3.6 粒子の表式
4.10.2 中性子
中性子光学のための磁場の書式は、ほぼ荷電粒子の場合と同じですが、細かい点が異なりますので、ここ にまとめて説明します。まず書式の例題を下に示します。
[ Magnetic Field ]
reg typ gap mgf trcl polar time
1 60 0.00000 35000.0 3 non non
2 61 0.00000 35000.0 1 1 non
3 106 5.00000 7130.0 0 0 non
4 104 0.00000 3.5 0 non 5.0
5 102 0.00000 0.20 0 non non
6 101 3.00000 7130.0 2 1 non
7 103 0.00000 35000.0 0 -1 non
... ... ... ... ... ... ...
... ... ... ... ... ... ...
タイプは上の7種類あります。60、61は、最もシンプルな6極磁場で、重力効果や追加2極磁場は入れら れません。60は、スピンとの相互作用なし、即ちスピンは磁場に平行か反平行かで記述されます。61は、ス ピンとの相互作用が入ります。磁場の弱いところでのスピンの反転などが起こります。磁場の強さは、mgf のコラムに[T/m2]の単位で指定します。
次に100番台は、全てスピンとの相互作用を考慮しています。また、重力効果、追加の2極磁場が入れ られます。106が6極、104が4極、102が2極磁場です。z方向の追加2極磁場の強さは、gapのコラムに 記述します。単位はT(テスラ)です。
101は、磁場の値をユーザー定義ファイルusrmgf1.fで定義します。このユーザープログラムでは、原研 の中性子光学グループで測定された6極磁場の値が格納された4つのファイルからデータを読み込み、そ れらを内挿して計算に用います。磁場の強さは、mgfで定義した値に規格化します。gapのコラムで与えた 2極磁場は、定義した磁場領域全域に作用します。このサンプルを動かすインプットファイルsex03b.inを 添付しますので、参考にして下さい。
103も、ユーザー定義ファイルを参照するオプションです。103では、usrmgf3.fを参照します。usrmgf3.f には、6極磁場の式が書いてありますので、このまま動かせば、106を指定した時と同じになります。ユー ザー定義磁場を書く場合は、添付のusrmgf1.fとusrmgf3.fを参考にして下さい。
中性子のスピンは、ソースセクションでsx, sy, szで、定義すれば、その方向で磁場に入射します。ソー スセクションで定義しないか、sx, sy, sz全てがゼロの場合は、最初に磁場に入った時の磁場の方向で初
期化されます。その時、このセクションのpolarのコラムで定義される偏極率によりスピンの向きが磁場 に平行か反平行かの比率が決定されます。nonは、偏極率ゼロと同義です。偏極率Pの定義は、
P=ϕ+−ϕ− ϕ++ϕ−
ここで、ϕ+とϕ−は、スピンが磁場に平行な粒子数と反平行な粒子数です。
4.11 [ Electro Magnetic Field ] セクション
このセクションでは、指定した空間に一様な電場と磁場を設定するためのパラメータを定義します。
[parameters]セクションでielctf=1とすることでこのセクションで定義したパラメータが有効となり、
荷電粒子の電磁場中の運動を記述できるようになります。ただし、電子・陽電子についてはこの機能が動作 しないのでご注意ください。
電場と磁場は任意に併存させることができます。ただし、設定できるのは共に一様な場のみです。[Magnetic
Field]セクションで定義できる4極磁場は設定できません。
パラメータは、電磁場を指定するregionもしくはcellの番号(reg)、電場の強さ(elf)、磁場の強さ(mgf)、 電場の方向(trcle)、磁場の方向(trclm)です。場の強さelfとmgfの単位は、それぞれkV/cmとkGauss です。電場と磁場の方向trcleとtrclmは、座標変換番号trclを用いて定義します。これらを0とした 場合は、電場の向きがx軸の+、磁場の向きがy軸の+の方向となります。trcleとtrclmは省略できませ ん。場の強さを0とした場合やtrclが必要ない場合も0と入力してください。書式は以下のようになりま す。
[ Electro Magnetic Field ]
reg elf mgf trcle trclm
1 100 1 1 2
2 100 1 1 2
[t-track]タリーを用いて電磁場中の粒子の軌跡をプロットする場合は、[parameters]セクションにお
いてitstep=1とすると、より正確なタリー結果を得られるようになります。
[source]セクションのパラメータizst=を用いて入射粒子の電荷価数を指定した場合、電磁場中の運動
はその価数に応じたものになります。通常のPH ITS では、荷電粒子、特に原子核は、電場や磁場の中で電 荷価数Zの粒子として振る舞います。しかしながら、加速原子核では、電荷価数がZ、即ち全ての電子が 剥ぎ取られた状態以外に、幾つかの電荷状態が存在するときがあります。izstを用いることで、その状態 にある粒子の運動を模擬できるようになります。ここで指定された価数は、輸送の途中では変化しません。
ただし、核反応を起こし、生成される原子核には影響を及ぼしません。即ち、原子核反応で生成された原子 核の価数は、Zに戻ります。
