• 検索結果がありません。

ブレードにトルクが発生するメカニズム

第 4 章 周辺付加物を用いた VAWT に関する

4.1 VAWT のトルクの発生メカニズムの調査

4.1.3 ブレードにトルクが発生するメカニズム

本項ではブレードに作用するトルクを調べる.どの回転角の範囲で,どのようにしてト ルクが発生しているかを調べ,直線翼垂直軸型風車の駆動メカニズムを明らかにする.

2枚翼風車単体の場合に関して,回転角に対するトルク係数分布を,図4.9に示す.図4.9 はアンサンブル平均をとらずに,各計算ステップでのトルク係数をそのままプロットした ものである.縦軸はトルク係数で,ブレード 1 枚に作用するトルクを,0.5

U2rAで割る ことにより,正規化したものである.図4.9から以下のことが分かる.

 周速比が変化しても,回転角に対するトルクの分布形状は類似している.

 ブレードはθ=0°付近を最大に,-45°<θ<90°の範囲で大きな正のトルクを発生し,そ の大きさは周速比が高いほど小さい.ただし,λ=1.0では正のトルクが最大となるθが,

-20°付近になる.

 ブレードはθ=-80°付近で負のトルクを発生し,その大きさは周速比にあまり影響され ない.ただし,負のピークをとる回転角は,周速比が高くなるにつれて少しずつゼロ に近づく.

(λ=1.0)

(λ=2.5) (λ=2.0)

(λ=1.5)

図4.9 回転角に対するトルク係数の分布(2枚翼風車単体)

42

 上記以外のθでの発生トルクはほぼゼロである.

図4.10には,3枚翼風車単体の場合に関するトルク係数分布を示している.図4.10から,

以下のことが分かる.

 周速比が変化しても,回転角に対するトルクの分布形状は類似している.ただし,周 速比が1.0より小さくなると,分布形状は変化する.

 ブレードはθ=0°付近を最大に,-45°<θ<90°の範囲で大きな正のトルクを発生し,そ の大きさは周速比が高いほど小さい.ただし,λ=1.0では正のトルクが最大となるθが,

-10°付近になる.また,λ=0.5の場合はθ=-20°付近で大きな負のトルクを発生する.

 ブレードはθ=-80°付近で負のトルクを発生し,その大きさは周速比にあまり影響され ない.また,翼枚数にもあまり影響されない.ただし,負の最小値をとる回転角は,

周速比が高くなるにつれて少しずつゼロに近づく.また,最小値をとる回転角が 2 枚 翼の場合よりも0°に近い.

 上記以外の θ での発生トルクはほぼゼロであるが,周速比が低い場合は下流側でトル クの変動が大きい.

 ブレード1枚が発生するトルクは2枚翼風車のほうが大きく,トルク(図4.9,4.10の曲 線の積分値)が最大となる周速比が高い.したがって,パワーを算出する段階で,回転 角速度の寄与を大きく受けられる.これが2枚翼風車が3枚翼風車よりもCpが高くな るメカニズムである.2枚翼風車の方が高い周速比でもトルクを発生できる理由は,風 車前面での風速低下が小さいからである(ブレードがトルクを受けるメカニズムは,後 述の図4.11参照).

 翼枚数が異なっても,トルクの分布形状は非常に類似している.

43

図4.9,図4.10で得られた知見から,以下のことが起こっていると判断できる.

現象1 風車上流側ブレード通過位置では,正のトルクを発生する現象が起こっている.

その現象は,周速比・翼枚数によらず起こる.ただし,周速比・翼枚数が変化す ると現象の強さが変化し,発生するトルクの大きさも変化する.また,周速比が 1.0より小さくなるとその現象に変化が起こり,θ=0°付近で大きな負のトルクを発 生するようになる.

現象2 θ=-80°付近では負のトルクを発生する現象が起こっている.その現象は,周速比・

翼枚数によらず起こり,現象の強さもほとんどそれらに依存しない.

現象3 上記以外の回転角ではトルクがほとんど発生しない.すなわち,風車が回転してブ レードが移動しているにもかかわらず,ブレードまわりでは,ブレード進行方向 の圧力差がほとんどない.

(λ=0.5) (λ=1.0)

(λ=1.5) (λ=2.0)

図4.10 回転角に対するトルク係数の分布(3枚翼風車単体)

44

次に,上記の現象が実際にどのような流れ場で発生するものかを,圧力場および速度ベ クトル場で調べる.まず上記の現象1である.図4.11は,ブレードがθ=0°付近に位置する 瞬間での圧力場,速度ベクトル場を示したものである.前縁上面付近の圧力が大きく低下 している.この図から,上流側でのトルクは,このブレード前縁での圧力低下により生み 出されていたことが分かる.ではこの圧力低下はどのようにして起こっているかを,今度 は速度ベクトル場で調べる.速度ベクトル場を見ると,前縁付近で,流れが増速しながら ブレード下流側側面にまわりこんでいる様子が確認できる.この増速が圧力低下の原因で あった.これは,失速を起こしていない翼が揚力を受ける仕組みと類似している.

周速比が1.0より小さくなった際に,θ=0°付近で大きな負のトルクを発生するようになる ことも,同様の考察で説明できる.λ=0.5の場合に関する,圧力場,速度ベクトル場を図4.12 に示す.この図に示されるように,ブレード移動速度が流れの速度に対して相対的に遅い と,ブレード後縁から流れがブレード下流側側面にまわりこんで,剥離を引き起こしてし まう.この剥離によって後縁付近の圧力が低下するため,負のトルクが発生してしまう.

