中国の国土面積は
960
万km
2があり、世界第3
位の広さである。海岸線の長さは約1.8
万km
がある。面積500m
2以上の海島は7,300
余り、そのうち有人島は400
余りが ある。1996年5
月15
日、「国連海洋法条約」が全国人民代表大会常務委員会にて批准 され、7
月7
日より中国に対して効力を有することとなった。「国連海洋法条約」の規定 によれば、中国が管轄する内水・領海の面積は38
万km
2、排他的経済水域の面積は300
万km
2がある1。図1:中国とその周辺海域
中華人民共和国領土概念図2(中華人民共和国中央人民政府ウェブサイドより)
中国は海を通じた隣国は北朝鮮、韓国、日本、ベトナム、ブルネイ、マレーシア、イ ンドネシア、フィリピンの
8
カ国である。東シナ海において、日本と大陸棚の境界画定 をめぐって紛争を抱えている。また、尖閣諸島(中国名:釣魚島列島)の領有権をめぐ り、中国は領有権の主張を行っていることに対し、日本は領有権をめぐる紛争が存在し ないと主張している。南シナ海において、中国はスプラトリー諸島(中国名:南沙群島)1 「中国海洋アジェンダ21」、1996年。
2 中華人民共和国中央人民政府ウェブサイド
<http://www.gov.cn/guoqing/2005-09/13/content_5043915.htm> [last access: 2016/12/28]
の領有権をめぐって、フィリピン、ベトナム、ブルネイ、マレーシアと争っている。パ ラセル諸島(中国名:西沙群島)の領有権をめぐって、ベトナムと争っている。
中国は、21 世紀は人類が海洋を開発・利用する新世紀であると認識している3。国家 戦略である「海洋強国を建設する」ため、海洋の持続可能な利用を確保すること、海洋 事業の持続可能な発展が中国の海洋戦略となっている4。具体的には、国家の海洋権益を 有効に擁護し、海洋資源を合理的に開発し、海洋の生態環境を確実に保護し、海洋の資 源・環境の持続可能な利用、海洋事業の調和の取れた発展を実現することである。
1.海洋基本法令
今日の中国の海洋関係の法律の形式や内容は多岐にわたり、単一の海洋基本法がない。
しかしながら、海洋事業面での政策と法制の整備に力を尽くしている。海洋関係政策と 法規を大きく分類すると
3
つがある。それは、海洋主権および管理に関する基本法律、海洋事業全般を規定する基本政策、海洋分野毎の法律と各種規定である。
中国では、全国人民代表大会及びその常務委員会が法律を制定し、国務院が行政法規 を制定し、省・自治区・直轄市と省・自治区行政府所在地の市の人民代表大会とその常 務委員会が地方法規を制定し、少数民族自治区の人民代表大会が自治条例、単独条例を 制定し、国務院の各部・委員会、中国人民銀行、審計署ならびに行政管理の職能を持つ 直属の機構、省・自治区・直轄市、省・自治区行政府所在地の市が規則を制定する5。
近年、中国では海洋基本法の制定が検討されている。2016年
3
月16
日、閉幕した第12
期全国人民代表大会第4
回会議で採択された「中華人民共和国国民経済・社会発展の 第13
次5
カ年計画綱要(2016年~2020年)」(以下、13
次5
ヵ年計画)の「第9
篇 地 域の協調的な発展の推進」に位置する全体計画の「第41
章 ブルーエコノミ空間の開 拓と発展」、「第3
節 海洋権益の維持と保護」では、初めて「海洋基本法」を制定する と5
ヵ年計画の中で明記した。その後、海洋基本法の制定について、4月13
日、国務院 弁公庁より各省、自治区、直轄市人民政府、国務院各部・委員会・直属機構宛てに「国 務院2016
年立法作業計画に関する通知」(以下、「立法作業計画」)が配布された6。立 法作業計画に含まれる立法案件は、「全面改革深化のための急を要する項目」、「年内完成 を目指す項目」、「準備項目」、「検討項目」の4
つに分類されている。国家海洋局が担当 する「海洋基本法」草案の起案作業は「検討項目」の1
項目として仕分けされている。3 白書『中国海洋事業の発展』、1998年。
4 「中国海洋アジェンダ21」、1996年。
5 「中国海洋アジェンダ21」、1996年。
6 「両部渉海洋法律法規修訂草案有望年内提請審議‐『海洋基本法』等一批法律法規列入国務院立法 工作安排」『中国海洋報』、2016年4月20日付。
なお、「海洋基本法」草案の起案作業が初めて「立法作業計画」の中で記入されたのが
2014
年の立法作業計画である。「立法作業計画2014」と翌年の「立法作業計画 2015」
において、海洋基本法及びその法案の起草作業が作業計画の「検討項目」の下にある「生 態文明建設の推進・生態環境の保護に関する立法項目」のなかで書かれている。
2.海洋基本政策
