第 6 章 基本方式の有効性の検証
7.2 今後の展開
結論
現在の組込みシステム開発は本論文の冒頭で述べた通り,システムの大規模 化と品質・コスト・納期のせめぎ合いの中にある.組込みシステム開発のプロ ジェクトの現実は,十分な技術検証や技術的な見通しがあいまい,プロジェク トマネジメントの適用は未熟,明確なメソドロジーの適用も無く混沌とした中 でコンピテンシー不足の人員を大量に投入,それらの結果として機能の削減や 品質低下,納期の遅れを招いている例を非常に多く目にする.このような開発 は企業の収益性の観点から事業の継続性に大きな疑問を投げかける.つまり,
日本の組込み産業は,これまでの開発スタイルを継続していては モノ作り が 成立しない状況にある.
加えて近い将来の組込みシステムは,Internet of Things(IoT) や in-vehicle
infotainment(IVI), 自動車の自動運転に代表される複数の統合システム制御
(System of systems)のように,今後も広い領域において高い性能と信頼性を 要求されることは自明であり,それに伴うシステムの大規模化は不可避である.
大規模化する組込みシステムを,現在も多くの開発現場で用いられている最下 層の技術成果物の集合体,すなわちソースコードのモノリシックな統合によっ て実現することは極めて困難である.
このような環境にある組込みシステム開発においては,システムの全容を理解 可能とするための抽象化技術の適用,抽象化されたシステムの各種要件の充足 可能性を開発の上流工程において検証するための技術の適用,それらの技術を 用いたメソドロジーの構築と開発・設計プロセスへの適用,加えてそれら技術 とメソドロジーを包括してコントロールするプロジェクト・マネジメントが極 めて重要であると考える.これらを踏まえて本論文で提案する手法は,実際の 組込みシステムへの適用によってその有効性を示すことで,組込みシステム開 発の幅広い領域における適用の可能性を示した.本研究の成果が日本の組込み 産業の発展の一助となれば幸いである.
7.2 今後の展開
組込みシステムの大規模化・複雑化は今後も進行すると考えられる.また,組 込みシステムが活用される領域は今後も拡大を続けて,社会基盤を支えるイン
7.2. 今後の展開 第 7. おわりに フラストラクチャーの重要な構成要素として確実に社会に浸透するでであろう ことは容易に想像できる.これは組込みシステムが社会基盤全体の信用を支え ていくことを意味する.本研究で提案した手法をより実用性のある技術へと進 化させていくことに加えて,本研究を通じて見えてきた新規領域への展開につ いて,今後の展開を考える.
実用性
1)動的振舞解析の簡易化
2)リバースモデリングとモデル・シミュレーションにおける統合システムへの 対応
3)消費エネルギーシミュレーションの抽象度の検討 新規領域への展開
4)動的振舞解析のロギング技術への展開 5)D-Caseとの連携の強化
6)プロダクトライン開発に適用した開発メソドロジー
1)動的振舞解析の簡易化
本研究で適用したリバースモデリングにおいては侵襲性が低いシステム測定 技術を適用したが,測定のためには専用ハードウェアの接続が必要であるが容 易に接続できるものではない.既存技術において,業界標準のインターフェィ スである USB等を接続に用いる手法もあるが測定の際にソフトウェアのオー バーヘッドが増える事が懸念される.本技術におけるハードウェアの役割は データの取得とタイムスタンプの付与であることから,IPコア化しても極めて 小さな回路規模で実現することが可能であり,SoCやASICに内蔵するための ハードルは低いと考える.しかし,IPコア化した場合の効果は大きく,組込み ソフトウェアを開発するエンジニアの開発生産性を高めることが期待できる.
2)リバースモデリングとモデル・シミュレーションにおける統合システムへ の対応
本研究において提案した,バースモデリング手法とモデル・シミュレーション を組み合わせることで,組込みシステムの品質を評価する手法はその対象が単
7.2. 今後の展開 第 7. おわりに 一のシステムである.現在の組込みシステムにおいては,複数のシステムの統 合化(System of Systems)が急速に進行していることから,統合化された複数の システムを対象とした技術開発は提案手法を実用的に展開するためには必須で あると考える.
