第4章 高次脳機能障害者に対する高次脳機能障害ケアプログラ ムの一般病院における実証研究
第1節 一般病院で行われている高次脳機能障害患者の看護の実際
第4章 高次脳機能障害者に対する高次脳機能障害ケアプログラ ムの一般病院における実証研究
本章は第 1 節で一般病院における高次脳機能障害患者に対するケアプログラム開発に必 要な事柄を明らかにする。第 2 節で一般病院に必要な高次脳機能障害ケアプログラムを試 作する。第 3 節でケアプログラムの実践準備として一般病院の看護師に準備教育を行う。第 4 節でペーパーペイシェントを用いて作成したプログラムを実際に使用する研修を行い実 践の準備を行う。第 5 節に一般病院で高次脳機能障害ケアプログラムを実践する。第 6 節 で実践した看護師から高次脳機能障害ケアプログラムの評価を得て課題を追及する。
第1節 一般病院で行われている高次脳機能障害患者の看護の実際
1-1 目的
本節は、本研究である地域の町立病院または市立病院などの一般病院における高次脳機 能障害患者の日常生活上の課題に対する看護師が行うケアプログラムを開発するにあた り、一般病院で働く看護師の高次脳機能障害患者のケアの困難状況、ケアでの成功体験、
病院のケアシステム、高次脳機能障害の評価システムを調査することで高次脳機能障害患 者の看護の現状を把握することにした。その病院独自の高次脳機能障害ケアプログラムを 作るうえで成功体験の内容を把握することは重要であり、すでに病院の看護師が体得した 技術や方法は、作成するケアプログラムに組み入れることができるからである。
地域の一般病院独自の高次脳機能障害患者のためのケアプログラムを開発するために、
一般病院における高次脳機能障害患者の看護で成功事例、病院の評価システムについて調 査し、一般病院における高次脳機能障害患者に対するケアプログラム開発に必要な事柄を 明らかにする。
1—2 方法
1-2-1 調査対象
調査対象は病院と看護師とした。病院は千葉県南部にある 100~300 床で療養型病棟を もつ町立病院および市立病院とし、調査対象の看護師は上記施設で 1 年以上勤務している 看護師とした。
1-2-2 調査期間
調査は平成 28 年 8 月 30 日から年 9 月 30 日に実施した。
1-2-3 調査内容
管理者より、①入院患者数、②高次脳機能障害者入院数、③看護師数、④高次脳機能障害 の看護システム、⑤電子カルテ搭載の高次脳機能障害の看護計画について⑥高次脳機能障 害の評価システム、⑦研修や勉強会について聞き取り調査を行った。
52
看護師より、①高次脳機能障害者の看護経年年数、②高次脳機能障害者のケア研修経験の 有無、③電子カルテに搭載されている高次脳機能障害の看護計画の利用について、④高次脳 機能障害者のケアで困っていること、⑤高次脳機能障害者に行ったケアで成功した内容に ついて調査用紙に回答を求めた。なお、④、⑤は自由記述とした。
1-2-4 回答方法
看護師対象の調査は無記名で回答し、回収は病院内の指定された場所に留置くように依 頼した。
1-2-5 分析
質問の回答である自由記述の内容を意味が分かる範囲の文節に分け、コード化し、コード 内容の共通性、意味の類似性によってサブカテゴリ化した。さらに抽象度を上げてカテゴリ 化した。分析にあたっては質的分析の経験のある 3 名の研究者で行った。なお以下では、カ テゴリは【 】、サブカテゴリは『 』、コード群は「 」で表示することにした。
1-2-6 倫理的配慮
本研究は、千葉科学大学倫理審査(承認 No.28-9)を受け、施設管理者に研究趣旨と方 法等を文書および口頭で説明し承認を受けた。対象者には、研究趣旨を口頭で説明し、質 問紙が入った封筒に研究趣旨、不利益を被らないこと、途中の撤回可、匿名化について記 載した文書を同封した。研究への承諾は質問紙の回答を得たことで承諾とみなした。
1-3 結果
1-3-1 調査対象の病院について
A 県の町立病院で内科・外科・整形外科の常勤医による診療および脳神経外科・眼科・
耳鼻咽喉科・婦人科・皮膚科・泌尿器科の外来をもち、一般病床 55 床、療養病床 45 床の 計 100 床、患者数の 7 割が高齢者であった。月平均外来患者数 185 名、月平均入院患者数 は一般が 55 人、高次脳機能障害者の入院件数は月平均 2~3 人であった。平均在院日数 15.2 日、看護師数は一般病棟 26 名、療養型病棟は看護師 10 名、手術室 10 名、外来 10 名、地域包括部門 4 名の計 60 名であった。看護は、固定チームナーシング方式で、日替 わり受け持ち制、一部機能別看護システムであった。日勤で 6~8 名の患者を受け持って いた。電子カルテを採用しており、高次脳機能障害の標準的看護計画は搭載されていた。
搭載内容は注意障害、記憶障害、半側空間無視、失語症があった。高次脳機能障害患者の 認知機能の評価の指示は主治医が行っており、必要時,リハビリテーション部門に検査を 依頼していた。検査の内容は、運動麻痺評価 Brunstrom Stage、MMST,コース立方 体、ADL 評価であった。研修に関しては本人の希望を重視し、日本看護協会での中央研修 に個人が自由に選択していた。病院の勉強会は定期的に開催され、看護師だけではなく、
全職員に必要な内容で感染防止方法や業績発表などであった。
53 1-3-2 調査対象の看護師について
60 名の看護師の平均勤務経験年数は 6.5(±3.2)年であった。質問紙の回収率は 100%
で、60 人の看護師全員から有効回答を得た。高次脳機能障害者のケア研修の経験有りと答 えた者は 60 人中 10 名(16.6%)であった。
