第 3 章 既存の知的パフォーマンステストの問題 点検証と新知的パフォーマンステストの点検証と新知的パフォーマンステストの
3.4 新知的パフォーマンステスト CPTOP2 の概要
3.4.1 CPTOP2 の全体構想
タスク制限時間の有無の影響について検討したところ、制限時間がある場合は環境 改善によるパフォーマンス向上効果が低かった。また、被験者インタビューを通じて、
タスクに制限時間があると焦ってしまい、ミスが多くなるような気がするので好ましく ないという意見を得た。そこで、新タスクテストでは制限時間を設けないこととする。
2. 知的能力は複数存在するため、それぞれの能力の発現率にオフィスワークでの使 用率を重み付けとして掛け合わせると総合的な知的生産性が表せる。
3. 知的能力のうちオフィスワークで使用される能力に着目し、評価対象を絞り込む。
4. タスクは1つ1つの知的能力に対応するのではなく、複数の知的能力を包括した ものに対応させる。
5. タスクセットでオフィスワーカの知的生産性が評価できる。
これらの仮定およびプロセスについて、順を追って詳細を述べる。
1.は3.1節で述べた定義と同義である。オフィスワーカは普段、常に全ての知的能力 資源を全力で発揮して仕事をしているわけではない。もし、そのようなことになれば、
たちまち疲労で仕事が手に付かなくなってしまう。知的能力の使用状況は、仕事の内 容や時間帯によって流動的に変化している。
この知的能力の発現率が高い状態になれば、仕事を的確にこなし、有意義なアウト プットが得られる。この発現率は、心理状況や体調など様々な要因で変化すると考え られるが、これらの要因に影響を及ぼしているのは室内環境である。すなわち、室内 環境が変化すれば知的能力の発現率にも影響が及ぶことになる。
以上のことから、オフィスワーカの知的生産性をその人が持てる知的能力の発現率 であると定め、環境評価に適応するものとする。
2.は、オフィスワーカの所属する組織によって多種多様に異なるオフィスワークに 対応させるためである。知的能力が複数あれば、業務内容によって各知的能力の必要 量も異なってくる。各々の仕事における知的能力バランスに対応させることで、知的 生産性の評価精度を高めることができると共に、指標としての有用性が高まる。
例えば、事務職に就いているオフィスワーカは計算やコミュニケーション能力が重 要であるが、研究職のオフィスワーカにとってはアイデア創造力が重要である。そこ で、研究職のオフィスワーカのパフォーマンスを総合的に評価する際には、アイデア 創造力タスクのパフォーマンスに重み付けを行って評価するということである。
3.は、オフィスワークを正確に反映するというCPTOPの基本方針に基づいている。
この知的能力の絞込みを行うことで、オフィスワークで使用されない知的能力のパフォー マンス向上をそのオフィス環境の改善と判断する誤りを防ぐことができる。また、タ スクの数を減らすことができ、テスト遂行時間を短くすることにつながるという利点
そこで、Fleishmanら[16]によって、表3.1のように分類された人の知的能力をもと に、オフィス作業者に対するインタビューおよびアンケート調査を行い、オフィスワー クで重要な知的能力の絞込みを行った[22]。その結果、以下の12種類の知的能力がオ フィスワークで頻繁に用いられていることが分かった。
• 口頭理解能力
• 書面理解能力
• 口頭表現能力
• 文章表現能力
• アイデアの流暢さ
• 独創性
• 数学的推論能力
• 数字能力
• 記憶能力
• 帰納的推理能力
• 選択的注意能力
• 問題への感受性
4.は、1つの知的能力に対して1つのタスクを作成したがその対応が明確にとれてい るとは言い難かったCPTOPの反省点を踏まえたものである。例えば、3.2.2項で述べ
たCPTOP情報秩序化作業の場合には、図書の名前や値段を覚えるために記憶能力を
使ったり、適切な順番に並べ替えたのかどうかを素早く判断するために認知速度能力 を使う、というような具合である。なお、タスクテストの集約化のもう1つの目的は、
タスクテスト全体の実施時間を短くすることである。
そこで、4.においてオフィスワーカへの調査によって絞り込まれた12種類の知的能 力に対して、表3.13のような4種類のタスクを考案、作成した。表の右側は、計測対 象となる知的能力である。
表 3.13: CPTOP2タスク一覧
タスク名 対応する知的能力
語句並べ替え 口頭理解能力、書面理解能力、口頭表現能力、文章表現能力 ブロック組立 アイデアの流暢さ、独創性
数列穴埋め 数学的推論能力、数字能力
記憶 記憶能力、帰納的推理能力
また、知的能力12種類の中で上の表に含まれていない能力「選択的注意能力」に関 しては、4種類のタスクパフォーマンスの総合点を評価指標として用いる。
なお、仕事中に何かおかしいことがあることに気が付く知的能力である「問題への 感受性」については、タスクを用いて評価することができないため、CPTOP2からは 除外する。問題への感受性は経理部門のオフィスワーカが伝票処理を行っているとき に、「お茶代50万円」のように何かおかしいから担当者に問い合わせてみようという ような場合に用いられる能力である。そこで、経理伝票を処理するようなタスクの中 に明らかに間違っているものを含めておき、そのような場合には「不明」と回答させ るタスクも考えられる。しかし、間違いパターンには限りがあるため、繰り返し解け ば単なる間違い探し、すなわち認知速度能力を評価することになってしまう。以上の ことから、問題への感受性を評価するタスクは作成しないが、この能力のパフォーマ ンスをどのように評価するかについては今後さらに検討すべき課題である。
また、認知負荷量の大小はパフォーマンス結果に影響を及ぼしていると考えられる。
そこで、難易度設定が可能であった、語句並べ替えと記憶の各タスクについては、同一 タスクで認知負荷量が大きいタスクと軽いタスクの2種類を作成するものとする。詳 細は次節で述べる。
以上1〜4.の手順を踏まえて設計されたタスクセットを用いれば、オフィスワーカの 知的生産性が正確に評価できると期待される。なお、CPTOP2はオフィスへの導入を 前提にしていることから全てのタスクはPC上で動作するように設計する。システム全 体としては、Webサーバを核としてWebブラウザをユーザインタフェースとするサー バ・クライアント構成システムである。