3)消費エネルギー・シミュレーションの抽象度の検討
本研究において,SoC内部の構成要素であるIPコアやCPUはそれぞれ1つ のモデルとして抽象化した.その理由はIPコアの幾つかは画像処理のアクセ ラレータであり,非常に回路規模が大きいことから消費エネルギーの多くを占 めると考えられていたからである.しかしそれらのアクセラレータは内部が並 列化されていることから動作周波数が低く,SoC全体に占める消費エネルギー の割合は低かった.それとは逆にCPUが高い割合で動作している時間が長く,
SoC全体の消費エネルギーの大部分を占めていることがシミュレーションの結 果判明した.よって,CPUに関してはその内部構造を反映した複数のモデルに よって表現することで,消費エネルギーの観点から実用的な技術となるであろ うと考える.
4)動的振舞解析のロギング技術への展開
システム測定技術を組込みシステムが搭載する半導体に内蔵することができ ればその適用範囲は更に広がると考える.組込みシステムのソフトウェアの動 的な振舞,システム全体の振舞,ハードウェアの振舞をネットワークを経由し て大量に取得してアナリティクス技術を適用することで,システムのディペン ダビリティに関する情報を多く得ることが可能となる.半導体の微細化の進行 によって問題になりつつあるソフトエラーや,機能安全においてその証明が難 しい市場実績評価であるProve in Useに対応するためには,それらのデータを 収集・解析する手段が欠かせない.その解決に向けて当技術が有用であること は早急に結論を得たいテーマである.
5)D-Caseとの連携の強化
組込みシテムにおける信頼性や安全性は単一のシステムとその外界とのイ ンタラクションで考えられてきた.しかし自動車の技術革新にみられるように,
組込みシステムが自律的に人間の操作をオーバーライドしたり,半自動で運転
124 や停止,回避行動を行うまでに進化している.現在では組込みシステム相互の インタラクションも視野に入れる必要があり,それを実現するためには複数の モデル群の集まり相互のインタラクションと,それらを束ねて信頼性を表記す
るためのD-Caseの適用方法,並びにシミュレーションにおける活用の模索が
必要となると考える.
6)ボトムアップ開発からプロダクトライン開発への移行に適した開発メソド ロジー
近年,モジュラーデザインやプラットフォームベースデザインに代表される プロダクト開発を適用した組込み製品,特に自動車が多くみられる.しかし日 本では,ボトムアップ開発を多く適用している業種が自動車関連である.本研 究において提案したメソドロジーは自動車の制御系と呼ばれる組込みの領域に 適したものではない.しかし,現実に自動車業界ではボトムアップ開発からプ ロダクトライン開発へ移行する試みが始まっている.本研究で得られた知見を 基に,必要とされる開発メソドロジーを開発することで,組込み産業に貢献で きるのではないかと考える.
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謝辞
本研究を進めるにあたり,貴重なるご指導とご助言を賜り,また多くのご 支援を頂戴致しました九州大学 安浦寛人教授に深く感謝の意を表します.
また,本論文を取りまとめるにあたり,貴重なるご助言とご指導を賜りました 九州大学大学院 システム情報科学研究院 福田晃教授ならびに村上和彰教授に心 より感謝の意を表します.
九州大学大学院 システム情報科学研究院 安浦・福田・村上研究室の皆様には,
日頃から有益なご意見を頂きましたことに心から感謝致します.
貴重なるご意見を頂いた日本アイ・ビー・エム株式会社の方々に感謝致します.
特に 東京基礎研究所の中田武男氏ならびに小野康一氏には,細部にわたるご議 論を頂き,様々なご助言を頂きましたことに深く感謝致します.
また,本研究ならびに本論文の執筆に際し,数多くの方々から多大なるご支援 とご助言を賜りましたことを,ここに記して深謝いたします.
最後に,不治の病に果敢に立ち向かい打ち勝つことで生きることの意義を示 してくれた父 幸則と父を支え続けた母 陽子に,私を支えてくれる妻 ひろ美に 感謝致します.