第 2 章 の参考文献
3.5 低空間分解能計算の定性的妥当性
0 sec 0.3 sec 0.6 sec
0 sec
0.45 sec 0.6 sec
x1 x3
x1 x3
(a) (b)
図3.4.9 一様せん断流中空気泡の横方向運動
移動している.したがってCL は負である.本計算結果は,小気泡は変形量が少なく正の 揚力係数となり壁方向へ移動し,一方大気泡は変形量が大きく負の揚力係数となり管路 中央へ移動するという,管内流水中気泡に働く揚力に関する知見[9]と一致している.図
3.4.10にTomiyamaの揚力実験と計算による揚力係数の比較を示す.すべてのEoの範囲
で,揚力係数の計算結果は実験結果に近い値となっている.実験に見られる揚力係数の符 号のEo依存性も,計算により正しく予測できている.
2 4 6 -1
0 1
Eo
C
Lmeasured(Tomiyama et al, 2002) predicted
図3.4.10 一様せん断流中空気泡の揚力係数
当性は議論されていない.実際には,小気泡が流れ場に与える影響よりも大気泡の影響が 支配的であるため,小気泡運動に関しては定性的に妥当な予測ができれば十分な場合が多 い.しかし,体積追跡法による低分解能気泡計算の定性的妥当性はほとんど調べられてい ない.
燃料集合体内気泡流のように大小様々な気泡からなる気泡流のボイド率分布を良好に予 測するためには,高分解能で計算可能な大気泡の挙動を精度良く予測することはもちろん のこと,低分解能計算になる小気泡に関しても,その上昇速度や揚力による横方向運動を 少なくとも定性的に妥当に予測する必要がある.また,体積率の数値拡散や気泡体積の非 物理的増減が生じると気泡運動の予測精度が低下するため,低分解能の小気泡に対しても シャープな界面および気泡体積の維持が不可欠である.低分解能でも定性的に妥当な予測 を得るためには,気泡内部および後流領域に数セルは確保する必要がある.したがって少 なくともd∗ = 6程度の分解能は必要であろう.そこで本研究では,d∗ = 6程度の空間分 解能を低空間分解能とみなす.
本節では,低空間分解能で気泡を計算する必要が生じる一例として,沸騰水型原子炉燃 料集合体内気泡流に相当する流体物性(表3.5.1)を対象に,NSSを用いて低空間分解能の 気泡体積追跡計算を行った.まず,静止水中および一様せん断流中気泡を計算し,気泡終 端上昇速度および揚力による横方向運動計算結果の定性的妥当性を検証した.次に,障害 物を計算領域内に設置して燃料棒支持格子位置近傍の液相速度勾配の急激な変化を模擬 し,低空間分解能計算でもせん断流中で大変形する気泡の界面のシャープさおよび体積が 維持できるか否かを調べた.
O 企
ω
企表3.5.1 水および蒸気の物性値(圧力7MPa,温度559K) water density ρL [kg/m3] 740 vapor density ρG [kg/m3] 36.5 water viscosity µL [mPa s] 0.0912 vapor viscosity µG [mPa s] 0.0191 surface tension σ [mN/m] 17.7
Morton number log M -12.8
3.5.1 静止水中単一上昇気泡
気泡分裂などにより生じた小気泡は低空間分解能で計算せざるをえないが,その場合で も小気泡上昇速度を定性的に妥当に予測できなければ,流路内ボイド率分布などの予測精 度を低下させてしまう.ここでは,密閉容器に満たされた静止水中を上昇する単一気泡の 計算を,d∗をパラメーターとして実施し,気泡終端上昇速度予測精度を調べた.気泡直径 はd= 2, 3, 4 mmの3条件とした.容器サイズは,x1, x2, x3 方向に3d, 3d, 14dとした.
ただし,気泡は容器の水平断面中央を鉛直上方向に直線的に上昇すると仮定し,対称境界 を用いて容器全体の1/4のみを計算対象とした(図3.5.1).したがって,実際の計算領域 は1.5d×1.5d×14dである.計算セル幅は∆x1 = ∆x2 = ∆x3 で一様とした.また,3.5節 全ての計算で時間刻み幅∆tは0.01 msecとした.
