• 検索結果がありません。

第一部 海運国

Ⅲ デンマークの海運強化策

<表Ⅲ-1:デンマーク海運による外貨獲得高の地域別割合>

地域 割合

東アジア(日本、中国など) 30%

ヨーロッパ 29%

アメリカ・カナダ 12%

中東・インド 10%

南米 8%

アフリカ 7%

その他 4%

出典:デンマーク船主協会『Danish Shipping Statistics-May 2011』

デンマーク海事局(DMA: Danish Maritime Authority)が発行している 統計集『Facts about shipping 2011』によれば、2010 年 6 月現在、デン マーク商船隊(100 総トン以上、運航ベース)は、2,016 隻(うちデンマー ク海運企業の所有船は 1,362 隻。商船隊の 67.6%)、42,613,290 総トン(同 25,312,912 総トン、59.4%)、58,006,370 重量トン(同 33,149,957 重量ト ン、57.1%)であり、世界の海上輸送量のおよそ 10%を担っている。

デンマーク商船隊のうち、デンマーク籍船は、736 隻(商船隊の 36.5%)、

10,984,625 総トン(同 25.8%)である。そのほかのフラッグとして主たる ものは、シンガポール籍(147 隻(商船隊の 7.3%)、6,235,614 総トン(同 14.6%)、パナマ籍(140 隻(同 6.9%)、3,167,934 総トン(同 7.4%)、リベ リア籍(133 隻(同 6.6%)、4,793,90 総トン(1.1%))、香港籍(92 隻(同 4.6%)、2,620,138 総トン(同 6.1%))、アンティグア・バブーダ籍(76 隻

(同 3.8%)、688,352 総トン(1.6%))、バハマ籍(66 隻(同 3.3%)、815,140 総トン(同 1.9%))、英国籍(64 隻(同 3.1%)、1,858,97 総トン(同 0.4%))、

マン島籍(52 隻(2.6%)、453,487 総トン(同 1.1%))、マーシャル諸島籍

(37 隻(同 1.8%)、1,178,643 総トン(同 2.8%))などである(図Ⅲ-2 参 照)。

<図Ⅲ-2:デンマーク商船隊(運航ベース、100 総トン以上)の船籍別内訳>

(2010 年 6 月時点。DMA『Facts about shipping 2011』より作成)

デンマーク船主協会によれば、これらデンマーク商船隊は、定航船(コ ンテナ船、RO-RO 船、客船など)、不定期船、タンカー及び特殊船(ケーブ ル敷設船など)など幅広い船種で構成され、特にコンテナ船は世界の船腹 量(総トン数)の 12.9%(運航ベース。2011 年 1 月 1 日時点。日本商船隊 は同 8.0%)を占め、存在感が大きい。

また、デンマーク海事局によれば、デンマーク商船隊(1,000 総トン以 上、1,028 隻)の平均船齢(2011 年時点)は 11 年であり、世界平均21 年 を大きく下回っていることも特徴である。

デンマーク船主協会によれば、デンマーク籍船で労働に従事する船員は、

17,755名(2009 年)で、そのうち 9,895名(55.7%)がデンマーク人船員、

デンマーク以外の EU+EEU 籍の船員が 2,168 名(12.2%)、その他の国籍が 5,692名(32.1%)である。

736

147 133 140

92 82 76 66 64 52 37

391 10,984,625

6,235,614

3,617,934 4,793,906

2,620,138 1,152,872 688,352 815,140 1,858,977 453,487 1,178,643

8,213,602

デンマーク籍 シンガポール籍 パナマ籍 リベリア籍 香港籍 マルタ籍 アンティグア・バ ブーダ籍バハマ籍 内:隻数(合計2,016隻)

外:総トン数

(合計42,613,290総トン)

(2)外航海運政策の動向

デンマークにおける近年の海運強化策としては、1988 年に導入した国際 船舶登録制度(DIS)及び船員税制(純賃金制度)、2002 年に導入したトン 数標準税制の 3つが挙げられる。

デンマークが海運強化策を積極的に導入する理由は、世界経済の発展を 取り込みながら自国が発展していくために、海運が大きな役割を果たすと 考えているからである。

2006 年 6 月にデンマーク海事局がとりまとめた『The Danish Maritime Cluster -an Agenda for Growth(デンマーク海事クラスター:成長のため のアジェンダ)』では、今後の政策目的として、①デンマークがクオリティ・

