第 4 節 MPS 薄膜の高感度バイオセンサーとしての応用
4.6 結果及び考察
4.6.2 タンパク質吸着実験
各MPS薄膜のタンパク質吸着実験の結果を以下の1) - 2)に示す.
1) Protein Aの吸着
各MPS薄膜のProtein A吸着量の結果をFig4.3に示す.
SiO2薄膜では,158 ng/mm2であった.一方,P123熱処理膜及びP123VUV処理膜では,
それぞれ176 ng/mm2,125 ng/mm2であった.また,F127熱処理膜及びF127VUV処理 膜では,それぞれ180 ng/mm2,123 ng/mm2であった.P123,F127を用いVUV処理に よって作製したMPS薄膜のProtein Aに対する吸着能は,熱処理及びSiO2薄膜よりも低 下していた.
2) Protein A-IgG結合
各MPS薄膜のProtein A-IgG結合の結果をFig4.3に示す.
SiO2薄膜では,4.18 ng/mm2であった.一方,P123熱処理膜及びP123VUV処理膜で は,それぞれ7.65 ng/mm2,2.52 ng/mm2であった.また,F127熱処理膜及びF127VUV 処理膜では,それぞれ8.33 ng/mm2,1.48 ng/mm2であった.P123,F127を用いVUV処 理によって作製したMPS薄膜のProtein A-IgG結合は,熱処理及びSiO2薄膜よりも低 下していた.
Protein Aの吸着量は,SiO2薄膜と比較して,P123及びF127の両方においてVUV処 理膜では減少し,熱処理膜では増加した.VUV処理膜におけるProtein A吸着量の減少 は,均一メソ細孔に起因すると考えられる.Protein Aのサイズは,約3 nmであり,本 研究で作製したMPS薄膜のメソ細孔の直径は,約5 nmである.このProtein Aのサイ ズ及びメソ細孔の直径から,Protein AがMPS薄膜のメソ細孔に捕捉され固定化されて いると考えられる.一方,熱処理膜においては,XRD の結果から,メソ細孔を有して いるがSiO2骨格が崩れ,メソ細孔を有していない SiO2薄膜と同様の膜表面も存在して いると考えられる.そのために,メソ細孔以外のSiO2膜表面にもProtein Aが吸着した ために吸着量が増加したと考えられる.
Protein A-IgG結合は,薄膜表面上で行うことができた.しかし,薄膜表面での結合
の反応効率は大きく低下した.Protein AとIgGの結合の理論値は,モル比で1:1であ る.しかしながら、薄膜表面で行った結合の反応率は,約10:1であった.この反応率 の低下は,IgGの立体障害に起因すると考えられる.なぜなら,IgGのサイズは約10 nm であるため,IgGの立体障害によって薄膜表面に吸着したProtein A全てと反応すること が不可能になっていると考えられる.
また,通常の結合の場合,Prtotein A吸着後に非特異的吸着を抑制するためにBlocking 処理を行った後にIgGとの結合を行うが,本研究において,Blocking処理を必要とする ことなく非特異的吸着を抑制することができた.Protein AがMPS薄膜のメソ細孔内に 捕捉されていることによって非特異的吸着の抑制を可能にしたと考えられる.
4.6.3 DFM によるタンパク質の吸着の確認
P123VUV処理膜に対するDFMによるタンパク質吸着の確認の結果をFig.4.4に示す.
また,RMS及び高低差をTable 4.3にまとめる.
タンパク質吸着前のP123VUV処理薄膜のRMSは,0.78 nmであった.Protein A吸着 状態でのRMSは,1.21 nmであり,高低差は,4.06 nmであった.Protein A-IgG結合 後でのRMSは,3.55 nmであり,高低差は,19.48 nmであった.
Protein A吸着及びProtein A-IgG結合後において,RMS及び高低差が増加していく
ことが観察された.
DFMによるタンパク質の吸着の確認において,Protein A吸着後,Protein A-IgG結合 後において,二乗平均粗さであるRMS及び高低差が増加した.RMSの増加は,タンパ ク質が吸着することによる表面粗さの増加に起因すると考えられる.タンパク質のサイ ズが異なるProtein A及びIgGが吸着することによって,薄膜表面の凹凸が増加するた めである.また,タンパク質が吸着することによる高低差は,Protein A吸着後において は約4 nm増加し,Protein A-IgG結合後においては約19.5 nm増加した.Protein A吸着
後とProtein A-IgG結合後を比較すると,約15.5 nmの高低差の増加が観察された.こ
の高低差の増加は,Protein Aのサイズが約3 nmであり,IgGのサイズが約10 nmであ
ることから,タンパク質のサイズに対応していると考えられる.
以上より,RMS の増加及びタンパク質のサイズに対応した高低差の増加から,MPS
薄膜上にProtein Aが吸着し,Protein A-IgG結合を行うことができたことが観察された.
タンパク質吸着前 Protein A吸着後 Protein A-IgG 結合後
RMS(nm) 0.78 1.21 3.55
高低差(nm) 4.06 19.48
Table 4.3 タンパク質吸着状態の RMS 及び高低差
Fig.4.3作製した各MPS薄膜に対するタンパク質吸着量の結果を示す.
(a) Protein Aの吸着 (b) Protein A-IgG結合.