中国が認識する海洋政策とは、国家が海洋分野における任務と目標を実現するために 制定した行動準則であり、国家の海洋利益を実現させる政治的行為である7。また、国家 は海洋政策を制定する際の根拠と出発点は国家の海洋利益にある8。そして、中国の海洋 政策は、国の政治、経済、社会の発展といった全体的な政策の要求を体現したものであ り、海洋の開発利用、海洋の環境保護、海洋の権益保護といった各分野における具体的 な政策を制定するための政策原則であり、国の海洋事業をリードする役割を果たしてい る9。今日、中国の海洋政策の展開過程において、指導的地位にある基本法令と基本政策 について表
1
にまとめた。表1:中国の海洋発展戦略に関する基本法律と基本政策 種
別
名称 公布機関 採択期日
基 本 法 令
領海に関する中華人民共和国政府 の声明
全国人民代表大会常 務委員会
1958
年9
月4
日「中華人民共和国領海および接続 水域法」
全国人民代表大会常 務委員会
1992
年2
月25
日「中華人民共和国排他的経済水域 および大陸棚法」
全国人民代表大会常 務委員会
1998
年6
月26
日基 本 政 策
「中国海洋アジェンダ
21」
国家科学技術委員会、国家海洋局
1996
年「国家海洋事業発展計画要綱」 国務院 2008年
2
月22
日「国家海洋事業発展
12・5
計画」 国家海洋局 2013年4
月11
日 出所:筆者作成(各法規の名称を筆者が日本語式に書き換え)7 国家海洋局海洋発展戦略研究課題組『中国海洋発展報告(2009)』、海洋出版社、2009年、372頁。
8 同上。
9 海洋政策研究財団「平成17年度中国の海洋政策と法制に関する研究」『海洋政策と海洋の持続可能 な開発に関する調査研究—各国の海洋政策の調査研究報告書』、平成18年3月、3頁。
中国の主な海洋基本政策は以下の通りである10。
(1)1996
年5
月 中国海洋アジェンダ21
中国は、
1994
年11
月16
日に正式に発効された国連海洋法条約と1992
年にリオ地球 サミットで採択された持続可能な開発ための行動計画「アジェンダ21」の精神に基づき、
「中国アジェンダ
21—中国 21
世紀人口、環境と発展白書」(以下、中国アジェンダ21)
を制定し、今後の中国の発展に当たって実行すべき持続可能な発展戦略を確立した。中 国アジェンダ
21
のなかで、「中国は大陸国であると同時に沿海大国でもあり、中国の社 会と経済の発展はますます海洋に多く依存することになる」との認識を示し、「海洋資源 の持続可能な開発と保護」を重要アクション分野の一つとして取り上げた。海洋分野に おける「中国アジェンダ21」の精神の実行、海洋の持続可能な開発と利用を促進するた
め、1996年5
月、国家海洋局が「中国海洋アジェンダ21」を制定した。
「中国海洋アジェンダ
21」は海洋の持続可能な発展戦略・対策と主な行動分野に関して記述され、海洋
及び各領域の持続可能な開発と利用、海洋の総合的管理、海洋環境の保護、海洋の防災 と減災、国際的海洋事務、国民参加などを言及した。
「中国海洋アジェンダ
21」、全 11
章(第一章 戦略と対策、第二章 海洋産業の持続 可能な発展、第三章 海洋と沿海地区の持続可能な発展、第四章 海島の持続可能な発 展、第五章 海洋生物資源の保護と持続可能な利用、第六章 科学技術促進と海洋の持 続可能な利用、第七章 沿海区域、管轄海域の総合的管理、第八章 海洋の環境保護、第九章 海洋の防災、減災、第十章 国際的海洋事務、第十一章 国民参加)から構成 されている11。
(2)1998
年5
月 中国海洋事業の発展白書1998
年は国連が定めた国際海洋年であることから、中国はこれを契機に自国の海洋事 業の発展状況を説明するため、同年5
月25
日、国務院新聞弁公室より「中国海洋事業 の発展」と題する白書を発表した。白書は中国がそれまでに海洋事業を発展してきた過 程において、行ってきた基本政策と原則を全面的に述べた。白書は、中国が発展途中の 沿海大国として、国民経済の持続的発展のために海洋の開発と保護を一つの長期的戦略 任務としなければならない、そして、海洋資源の受容能力に基づく総合的な開発利用、10 本章(1)、(2)について主に、海洋政策研究財団『平成17年度 中国の海洋政策と法制に関する研 究(海洋政策と海洋の持続可能な開発に関する調査研究―各国の海洋政策の調査研究報告書)』、平成 18年3月を参照した。
11 「中国海洋アジェンダ21」各章の要約について、海洋政策研究財団『平成17年度 中国の海洋政 策と法制に関する研究(海洋政策と海洋の持続可能な開発に関する調査研究―各国の海洋政策の調査 研究報告書)』、平成18年3月、20-26頁を参照されたい。