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ニーズとゴール

ドキュメント内 09IDWB (ページ 69-79)

---先生、ニーズは分かりましたので、さっそく教え方を教えてください。

この前にも言ったでしょ。教えるということはインストラクショナルデザインの ごく一部にすぎないのだよ。

---教え方を学ぶ前にすることがあるんですか?

そうだ。まずゴールを決めることだ。

---ゴールって、サッカーの?

そう。サッカーではボールをゴールに入れることが最終到達点だ。その途中の過 程として、パスやセンタリングがあるわけだ。

---なるほど。教える前に、ゴールを決めなくてはいけないのですね。

そうじゃないと、パスばっかりしているようなものになっちゃうよ。ゴールが はっきりしているからパスの意味があるんだ。

---そう言われれば、「なんでこんなことやらされているんだろう」って思って しまう授業ってありますね。

そう。それはゴールが学習者に見えていないんだ。

9.1 ニーズ分析

ニーズとは、自分が実際にこうなりたいと思うあるべき姿から、現状を引いたもので す。これは、実際にこうやりたい(あるべきパフォーマンス)のに、こうしかできな い(実際のパフォーマンス)、その両者にギャップがあるので、パフォーマンス・

ギャップとも呼ばれています。ここで問題となるのが、このあるべき姿を誰が決める のか、ということです。

前回では、「自分がこうなりたい」というあるべき姿を考えました。これを学習者の ニーズと呼びます。ニーズには、この学習者のニーズ以外に、社会のニーズと領域専門 家からのニーズがあります。

まず、社会のニーズです。たとえば、小学校を卒業した時に、どのくらい漢字を覚えて おいて欲しいかというあるべき姿は個人で決められるものではありません。小学校卒 業時には、この程度の漢字を覚えておいた方が良いということが社会全体として決 まってきます。すなわち社会全体の利益、社会全体のコミュニケーションを上手く活 かすために、必要なあるべき姿が規定されます。このことを社会のニーズと言います。

次に、領域専門家からのニーズがあります。このニーズは少し曲者です。たとえば、歴 史学者達が、領域専門家のコミュニティを形成し、それは組織としてもオーソライズ

されています。その人達が声をそろえて、この程度の日本の歴史を覚えておいたほうが 良いと要望を出すケースがあります。これが領域専門家のニーズになります。

しかし、領域専門家のニーズが必ずしも社会のニーズに合致しているわけではありませ ん。なぜならば、社会全体から見ると、領域専門家コミュニティとしては特殊な人達 が集まっているからです(だからこそ領域専門家なのです)。この領域専門家のニー ズが時々、社会としては的外れであることもあります。これは専門家が自分たちの専 門家のアイデンティティを守るために起こることです。よって、領域専門家のニーズの 場合も、学習者のニーズ、社会のニーズによってチェックしていかなければなりませ ん。

このように、単にニーズと言っても、学習者のニーズ、社会のニーズ、そして領域専門 家のニーズがあるので、これらのバランスを常に考えることが重要です。そして、イン ストラクションデザインの視点では、まず学習者のニーズを重視することが求められ ます。

9.2 教育ゴール

ニーズが決まるとゴールが決まります。このゴールを教育ゴールと呼びます。ゴールは ニーズ分析から発生し、学習者がインストラクションを受けた結果、何ができるよう になるのかを決めたものがゴールです。

ここで教育ゴールを考えるポイントは、「その行動を明確に、そして観測可能な形で 書く」ということです。具体的に、単純明快にゴールとなる行動を書きます。

観測可能でない形というのは、「知る、理解する、親しむ」といった動詞です。たと えば、「情報社会における生活の危険性について知る」とか「情報社会でいかに良く 生きるべきかを理解する」、また「パソコンやインターネットに親しむ」と書かれて いても、その人が「知る、理解する、親しむ」という状態になるっているかどうか は、観測不可能です。

これを観測可能にするためには、具体的に「○○についてこのようなことを知ってい ます」と言ってもらったり、「1〜10までを足し算するようなプログラム」をC言語で 作ってもらったりすれば、それは観測可能となり、目標が達成されたかどうかを判定 することが可能になります。すなわち、パソコンに親しむといっても観測不可能なの で、パソコンに親しんでいる様子を具体的な行動でデモンストレーションすることで 初めて観測可能になります。

教育ゴールでは、「どんなときに(条件)」、「どんなことが(行動)」、「どの程 度できればよいか(基準)」を考えます。たとえば、テニスのサーブを例にあげる と、ダブルフォルトをせずに、ボールを正しくサーブできることが教育ゴールです。し かし、このままでは、まだ具体的になっていないので、条件・行動・基準を考えま す。たとえば、正式なコートを使って(条件)、サーブを打って(行動)、20本中16

