第4章 Top500 によるデータ分析
4.3 対象企業の選定
4.3.1 スーパーコンピュータメーカー
Top500 のデータから、どのようなイノベーションが発生してきたかを抽出する事
を考え、これにあたってハイエンド製品を開発しているいくつかの企業に着目して分
析を行うこととした。
現時点において世界で独自のスーパーコンピュータを開発している国は米国と、日 本に限られている。1990年代頃までは欧州でもMassive Parallel Computer(MPC)
型のスーパーコンピュータ等の開発が行われていたが、その後は、PC 用汎用プロセ ッサを利用したPCクラスタメーカーのみとなっており、独自の製品開発を行う企業 が存在しなくなった。一方で近年、中国がスーパーコンピュータ開発に力を入れてお り、大規模な PC クラスタシステムの構築を行っており、Top500 の上位に姿を現し ている。最近、独自プロセッサの開発に着手している模様であるが、現時点では商業 ベースの独自開発システムはまだ無い。このようなことから、日米のメーカーに限定 して分析を行う。
図4-1に日米のスパコンメーカーの勃興を表した図である。
日本は、1980年前後に富士通株式会社(以降富士通)、株式会社日立製作所(以降 日立)、日本電気株式会社(以降NEC)の3社がスパコンの開発をスタートして以来、
一貫してこの3社が国内でのスーパーコンピュータの開発を担ってきた。
一方、米国では、多数のスパコンメーカーが勃興しているが、長期に安定して存続 している企業は尐ない、CRAY はスーパーコンピュータ市場拡大の先駆けとなる CRAY-1を1976に開発した老舗(設立当初CRAY Research Inc.)であるが、1989 年に創業者のセイモア・クレイ氏自身がスピンアウトしCray Computerを設立した がCray-3完成の後1995年に倒産した。 一方のCray Research Inc.は1996年に Silicon Graphics Inc.(以降 SGI)に買収された。1990 年には再び SGI から Tera
Computer に売却され、Cray Inc.として、Crayの名を復活させてはいるがブランド
以外は変遷を遂げてきた。1980 年代には、ダウンサイジングや RISC プロセッサの 勃興により、SUN やSGIといった RISCワークステーションメーカー、Convex 等 のミニスーパーコンピュータメーカーや、Thinking Machine社等のMPCシステム の開発を行うメーカーが多数創業した。その後、米国において MPC 市場は縮小し 1990年代のうちにはほとんどのMPCメーカーが市場から撤退している。SGIはHPC 市場に参入後Crayを買収し本格的にスーパーコンピュータ開発に着手。1991に経営
悪化からCray事業をTera Computerに売却後も、HPC製品の開発は継続している
が、2009年にPCクラスタベンダーのRackable Systems社に買収され社名の「Silicon
Graphics International(SGI)」への変更が発表された。IBM はコンピュータメー
カーとしては老舗ではあるが、HPC市場への参入は遅い。実質的には1990年代に入 ってからの参入であるが、現在はHPC市場でメインプレイヤーとなっている。
2000 年以降には、性能が向上してきた PC をネットワークで多数接続して構成する PC クラスタがHPC 分野でも普及してきた。PCクラスタは、Intel やAMD が製造 する x86 プロセッサのノードを、汎用のネットワーク(Etherや Infiniband 等)を 使って構成される、モジュラー型のプロダクトであり、HP 等の大企業から中小のメ ーカーまで多数のメーカーが市場に参入しており、IBM や日本のスパコンメーカー も、製品系列として保有している。
本研究では、PC クラスタを除く独自開発のスーパーコンピュータに着目して分析 を行うこととした。理由については、後ほど改めて触れる。
図4-1 日米スーパーコンピュータメーカー