シッピングの拠点として欧州でもっとも魅力的になること、②デンマーク 海事クラスターの成長、ダイナミクス及び競争力のための条件を強化する こと、③船上労働の健康面、船舶の安全及び環境面に関する対策が整備・

改善され、海運国として発展すること、の 3つを掲げている。そして、海 事局が重点的に取り組む分野は、(1)人材の確保及び育成、(2)研究開 発及びイノベーション、(3)成長のための融資及び税制、(4)国内規制 の緩和、(5)デンマーク海事産業のための新規外国市場の開拓及び国内海 事産業への投資誘致、(6)クオリティ・シッピングの強化、(7)海事行 政の効率化・サービス高度化、の 7つとしている。このような方針は、デ ンマーク海事局が 2010 年 7 月に公表した『An Integrated Maritime Strategy』においても確認され、現在でも継続されている。

なお、デンマークでは、海事クラスターを”Blue Denmark”と呼び、そ の核を成す部門としては、海運、海事サービス、造船・舶用工業及び海洋 資源開発、関連部門としては海軍、漁業及び海洋レジャー・スポーツを挙 げている注1。この海事クラスターでは、国内雇用の 3.0%に相当する 84,747 人(2006 年。DMA『Facts about shipping 2011』より)が働いているとさ れる。

1 最近では、港湾、水産加工、洋上風力発電及び沿岸・海事観光も含めている ようである。デンマーク海事局『An Integrated Maritime Strategy』(2010年 7月)参照。

2.船舶登録制度

デ ン マ ー ク の 船舶 登 録 制 度に は 、従 来か ら の 船舶 登 録 制 度( Dansk Almindeligt Skibsregister 。 以下 「DAS」) と 国際船舶 登 録 制 度( Dansk Internationalt Skibsregister。以下「DIS」)とがある。

DIS は、1988 年 7 月に導入されたが、その理由の 1つは、1980 年代にデンマ ークの海運企業が激しい国際競争にさらされ、デンマーク籍船及びデンマーク 人船員が激減したことである。デンマーク籍船は、1980 年には 5,390,365 総ト ン(1,253 隻)あったが、1986 年には 4,651,224 総トン(1,064 隻)にまで落 ち込んだ(総トン数は 13.7%、隻数は 15.1%の減少。Lloyd’s Register, Statistical Tables, June 1992 より。)。デンマーク人船員は、例えば職員に ついて 1982 年には 6,250名の雇用があったが、1986 年には 4,326名(30.8%の 減少)となった(ISL/LSE, Shipping Statistics Yearbook 1987 より)。また、

同様の状況にあった隣国ノルウェーで、1987 年に国際船舶登録制度(NIS:

Norwegian International Ship Register)が導入されたこともデンマークが国 際船舶登録制度を導入する契機となったとされる。

(1)DIS に登録することができる船舶

デンマーク国際船舶登録制度に登録することができる船舶は、20 総トン 以上、国際航海に従事する船舶であって、はしけ、浚渫船、クレーン船な ども対象である。軍艦、漁船、レクリエーション用船舶及びデンマーク港 間の定期旅客船(オフショア施設との間に就航する客船を除く。)は、登録 することができない。

なお、DAS では、20 総トン以上の船舶の登録が義務づけられている。ま た、5 総トン以上の船舶は、船舶所有者が任意で DAS に登録することがで きる。

(2)DIS を利用することができる者

DIS に船舶を登録することができるのは、DAS に船舶を登録することがで きる者及び「一定の外国の会社」である。DAS に登録できる者とは、①デ ンマーク人、②国内居住のデンマーク人が運営する組織、③3 分の 2 以上 をデンマーク人が所有し、かつ、経営者が国内に居住するデンマーク人で ある事業体などである。

「一定の外国の会社」とは、①デンマーク国籍の個人・会社が海運業務に 従事 し 、 かつ、 そ れ ら が当 該外 国 会 社 を直 接 的・間 接 的に か な り (significant)所有しているもの、②デンマーク国内に代表者を置き、当該 代表者が DIS に関する義務の履行を確保する権限を与えられているもの、

である。デンマーク海事局によれば、これまで、スウェーデン、ドイツ、

ノルウェー、ギリシャなどの外国の海運企業が DIS を利用しているという。

なお、デンマークは、いわゆる旗(フラッグ)と船とのリンクを確保す

るため、デンマークフラッグを掲げる DIS登録船舶がデンマーク国内から 実効支配されていることを当局が確認している。実効支配の判断基準は、

デンマーク国内で当該船舶について、①ISM コード(「1974 年の海上におけ る人命の安全のための国際条約」(SOLAS 条約)第 I X 章)に基づく安全管 理システムの実施及び維持を含め、技術的な運航及び維持を実施している こと、②配乗に関する契約、訓練及び資格証明を行っていること、③商業 行為(契約交渉、用船契約の締結、船舶職員に対する指示、燃料の購入

