第 4 章 漢語借用によるチャハル方言の動詞形成
4.2 チャハル方言で動詞として機能する漢語
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‘at school you will learn how to read and write’
‹[tur] okumak‘to read ’, yazmak‘to write’
この例文ではトルコ語の 2 人称単数のマーカー「-sun」が借用された二つの動詞
okumak と yazmak とともに現れると借用側のロマーニー語にトルコ語からの借用に対
応するマーカー「-os」が現れる。
Wohlgemuth(2009:285)はまた、この四つのストラテジーをそれらの適応性の高さに応 じて次のようにまとめている(loan verb integration hierarchy)。
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máo er 时髦儿”「モダン」、“wǎng zi 网子”「金網」、“diàn huà 电话”「電話」、“kuǎ zi 侉
子”「なまりのある」、“zū zi 租子”「賃金」などは名詞であり、漢語では動詞として働く ことができない。これらの漢語名詞はモンゴル語の名詞から動詞を派生する接尾辞の‐d や‐l を付けることによって動詞化され、そこからさらに様々な屈折接尾辞や派生接尾辞 が加えられ、モンゴル語の中で動詞としての役割を果たしている。
006 ɑb‐ʧəx ɑb‐ʧəx ɡəsəŋ‐n ɑb‐ɑɑd dou er‐əl‐ʧəx‐ləə.(08B0095) もらう‐命令 もらう‐命令 引用 もらう‐副動 ポケット‐出名動詞‐完了体‐過去
貰っておいてと言ったら、貰ってポケットに入れた。 “dōu er 兜儿”
007 di‐d‐jəə, ɔrœœ nəɡ di lian xi‐j.(10O0370) タクシー‐出名動詞‐意志 夜 一つ タクシー 連絡する‐意志
タクシーで行く。今夜タクシーに連絡しよう。 “dī 的”
008 tər uj‐d ən‐ʧin shi mao er‐d‐əʤii‐səŋ.(11B0109)
指示代名 時‐与位格 指示代名詞‐2人称所属 流行‐出名動詞‐進行体‐過去
あの時これが流行っていました。 “shí máo er 时髦儿”
009 ɔdɔɔ bur wang zi‐l‐ən jɑɑ.(21C0499) 今 皆 金網‐出名動詞‐現在 確認
今は皆(自分の土地を)金網でくくるよ。 “wǎng zi 网子”
010 œrəl‐ʧəx əsɡuul dian hua‐d‐ʧəx.(07G0213) 叫ぶ‐完了 或いは 電話‐出名動詞‐完了
大きな声で言ってみたら。電話してもいいけど。 “diàn huà 电话”
011 kua zi‐l‐ʤ l bɛɛn, bɑs tərən‐tɛɛ- ɡɑɑŋ kua zi‐ɑɑr
なまりのある‐出名動詞‐副動 小辞 助動 また 彼‐共同格‐再帰 方言‐造格
jɛr‐əx jim.(19B0132)
話す‐形動 確認
方言(漢語の)でしゃべっていた。彼とは方言でしゃべるようだ。 “kuǎ zi 侉子”
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012 ɡәr zu zi‐l‐әx ʤɔɔs‐ɔɔŋ jɔɔ ɔl‐ʤ diil‐əx ɡue.(06B0049) 家 賃金‐出名動詞‐形動 お金‐再帰 jəə 得る‐副動 できる‐形動 否定
家を借りるお金すら稼げない。 “zū zi 租子”
モンゴル語の名詞から動詞を派生させる接尾辞は複数あるが、借用漢語の名詞に後続し、
チャハル方言で動詞として使用されるものは、筆者が確認できた限り、‐d、‐lのみであ る。出名動詞接尾辞‐dはもともとモンゴル語の中ではかなり生産的に用いられ、「~を用 いて動作を行う」という意味で最も多く使われる。例:‛poo’「銃」> ‛poo‐d’「撃つ」、
‛xɵrɵɵ’「鋸」> ‛xɵrɵɵ‐d’「鋸で切る」、‛ɑrəɡ’「方法」> ‛ɑrəɡ‐d’「なだめる」(塩