4.12 [ Delta Ray ] セクション
このセクションでは、物質中を荷電粒子が通過した場合にその飛跡周辺に発生するノックアウト電子(δ 線)を2次粒子として発生させる機能をコントロールします。荷電粒子が通過する物質に与えるエネルギー
は、通常LET(dE/dx)として評価され、その軌道上にのみ付与されます。しかし、高エネルギーのδ線が発
生した場合などは、その輸送によって1次粒子の軌道から離れた位置にエネルギーが付与されることが知 られており、本セクションを利用することでその影響を調べることが可能となります。δ線生成断面積は、
ButtsとKatzの式29より計算し、そのエネルギーや角度を決定する際は相対論を考慮しています
真空(void)以外の領域毎に、δ線を発生させるしきい値エネルギーEth(単位はMeV)を決めることがで
き、この値より高いエネルギーのδ線を実際に2次粒子として発生させます。Eth以下のδ線の寄与は通常 のLETで評価しており、設定できるEthの最小値は0.001MeV(=1keV)です。ただし、Ethを10keV以下に 設定したり、δ線を発生させる領域の厚さをおおよそ10µg/cm2以下に設定すると、荷電粒子の挙動が多少変 化しますのでご注意下さい。具体的には、荷電粒子の実効的な阻止能が、δ線を多く放出しすぎることによ り高くなってしまいます。[delta ray]セクションを利用しない場合は、Ethにデフォルトの値として1.e+10 が入っており、事実上δ線は発生しません。領域番号とEthはそれぞれreg,delで指定します。その書式 は以下の例の通りです。
[ delta ray ]
reg del
1 0.1
11 1.0
.... ....
.... ....
同じ値の領域をまとめて書く、( { 2 - 5 } 8 9 )という書式も使えます。ただし、単一の数字で無い場 合は必ず( )で括ってください。しかし、( 6 < 10[1 0 0] < u=3 )などのlattice, universe構造は使 えません。領域番号(reg)としきい値エネルギー(del)の順番を変えたいときは、del regとします。読み 飛ばしコラム用のnonも使えます。GGの場合も、cellでなくregを使ってください。
29J. J. Butts and R. Katz, “Theory of RBE for Heavy Ion Bombardment of Dry Enzymes and Viruses”, Radiation Research 30, 855-871 (1967).
4.13 [ Super Mirror ] セクション
このセクションでは、低エネルギーの中性子のスーパーミラーによる反射の機能を定義します。ここで は、以下のような半経験的なスーパーミラーの反射率を仮定します。
R=
R0 if Q≤Qc
1
2R0(1−tanh [(Q−mQc)/W]) (1−α(Q−Qc)) if Q>Qc
ここでQは、散乱ベクター(Å−1)で、次のように定義されます。
Q=|ki−kf|= 4πsinθ λ
mは、ミラーの物質とレイヤーの数などに依存するパラメーターです。Qcは、一層のレイヤーによる臨界 散乱ベクター、これ以上のQで、反射率はαの傾斜で直線的にカットオフ値Q=mQcまで減少する。その ときのカットオフの幅はWで表される。
これらのパラメーターは、このセクションで次のように定義される。
[ Super Mirror ]
r-in r-out mm r0 qc am wm
{2001-2020} 3001 3 0.99 0.0217 3.0 0.003
2500 3500 3 0.99 0.0217 3.0 0.003
2600 3600 3 0.99 0.0217 3.0 0.003
.... .... .. ... .... ... ...
.... .... .. ... .... ... ...
.... .... .. ... .... ... ...
反射の面は、r-inが入射領域、r-outが反射体領域の間の面で定義されます。
同じ値の領域をまとめて書く、( { 2 - 5 } 8 9 )という書式も使えます。また、( 6 < 10[1 0 0] <
u=3 )などのlattice, universe構造も 指定できます。
上の標識のその他のパラメーターは、mをmmで、R0をr0、Qcをqc(Å−1)、αをam(Å)、Wをwm(Å−1) で定義します。
このスーパーミラーの反射は、10eV以下の中性子、また、sinθ >0.001の時に制限されます。後者は、表 面の粗さに因るものです。
4.14 [ Elastic Option ] セクション
このセクションでは、核データを用いる低エネルギー中性子の弾性散乱について、ユーザー定義の角分布 を与えるパラメータを指定します。ユーザー定義のサブルーティンのサンプルとして、usrelst1.fとusrelst2.f が用意してあります。これらは、パラメータセクションで、usrelst=1, 2で切り替えることができます。
書式は、以下のように、このオプションを適用する領域番号と、ユーザー定義サブルーティンで用いる4 つの定数を定義することができます。
[ Elastic Option ]
reg c1 c2 c3 c4
1 5 1 3.3 0.4
2 1 1 1.1 0.7
3 3 1 0.3 0.8
.... ... ... ... ...
