---先生、ゴール分析をすることで、何を教えるべきかが明確になったような気 がします。
一口で「これを教えます」と言っても、その内容には運動技能から認知的技能、
そして態度まであることが分かったでしょ。
---まず教える内容を分析することが必要なんですね。
そういうことだ。
---これでやっと、教え方に進むことができますね。
うむ。教え方というと、私たちはすぐにレクチャーを考えてしまうけれども、ID ではレクチャーはあくまでもリソース(学習資源)のひとつとしてとらえられ る。
---レクチャーを聞いても、居眠りをしていたら学習は起こりませんものね。
そうだ。とはいえ、レクチャーは決まった内容を効率よく伝えるには、効率の良 い方法だということはできる。
---じゃあ、なぜ居眠りをしてしまうような退屈なレクチャーが多いんでしょう か。
それはレクチャーのデザインに工夫が足りないんだ。
10.1 向後の宇宙船モデル
ここまで、最初にニーズを分析し、ニーズにあったゴール分析をするという話をしてき ました。ここで、インストラクションの全体像をモデル化したものを提示しておきま しょう。図10.1に示すものがそれです。名前は何でもいいのですが、とりあえず「向 後の宇宙船モデル」という名前をつけておきましょう。
この宇宙船のエンジンにあたる部分がニーズ分析になります。ニーズ分析から出発して それがインストラクション全体の推進源になるということです。宇宙船の先頭に来る のが、ゴールです。ゴールを目指してインストラクションが進むということです。そし て、左側の翼がリソース(学習のための資源)、右側の翼がフィードバックになりま す。そして胴体部分が学習者が行う活動です。活動の前後に、事前・事後と書いてある のは、それぞれ事前テスト、事後テストです。
N:
ニーズ 事A:
活動A:
活動A:
活動G:
ゴール前 事
後
R:
リソースFB:
フィードバック図10.1 向後の宇宙船モデル:インストラクションの全体像
向後の宇宙船モデルのパーツは、ひとつひとつ独立していますが、全部が組み合わ さって、一つのインストラクションやコースを構成しています。したがってどこか一箇 所欠けただけでも、この宇宙船は上手く飛びません。ニーズをあいまいにしたまま、
インストラクションをおこなえば失敗します。また、ニーズがはっきりしているの に、ゴールが不明瞭であると迷走します。したがって、全てのパーツを組み合わせ、デ ザインすることが非常に重要です。
今回はそのパーツの中でもリソースについて学びます。
リソースとは
リソースとは、学習資源のことです。たとえば、教科書やワークブック、スライド、イ ンターネット上の情報、本、参考書、研究論文、そして、レクチャーも学習資源で す。
ここでは、R. M. Gagné(アメリカの教育工学の研究者)の9教授事象を援用して、イ ンストラクションを作っていきます。
10.2 ガニエの9教授事象
ガニエは、教えるという行動がうまく行くためには、9つのイベント(出来事)を授業 やコースの中に入れることが必要として、それをモデル化しました。その全体は、大 きく4つの部分からなっています。
• 導入 :新しい学習への準備を整える
• 情報提示:新しいことに触れる
• 学習活動:自分のものにする
まず、導入として、新しい学習の準備を学習者にしてもらいます。準備ができたところ で、学習者が習ったことのない新しい情報を提示します。学習者が受け取っただけで は自分のものになりません。一通り新しいことにふれたあとに、学習活動を行い、自 分のものにするようにします。最後に、まとめとして、自分ができたかどうかをテス トし、さらに忘れないように、将来、活用できる工夫をします。以上が全体の流れで す。
さらに細かく、ガニエの9つの教授事象を見てみます。
• 《導入》
• 1. 注意を引く
• 2. 目標を知らせる
• 3. すでに知っていることを思い出させる
• 《情報提示》
• 4. 材料を提示する
• 5. 学習をガイドする
• 《学習活動》
• 6. 練習の機会を作る
• 7. フィードバックする
• 《まとめ》
• 8. 評価する
• 9. 保持と転移を促す 導入:新しい学習への準備を整える
導入には「注意を引く」「目標を知らせる」「すでに知っていることを思い出させ る」という3つがあります。ガニエは、新しいことを学ぶ前の準備状況が非常に大切 だと考えていたと思います。教える側はあまりに当たり前なので、省略しがちです が、これをきちんと入れることで、インストラクション全体がしまってきます。ま た、学習者も新しいことを学ぶ準備ができるので、スムーズに授業に入って行けます。
(1) 注意を引く
• 1a 変わったもの、突然の変化で授業を始める。
• 1b 知的好奇心を刺激するような問題を使う。
• 1c エピソードや問題の核心など面白いところから始める。
インストラクションの一番初めは、学習者がこれからやろうとしていることに注意を 引き、集中させることが大切です。また、「これから始める」ことを知らせる必要が あります。この注意を引く方略として「変わったもの、突然の変化で授業を始める」
