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4.3 企業家ネットワークによる人材仲介
ATIが軌道に乗り始めた199J2年には、VB創業支援のためオーステインにおける技術基盤 や専門家の支援基盤強化、製品やサービスの品質向上、 Spin10ff VBの企業家のニーズを
汲み上げ、政策に反映させるなどの目的で、 Austin Software Council (As°)が組織化された。特にソフトウェアとしたのは、 MCCからのSpin‑oH VBの事業分野がソフトウェア であったことが大きい。実際、 1990年代に創業されたオーステインのVBの約7割は、ソ フトウェアであったといわれている。
ASCは、孤立しがちで、自己の製品に拘り、その製品の独自性にのみ注力して、市場 ニーズを無視する傾向の強い企業家に対して、同業者間の検討会(peer一group session) などを通じて、製品の市場性向上を実現する、といった活動を行った。また、こうしたネ ットワークによって、新たな開発ニーズを発見するなど、ソフトウェア開発の技術クラス ター機能を果たすものとなっていた。 ASCは、さらにVBが地元に果たすべき機能や効果に ついての広報活動を積極的に行い、地元がVB支援に動く基盤整備にも大きな力を発揮した。
だが、 ASCが果たした役割はこれに留まらなかった。最も重要な点は、 ASCが、優れたヒ トを仲介し、 VBによるヒトの調達を促進する機能を持ったことにある。創業直後のVBは まだ認知度が低く、優秀な大学卒レベルの人材を採用することは難しい。だが、 「死の谷」
を乗り切ろうとするVBにとって、優秀なヒトの採用と戦力化はその死命を制する重要課題 である。とはいえ、ここでも、カネのときと同じような、情報の非対称性が作用し、 VB及 び必要な優秀なヒトとの間には、大きな情報ギャップが存在したのである。そこで、 As°
は、テキサス大学オーステイン校と連携して、 VBと学生を引き合わせる人材仲介フェアを 開催し、有望なVBの事業内容や将来性を直接大学院生などに説明する機会を作り、学生達 の研究内容、興味、将来のキャリア形成からみても、 VBがその対象になりえることを認識 させ、 VBが優秀なヒトを獲得することを積極的に支援したのである。また、この過程で、
テキサス大学オーステイン校が教育する内容と、地元VBが必要とする知識内容とレベルの 帝離が判明したため、カリキュラムの改革などを要望するなど、地元ハイテク産業が必要
とする人材教育にも寄与したのである(S. Robinson, "The Austin Lesson: Hook‑ ̀em powerhouse" , AJbLlqLIerque TI・)'bune, Jul. 9, 2001) 。
さらに、 ASCは、既存企業からの転職の仲介機能も果たした(T. Keniry or IC2ヒアリ ング) 。 ASCはVB企業家や専門的技術を持った技術者たちから構成され、それぞれが求め る技術レベルとニーズを知っており、その紹介により、仲介のための探索費用(Search cost)を下げるという実質的効果を持つ、転職促進のための「弱い紐帯」 (Weak‑tie)機能を 持ったのである。 ASCの確立と展開は、オーステインにおいて、技術や業種ごとに、同種 の企業家ネットワークを生み、同様な活動を促進したのである。
ASCに代表される、オーステインのInnovatiomCluster形成とともに組成され、拡大し
始めたネットワークは、 VBとって、カネと同様、必要であるが最も調達しがたいBest 皮 Brightest を仲介する、新しい機能を持ったネットワークとなっていた。これが、リスト ラクチャリングのなか、 Corporate Americaの基盤となっていた「フォーディズム労働市
場」が解体されたのち、地域におけるハイテク産業創出にとって必要とされる、高度な「暗
黙知」を持つBest 良 Brightest達の転職仲介ネットワークとなったからである。
5.ハイテク産業創出とInnovation Cluster形成
以上の簡単な分析から、オーステインにおけるハイテク産業創出の3段階は、以下のよ う に整理することができる。すなわち、第1は,ハイテク産業創出基盤となる技術シーズ 創出のための研究拠点の形成と、人材基盤となるハイテク雇用者の集積段階である。第2
段階は,ハイテク産業創出の担い手となるVB支援に向けた、 Innovation Cluster形成と 展開の過程である。第3は、 Innovation Clusterにより成功したVBの集積が進み、ハイ テク産業が自立的に発展し始める段階である。
第1段階では、既存の大学や研究機関を活用するという選択もあるが、技術シーズ創出 と研究人材の基盤拡大には、オーステインのように、誘致する方が効果は高そうである。
但し、誘致には、地域結集のための戦略が不可欠であり、産学官の緊密な協力関係が必要 となる。最近のように、技術シーズの重要性が認識されている場合はまだしも、オーステ インでも、当初はサン・アントニオなど州内他都市との競合や、ハイテク産業創出やその ための研究拠点誘致に税金を使うことに対する反対もあった。これを説得して、各組織を 纏めるには、統合の象徴としてのビジョンを提示し、成果を挙げる必要がある。インフル エンサーの機能である。それは、分立する産学官に存在する「構造的空隙」を埋めることを 通じて生み出される、利益に依拠した機能だといえよう。
