(2)乳 児 の 行 動 特 徴 の 測 定
生 後6ヵ 月 時 に 日 本 語 版RITQ(RevisedInfantTemperamentquestionnaire)に よ っ て 測 定 を 行 っ た 。 記 入 者 は 母 親 で あ る 。 評 定 値 の 因 子 分 析 か ら得 ら れ た5つ の 下 位 尺 度("見 知 らぬ 人 、 場 所 へ の 恐 れ"・"味 覚 的 敏 感 さ ・周 期 の 規 則 性"・uフ ラ ス ト レ ー シ ョ ン ・
ト レ ラ ン ス"・u注 意 の 持 続 性 と 固 執 性")の 得 点 を 乳 児 の 行 動 特 徴 の 指 標 と し た 。
(3)母 親 の育児への適応感 の測定
母親の育児へ の適応感 につ いて は、①育児に対する全般的感想 と ②育児 に関連 した ス トレスの2側 面を質 問紙調査 によ って測定 した(産 後6ヵ 月時)。
① 育 児 に 対 す る 全 般 的 感 想
小 西 他(1981)に よ る 母 親 の 育 児 意 識 に 関 す る 尺 度 を 若 干 修 正 し、 「とて も楽 しい 」 ・
「精 神 的 に 疲 れ る 」 な ど表29の よ うな8項 目 を 用 い た 。 評 定 は1.全 くあ て は ま ら な い〜7.非 常 に よ くあ て は ま る ま で の7段 階 評 定 で あ る。 本 尺 度 は生 後1ヵ 月 目 ・生 後 6ヵ 月 目 ・生 後18ヵ 月 目 の3時 点 で 繰 り返 し実 施 した が 、 各 時 点 ご と の 因 子 分 析(主 因 子 解 バ リマ ッ ク ス 回 転 〉 に よ り 構 造 分 析 を お こ な っ た と こ ろ、 育 児 に 対 す る 否 定 的 印 象 と肯 定 的 印 象 各4項 目 ず つ の2因 子 構 造 で あ る こ と が 明 らか に な っ た 。 生 後6ヵ 月 時 の デ ー タ
につ いて 因 子 構 成 項 目 の 評 定 値 を 加 算 し、 こ れ を 分 析 に 用 い た 。
② 育 児 に 関 連 した ス トレ ス
佐 藤(1985♪ に よ る育 児 の 悩 み に 関 す る 母 親 の 自 由 記 述 な ど を も と に して6ヵ 月 児 を 持 つ 母 親 が ス トレ ス を 感 じ る で あ ろ う と 予 想 さ れ る28項 目 に つ い て 尋 ね た 。 評 定 は1.(そ
の問 題 に つ い て は)全 く悩 ん で い な い 〜4.非 常 に 悩 ん で い る ま で の4段 階 で あ る 。28 項 目 の う ち、 回 答 に偏 り の あ る6項 目 と身 体 的 要 因 と関 連 す る と考 え られ る 母 乳 授 乳 に 関 す る項 目 を 除 き、 計21項 目 で 数 量 化 皿類 を お こ な っ た 。 そ の 結 果2次 元 構 造 が 見 出 さ れ 、 第1軸 は 「悩 み の 有 無 」 、 第2軸 は 「母 親 自身 に 関 す る悩 み 一子 ど も に 関 す る悩 み 」 で あ
る
る と解 釈 され た 。 子 ど も の 問 題 に 関 す る 悩 み で 構 成 さ れ 第 一 象 限 の 項 目 群 に は 「子 ど も関 連 ス トレス 」 、 母 親 自 身 の 内 面 的 な 悩 み に 関 す る 項 目群 に は 「母 親 関 連 ス ト レス 」 と名 付 けた 。 各 々 の構 成 項 目 の 評 定 値 を 加 算 した 得 点 を 分 析 に 用 い た 。
表29育 児 に つ い て の 感 想(主 因 子 解 バ リマ ック ス 回 転)
項 目
生 後1ヵ 月 目 生 後6ヵ 月 目 生 後18ヵ 月 目(N=1U52)(N=B17)(N=615)
第1因 子:NcyativcImpressio11
・精 神 的 に 疲 れ る 。
・育 児 ノ イ ロ ー ゼ に な りそ うだ
。
・計 画 通 りす す ま ず 心 配 で あ る 。
・時間 が 足 りな く て 苦 し い 。
」F」ξ≡7(SD)負 荷 量 ら5i乙ユ句(SD)負 荷 量
3.9(1.G).G7
2.5(1.4).53
3.5(1.G).52
4.11.5).G6