谷2006:129)。そのため、借用名詞の“dī 的”「タクシー」、“shí máo er 时髦儿”「モダン」、
“diàn huà 电话”「電話」に‐dをつけることによって、‛di‐d’「タクシーに乗る」、‛shi
mao er‐d’「流行る」、‛dian hua‐d’「電話する」などの動詞を派生することができた。
そして、出名動詞接尾辞‐lももともとモンゴル語の中で生産性がかなり高く、「~をする」、
「~を用いて動作を行う」、「~の状態にする」といった意味を表す他動詞や、「~が生じる」、
「~の状態になる」といった意味を表す自動詞を派生する。例:‛xɛɛr’「愛」> ‛xɛɛr
‐əl’「愛する」、‛xɛɛʧ’「はさみ」> ‛xɛɛʧ‐əl’「はさみで切る」、‛nɔndəɡ’「粉」> ‛
nɔndəɡ‐əl’「粉にする」、‛ʃud’「歯」> ‛ʃud‐əl’「歯が生える」、‛nɛɛʤ’「友たち」
> ‛nɛɛʤ‐əl’「友たちになる」(塩谷2006:133-135)。そのため、借用名詞“dōu er 兜 儿”「ポケット」、“wǎng zi 网子”「金網」、“kuǎ zi 侉子”「なまりのある」、“zū zi 租子”
「賃金」に‐lをつけることによって、他動詞の‛dou er‐əl’「ポケットに入れる」、‛wang
zi‐l’「金網で囲む」、‛zu zi‐l’「借りる」、自動詞の‛kua zi‐l’「方言でしゃべる」など
の動詞を派生させる。
実際、このように漢語の名詞から動詞を派生する用法はさほど生産的ではなく、本研究 のデータで確認できた以上の漢語名詞以外に、“shuā zi 刷子”「ブラシ」、“pá zi 耙子”「熊 手」、“luó sī 螺丝”「螺子」といった名詞があり、‛shua zi‐d’「(ブラシで)洗う」、‛pa zi‐d’
「(熊手で)かきよせる」、‛luo si‐d’「螺子でとめる」のように動詞を派生させることがで きる。
そして、モンゴル語の形容詞から動詞を派生する接尾辞‐t を付加し、形容詞が表す状 態を示す動詞を作ることができる。例えば、‛boʤər’「汚い」> ‛boʤər‐t’「汚くなる」。 この接尾辞が漢語の形容詞を動詞として派生させるのに用いられ、用例 013―015 のよう な文が作られる。漢語形容詞の“gè ying”「嫌な」、“má fán”「煩わしい」、“rèn zhēn”「真 面目」が‐t によって動詞の‛ge ying‐t’「嫌がる」、‛ma fan‐t’「煩わしく思う」、‛ren
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zhen‐t’「真面目になる」に派生した。
013 ɵɵr‐iiŋ bəj‐əəs‐əəŋ ge ying‐t‐əəd.(06N0419)
自分‐再帰 自分‐奪格‐再帰 嫌な‐出名動詞‐副動
自分のことが嫌いになって。
014 nәɡ nәɡ‐әәr jie jue xii‐ʤii‐n sitәә. bii uʤ‐ʤii‐ɡəәd
一つ 一つ‐造格 解決する する‐進行体‐現在 確認 1SG 見る‐進行体‐副動
ma fan‐t‐ɑɑd.(02N0404) 煩わしい‐出動動詞‐副動
一つ一つ片付けているのよ。私は見ていて煩わしく思った。
015 ɔdɔɔ tui xiu xii‐lәә bɛɛʤiitәl juu‐ɡii‐n ren zhen‐t‐әәd bɛɛdәɡ
今 退職する する‐未来 助動 何‐対格‐3人称所属 真面目‐出名動詞‐副動 助動
jiŋ.(01Y0583) 疑問
もうそろそろ定年するのに、そんなにまじめにやらなくてもいいじゃない。
実は、この三つの接尾辞はこのような漢語名詞と形容詞の借用だけではなく、漢語動詞 の借用にも利用されている。しかし、漢語動詞のチャハル方言での借用は名詞や形容詞の 借用よりも複雑であり、以下4.3から 4.4にかけて、漢語動詞がモンゴル語に借用される ストラテジーやその特徴を中心に考察を行っていく。なお、本稿では塩谷(2006)に従い、
これらの接尾辞を出名動詞接尾辞という。