⑴ 改正の経緯及び趣旨
法人課税における中小法人(又は中小企業 者)の範囲については、平成22年10月の会計検 査院による意見表示やその後の税制調査会等に おいて、資本金の額 1 億円以下を中小企業とし て一律に扱い、同一の制度を適用していること の妥当性について検討が必要と指摘されていま した。
(注 1 ) 会計検査院の財務大臣・経済産業大臣に 対する意見表示では、「多額の所得を得てい て財務状況が脆弱とは認められない中小企 業者が、中小企業者に適用される特別措置 の適用を受けている事態が見受けられたこ とから、財務省及び経済産業省において、
地域経済の柱となり雇用の大半を担ってい る財務状況が脆弱な中小企業者を支援する という当該特別措置の趣旨に照らして有効 かつ公平に機能しているかの検証を踏まえ、
中小企業者に適用される特別措置の適用範 囲について検討するなどの措置を講ずるよ う意見を表示する」とされています。
(注 2 ) 政府の税制調査会の取りまとめた『平成 26年 6 月 法人税の改革について』の「 2 . 具体的な改革事項⑹中小法人課税の見直し
②改革の方向性ⅰ)中小法人の範囲につい て」では、「企業規模を見る上での資本金の 意義は低下してきており、資本金基準が妥 当であるか見直すべきである。仮に資本金 基準を継続する場合でも、中小法人に対す る優遇措置の趣旨に鑑みれば、真に支援が 必要な企業に対象を絞り込むべきであり、
1 億円という水準の引下げや、段階的基準 の設置などを検討する必要がある。特に会 計検査院からの「多額の所得を得ながら中 小企業向け優遇税制を受けている企業が存 在する」との指摘への対応は必要である」
とされています。
(注 3 ) 平成27年度与党税制改正大綱において、
「中小法人の実態は、大法人並みの多額の所 得を得ている法人から個人事業主に近い法 人まで区々であることから、そうした実態 を丁寧に検証しつつ、資本金 1 億円以下を 中小法人として一律に扱い、同一の制度を 適用していることの妥当性について、検討 を行う」とされ、平成28年度与党税制改正 大綱において、「実態を丁寧に検証しつつ、
資本金 1 億円以下の法人に対して一律に同 一の制度を適用していることの妥当性につ いて、検討を行う。資本金以外の指標を組 み合わせること等により、法人の規模や活 動実態等を的確に表す基準に見直すことに ついて検討する」とされています。
こうした中、平成29年度税制改正において、
各方面から示された中小企業税制に係る様々な 問題意識を踏まえつつ、企業経営への影響も勘 案し、中小企業向けの租税特別措置については、
特定の政策目的を推進する観点から、財務状況 の脆弱な中小企業に対して、特別に支援を行う ものであるという点に鑑み、大法人並みの所得 を超えて得ている中小企業を適用の対象外とす ることと整理されました。
(注) 資本金 1 億円超の大法人のうち利益法人の 10年間の平均所得金額は、約15億円となって いる一方、資本金 1 億円以下の中小企業のう ち利益法人にあっては、10年間の平均所得金 額は、10分の 1 程度の約1,600万円となってい ます(会社標本調査(国税庁))。こうした現 状を踏まえ、中小企業の所得が大法人並みの 所得である15億円を超える場合には、大法人 と同等の所得を得ており、財務基盤が必ずし も脆弱であるとはいえないことから、中小企
業であることによる政策的な税制上の支援等 までは要しないものと考えられました。
⑵ 制度の概要
次の中小企業向けの租税特別措置(要件の特 例を含みます。)について、中小企業者のうち 適用除外事業者に該当するものの事業年度にお いては、その適用等を停止することとされまし た。適用除外事業者とは、事業年度開始の日前 3 年以内に終了した各事業年度の所得の金額の 年平均額が15億円を超える法人をいいます(措 法42の 4 ⑧六の二)。
① 研究開発税制のうち中小企業技術基盤強化 税制(措法42の 4 ③④)
② 地方活力向上地域において特定建物等を取 得した場合の特別償却又は法人税額の特別控 除の投資規模要件の中小企業特例(措令27の 11の 3 )
③ 公害防止用設備の特別償却(措法43①一)
④ 自動車教習用貨物自動車の特別償却(措法 43①三)
⑤ 被災代替資産等の特別償却(措法43の 3 ②)