「知的好奇心を刺激するような問題を使う」「エピソードや問題の核心など面白いと ころから始める」の3つがあります。
毎回同じようなパターンで始まって終わるのではマンネリ化してしまいます。最初にい つもレクチャーから始まるところをビデオから始めるなど、ちょっとした変わったも の、突然の変化をつけて授業を始める方法や、最初にクイズをだし、皆で答えてもら うことから始めるなど、知的好奇心を刺激して注意を引く方法があります。
変わったことやクイズなどがない場合には、エピソードや問題の核心など面白いとこ ろから始めます。自分が一番話したいところから話すと、学習者の注意を引くことが できます。
このどれかの方略をつかって、学習者に「なんだろう?」という意識を持たせること ができれば、学ぶ姿勢ができたことになり、次の段階に進むことができます。この注 意を引くということは、さりげないことですが、非常に重要なことなのです。
(2) 目標を知らせる
• 2a 「今日はこれを学ぶ」を最初に明らかにする。
• 2b どんな点に注意して聞けばよいか、チェックポイントを示す。
• 2c 学ぶことが今後どう役立つのかを確認し、意味を見つける。
• 2d ゴールにたどりついたときに喜べるようゴールを確認する。
注意を引いた後は、学習者に目標を知らせます。「今日はこれを学びます」と最初に 明らかにすると、学習者はそれなりにロードマップを計算することが出来ます。ま た、どんな点に注意して聞けばよいかのチェックポイントを「こういうことを学ぶの で、ここに注意してください」とセットにして、明示してあげることも大切です。
学ぶことが今後どう役立つのかを確認し、学習者にとっての意味を見つけることは、
関連性の意味からも必要です。今、学んでいることと、今の自分や今後に関連性を見 つけやすくしてあげることにより、学習者の動機づけが高まります。学習者にとっ て、学ぶことは新しいことなので、新しいことが自分にとってどう関連するかは分か らないことがほとんどです。学ぶ内容がこんなふうに役立つと説明することは重要で す。
ゴールにたどりついたときに喜べるようゴールを確認することは、今日はこれを学ぶ ということとセットにして明示します。「こうなったら、今日の学びをマスターした ことになる」というゴールを設定し、「今日はこれをやります」と導入の段階で知ら せます。
(3) すでに知っていることを思い出させる
• 3a 新しい学習に必要な基礎事項を復習する。
• 3b 学ぶことが以前学んだこととどう関係しているかを示す。
• 3c 復習のための確認テスト、簡単な説明、質問をする。
導入の最後は、すでに知っていることを思い出してもらいます。これから新しい学習
がって、その学習内容がちゃんと獲得されていないと、新しい学習は積み重ならない ことになります。ですから、新しい学習に必要な基礎事項を復習することから始めま す。もし、基礎事項が解っていなければ、新しい学習は成立しないので、そこから始 める必要があります。
新しい学習とはいえ、学ぶことが以前学んだこととどう関係しているかを示す必要が あります。たとえば、前の学習の積み重ねなのか、反対のことなのか、それとも応用 なのかという関連性を示します。
必要な基礎事項を理解しているかをチェックするために、復習のための確認テスト、
簡単な説明、質問をして確認します。確認テストを行うと、自分でもどこまでできて いるのかの確認できますが、時間があまりない場合は、簡単な説明や質疑応答で復習 するという方法もあります。
情報提示:新しいことに触れる
導入が終わると、情報提示に進みます。情報提示には「材料を提示する」「学習をガ イドする」という2つがあります。
(4) 材料を提示する
• 4a 手本を示し、学ぶことを整理して伝える。
• 4b 具体的な例を豊富に使う。
• 4c まず代表的で簡単な例を示し、特殊な、例外的なものへ進む。
• 4d 図表やイラストなどの表示方法を工夫する。
材料を提示するには、まず、これからやることのお手本を示しながら、これから学ぶ ことをできるだけ整理して伝えます。ここで細かく、詳しく説明すると学習者が混乱 してしまうので、まずは要点を示し、うまく整理して伝えます。具体的な例は、学習の 助けになります。例を示す場合は、はじめは代表的で簡単な例を示してから、特殊な 例や例外的なものへと進むというようにデザインします。これは、行動分析学で学ん だスモールステップの考え方に合致しています。
どんな提示方法を取ればよいかについては学習スタイルと関連があります。学習者に よって「話を聞くとよく理解できる」というタイプの人がいる一方で、「絵やイラス ト、図のような視覚的なものがあるとよく理解できる」というタイプの人もいます。
どちらのタイプにも適合するように「スライドを提示しながら、お話をする」ように するとよいでしょう。学習者によってさまざまな学習スタイルがあるので、なるべく 多様なタイプをカバーするような方法でやっていくのが、インストラクショナル・デ ザインの考え方です。
(5) 学習をガイドする
• 5a これまでの学習との関連を強調し、つなげる。
• 5b よく知っていることとの比較などを使う。