(bunkers purchase)など)を行っていること、及び④財務行為(船舶の 購入・売却、保険契約の締結、船員賃金の支払いなど)を行っていること、

である。

(3)DIS における配乗要件

DIS登録船舶の配乗要件は、次の通り。

船長:原則としてデンマーク若しくはEU/EEA 籍。ただし、デンマーク 海運会社が雇用主となる場合には、一定の外国(後述)で発給 された資格証明書を受有し、デンマーク当局の承認を得た船員

(いわゆる承認外国人船員)も船長に就くことが可能。

職員:国籍要件なし。ただし、デンマークで発給された免状を保有す ること、又は承認外国人船員であることが必要。

なお、DAS 登録船舶では、国籍要件はないものの、職員についてはデン マークで発給された免状を保有することが必要。

(4)デンマーク国際船舶登録制度の船腹量

デンマーク海事局によれば、デンマーク商船隊のうち、DIS登録船舶は、

2010 年7月現在、貨物船を中心に 467 隻 10,674,867 総トンで、デンマー ク籍船(736 隻 10,984,625 総トン)の隻数ベースで 81.3%、総トン数ベー スで 97.2%を占める。

DIS 登録船舶は、これまでのところ順調に船腹量が増加している。DIS が導入された翌年(1989 年)と 2010 年の統計を見れば、DIS が導入されて 以降、隻数では約 1.5倍、総トン数では 3倍近くに増加していることがわ かる。2010 年までの船腹量推移は図Ⅲ-3 の通り。

<図Ⅲ-3:DIS に登録された船舶の船腹量推移>

(IHS Fairplay, World Fleet Statistics及びDMA『Facts about shipping 2011』

より作成)

デンマーク船主協会の統計によれば、DIS が導入される前の 1986 年の商 船隊は、580 隻 4,410,000 総トンであったが、DIS が導入された半年後の 1988 年末には、DAS 登録船舶が 198 隻、170,000 総トン、DIS 登録船舶が 308 隻 4,130,000万総トンであったとされ、DIS は、制度導入直後から活用 されている。

3.海運関連税制

(1)トン数標準税制

デンマークは 2002 年にトン数標準税制を導入した(海運企業は 2001 年 に遡って適用されている。)。EU 諸国とのイコールフッティングのために、

オランダを参考にして導入したとされている。

トン数標準税制の根拠法令は、”Tonnageskatteloven” (The Tonnage Tax Act)である。

①の計算方式及び税率

トン数標準税制における税額計算方式は、「対象船舶の純トン数×対 象船舶の所有・用船日数(運航日数ではない)×みなし利益×法人税 率(25%注2)」である。みなし利益は表Ⅲ-2 の通りとなっている。

<表Ⅲ-2:みなし利益(1 日、100NT 当たり)>

~1,000GT 8.97 DKK(127.5 円)/100NT 1,001~10,000GT 6.44 DKK(91.5 円)/100NT 10,001~25,000GT 3.85DKK(54.7 円)/100NT 25,001GT~ 2.53DKK(40.0 円)/100NT

(換算レートは 2012 年 2 月 21 日時点、1DKK=14.21 円)

②対象企業

トン数標準税制を利用することができる企業は、デンマークに登録 された海運企業、デンマークに恒久的施設を構えるEUの海運企業及び 運営がデンマークで行われ、デンマークに法人税を支払う海運企業で ある。

また、トン数標準税制を利用する企業は、運航船腹量に占める EU/EEA 籍として保有する船腹量の割合を維持若しくは増加させるこ とが求められている。この要件は、2004 年 1 月 17 日時点でトン数標 準税制を利用する企業については同日を、2005 年 1 月 12 日以降に同 税制を利用する企業についてはその適用時点が基準となるが、①当該 割合が 60%以上の場合、又は②個々の企業ごとではなく、トン数標準 税制の適用を受ける全企業の全運航船腹量に占める全保有・EU/EEA 籍 船の割合が前年度より減少していない場合にも要件を満たしたものと される。上記要件を満たさない企業には、通常法人税が課されること となる。

また、船舶管理会社も、船舶の運航に係るすべての責任及びISM コ ードに従って船舶所有者に課されるすべての責任を引き受けている場

2 2012年4月時点。