図3.5.2に終端上昇速度VT の計算結果を示す.ただし,d∗ = 24の計算値を用いて規格
化している.全ての気泡径条件において,d∗ = 16, 20で計算した値はd∗ = 24の結果と ほぼ等しい.d∗ = 12セルの場合でもd∗ = 24の解との差は数 %である.低分解能の場 合,d =2 mmの結果が最も誤差が大きいが,d∗ = 6でもd∗ = 24の結果に対して誤差は 20%程度である.より低い分解能のd∗ =4でも,気泡内部や後流領域のセル数は非常に 少ないにもかかわらず,誤差は30%未満に収まっている.
以上,NSSは,低空間分解能で計算せざるをえない小気泡が存在する場合でも,気泡終 端上昇速度予測精度を大きく低下させないことを確認した.
3.5.2 せん断流中気泡に働く揚力
気泡に働く揚力 FL は式(3.4.2)で与えられる[13].図3.4.10に示したように,一様せ ん断流中気泡のCL は,あるエトベス数 EoC を境にその符号が切り替わり,その近傍で
d
3d/2
14d
no-slip no-slip
no-slip
symmetry (slip)
bubble
bubble g
x1 x2 x3
図3.5.1 静止水中単一気泡
4 8 12 16 20 24
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
VT(d* )/VT(d* =24)
d*=d/∆x
d=2 mm d=3 mm d=4 mm
図3.5.2 気泡終端上昇速度の格子依存性
はEoの増加に伴って単調減少することが実験的に確認されている.大小様々な気泡を含 む気泡流のボイド率分布を良好に予測するためには,低空間分解能でもCLのエトベス数 依存性を少なくとも定性的に妥当に予測する必要がある.本計算では,せん断流中気泡の CLがエトベス数増加に伴い減少し,その符号が切り替わることを,d∗ =6の低空間分解 能計算でも予測可能か調べた.
図3.5.3に計算体系を示す.計算領域は x1, x2, x3 方向に6d, 4d, 40dとした.x1 軸に
Lx1 Lx2 Lx3
uwall g
x3 x1
x3 x2
図3.5.3 一様せん断流中単一気泡
表3.5.2 せん断流中気泡計算条件
Case d [mm] Eo (∂(uL)3/∂x1)x3=0[s−1]
A 2 1.56 200
B 3 3.51 150
C 4 6.24 100
垂直な境界の一方はすべり無し壁,他方は速度uwallでx3方向に移動する移動壁,上側境 界は自由流出とした.下部境界には一様せん断速度分布を液相に与えた.x2 軸に垂直な 境界はすべり壁とした.表3.5.2に示す3条件を計算した.表中(∂(uL)3/∂x1)x3=0 は下部 境界における x1 方向液相速度勾配であり,次式で表わされる.
∂(u3)L
∂x1
!
x3=0
= uwall
Lx1
(3.5.1) ここで,Lx1 はx1 方向の計算領域の幅である.
図3.5.4に気泡運動の計算結果を示す.Eoが最も小さいCase Aでは,Case B, Cの結
果に比べて気泡の変形が小さく,気泡は左側の固定壁に向かって移動している.一方,
Case B, Cでは変形が大きく,気泡重心は右側の移動壁に向かって移動している.3.4節と
同様に,仮想質量力,抗力,揚力を考慮した気泡の運動方程式に,気泡重心位置の時間変
0 35
30 25 20 15 10 5
0 42
7 14 21 28 35
0 10 20 30 40 50 60
x1 x3
d = 2 mm d = 3 mm d = 4 mm
[msec]
図3.5.4 せん断流中を上昇する気泡の横方向運動
化を代入してCLの値を算出した.本計算で得たCLを図3.5.5に示す.CL は,Eo=1.56 では正であるが,Eoの増加に伴い減少し負の値となっている.
本計算結果より,NSSは低空間分解能でもせん断流中気泡の揚力係数のエトベス数依 存性を定性的に正しく予測できることを確認した.
