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プリセプター保健師能動的実践と帰結との関連

第7章 結果

帰結 2 尺度の関連

II. プリセプター保健師能動的実践と帰結との関連

本研究では、プリセプター保健師の能動的実践における構成概念間の関連が明らかになっ た。まず、<新任保健師育成の役割遂行>から、自身の<保健師としての自己研鑽>への関 連が強くみられた。また<新任保健師育成の役割遂行>から<新任保健師育成の共有>へ、

そして<人材育成環境の改善>へと強く関連していた。すなわち、<新任保健師育成の役割 遂行>が起点となって自身の専門性を深め新人育成から自身も学ぶことと、スタッフととも に新人を育てることから組織の人が育つ環境へ業務を改善する行動へとつながっていった と考えられる。これは他者との相互作用により学習が深まるという経験学習理論に基づく概 念枠組みを支持するものである。そこには新人との相互作用および組織メンバーとの相互作 用が不可欠である。

この構成概念間の関連はモデル適合も基準を満たし、有用性が示唆された。

本尺度の特徴として、全ての項目は「~しようとした」ことの程度を問い、Kolb(1984)

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の経験学習サイクルモデルにおける「能動的実践」を測るという点が挙げられる 。 Kolb(1984)は、具体的な経験をし(具体的経験)、その内容を振り返って(反省的観察)、

そこから得られた教訓を抽象的な仮説や概念に落とし込み(抽象的概念化)、それを新たな 状況に適用する(能動的実験)ことによって学習することを述べている。特に重要なことは 経験を解釈してどのような法則や教訓を得たかであるとしている。そして「能動的実践」は 目的に向けた強い動機に基づく主体的活動となる。本研究のプリセプター保健師能動的実践 は、プリセプターの経験による実践知を導く能力を示す。

本尺度が測定する能動的実践は、初回のみならず、経験や認識に基づき繰り返し意図的に 実践されることも含むという特徴をもつ。この能動的実践の特徴は、Dewey(1938)のいう経 験の連続性や、Kolb (1984, p.61)の経験学習プロセスモデルが示す学習のスパイラルアップ に相当する。すなわち、経験を通して獲得した知識やスキルがその後の経験の質を修正し、

経験はらせん状に連続することを示す。

本研究では、個人レベルである新人とプリセプターとの相互作用による<新任保健師育成 の役割遂行>と<保健師としての自己研鑽>、組織レベルである組織メンバーとプリセプタ ーとの相互作用による<新任保健師育成の共有>と<人材育成環境の改善>が示された。予 備研究Ⅰ(嶋津,2011; 嶋津ら, 2014)では、新人を育成するという新人との対話により、

新任保健師育成の役割遂行と保健師としての自己研鑽が相互作用で深まっていった。また、

新人育成を組織メンバーと共有し、ともに新人を育てることが必要と気づいていった。そし て、組織メンバーとの相互作用により組織の改善の必要性にも気づいていく、というプロセ スが認められた。本研究結果ではそのプロセスが示された。

保健師は看護職と行政職の2つの機能を発揮して施策化に取り組んでおり(吉岡,2004)、 保健師の現任教育では、個人と組織の2つのレベルでの働きかけが重要(上田ら,2007; 小 川, 中谷, 2012)とされている。保健師は、看護専門職としても、行政における組織人とし ても成長していくことにより保健師としての役割を発揮することが可能となる。保健師には、

専門職としての自覚をもち、自己研鑽しながら、環境にも働きかけ互いに切磋琢磨できる組 織に変えていくことが求められている。

なお、プリセプター保健師の能動的実践の起点となる<新任保健師育成の役割遂行>は、

新人がどのようなことに困るか考え、保健師活動の目的や根拠、魅力を伝え関わることを示 していた。Cusack, Gilbert, & Fereday(2013)は、プリセプター看護師が新人の既存の知 識、技術、経験を尊重し、新たな状況に柔軟に適応させる能力を育てることの重要性につい

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てflexibilityに着目して述べており、保健師のプリセプターにも重要となる概念と考えられ

