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中華人民共和国海域使用管理法について

ドキュメント内 中国の海洋政策の日本 (ページ 126-200)

第7章  中国の造船

四  中華人民共和国海域使用管理法について

 

第1章  概説 

調査の過程で、中国の海域管理の政策手段として 2002 年1月1日から、中国において

「中華人民共和国海域使用管理法」が施行され、海域の利用が機能的・効率的に行われる ようになり、中国経済の発展のためにも国内的にかなり高く評価されているということが 理解された。 

海洋政策研究財団海洋政策研究所の「海洋白書 2005」では、「中国の沿岸域管理は、海 洋管理と一体になっている点に特徴がある。それに沿って、法制面での整備が進み、経済 開発の推進を目標としながらそれと平行して海洋管理、環境管理が行なわれているとして、

中国の沿岸域管理について次のように記述している。 

「中国は、1980 年代以降、沿岸域管理を含めて海洋管理に関する制度を整備している。

中国の海洋管理政策の中心を担っているのは、1964 年に発足した国家海洋局である。海 洋政策研究財団海洋政策研究所は、国家海洋局の役割を以下のように解説している。 

『国家海洋局は、発足当時に海洋環境モニタリングと測量業務を担当したが、1988 年 から統合海洋管理、海洋関連法制度整備、国家海洋開発プログラム策定、海洋利用区策定、

海上石油開発と関連した環境保全措置などの業務が加えられ、1993 年以降は海洋利用管 理と海洋資源保全も担うことになった。さらに、1998 年には海洋科学開発と環境関連基 準設定、海洋総量汚染物資管理などの業務も加えられた。 』 

法制面では、1982 年には海洋管理保護法が制定され、1986 年には沿岸域管理法が提出 された(未承認)。また、1996 年には中国オーシャンアジェンタ 21 が策定され、2002 年に は、海域使用管理法が公布、施行された。この法律は、海域の授権制度、海洋機能区域制 度、海域有料利用制度の3つの基本的制度を規定している。海域の利用では、埋立てや大 規模な海域の占有には許可が必要で、養殖、観光、鉱業、港湾などは 15 年から 50 年の年 限を限って使用権を認めるとしている。また、政府部門が全国海洋機能区分を策定し、地 方政府が地方海洋機能区分を策定するとし、沿岸域の機能を行政的に規定して、開発・保 全の誘導を図ろうとしている。 

2003 年には全国海洋経済発展要項が策定され、2005 年までに汚染物資の海洋への排出 量を 10%削減し赤潮などの被害軽減、河口、湿地帯、砂浜の保全、2010 年までに沿岸都 市域と重要港湾の整備を図ることが掲げられた。海洋経済区を、沿岸域、臨海地域、島嶼、

大陸棚、経済水域、公海海底区域に区分しており、優先地域である沿岸域、臨海地域とし て、長江周辺や福建省沿岸など 11 の総合経済区を指定している。」(海洋白書 2005,60-61 頁)。 

そしてさらに、海洋に対する中国の取組として、次のように述べている。 

「中国においては、1964 年に設置された『国家海洋局』の当初の環境・測量中心の任 務を次第に拡大し、90 年代には統合海洋管理、関連法制度整備、資源保全等の全般的監 督を担い、海洋の科学調査、観測、環境保全等の権限を与えられている。同国の海洋・沿 岸政策を最も総合的に打ち出したのは、海洋法条約を批准した 1996 年に発表した『中国 アジェンダ 21』であり、その包括目的は健全な海洋生態系の回復、合理的な海洋開発制 度の策定、および持続可能な開発の促進とされる。また、そこでは将来の統合沿岸管理お よび統合海洋管理システムの導入についても言及がなされている。 

主な法律としては、すでに漁業法、鉱物資源法、排他的経済水域法、大陸棚法、海洋環 境保護法(2002 年)等が制定済みである。 

以上のうち、海域使用管理法は、『海域』(領海および内水)が国家に所属すること、そ してその利用を意図するものは事前の許可を得て使用権を取得し、使用料の支払いを要す ることを明規している。また、海域の異なるタイプの機能区域に分けて開発管理を行う海 洋機能区域制度を定め、区域設定は、その位置と自然的属性、経済的、社会的発展の必要 性、生態環境の保全、海上交通の安全、国防・軍事的用途等の原則にしたがって設定され る。 

国に代って海域の所有権を行使するのは国務院とされ、その海洋行政主管部門、漁業行 政主管部門および海事管理機構は、それぞれ、海域使用の監督管理、漁業および海上の交 通安全についての監督管理を担当する。 

国務院は 2003 年、マクロレベルの指針、調整・計画を示すための『海洋経済開発に関 する国家計画大綱』を採択した。これは漁業、海運、石油ガス、観光、船舶、塩、化学工 業、海水脱塩・総合利用、海洋生物製薬の産業等を対象とし、その基本原則は、経済開発 と資源・環境保全双方の同等の強調、海洋生態系の保護強化、開発の規模と成長の環境の 収容力への適合等である。同大綱によれば、海洋経済の全体的目的はその国家経済への貢 献の増進、海洋経済構造と産業配置の最適化、基幹産業と振興産業の急速な発展、海洋生 態系の改善等である。 