3.5.3 障害物周りを通過する気泡
燃料集合体内燃料棒支持格子位置では流路が狭くなり,液相速度勾配が局所的に強くな る.支持格子位置を通過する気泡は,液相速度勾配の急激な変化により大変形すると考え られる.そのような場合でも大きな計算精度低下が起こらないためには,シャープな界面 および気泡体積を維持することが重要である.ここでは,せん断流中に障害物を設置して 支持格子による流路閉塞を模擬し,速度勾配の急激な変化を伴うせん断流中の気泡を低空 間分解能で計算した.
図3.5.6に計算体系を示す.流路幅および移動壁速度は,現行の沸騰水型原子炉燃料集
合体の水力等価直径および平均液流速が各々約12 mm,2 m/sであることを考慮して設 定した.計算に用いたセル数は,幅12 mm,奥行き12 mm,高さ 48 mmに対して各々
2 4 6 -0.10
-0.05 0 0.05
Eo CL
図3.5.5 揚力係数CLの予測値
12 mm 12 mm
48 mm
g
uWall=1.6 m/s x3
x1
x3 x2
2 mm
6 mm
block
図3.5.6 計算領域
36, 36, 120 セルである.計算セル幅は,∆x1 = ∆x2 = 1/3 mm, ∆x3 = 0.4 mm となる.
各境界条件は3.5.2 節における条件と同様とした.ただし,本計算では移動壁の速度は uwall =1.6 m/sである.本計算条件では,下部境界における液相速度勾配(∂(uL)3/∂x1)x3=0
は133 s−1 である.障害物は計算領域の中ほどに設置した.計算開始時(t= 0 msec)に,d
=2 mmの球形気泡を10個配置した(図3.5.7).気泡の球等価直径あたりに与えたセル数 d∗は6セルである.
図3.5.7(a)に気泡挙動を示す.球形気泡がせん断流により変形しながら上昇している 様子が確認できる.障害物よりも上流に設置された気泡は大きく変形しながら障害物を 避けて上昇した.気泡が計算領域から流出しはじめる直前の t =14 msec において気泡 体積誤差は0.17%であった.図3.5.7(a)中の気泡Aの形状および気泡周囲の体積率分布
を図3.5.8に示す.障害物周囲のせん断流により気泡が大きく変形しても体積率は拡散せ
ず,シャープな界面を維持できていることがわかる.図3.5.7(b)に,DA(donor-acceptor) 法[14]を用いて同様の計算を行った結果を示す.DA法を用いた場合,気泡が障害物との 衝突を避けて変形しながら上昇する際に体積率が拡散し,多数の小さな気相領域が流路内 に発生している.これらの気相領域はもはや気泡として扱えず,計算精度低下を引き起こ す原因となる.また,体積誤差はt=14 msecにおいて4.74%であり,図3.5.7(a)の計算 に比べて大きい値であった.
本計算結果から,NSSによれば,液相速度勾配の急激な変化を伴うせん断流中気泡の低 空間分解能計算において,界面のぼやけや体積誤差に起因する計算精度低下が生じないこ とを確認した.
x1 x3 x2 bubble A
A
A
A
t = 0 10 20 30 msec
(a) NSS
t = 0 10 20 30 msec
(b) DA
図3.5.7 せん断流中気泡の運動
0.26 0
0.96 0 0.69
0.45 0.56 0.99
t = 20 msec t = 35 msec t = 50 msec
1 0.53 0.02 0 0 0 0.02 0.62 1 1 1 0.89 0.71 0.61 0.64 0.85 1 1
1 0.17 0 0 0 0 0 0.48 1
1 0.58 0 0 0 0 0.31 0.95 1 1 1 0.73 0.50 0.56 0.83 1 1 1
1 1 1 1 1 1 1 1 1
1 1 1 1 1 1 1 1 1
x1 x3
1 1 0.48 0.05 0.29 0.87 1 1
1
1 1 0.99 1 1 1 1
1 1 0.21 0 0 0.12 0.95 1
1 1 0.57 0 0 0 0.48 1
1 1 0.99 0.28 0 0 0.04 0.96
1
1 1
1
1 1 1 1 1 1 1
1 1 1 1 0.97 0.41 0 0.43
1
1 1 1 1 1
1
1 1 1 1 1 1
1 1 1 1 1 1 1 1
block wall
x1 x3
x1 x3
図3.5.8 気泡周りの体積率分布