3.4(1.6).65
2.1(1.3).58
2.9(1.5).59
3.7(1.7).55
平 均(SD)負 荷 量
3.1(1.G).63
1.8(1.1).58
2.8(1.4).60
3.3(1.7).G2
第2因 子:PositiveImpression
・と て も 楽 し い
。
・充 実 感 を 味 わ っ て い る。
・毎 日 が 新 鮮 で あ る。
・白 信 が 持 て る よ う に な っ た
。
5.3(1.1).82
5.5(1.1).88
5.1(1.1).64
9.B(1.1).57
5.7(1.1).85
5.6(1.1).86
5.1(1.2}.69
5.0(1.2)。50
5.4(1.1).83
4.4(1.1).87
5.0(1.1).72
×1.7(1.2).55
説明率
62.0箔 60.8鬼 63.8毘3.結 果
(1)育 児 に対 す る 全 般 的 感 想 とRITAと の 関 連
育 児 に対 す る否 定 的 印 象 因 子 と肯 定 的 印 象 因 子 そ れ ぞ れ に つ い て の 得 点 とRITQの5つ の 下位 尺 度 得 点 との 相 関 を 求 め た と こ ろ 、 表30の よ う な 結 果 と な っ た 。 被 験 者 数 が 大 き い ため に 肯 定 的 印 象 と"見 知 らぬ 人 、 場 所 へ の 恐 れ"お よ び 。̀味覚 的 敏 感 さnと の 間 の 相 関 係数 を 除 い て 有 意 水 準 に 達 して い る もの が ほ と ん ど で あ るが 、r〈.02以 上 の 相 関 を 示 して い るの は否 定 的 印 象 と"周 期 の 規 則 性"(r=㍉22)お よ び フ ラ ス ト レ ー シ ョ ン ・ トレ ラ ン ス"(r・.‑21)、 肯 定 的 印 象 とa周 期 の 規 則 性"(r=.21)お よ び"注 意 の 持 続 性 と固 執 性"(rニ .20)で あ った(い ず れ もPく.01)。
(2)育 児 関 連 ス ト レ ス とRITAと の 関 連
子 ど も 関 連 ス ト レ ス ・母 親 関 連 ス ト レ ス の 各 々 とRITEと の 相 関 を 求 め た と こ ろ(表31 )、 子 ど も関 連 ス ト レ ス で はa見 知 ら ぬ 人 ・場 所 へ の 恐 れ"と の 間 にr=.30、K周 期 の 規 則 性"と の 間 にr=一.32、 そ し て"フ ラ ス ト レ ー シ ョ ン ・ ト レ ラ ン ス"と の 間 にr=。.25の 有 意 な 相 関 が み ら れ た(い ず れ もP<.01)。 母 親 関 連 ス ト レ ス に つ い て は 、r>≧ ±.20を 越 え
る相 関 を 示 す 行 動 特 徴 は 見 出 さ れ な か っ た 。
表30生 後6ヵ 月 口 のlt1「Qと 母 親 の 育 児 に つ い て の 全 般 的 印 象 と の 関 連 (peaI'SUII。Scorklation,N=・71U)
否定的印象 肯定的 印象
見知 らぬ人 ・場所 への恐れ
味覚的敏感 さ
周期の規 則性
.13**
.13**
一.22霊*
一.21・}・*
一.01
一.03
.21略 ・*
フ ラ ス トレ ー シ ョン ・ ト レ ラ ン ス
注 意 の 持 続 性 と 固 執 性 一.13**
.T4**
,20**
:t:a::uく .U1
表31生 後6ヵ 月 目 のRHQと 母 親 の 育 児 関 連 ス ト レ ス と の 関 連 (peaI'SUIIScoreelaしiOn,Nニ622)
子 供 関 連 ス トレ ス 母 親 関 連 ス ト レ ス
見 知 らぬ 人 ・場 所 へ の 恐 れ
味 覚 的 敏 感 さ
周 期 の 規 則 性
フ ラス ト レ ー シ ョ ン ・ ト レ ラ ン ス 注 意 の 持 統 性 と固 執 性
坐
11坐 鋤
01旛 **51
9 70 **81
■ **51
■ 11
一 ●
**:P<.01
4.考 察