本以上入れば良い(基準)とします。これは誰が見ても観測可能なので、教育ゴール として採用できます。

9.3 ゴール分析

教育ゴールは、次の5種類に分類されます。

まず最初に、運動技能です。たとえば「テニスのサーブを打つ」というようなゴール です。

2番目は知的技能です。たとえば、「テニスのゲームのカウントが正しくできる」と いうのは知的技能になります。テニスのカウントはフィフティーンから始まって、サー ティそしてフォーティで1ゲーム取れます。これがちゃんとカウントできるというのが 知的技能です。

3番目は言語情報です。たとえばテニスでネットにかすってコートに入ったサーブのこ とを「レット」と呼びます。このレットとはやり直しという意味ですが、それを知っ ているということが言語情報のゴールです。

次の4番目の認知的方略は、「学び方を学ぶ」ということですが、ここでは省略しま す。

最後は態度です。たとえば、「テニスの試合中に紳士的な態度をとることができる」

というのがゴールにできますので、これは態度のゴールといえます。

態度のゴールになると、複雑な状況でどの様に判断するかというゴールになります。そ の状況でどう判断するか、どう行動するかは、一言で表現できないので複雑になりま す。よって、それを総合して態度と呼んでいます。しかし、複雑な態度も、細かく分類 すると、運動技能、知的技能、言語情報に分解することができます。

ゴール分析

ゴールを決定すると、そのゴールを達成するためにどのようなステップをすればよい のかということを分析する必要があります。たとえば、「テニスのサーブを打つ」と いう運動技能のゴールを設定すると、「正しい位置に足を置く」、「ボールを適切に トスする」、「それに対してラケットを振りぬく」「打った後、次の球に備えて構え る」という四段階のステップが設定できます。このように最終的な教育ゴールを下位 のゴールに分解することをゴール分析といいます。

運動技能と知的技能では、上位のゴールは複数の下位のゴールに分解できます。サーブ をするというのは一番上位のゴールですが、「足のポジション」、「トス」、「ラ ケットの振りぬき」、「構える」は4種類の下位ゴールです。そして「トスを上げる」

ということも、「ボールをキチンと握る」、「ボールを下から上にまっすぐ投げ る」、「適度な高さまで上げる」、と3つに分解できます。このようなパターンを階層 型といいます。

一方、言語情報はクラスター型です。クラスターというのは、複数のものが集まった 形のことです。言語は分類して覚えていきます。たとえば、サーブ関係ですと、コート からはみ出たことをフォルトという言語情報を覚えなければなりませんし、ネットに かすった場合はレットという言語情報を覚えなければなりません。このように、サー ブ関係の言語情報はクラスターとして集まった形で覚えられています。

態度は、運動技能、知的技能、言語情報の複合型ですので、階層型とクラスター型の 混合になります。

9.4 学習者分析

学習者を分析することはとても重要です。それは、インストラクショナルデザインで は、学習者のニーズがあって、そして学習者のゴールがあり、そのゴールを学習者が達 成するということが中心です。学習者がゴールに到達できるようにするために、学習 者がどういう人なのかということを把握しておく必要があります。

たとえば、学習者が学ぶ内容について最初、どれほどの知識があるのかどうか、また 学習者が学ぶものに対してどのような態度を持っているのか、ということを知ってお かなければなりません。また、学習者の動機づけ、すなわち、どれほどやる気がある のか、も知っている必要があります。そして、学習者の学び方の好みのスタイルを知っ ておくことも重要です。

最初に、学習者が学習内容についてどれくらいの知識(既有知識)を持っているかど うかを確認します。通常の研修やコースでは教えられる時間が決められています。たと えば、1時間とか、半日で学ぶ、とか、2泊3日の研修、あるいは15週間で学ぶなど というように、始めと終わりがあります。その期間内で教育ゴールを達成して欲しい のです。そのためには、はじめの段階でコースの内容に無理なくついて行けるような 知識を持っている人を学習者としなければなりません。そのために前提知識を確認し ます。もし前提知識のない人であれば、そのコースに入る前にその知識を得ておく必 要があります。あるいは逆に、教えようとする内容がすでに学習者に獲得されている ようなケースもあります。この場合は、このコースをスキップしてもらう方が時間の無 駄になりません。

次に、学習者の内容に対する態度も知っておく必要があります。無関心なのか、積極 的なのか、あるいはどうでも良いなどと消極的なのかを知ることは重要です。どうで も良い時は学習者にニーズがあっていないのか、その人が自分のニーズに対して気付い ていない場合があります。たとえば、現在、大学では、1年生の授業で、討論やレ ポート、パソコンの使い方、インターネットの方法、検索、データベースなどを学び ますが、このことに対して「どうでも良い」と思っている学生がいると消極的な態度 を取ります。そうするとなんとなく授業に出席しても、スキルが獲得できず、その後、

本格的に授業が始まると、課題などで、インターネットで調べ、データベース検索や

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