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日本の約45倍の国土を誇るロシアは、北アジアから東ヨーロッパに亘る1,710万㎢

の国土面積を擁し、その国土には多様な自然環境と変化に富んだ地形が広がっている。

世界で最も多くの国と国境を接するロシアの隣接国は14カ国、この他に日本と米国と は海上国境線で接している。ロシアの国境線は 60,932km、うち海上国境線はおよそ

38,000kmにもおよび1、更に海岸線は60,000kmを超え、世界で最も長大な海岸線を持

つ国の一つでもある2。また、人口1億4千655万人のうち、およそ12%の約 1,800万 人が沿岸地域に居住し、85 の連邦構成主体3のうち 23 で、海洋への直接アクセスが可 能である4

図1:ロシアとその周辺海域

(出典:米国中央情報局 ”The World Fact Book”5

1Центральный пограничный музей ФСБ России, “Путеводитель”, available at:

http://ps.fsb.ru/history/museum/ekspozitsiya.htm

Центральный пограничный музей ФСБ России, “Подробная информация”, available at:

http://ps.fsb.ru/smi/appearance/detail.htm%21id%3D10321128%40fsbAppearance.html

2 海岸線60,000kmの内訳は、北極海:39,940km、太平洋:17,740km、バルト海:660km、アゾフ・

黒海:1,185km、カスピ海:1,460kmである。

Министерство природных ресурсов и экологии Российской Федерации, Государственный доклад "О состоянии и использовании водных ресурсов российской федерации в 2015 году", available at:

http://www.mnr.gov.ru/regulatory/detail.php?ID=341906

3 ロシアは、1993年に制定されたロシア連邦憲法の規定により、地域あるいは民族によって区分さ れた連邦構成主体による連邦制を採っている。連邦構成主体の数は、クリミア共和国とセヴァスト ポリ連邦市を含め85である。

4Федеральная служба государственной статистики, “Россия в цифрах 2016”, available at:

http://www.gks.ru/wps/wcm/connect/rosstat_main/rosstat/ru/materials/news/doc_1112164397766

Yuriy G. Mikhaylichenko and Valentin P. Sinetsky (2015), “The Marine Policy of the Russian Federation:

Its Formation and Realization”, Routledge Handbook of National and Regional Ocean Policies (pp.162-185).

5 https://www.cia.gov/library/publications/the-world-factbook/geos/rs.html

ロシアの海洋政策の背景には、これまで、複合的・統合的アプローチが不十分であ ったことが指摘されている。ソビエト社会主義共和国連邦時代(1922年-1991年)は、

セクター別アプローチが主流であり、開発の不均衡や投資のばらつき、また、異なる 省庁間に類似の組織が存在したことで機能的・技術的重複が見られ、省庁間で相反ま た敵対するようなこともあった。1960年代、70年代におけるソ連のシーパワーの増強 は著しく、民間船・軍用艦のアップグレードや、沿岸インフラの活発な開発、科学分 野の能力拡大などが認められる一方で、統合的アプローチの欠如により、そこには常 に困難が伴った。

1991年にソ連からロシアに転換したことは、政治的、社会的、経済的に抜本的な変 化をもたらし、ロシアの海洋活動にも影響を及ぼすこととなったが、現代のロシアの 海洋活動においても、統合的・近代的なシステムの構築は、未だ課題の一つとなって いる6

1. 海洋基本法令

ロシアには、海洋全般に亘る基本法令はなく、海洋活動における規制の枠組みは分 野毎に制定されている。資源の利用についても同様で、関係する事業者の利益が対立 することがあった場合にも、既存の枠組みはこれらの対立を緩和するツールとして機 能してこなかった。そこで現在、ロシアでは、複雑で相互に関与する海洋活動の現在 の状況を調整し、効率的なガバナンスツールを確立することを目指し、海洋活動に関 する新たな連邦法の策定に取り組んでいる。本連邦法は、ロシアの海洋政策を推進す る法的基盤として位置づけられており、ロシアの海洋政策を示す後述の「ロシア連邦 海洋ドクトリン」の改定と併せ、2013年から検討が進められてきたものである。本法 案の策定過程は以下のとおりである。

ロシア連邦の海洋活動の国家管理に関する連邦法7

ロシア連邦政府海洋協議会(以下、ロシア海洋協議会)は、「有効な国家海洋政策 の実行には、しっかりとした法的基盤が必要であり、そのような法整備により、ロシ アの海洋活動におけるガバナンスの統一性を目指す」という目的で2013年、「ロシア 連邦の海洋活動の国家管理に関する連邦法構想」を公表した。更に2014年には「ロシ ア連邦の海洋活動の国家管理に関する連邦法案」が公開され、ロシア海洋協議会のウ ェブサイトでパブリックコメントを募集した後、本法案は大幅に内容を充実させた。

2015年10月には法案が完成し、専門家の評価を得て、2015年12月にロシア海洋協議

6 Ibid., pp164.

7 Морская коллегия, Федеральный закон "О государственный управлении морской деятельностью Российской Федерации", available at http://portal.esimo.ru/cbmdserver/services/cbmd/doc/file/561102