母 親 の 育 児 に 対 す る適 応 感 に つ い て 「楽 し い 」 「計 画 通 り す す ま ず 心 配 で あ る」 な ど の 育児 に 対 す る全 般 的 な 感 想 と育 児 を め ぐ る特 定 の 事 象 に 対 す る ス トレ ス 感 の2側 面 か ら と らえ 、 各 々 と乳 児 の 行 動 特 徴 と の 関 連 に つ い て 検 討 を お こ な った 。 本 研 究 で は サ ン プ ル が 大 きい た め に有 意 水 準 に 達 した 相 関 係 数 が 多 くみ られ た が 、r≧ ±2以 上 を 意 味 の あ る 値
と考 え て 以 下 の 考 察 を す す め る こ と に す る 。
育 児 に対 す る全 般 的 な 感 想 で は、 「精 神 的 に 疲 れ る 」 「育 児 ノ イ ロ ー ゼ に な り そ う だ 」 な ど の否 定 的 印 象 と"周 期 の 規 則 性"お よ び"フ ラ ス ト レ ー シ ョ ン ・ ト レ ラ ン ス"と の 間 に負 の相 関 関 係 が み ら れ た 。 睡 眠 ・排 泄 ・食 欲 と い っ た 体 内 リズ ム が 規 則 正 しか っ た り乳 児 自身 の ス ト レス に 対 す る耐 性 が 高 い ほ ど母 親 の育 児 全 般 に 対 す る 否 定 的 印 象 が 緩 和 さ れ る傾 向 が 明 らか に な っ た と い え よ う。 ま た 、 「楽 しい 」 「毎 日 が 新 鮮 で あ る 」 な ど の 肯 定 的 印象 に 関 して は"周 期 の 規 則 性"とK注 意 の 持 続 性 と固 執 性"の2尺 度 が 正 の 相 関 関 係 にあ る こ と が 確 認 さ れ た 。 乳 児 の 体 内 リズ ム の 規 則 正 し さ や 集 中 力 の 高 さ が 母 親 の 肯 定 的 印 象 を 強 め る方 向 に 影 響 して い る こ とを 示 唆 す る 結 果 と な って い る 。 しか し、 い ず れ の 相 関 もr=.20程 度 で あ り 、 関 連 の 程 度 は 弱 い 。 従 って 、 母 親 の 育 児 に 対 す る全 般 的 感 想 が 乳 児 の持 つ 行 動 特 徴 に 一 部 影 響 さ れ る こ と は 否 定 で き な い が 、 そ の 他 の 要 因 の 影 響 力 も 大 き
い もの と推 測 さ れ る。
一 方 、子 ど もの問 題 に関 連 した ス トレス感 とK見 知 らぬ人 、場 所 へ の恐 れ"と の間 に正 の相 関 関 係 が み られ た 。 対 人 場 面 で の 乳 児 の 不 適 応 が 母 親 の 困 惑 を 引 き 起 こ す こ とが 考 え られ るが 、 子 ど も関 連 ス ト レス の 中 の 「我 が 子 の 人 見 知 りが 激 し く、 悩 ん で い る 」 と い う 項 目を 取 り出 してa見 知 らぬ 人 、 場 所 へ の 恐 れ"得 点 と の 相 関 を 算 出 し た と こ ろ、r=.56(
pく.01)とい う比 較 的 高 い 値 が 得 られ た 。 育 児 に 対 す る否 定 的 印 象 と同 様 に 、"周 期 の 規 則 性"お よ び"フ ラ ス トレ ー シ ョ ン ・ トレ ラ ンス"と 子 ど も関 連 スFレ ス と の 間 に は い ず れ も負 の相 関 が み られ た 。 これ ら の結 果 か ら、 体 内 リズ ム の 規 則 正 し さ に 由 来 す る 乳 児 の 状 態 の 予測 しや す さ や 乳 児 の ス トレス 耐 性 が 高 い こ と に よ る コ ン トロ ー ル しや す さ が 、 母 親 の育 児 の 適 応 感 に 影 響 す る こ とが 示 唆 さ れ よ う。 ま た 、 母 親 関 連 ス ト レス に つ い て は い ず れ のRITE尺 度 も ほ と ん ど無 相 関 に 近 い 関 連 しか 示 さ な か っ た 。 しか し、 母 親 関 連 ス ト レス と子 ど も関 連 ス トレ ス に は正 の 関 連(r=.61,P<.01)が み られ る こ とか ら、 乳 児 の 持 つ 行 動 特 徴 が子 ど も関 連 ス ト レス を 媒 介 に して 間 接 的 に母 親 関 連 ス ト レス に 影 響 す る 可 能 性 も考
え られ る。
§2.研 究9母 親 の精 神状 態 の縦 断 的変 化 と乳 児 の行 動特 徴 との関連