⑥ 中小企業等の貸倒引当金の特例のうち中小 企業等の法定繰入率の適用に関する特例(措 法57の 9 ①)
すなわち、上記①から⑥までの中小企業向け の租税特別措置については、財務基盤の弱い中 小企業を支援するという本来の趣旨を踏まえ、
これらの措置の適用を受けるための要件として、
課税所得の 3 年平均が15億円以下であることが 加えられたことになります。
本制度の創設の趣旨からも明らかなように、
大法人並みの所得を得ている中小企業を適用の 対象外とすることが目的ですので、中小企業者 が真に大法人並みの所得を得ていると認められ るためには、たまたま好調な単年度の経営状況 で判定されるのではなく、安定的に一定規模の 所得を得ている場合にのみ同等とする必要があ ると考えられたことから、事務負担も考慮して、
課税所得の 3 年平均とされたものです。
なお、上記以外の中小企業向けの租税特別措 置については、それぞれの適用期限との関係に より本制度の施行以後に適用があることが確定 していないことから、今般の改正では手当てさ れていませんが、適用期限の延長に応じて順次 改正が行われることとされています。ただし、
交際費等の損金不算入の中小企業特例(800万 円控除)(措法61の 4 ②)及び中小企業者の欠 損金等以外の欠損金の繰戻しによる還付の不適 用(措法66の13①)については、その目的が特 定の政策を推進するためのインセンティブ(動 機づけ)ではなく、むしろ法人税法における欠 損金の繰越控除の中小法人特例等といった中小 企業が安定的に企業経営を行えるように配慮し た原則的な対応に近いものであることから、適 用期限の延長等があった場合であっても、本制 度の対象にはならない予定です。
(注 1 ) 今後、適用期限が延長された場合に手当 てが予定されている制度は、次のとおりです。
・中小企業者等の軽減税率の特例
・環境関連投資促進税制の法人税額の特別 控除
・中小企業投資促進税制
・雇用促進税制の中小企業特例
・特定中小企業者等が経営改善設備を取得 した場合の特別償却又は法人税額の特別 控除
・中小企業者等が特定経営力向上設備等を 取得した場合の特別償却又は法人税額の 特別控除
・所得拡大促進税制の中小企業特例
・特定地域における工業用機械等の割増償 却の中小企業特例
・中小企業者等の少額減価償却資産の取得 価額の損金算入の特例
・中小企業者の事業再生に伴い特定の組合 財産に係る債務免除等がある場合の評価 損益等の特例
(注 2 ) あくまで本制度は、中小企業向け租税特 別措置の適用を受けようとする法人に対し
て要件の追加を行うものですので、それ以 外の法人(例えば、研究開発税制の特別試 験研究費に係る措置における共同研究又は 委託研究の相手方である中小企業者)につ いては、この対象外となっています。
(注 3 ) 上記③及び④については、その適用期限 が財務省告示において平成31年 3 月31日ま でと定められており、実態上は本制度の施 行時に適用があることは確定していません が、法制的な要請から、今般の改正で手当 てされています。
⑶ 適用除外事業者の判定における所得の金額の 年平均額
① 原則
中小企業向け租税特別措置の適用を受けよ うとする事業年度(以下「判定対象年度」と いいます。)開始の日前 3 年以内に終了した 各事業年度(以下「基準年度」といいます。)
の所得の金額の合計額を各基準年度の月数の 合計数で除し、これに12を乗じて計算した金 額とされています(措法42の 4 ⑧六の二)。
所得の金額は、各基準年度におけるいわゆ る課税所得の金額ですので、欠損金の繰越控 除制度等の適用後の金額となります。すなわ ち、通常は、各基準年度の申告書別表四の
「所得金額又は欠損金額」の欄に記載される 金額ですが、欠損金額が生じた基準年度にあ っては、この所得の金額は 0 円ということに なりますので、他の基準年度の所得の金額の 合計額により判定することとなります。
(注) 上記の所得の金額には、国税通則法第118 条の規定を適用しないので注意してください。
したがって、判定対象年度の前 3 年間にお いて、下記②イからヘまでの調整事由に該当 することがなければ、単純に、合計で36月以 上となる各基準年度の所得の金額の合計額を その合計月数で除し、12を乗じて計算した金 額が15億円を超えている場合には、適用除外 事業者に該当し、その判定対象年度の上記⑵