会で報告が行われている。法案はまず下院(国家院)に提出され、下院で認められた 法案は、上院(連邦院)での承認へと進められる。上院での承認を得た法案は大統領 の署名へと進み法案成立となるが、現在、その進捗は明らかにされていない。

なお、本連邦法については、『2015年度総合的海洋政策の策定と推進に関する調査 研究各国および国際社会の海洋政策の動向8』を参照されたい。

2. 海洋基本政策

ロシアの海洋政策を示す公的文書は、「ロシア連邦海洋ドクトリン」である。2001 年に承認された「2020年までのロシア連邦海洋ドクトリン」は、海洋活動の意識の向 上とロシアの発展にとって海洋活動が重要であるとの認識に大きく貢献した。しかし ながら、海洋ドクトリンの承認から10年以上経過し、海洋ドクトリンの修正、文書全 体の見直しが必要であると考えられるようになり、ロシア連邦安全保障会議とロシア 海洋協議会によってドクトリン改正の要望書が提出され、これを受け 2015 年、14 年 ぶりにドクトリンが改定された。詳細は『2015年度総合的海洋政策の策定と推進に関 する調査研究各国および国際社会の海洋政策の動向9』で報告した。本ドクトリンの概 要は以下のとおり。

ロシア連邦海洋ドクトリン10

ロシア連邦海洋ドクトリンは、ロシアの国家海洋政策における最重要文書であり、

海洋政策の根幹となる文書である。ドクトリンの改定には、ロシア海洋協議会があた ったが、その過程には、ロシア海軍他、15の関係官庁や機関が参加した。改定ドクト リンで新たに示された特徴は以下のとおりである。

・国家海洋政策の実現の確保」において、初めて造船業の発展が示された。

・「国家海洋政策の機能的方針」において、新たに海底パイプライン運用の項目が 設けられた。

・「国家海洋政策の地域的方針」において、新たに、特定のフォーカスエリアとし て南極が設けられた。

改定された新ドクトリンで挙げられる4つの機能的方針(①海運、②天然資源開発、

③海洋科学、④海洋軍事活動)は、今後ロシアが注力する海洋活動の柱となるもので

8『2015年度総合的海洋政策の策定と推進に関する調査研究各国および国際社会の海洋政策の動向』

(海洋政策研究所、20163) 35-36頁。

9 同上、33-34頁。

10 Президент России, "Морская доктрина Российской Федерации", available at:

http://static.kremlin.ru/media/events/files/ru/uAFi5nvux2twaqjftS5yrIZUVTJan77L.pdf

ある。また、地域的方針には、新たに南極を加えた6つの海域(①大西洋、②北極、③ 太平洋、④カスピ海、⑤インド洋、⑥南極)が示され、とりわけ、太平洋地域では中 国、インド洋ではインドと、国名を挙げて友好関係の発展が示されていることが注目 される。

3. 海洋政策推進体制

ロシア連邦大統領をはじめ、複数の国家機関がロシアの海洋政策の実施と推進に関 わっており、その役割は先述の「ロシア連邦海洋ドクトリン」にも示されている。主 な機関と役割は以下のとおりである。

(1)

ロシア連邦大統領11

ロシア連邦大統領は、短期的・長期的展望による国家海洋政策の優先課題と内容を 決定する。憲法の権限に従い、世界の海洋におけるロシア連邦の主権的権利を保障し、

海洋分野における個人、社会、国家の利益と実現に対する措置を講じ、国家海洋政策 の指揮を執る。国家海洋政策の策定にあたっては、大統領の諮問機関であるロシア連 邦国家評議会12でも検討がなされる。

(2)

ロシア連邦政府海洋協議会13

2001年に組織されたロシア連邦政府海洋協議会は、2016年12月に創設15周年を迎 えた恒久的な機関である。協議会の代表はロシア副首相が務めることとなっており、

現在はロゴジン副首相(軍需産業担当)が代表となっている。本協議会は、連邦執行 機関や連邦構成主体の執行機関、また海洋活動、造船、海洋技術開発関連機関、およ び世界の海洋、北極南極調査等の研究開発関連機関の統一した活動を保障する役割を 担っている。

2000年代半ばからは、地方版ロシア海洋協議会といった地方の調整機関を機能させ、

連邦構成主体の首長や地元の沿岸域コミュニティの代表等による意思疎通の機会を設 け、沿岸地域の要求や特殊性への配慮にも取り組んでいる。ロシア海洋協議会は、ロ シアの海洋活動の実際的な活動の中心となっており、また、国家海洋政策の調整や実 施のための、科学的、政策的、経済的な提言の準備等も行っている。

11 ロシア大統領府公式ウェブサイト Президент России, http://www.kremlin.ru/

12 ロシア連邦国家評議会(Государственный совет Российской Федерации)は、 2000 年に大統領令に よって設置された大統領の諮問機関で、国民生活にとって重要な問題が検討されている。大統領が 議長を務める他、ロシア連邦議会の上院議長、下院議長、また連邦構成主体の首長等が評議会メン バーであるが、政府機関ではなく権力を有しない。

13 ロシア連邦政府海洋協議会公式ウェブサイトМорская коллегия при Правительстве Российской Федерации, http://mk.esimo.ru/portal/portal/arm-mk

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