1.目 的
これ ま で の 各 章 で 見 て き た よ う に 、 発 達 初 期 に み られ る 行 動 特 徴 は 、 母 親 の 対 児 イ メ ー ジや育 児 へ の 適 応 感 と関 連 す る な ど 母 親 を 含 め た環 境 に 影 響 を 及 ぼ す もの と考 え られ る 。 しか し、 母 子 相 互 作 用 の 枠 組 か ら考 え る な らば 、 子 ど も の 行 動 特 徴 が 環 境 に 対 す る 影 響 性 を持 つ と同 時 に 、 環 境 か ら の 影 響 を 受 け て 行 動 特 徴 そ の も の も変 容 して い く と い う被 影 響 性 を持 つ こ と も予 想 さ れ る。 序 論 で 見 て き た よ う に 、 従 来 の 発 達 初 期 に お け る 気 質 の 定 義 に は こ う した 観 点 が 含 ま れ て お り 、n生 物 学 的 背 景 を 持 ち な が ら環 境 の 影 響 を 受 け て 変 化
して い く も の"定 義 さ れ て き て い る 。
さて 、 子 ど も の 行 動 特 徴 に 影 響 を 与 え る要 因 に は社 会 ・文 化 的 要 因 や 家 庭 の 経 済 状 況 、 両親 の養 育 態 度 な ど多 様 な 変 数 が 考 え られ る が 、 発 達 初 期 に お い て は 、 最 も 身 近 な 養 育 者 で あ る母 親 に 関 連 す る 変 数 は や は り大 き な 影 響 力 を 持 つ と考 え ら れ る 。 も し も、 母 親 が 精 神障 害 を 呈 して 不 安 定 な 状 態 に 陥 り、 しれ が0定 期 間 持 続 し た な らば 、 乳 児 の 行 動 形 成 に どの よ う な影 響 を 及 ぼ す だ ろ う か 。 出 産 後 の 女 性 の 精 神 障 害 の 発 症 率 に つ い て は、 日本 で は島 ら(1988)が23.4X、 英 国 で はKumarら(1984)が16.0%と 報 告 して い る 。 ま た 、 い わ ゆ るマ タ ニ テ ィ ー ・ブ ル ー ズ と呼 ば れ る軽 症 ・一 過 性 の 感 情 障 害 に つ い て も、 研 究 者 に よ って頻 度 は 大 き く異 な る も の の(9.3%〜s7x,島 ら,1988)、 産 婦 の1割 以 上 に 出 現 す る こ と が知 られ て い る。 従 来 の 発 達 心 理 学 的 研 究 で は 、 母 親 の 精 神 的 健 康 度 に は ほ とん ど関 心 が 払 わ れ ず 、 均 質 な も の と仮 定 して 扱 わ れ る こ とが 多 か っ た と い え る。 しか し、 出 産 後 に精 神 的 健 康 を 損 な う母 親 が 少 な か らず 存 在 す る と い う精 神 医 学 の 知 見 に 照 ら して 、 そ の子 ど
もの発 達 へ の 影 響 に つ い て 検 討 す る こ と は 重 要 な 課 題 の1つ と い え よ う。 そ こ で 、 研 究9 で は、 母 親 要 因 の 中 か ら出 産 後 の 精 神 的 健 康 度 の 推 移 を と り あ げ、 子 ど も の行 動 特 徴 と ど のよ うな 関 連 を 持 つ か 検 討 す る こ とを 目 的 と した 。
ま た 、 母 親 の 精 神 障 害 と 乳 児 の 行 動 特 徴 と の 関 連 に つ い て な さ れ たSameroffら(1982a, b)の 先 行 研 究 で は、 母 親 が 精 神 障 害 を 有 して い る と子 ど も の 行 動 特 徴 を よ り9̀扱 い に くい
"と 認 知 しや す くな る の で は な い か と論 じて い る
。 これ は 、 精 神 障 害 が 母 親 に よ る子 ど も の行 動 特 徴 の 測 定 の バ イ ア ス と な る可 能 性 を 示 唆 す る指 摘 で あ る 。 しか し、Sameroffら は精 神 障 害 の 判 定 を 妊 娠 中 に お こ な って い る の み で 、 行 動 特 徴 を 測 定 した 時 点 で の 精 神 状