将来の方針として、中国は、WSSD(持続可能な開発による世界サミット)の実施計画の

要請に答え、ことに次の6分野に力点をおくとしている。①計画制度の完成、ならびに国 家環境保全計画および渤海等のような主要海域に関する統合管理の実現、③海洋環境モニ ター・システムと海洋保全区域の設置と管理の強化、④海難の防止・軽減能力の改善、お よび海洋サービスシステムの完備、⑤無人島の開発、利用、保護の強化、および⑥周辺地 域における国際協力の推進。」(海洋白書 2005、79-80 頁)。 

このようにかなり詳細に報告されている。 

ところで、本研究は、中国が海運政策をどのように考えまた実行しているかということ について、現状を踏えつつ研究し、その結果を「中国の海洋政策と日本」という問題に繋 げていこうとするものであるから、「中華人民共和国海域使用管理法」について調査する ことは無駄ではないように思われる。日本にあっては、陸岸からやゝ距離がある海域は国 民の目がほとんど届かず、また外交あるいは国連海洋条約の問題であるとして関心を持た れることは少ない。内水面、取り分け東京湾、伊勢湾、大阪湾、瀬戸内海などの海域は漁 業、海上交通、ビックプロジェクト(東京湾横断道路の建設のような)、海洋性レクリエ ーション、埋立等々が、若干の法律に基づいて、各個バラバラに、ほとんどはそれぞれが 勝手に海域を利用しているという現状にある。明石海峡や備讃瀬戸にみられるように、商 船の船舶通航と漁業との調整は、問題が提起されてから数十年が経過しても何らの解決も なされていない。いわゆる「海域利用の調整」問題は我が国ではほとんど進展がみられて いないといってよい。法的にこの問題を調整すべきとする視点はほとんどないといってよ い状態のまゝである。 

まして日本の海洋政策として考えていこうとする発想などないように思われる。そのよ うな日本との比較において、中国において 2002 年に「中華人民共和国海域使用管理法」

が制定されたことは、海洋政策研究財団の報告でも指摘されているように、中国の海洋政 策を知る上で重要なファクターの一つであるように思われる。 

本研究は中国の海運を中心になされているのではあるが、海運は当然のことながら船舶 の運航、それは通航・航行を伴うものであり、船舶は海域を航行する。船舶の航行も重要 な海域利用の形態の一つであってみれば、海域利用、海域使用の問題もそれほど大きな的 外れでもないように思われる。本章においては、「中華人民共和国海域利用管理法」の全 訳文、及び、この法律実施のための「全国海洋機能区画」及び、それらを実施、施行して いくための国家の基本的な方針や解釈を示した 2003 年5月9日の中華人民共和国国務院 より発せられた「国務院の中国海洋発展計画要綱公布に関する通知(国発 13 号)」の全訳

を提示し参項に供することとした。加えて王曙光の論文「海洋経済発展計画実施及び海洋 経済の健全発展の堅持」も訳出したので参考として掲げておきたい。 

   

第2章  関係資料 

(1)  海洋経済発展計画実施及び海洋経済の健全発展の堅持 

  近年、国務院は「中国海洋経済発展計画綱要」(以下「計画」)を発布した。これは、中 国が制定した初の全中国規模の海洋経済発展の総合、指導性の計画であり、党中央、国務 院が中国共産党の第 16 回全国代表大会において提出された「海洋開発実施」の戦略的措 置を実行するための重要な動きとなった。「計画」は海洋経済発展の戦略目標、海域開発 原則及び海洋産業配置並びに関連支持領域における発展方向及び重要措置を確定した。

「計画」を実行して海洋経済の発展歩調を力強く推進し、中国を海運強国、船舶工業強国、

海塩生産大国、海洋観光大国及び海洋石油ガス資源開発大国とするとともに、最終的に海 洋強国と為し、ゆとりある社会を建設し、中華民族の偉大な復興を成し遂げるため、貢献 しなければならない。 

  海洋経済は戦略的意義のある振興経済領域である。 

  海洋は、人類が常に開発利用を行ってきた新領域であり、生物、エネルギー、水、金属 等の資源供給及び地球規模の環境改善等の面において、その重要度はますます高まってき ている。現在、海洋船開発及び持続可能な利用は沿岸諸国、とりわけ海洋大国の国家的戦 略となっている。 

  海洋経済とは人類が海洋を利用し形成してきた各種海洋産業及び関係経済活動の集合体 であり、漁業、交通運輸、石油天然ガス、海浜観光、沿岸造船、製塩、海浜砂採取、海洋 医学、海水利用等が主だったものである。20 年来、海洋経済は急速な発展を遂げ、世界 経済における比率は 4%以上に達し、重要な戦略的意義を持つ新たな経済領域となってい る。現在、多くの国家が積極的に海洋新技術を刷新し、海洋資源利用を深化させ、振興海 洋産業を触媒として、海洋経済発展を促進している。一部先進国の海洋産業は既に 20 を 数え、魅力ある新たな経済領域となっている。 

  中国の海域は広く資源も豊富であり、発展のための強い潜在力を有している。中国が面 している海域は熱帯、亜熱帯及び温帯に渡り、大陸の海岸線は 18000kmに及び、領海、

排他的経済水域及び大陸棚等の管轄海域は広大である。海洋漁業資源も豊富であり、近海

ドキュメント内 中国の海洋政策の日本 (ページ 126-200)

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