.... ... ... ... ...
物質番号(reg)と(c1 c2 c3 c4)の順番を変えたいときは、reg c3 c2 c1 c4の様に定義行で変えます。
読み飛ばしコラム用のnonも使えます。同じ名前をまとめて書く、{ 4 - 7 }という書式も使えます。ただ し、( { 4 - 7 } 9 10 )という表式は使えません。
現在、サンプルサブルーティンとして入っている、usrelst1.fとusrelst2.fは、それぞれ、前者がデータベー スを用いたBragg散乱の角分布、後者が、任意の関数形を用いた角分布が記述できるようになっています。
4.15 [ Data Max ] セクション
このセクションでは、マテリアルの核種ごとにライブラリー利用の上限エネルギーdmaxを設定すること ができます。このセクションは、6つまで定義することができます。
[Data Max]
part = neutron proton mat nucleus dmax
all Fe 20
5 all 50
3 56Fe 150
最初の行にpart=の書式で輸送粒子を指定します。省略はできません。また、ここで定義できる粒子は、
version 2.86において、neutronとprotonだけです。
マテリアルごとに指定するときはmatコラムを用います。ここにはマテリアル番号、もしくは、allを 使うことができます。nucleusコラムで核種を指定します。56Fe、もしくは、26056の書式で指定します。
Fe、26000などの質量を指定しない場合は、その核種の全ての同位体を指定することになります。また、all
も使うことができます。dmaxのコラムでその核種のライブラリー利用の上限エネルギー(MeV)を指定しま す。(mat) (nucleus) (dmax)の順番は可変です。また、読み飛ばしのコラムnonも使えます。
同じ核種が重ねて定義されている場合は、後出が優先されます。
[parameters]セクションで定義される、dmax(1)とdmax(2)は、このセクションで定義されるdmaxの最 大値とすることが望まれます。
[parameters]セクションで、kmout=1を指定すると、file(6) (D=phits.out)にマテリアル毎に各核種 のdmaxが出力されます。
4.16 [ Frag Data ] セクション
このセクションでは、ユーザー指定断面積読み込み機能について定義できます。この機能を使用すること により、特定の粒子間の核反応イベントをユーザーが指定した断面積データを用いて模擬できます。ただ し、本機能で指定した粒子間、エネルギー領域にある反応に対しても、核データライブラリを使用する設定 になっている場合は、データライブラリにある情報が優先的に使用されます。また、指定できる入射粒子 は、陽子や中性子、原子核のみです。光子や電子は指定できないのでご注意ください。
書式は、以下のようになります。
[ Frag Data ]
opt proj targ file
0 12C 16O DDX_12C-16O.dat
1 proton 63Cu DDX_p-63Cu.dat
.... ... ... ... ...
.... ... ... ... ...
optが0の場合は指定した断面積を使用しません。これが1の場合は、projとtargで指定した粒子間の核反 応をfileで指定したファイルにある断面積データを基に模擬します。optが2,3の場合は整備中です。optが 4の場合は、入射エネルギーや放出角度、放出エネルギーについて、与えらたデータを基に単純な外挿を行 います。ただし、この外挿オプションは、以下に示すneoが正で、nagが0でない場合しか使用できません。
fileで指定する断面積データファイルの書式は、以下のようになります。
projectile target nei
ein(1) ein(2) ein(3) ... ein(nei+1) totxs(1) totxs(2) totxs(3) ... totxs(nei+1) neo
eout(1) eout(2) eout(3) ... eout(neo+1) nag
angle(1) angle(2) angle(3) ... angle(nag+1) nfrg
frag(1) frag(2) frag(3) ... frag(nfrg)
proxs(1,1) proxs(1,2) proxs(1,3) ... proxs(1,nfrg) ddx(1,1,1,1) ddx(1,1,1,2) ddx(1,1,1,3) ... ddx(1,1,1,nag) ddx(1,1,2,1) ddx(1,1,2,2) ddx(1,1,2,3) ... ddx(1,1,2,nag)
...
ddx(1,1,neo,1) ddx(1,1,neo,2) ddx(1,1,neo,3) ... ddx(1,1,neo,nag)