る。

プリセプター保健師能動的実践と保健師の専門性発展力との関連

<新任保健師育成の役割遂行>は<保健師としての自己研鑽>を経由し、さらに<保健師 の専門性発展力>につながる間接効果とともに、<新任保健師育成の役割遂行>から<保健 師の専門性発展力>への直接効果がより高く認められた。予備研究Ⅰでプリセプターが新人 育成を通して住民の様々な価値観に触れ、多様な情報を生かす重要性や保健師活動の魅力に 気づいたことが保健師の専門性発展力につながることの示唆を得た。本研究結果の住民と関 わる保健師活動の魅力を伝えることを含む<新任保健師育成の役割遂行>から、住民の価値 観の尊重を認識しようとすることを含む<保健師としての自己研鑽>につながり、<保健師 の専門性発展力>に影響していたことは、予備研究Ⅰを支持するものである。保健師の専門 性発展力(岡本ら, 2010)は、「今特に強化が必要な専門能力(岡本ら, 2007)」の1つとし て示され、教育効果を測ることを目的として開発されている。そして、知識・技術のみなら ず高い業績を上げる行動様式を含むコンピテンシーの概念から構成されている。

以上のように、プリセプター保健師の能動的実践が保健師の専門性発展力の獲得に至るこ とが明らかとなった。プリセプター保健師の能動的実践は、プリセプター保健師の実践知を 導く能力であり、保健師のキャリア開発としてプリセプター役割を担うことの意義が示され た。この意義を示すことは、保健師がプリセプター役割を肯定的に捉え、自らのキャリア開 発のためにも役割にコミットする動機となると考えられる。プリセプターの新人とともに学 ぼうとする姿勢は、新人の成長に寄与することが期待される。

プリセプター保健師能動的実践と組織を背負う意識との関連

本研究では、<新任保健師育成の役割遂行>から<新任保健師育成の共有>につながり、

<人材育成環境の改善>へと影響し、それが<組織を背負う意識>へとつながっていた。保 健師はスタッフとともに新人育成を通して組織の業務を改善するなど、保健師活動の質を上 げるための組織環境が人材育成には不可欠であることに気づき、組織を背負う意識が育まれ たと考えられる。

<組織を背負う意識>は、さらに<保健師の専門性発展力>へ影響していた。このことか ら行政保健師にとって専門性の発展は組織への責任感と密接に関連していることが示唆さ

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れる。保健師にとっての専門性発展は、個人の専門職性を高めることのみならず、組織にコ ミットメントして組織としての活動の質を高めることに意義をもつ特性があると考えられ る。組織の活動の質の向上は、地域住民を対象とした保健師活動の公平性・公正性を担保す ることとなり、Public healthを担う保健師の使命を果たすことでもある。

金井,鈴木(2013, p46)は「組織を背負う意識」を、「組織の中心として働いていかなけ ればならないという自覚を含む組織との関係を表現」し、「組織の将来に対する責任の意識 などを包含する概念」としている。このような、組織を背負う意識がプリセプターの能動的 実践の成果として導かれることは、行政保健師にとって、住民の健康のために、組織の一員 として役割を発揮していくうえで重要と考えられる。

予備研究Ⅰ(嶋津ら,2014)で、保健師はプリセプターの経験を通して組織の一員とし て組織の改善のために働きかける意識が育っていた。鈴木(2002) は、キャリア2年目か ら 6~7 年目までに組織コミットメントが停滞することを指摘し、その原因としてキャリア に関する積極的な意欲が減少しているキャリア・ドリフトの状態であることを示している。

そして昇格は、責任感ややりがいの増大、情報の質と量や立場の変化による価値基準の変化 を通して、急激な組織コミットメントの上昇をもたらしていた(金井,鈴木,2013, p46)。 本研究結果の、プリセプター保健師の能動的実践が組織を背負う意識に有意に影響していた ことは、保健師にとってプリセプターの役割を担うことが、責任感ややりがいの増大をもた らす機会となっていたためと考えられる。

さらに、組織を背負う意識はプリセプターの組織社会化に寄与すると考えられる。金井,

鈴木(2013, p206)は、組織社会化を、「個人が組織内の役割を引き受けるのに必要な社会 的知識や技術を獲得するプロセス」と定義している。そして、組織における個人は、常に組 織外からの影響や組織内における役割の変化にさらされているため、担うべき役割の変化に 伴って、それにふさわしい能力や行動の学習が求められる。この過程が蓄積され意味づけさ れることで「キャリア」が形成されると述べている。永江(2012) は、中堅保健師の強化 すべき課題として次期リーダーになるための組織管理・組織運営の能力を挙げている。中堅 期保健師がプリセプターの経験を積むことは、自身のキャリア開発として組織社会化を促進 する機会として期待される。