を有する高比抵抗埋没球が 存在するモデル
-60 -40
-20
0 20
40 60
-60 -40 -20 0 20 40 60 -60 -50 -40 -30 -20 -10 0 10
95 100 105 110 115 120 125 130
Fig.6.15 Inversion result: recovering model, Buried resistive sphere (
ρ
1= 300 Ω m depth , = 15 m
,a=
5 ,m ε=
4m) in Homogeneous half earth (ρ
0= 100 Ω m
) with mountain like surface用いたモデルは、Model-5の低比抵抗異常体を高比抵抗異常体としたモデルである。
逆解析は反復回数9回で収束し、その結果はFig.6.15に示す。
異常体の形状、位置を良く再現していることがわかる。しかし、異常体の比抵抗値の再 現は 6 つのモデルの中で最も悪い。これは、比抵抗法の高比抵抗異常体に対する感度の低 さ、および、地形変化の激しい所での電極密度の不足が原因であると考えられる。
以上、6つのモデルを例題として行った逆解析計算結果から、数値座標変換を用いた比抵 抗法3次元逆解析が、非常に効率よく行われることが明らかとなった。
これらの逆解析計算は、いずれもIntel Xeon 2.4GHz CPUのPCで行った。1回の逆解析計 算に要する計算時間は、モデルにも依存するが、ほとんどの場合、約9分間であった。
この解析法は、比抵抗法における逆問題を、計算空間グリッド系節点座標に関する境界 値問題に転換して解く方法である。計算空間地表グリッド系で適合(Fitting)を行うため、地 下比抵抗変化による応答の変化に敏感に対応し、解像度を向上させることができる。一方、
解析に用いる測定データにノイズが含まれていれば、それなりの偽像が生じるか、解析が 不安定となる。測定データの質を向上させるためには、複数の基本データセットを取得す ることが効果的であり、また、解析を安定に行うためには、グリッド節点座標の修正量に 制限を付けることが有効であった。
また、比抵抗法は、高比抵抗異常体に対する感度が低いために、それをターゲットとす る探査では、地形など地表付近の影響を十分に把握する必要があり、電極系の密度などの 設定を工夫することが重要であると考えられた。
この数値座標変換による逆解析法の特徴は、次のようにまとめられる。
① 計算空間地表グリッド系を適合に利用するため、与えられた電極系から地下比抵抗分 布に関する情報量を最大限に引き出すことができ、解像度が向上する。
② データに含まれるノイズの影響は、線形最小 2 乗法を用いて計算空間地表グリッド系 を生成することで軽減され、逆解析の主体と分離することができる。
③ 解析に用いるグリッド系規模の設定において、特異点となる電流電極位置を考慮した 密なグリッドを必要としないため、それによって費やされる余分な計算量が不要とな り、計算効率が大幅に向上する。
④ 感度行列を陽的に計算する必要がないため、計算効率が大幅に向上する。
⑤ 各グリッド節点で異なる比抵抗値を表現でき、グリッド節点の位置は、総合的な離散 化誤差が最小となるように解析中に自動的に移動することから、有限なグリッド規模 で、解析の精度と解像度が最大限に引き上げられる。
ここで導いた逆解析法は、2極法(配置)による比抵抗法3次元データ解析に対応しており、
2 極法で必要となる基本データセットと、それによる計算空間地表グリッド系の推定から、