マスタのモータは,反力トルク推定オブザーバにより推定された運転者の操作トルクτˆmhumが フィードバックされる.反力トルク推定オブザーバを用いる際,モータの有するパラメータはそ の真値が必要であり,それらは推定トルクの精度に大きく影響する.そのため,各パラメータの 真値を求める同定試験を行う必要がある.同定試験時,モータの制御に構成されているDOBで推 定されるˆτmdis を同定用パラメータとして用いる.
ハンドルモータに加わる外乱は次のように表される.
τmdis= (Jm−JmN) ¨θm+Dθ˙m+F+τmgrv (4.18) ここで,τmgrvは重力により発生する外乱トルクである.本来なら内部干渉トルクにはコリオリ・
遠心トルクなども含まれているが,本論文ではこれらの影響が重力項に比べて十分に小さいとし,
これらの項を無視する.
以下,同定試験の手順を述べる.まず,一度目の等速度試験により,重力項を同定する.任意 の角速度において等速度試験を行った場合に,DOBによって推定される外乱トルクの挙動をFig. 4-3に示す.重力トルクは正弦波もしくは余弦波で表されることは周知であるため,Fig.4-3の振 幅が重力項を表しているといえる.したがって,一度目の同定試験を行うことで,重力項を同定 することができる.さらに,二度目の等速度試験により,摩擦項を同定する.この時,モータを
Fig. 4-3: 等速度試験結果例
第4章 オブザーバ設計と同定試験
等速で回転させるためθ¨i= 0 となり,慣性変動の影響無しとみなせることから,一度目の等速度 試験によって同定した各関節における重力項を推定外乱から差し引くことで,推定外乱トルクは 摩擦項のみを含み以下のように表される.
ˆ
τmdis=Dθ˙m+Fsgn( ˙θm) (4.19) したがって,この状態で様々な速度において等速度試験を繰り返し,近似を行うことで粘性摩擦 係数Dとクーロン摩擦F を同定することが可能となる.
そして最後に加速度試験を行い,モータ軸周りの慣性モーメントJmを同定する.
4.3.1 重力項の同定
0.3rad/secの角速度指令値に対して制御を行い,等角速度試験を行った.そして角速度制御に
おける角度,DOB出力値データをサンプリングタイム10msecで採取した.同定結果をFig.4-4 に示す.ただし,ハンドルの位置はFig.4-5の状態を初期位置として行った.
ここから,重力項は以下のように推定される.
重力項
τmgrv = 0.075 sinθ (4.20)
Fig. 4-4: 重力項同定試験 Fig. 4-5: ハンドル初期位置
第4章 オブザーバ設計と同定試験
Fig. 4-6: 摩擦項同定試験 Fig. 4-7: 摩擦モデル
4.3.2 摩擦項の同定
前節において同定された重力項を推定外乱から差し引き,様々な角速度指令値に対して等角速 度試験を行い,摩擦項の同定を行った.そして角速度制御における角速度,オブザーバ出力値デー タをサンプリングタイム10msecで採取し,1000の標本の平均値を求めた.同定結果をFig.4-6 に示す.グラフの傾きが粘性摩擦係数Dを,切片がクーロン摩擦Fを表しているため,摩擦項は 以下のように推定される.
摩擦項
D+= 1.3408, F+ = 0.9144 (4.21)
D− = 1.2774, F−=−0.9866 (4.22)
これらのパラメータは角速度が0の時,クーロン摩擦F の符号が急に切り替わることで,摩擦 補償の際にチャタリングが起きる可能性がある.そのため,角速度が0の近傍では摩擦項が0と なる不感帯を持つようFig. 4-7のようにモデル化する.
ここで確認のため,重力項の同定の際と同じく0.3rad/secの角速度指令値において等角速度試 験を行い,求められた重力項と摩擦項を差し引いたオブザーバの値をFig.4-8に示す.この結果 から,求められた重力項と摩擦項の値が妥当であることが確認できる.
第4章 オブザーバ設計と同定試験
Fig. 4-8: 等速度試験結果例
4.3.3 加速度試験
次にモータの慣性モーメントの同定試験について述べる.先の等速度試験により得られた重力 項と摩擦項を用いて次の同定用オブザーバを構成する.
ˆ
τmdis= grt s+grt
(
τm−JmN −Dθ˙m−Fsgn( ˙θm)−τmgrv) (4.23) モータが等角速度で回転しているときに速度ステップ入力を与えると,この同定用オブザーバは
(4.24)式に示す慣性変動のみを推定する.
ˆ
τmdis= (Jm−JmN) ¨θm (4.24)
加速度試験の同定結果をFig.4-9に示す.ここでは,時刻10sにおいて,0.3rad/secから0.8rad/sec へとステップ指令を与えた.角速度が変化するときにJm−JmN ̸= 0であるため,τˆdis が変動し ていることがわかる.Fig.4-9 から,モータ軸周りの慣性モーメントJm の真値は次のように計 算される.
Jm =JmN + 1
θ˙m(t1)−θ˙m(t0)
∫ t1
t0
ˆ
τmdisdt (4.25)
ここで,t0,t1はステップ指令が加わることにより変動したオブザーバの値の変動開始時間と終了 時間である.本試験では(4.25)式より,次のようにモータ軸周りの慣性モーメントが求められた.
第4章 オブザーバ設計と同定試験
Fig. 4-9: 加速度試験結果 慣性モーメント
Jm = 0.090 (4.26)