-10 Cp 10

2 0 V/U

図4.11 上流側ブレードまわりの圧力分布図と速度ベクトル図(3

枚翼,λ=1.5)

45

次に,現象2について調べる.図4.13,図4.14に,λ=1.5の場合の圧力場,速度ベクト ル場を示す.ただし,回転角はθ=-90°付近である.図4.13では,θ≒-100°で,ブレード は流速が減速した領域を移動している.図4.14では,θ≒-80°で,ブレードは先に通った ブレードの後流域を抜け,流速が減速していない領域に突入している.結論から述べると,

θ=-80°付近で負のトルクが発生する原因は,ブレード前縁付近での圧力上昇である.これ はブレードが流れに逆らって移動することによって起こる.図 4.13のように,ブレードが 先に通ったブレードの後流域内にあるときは,ブレードと流れの相対速度が小さいため,

圧力上昇も小さい.しかし,図4.14 のように,ブレードが速い流れの中に正面から進入す る位置では,大きな圧力上昇が前縁で起こり,非常に大きな負のトルクが発生する.流れ の可視化実験では,周速比や翼枚数によって,乱れのない流れにブレードが突入する回転 角が異なることが確認できる.翼枚数が多くなるほど,また周速比が高くなるほど,突入 する角度は0°に近づく.この傾向は,例を挙げると図2.110と図2.113との比較,及び図2.110

と図2.115との比較から確認できる.これは,負のトルクが最小値をとる回転角の推移傾向

と一致する.したがって,大きな負のトルクを発生する回転角は,ブレードが乱れのない 流れに突入する回転角と対応していると考えられる.

図 4.15 には,ブレードが後流領域から,乱れのない流れに突入する様子を,速度ベクト ル場で示している.図 4.15(c)では,正のトルクを発生する状態へ移行している様子が見て 取れる.

-10 Cp 10

2 0 V/U

図4.12 上流側ブレードまわりの圧力分布図と速度ベクトル図(3

枚翼,λ=0.5)

46

-10 Cp 10

2 0 V/U

図4.13 ブレードまわりの圧力分布図と速度ベクトル図(3

枚翼,λ=1.5,θ≒-100)

-10 Cp 10

2 0 V/U

図4.14 ブレードまわりの圧力分布図と速度ベクトル図(3

枚翼,λ=1.5,θ≒-80)

47 (a) θ≒-100°

(c) θ≒-45°

(b) θ≒-70°

図4.15 回転角の変化に伴う,ブレードまわりの流れ場の変化(3枚翼,λ=1.5)

48

次に現象 3 であるが,トルクがほとんど発生しない領域は,ブレードが主流と同じ向き に移動する領域と,下流側のブレード通過領域である.ブレードが主流と同じ向きに移動 する領域では,トルクがあまり発生しないのは当然なので,ここでは取り挙げない.しか し,下流側のブレード通過領域では,条件さえ満たされれば正のトルクが発生するはずで ある.なぜなら,主流方向とブレードの成す角度が,上流側と同じになるからである.こ こでは,なぜ下流でトルクが発生しないかを調べる.

図4.16には,回転角θ=180°付近での圧力場,速度ベクトル場を示している.上流側にブ レードがある場合と決定的に違うのは,前縁付近での流速である.下流側では,前縁付近 をまわりこむ流れがほとんどなく,そこでの流速が増加していないため,圧力の低下がほ とんど起こっていない.すなわち,主流下流側のブレード通過位置で主流方向速度が減速 していることが,トルクが発生しない原因である.また,下流側においては,流れが乱れ ていることもトルクが発生しない一因となっている.ブレード前縁で流れを増速させ,圧 力の低下を引き起こすためには,主流方向成分の大きな風を下流でも与え続けることが必 要である.また,あまりに大きく乱れた流れでは,この条件を満たせない.

以上,直線翼垂直軸型風車が駆動するメカニズムを調べたが,ブレード前縁での現象が,

性能に大きくかかわっていることが分かった.したがって,より高性能を発揮させる翼型 や,翼の取り付け角などを検討する際には,翼前縁付近の流れに注目するのが効果的であ ると考えられる.

-10 Cp 10

2 0 V/U

図4.16 ブレードまわりの圧力分布図と速度ベクトル図(3

枚翼,λ=1.5,θ≒180)

49

(a) (b)

図4.17 堀内らによる計算結果(2004年); (a)アジマス角の定義 (b)発生トルクの分布

(a) (b)

図4.18 水野らによる計算結果(2014年); (a)アジマス角の定義 (b)発生トルクの分布

ここで,今回の研究の数値計算にて得られた結果を他の研究者の数値計算結果と比較す る.図4.17は堀内ら[44]の計算結果である.計算手法はk-εモデルを用いたRANS,有限体 積法で非構造格子を用いている.結果としては,風車の上流側で最もトルクを発揮する特 徴が一致しており,本研究室での計算結果でも見られたように,回転周速比が大きくなる につれてトルクが減少する様子が見て取れる.

一方,図4.18は水野ら[45]の計算結果を示している.計算手法はこちらもSST k-εモデ ルを用いた RANS,有限体積法で解析している.この計算はソフトウェアクレイドル社の 市販ソフト「SCRYU」を用いている.本研究とはブレードの回転角(アジマス角とよばれ る)の定義が異なるが,本研究と,堀内らの研究と同様,風車の上流側で最もトルクを発