1-3-3 電子カルテに搭載された高次脳機能障害の看護計画の利用について
電子カルテに搭載されている高次脳機能障害の看護計画の利用に対しては、「入院の度に 利用する」が 10 名(16.6%)、「一部利用する」が 7 名(11.6%)、「利用しない」が 43 名(71.6%) であった。
1-3-4 電子カルテに搭載された高次脳機能障害の看護計画を利用しない理由について 回答は複数回答で、以下の結果となった。
①「患者の状態(看護上の問題)と電子カルテの問題表記が合わないことがある」が 43 名 (71.6%)であった。
②「患者の状態(看護上の問題)の問題リストがない」が 40 名(66.6%)であった。
③「記載にある患者の計画が実践できるとは思わないから」が 38 名(63.3%)であった。
④その他の自由記載には 5 名が記載した。記載の内容は「高次脳機能障害自体があると は思うが、何の障害かわからないから」、「いくつかの高次脳機能障害があってなにをど のようにやってよいかわからない」、「障害が複合していてわからない」、「障害がある が、はっきりわからない」、「多くの問題がありすぎて、電子カルテの内容をどこからや ってよいのか、順番が分からない」であった。
1-3-5 高次脳機能障害者のケアで困ったことについて
ケアで困っていることは 754 コードにまとめた。さらにコード化した内容を、その類似 性から 7 サブカテゴリにまとめ、最終的に 2 つのカテゴリにまとめた。以下に、これら2 つのカテゴリについて示した。なお、コードは『 』で示した。
カテゴリ1【各高次脳機能障害から起こる問題に対する困難感】
このカテゴリは 381 コードからなり、『(1)記憶障害の人への対応が分からない』、『(2) 注意障害の人への事故防止の対応困難』、『(3)易感情性の人への対応が分からない』の 3 つのサブカテゴリからまとめた。
カテゴリ2【知識不足に対する対応困難感】
このカテゴリは 373 コードからなり、『(1)看護の方法がわからない』、『(2)知識不足に よる不安』、『(3)接し方が分からない』、『(4)退院指導ができない』の 4 つのサブカテゴリ からまとめた。
54
表4-1 高次脳機能障害者のケアで困ったこと(n=60,754 コード)
1-3-6 高次脳機能障害者に実施したケアで成功した内容
ケアで成功した内容は 156 コードにまとめた。さらにコード化した内容をその類似性か ら 10 のサブカテゴリにまとめ、最終的に 4 つのカテゴリにまとめた。以下カテゴリについ て示した。なお、コードは『 』で示した。
カテゴリ1【記憶障害に対するケア】
このカテゴリは、73 コードからなり、『(1)記憶補償の対応』、『(2)記憶の補償手段活用』、
『(3)記憶の補償手段活用』の 3 つのサブカテゴリからまとめた。
カテゴリ2【易感情性に対するケア】
このカテゴリは、28 コードからなり、『(1)興奮時の距離の取り方』、『(2)人を変える方法』、
『(3)興奮する人への対応方法』の 3 つのサブカテゴリからまとめた。
カテゴリ3【注意障害に対するケア】
このカテゴリは、23 コードからなり、『(1)注意障害に対応する方法』、『(2)注意障害への 統一した関り』の 2 つのサブカテゴリからまとめた。
カテゴリ4【無視症候群に対するケア】
このカテゴリは、32 コードからなり、『(1)無視することの危険や予防的な関り』、『(2)無 視に対応する方法』の 2 つのサブカテゴリからまとめた。
カテゴリ サブカテゴリ コード群 コード数
①記憶障害がある人の具体的な対応方法 27
②記憶の障害のある人への言葉かけが難しい 33
③記憶がなく、歩き回れると夜間の対応ができないのでどうするのか 41
④動ける高次脳機能障害者で記憶がない場合、迷子になるときの対応 18
①注意障害がある人への転倒防止について 53
②ぼんやりしているおり、事故起こすことが予想され、身体抑制は良いのか分からない 11
①感情が爆発している人への薬の使い方 38
②興奮している場合の対応がわかない 42
③興奮しているために何をされるか怖い 39
④看護師だから、何とかしなくてはいけないと思うがうまくできないことを痛感する 12
⑤感情的な場合のコミュニケーションの方法 35
⑥どのようなことで不穏や乱暴になってしまうのかアセスメントできない 32
①看護はどうやったらいいのか分からず不安、教えてほしい 26
②電子カルテ上の計画が当てはまらない、うまくいかない 15
③高次脳機能障害の人の個別性があり、看護計画を立てられない 16
①高次脳機能障害者への対応の知識がないのでやっていることに自信がない 48
②高次脳機能障害全般について知識がないので教えてほしい 49
①高次脳機能障害者への基本的な対応方法がわかないので困る 51
②基本的な接し方がわかない不安 55
③接し方が難しい、避けてしまう 16
④理解の程度がわからないので言葉のかけ方がわからない 23
①家族に上手くいく方法について伝えることができないため、退院指導ができない 29
②家族への指導を行っているが自信がない 31
③退院指導で何を伝えればよいのか困っている 14
2 .知識不足による 対応困難感
(373コード)
1 .各高次脳機能障害 から起こる問題に
対する困難感 (381コード)
(2)注意障害の人への 事故防止の対応困難
(64コード)
(3)易感情性の人への 対応が分からない
(198コード)
(1)記憶障害の人への対応が 分からない
(119コード)
(3)接し方が分からない
(145コード)
(4)退院指導ができない
(74コード)
(1)看護の方法が分からない
(57コード)
(2)知識不足による不安
(97コード)