ただ、この成果が次のInnovationCluster形成に向かうかどうかは、研究成果としての
技術の性格や既存企業の対応に依存する。その成果が破壊的技術という性格を持つのであ れば、既存企業は「イノベーションのジレンマ」に陥る。ここで,既存企業の移転によって 集積したハイテク雇用者の離散を防ぎ、地元での活動を維持するには、その成果の製品化
を目的としたSpin‑orrVB創業が必要になる。これを実現するには、 VBの成功確率を高め る対策が不可欠である。この対策の実施は、 VB支援システムとしてのInnovationCluster
の形成動因となる。その意味では、第2段階への展開は、その地域における具体的な研究 成果、その技術的特徴に依存せざるをえない。 InnovationCluster形成に向かうか否かの 政策判断には、この点の認識・評価が不可欠である。
ここでSpin‑oH VB育成が、その研究成果の製品化にとって、不可欠であるとすれば、
未熟児としてのVBにこのような困難な課題を担わせることになる以上、その未熟性を補完
し、強みを発揮させるための支援システムが必要になる。 VB支援には、インキュベータの
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も、それには一定の拡がりと深さが必要であった。このような、研究拠点を中JLりこした地
域的VB支援システムは、InnovationClusterと定義されている(Ⅰ. Bortagaray&S. TiHin,
…Innovation Clusters in Latin America'', LBJ School of Public AHairs, UT‑Austin,
Book oI Abslracls G Conlerenee DJ'rectory o/ mJ'rd lnternalJ'onal ConleTenCe On Technology PoJ1'cy and lnnwalJ'on, Austin, TX, 1999, p. 133).
第2段階では、 VB支援を目的としたInnovation Cluster形成が政策課題となる。創業 時の未熟なVBに対して、 「死の谷」を乗り切るため、経営資源を低廉で提供する場所として、
インキュベータが不可欠であった。創業したばかりの未熟なVBの生存を確保し、 「死の谷」
乗り切りのためのカネは、 BANを通じた特殊な仲介ネットワークを通じ、 BAからEquity 投資の形で供給する。カネを調達したVBが次に必要とする資源はヒトである。
vBの強みは、柔軟な組織構造のもと、当該分野における最も優れたヒト(Best &
Brightest)を集め、その持てる能力を短期間に、かつ最大限に発揮する点にあった。問題 は、こうした優れたヒトを如何に集め、その能力を評価して、必要なVBに参加させるかの 方法にある。そのためには, VBが必要とする高度な暗黙知としての経験や能力を持つ優れ たヒトの仲介を行う特殊なネットワークが形成されねばならなかった。これは、 ASCやVC のように、企業と技術を良く知り、相互に必要とする、暗黙知を評価し得る特殊な仲介機 関によって、初めて充足される課題である。
オーステインでは、 ATIに入居するVBに対して、 TCNとASCというネットワークが重な り合い(‑ネットワーク重合)、カネとヒトという、 「死の谷」を乗り切るVBにとって、最 も調達困難な経営資源を提供する支援システムとしてのInnovalion Clusterが形成された
のである。しかも、 Innovation Cluster を構成する新しいネットワークが、 G・コズメッ辛‑の発案で組成され、 ATIという場所で「重合」させられた点が重要であった。これもイ ンフルエンサーの機能であるが、第2段階では、単に既存ネットワーク間に存在した「構造 的空隙」を埋めるだけではなく、ビジョンにもとづき新たなネットワークを組成し、既存シ ステムでは発生せざるを得ない「構造的空隙」を埋めるという、一段と高度な機能が要求さ れたのである。
第2段階におけるInnovationClusterが機能して、 Dell Computerのような成功事例
が生み出され、地域経済と雇用に大きなインパクトを与えるようになると、地域において
もVBの意義を認め、支援する気運(Entrepreneurial Culture)が醸成される。それが、ま
た、 VB簾業と成長を促すという好循環を形作るのである。この結果、技術、ヒト、カネが 集積を始め、 VBの簾業と集積を自立的に促進し始めるようになれば、第3段階に到達した ものといえよう。この自立的発展段階に達すれば、地域外でも、その評価が高まり、技術、
ヒト、カネの集積がさらに進み、ハイテク産業集積地としての基盤が確立することになる。
この段階では、もはやインフルエンサーの機能は必要なくなるといわれている7。
7第3段階では,もはやFirst‑level ln‖uemcerの機能は不必要であり, Second‑level lnfluemcerだけで十分だと
ドキュメント内
Innovation Cluster形成に関する日米比較研究-ベンチャー企業育成支援策の基盤分析-
(ページ 159-163)