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環境運動における連帯の「同床異夢」
第1節 「気候保護法案」の提言活動へ向けた環境運動の連携とフレーミング前提 ――「メイク・ザ・ルール・キャンペーン」を事例として 本節では、COP13以降に、ポスト京都をめぐって環境NGOの運動戦略として選択・展 開された2つの環境運動の連携に着目し、環境運動の連携における環境NGOのフレーミ ングとフレーミング前提との関連性について検討する。検討の焦点は、環境運動の連携が 政治的影響力を獲得しようとすることで、環境NGOのフレーミングが、前章において検 討した国際環境において形成されるフレームと比較して、いかなる限定性を帯びているか についてである。また、本節での検討によって、後に検討する、個々の運動体によるフレ ーミング前提の受容プロセスの背景について確認することができるだろう。
COP13において合意された、「2009年に開催されるCOP15において京都議定書の第1
約束期間以降の枠組みについての決議を行う」ことに向けて、環境NGOは動き出した。
この動向は、NGOグループだけでなく、各国政府、関係企業、そしてマスメディア、ま た気候変動問題に対してこれまで取り組まなかった運動グループの関心を呼び、COP15 は、COP史上過去最大級の関心を集め、参加登録者による活動、及び会場周辺における運 動の展開があった100。本節で取り上げる事例の環境NGOも、COP15をめぐって準備を始 めた。それらの動向は、日本政府に対して気候保護法案を提案する「メイク・ザ・ルール・
キャンペーン」と温暖化防止のための広く関心を喚起しようとする「ネットワーク関西」
の結成へと集約されていった。
これから検討するのは、それぞれのネットワークで掲げられたフレーミングとフレーミ ング前提との関連性である。分析の対象は、それぞれのネットワークのフレーミングプロ セスにおいて重要な要素となった言説群である101。具体的には、「メイク・ザ・ルール・
キャンペーン」においては提案された気候保護法案の提案内容であり、「ネットワーク関西」
においてはネットワークの趣意書である。これらの言説が、運動体においてどのような目 的・経緯でつくられたのかについて、関係者への聞き取りのデータも加えて検討していく。
1-1. キャンペーンの概要と法案について――法案とフレーミング前提
洞爺湖G8サミット開催直後に、日本では、気候変動問題に関する大規模な運動が展開 される。それが、メイク・ザ・ルールキャンペーンである102。
100 参加登録者は過去最高の4万5千人に達した(中日新聞2009年12月9日)。
101 こうした言説と運動のフレーミングの関係については、高木(2004)を参照。高木によれば、運動 が例えばチラシに込める言説には、当該の問題に関わる出来事や活動を分かりやすく定義づける活動があ る(高木 2004:123)。それをフレーミングとして、「フレーミングは、①ものごとをわかりやすくみせ、
②それまでの定義や解決策とは異なる定義や解決策を示す」(高木 2004:123-124)とされる。本論での 事例の場合、②について積極的に見出すことができる。その意味で、高木の定義に倣う部分がある。
102 この箇所のキャンペーンの概要に関する記述は「メイク・ザ・ルール・キャンペーン」のHP
(http://www.maketherule.jp/dr5/ 2011.06.24)を参考にした。また、キャンペーンの立ち上げに関わっ た2団体(気候ネットワーク、FoE・ジャパン)の関係者への聞き取り(気候ネットワークについては、
2008年9月15日に行ったE氏および2008年11月27日に行ったF氏への聞き取りより。FoEジャパ ンについては、2009年2月16日に行ったG氏・H氏への聞き取りより。)も参考にした。
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メイク・ザ・ルール・キャンペーンは、「気候変動を防ぐ法律をつくろう」というフレー ミング(図9-1参照)のもと、2008年8月1日にスタートした環境運動の連携で、30
図 9-1:パンフレット『気候変動を防ぐ法律をつくろう』より抜粋
ほどの環境関係の団体が集まって始まった(2009年10月15日現在、実行委員団体環境 NGO等を含む54団体(うち全国団体21団体、地域団体33団体)で、賛同団体が最終的 に、国際協力NGO・企業を含む148団体)。その後、2009年3月27日に気候保護法制定 を求める全国請願の署名を提出し、2010年3月10日には延べ36万人分の署名を提出す
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るに至っている。そして、2011年3月31日に活動を終了させている。
組織体制は、実行委員団体と賛同団体、および法案委員会、事務局からなり、実行委員 団体が請願署名(章末の資料1を参照)を収集する拠点となり、賛同団体は署名を集める 協力を行う。また、法案委員会が提案する法案作りを行った。そのほかに、呼びかけ人に 有識者や有名人が参加をしていることが特徴であり、幅広く関心を喚起することが目指さ れた。また、ボランタリーな活動も署名を中心活動に大きく貢献している103。運営資金に は、助成金のほか寄付などがあった。
署名募集活動以外の活動としては、関心を喚起する、あるいは国際会議の状況を伝える といった目的で、セミナーを開催し、全国200か所以上で開催された。また、2008年と 2009年の12月には、日本でも50ヶ所以上で、年に一度世界各地で同時行動を起こす、
グローバル・キャンペーンと連携したイベントが開催された。さらに、この運動が成功例 としてモデルにしたイギリスでの例104をもとに、地域でのロビー活動を展開し、地方議会 での意見書の採択が、123議会でなされた。国会議員への働きかけとして、国会議員を対 象とした勉強会も14回開催された。「気候変動を防ぐ法律をつくろう」というフレーミン グの具体的な内容は、「気候保護法」骨子案という形で示された(図9-2参照)。気候保護 法案の内容について2008年9月2日の案をもとに言及すると、中長期の温室効果ガス削 減目標として、「2020年まで(中期)に1990年比30%削減、2050年まで(長期)に1990
年比80%削減」を掲げている。そのほかに、1)京都議定書の第1約束期間の目標達成(日
本の場合、2008-2012年に1990年比6%を削減する)、2)炭素に価格をつける仕組みの 導入、3)再生可能エネルギーの固定価格買取制度の導入、4)気候変動への適応計画の 策定、5)地域の実情に即した、排出削減などの緩和や適応のための取り組みを促進する 仕組みの導入、6)温室効果ガスの排出情報の公開105、7)取り組みの監視・市民参加の 仕組みの導入、8)国際的な取り組みへの日本の積極貢献が提案されている。これらの法 案の提案趣旨について図9-2を参考に、法律をつくるというフレームとフレーミング前提 との関連性という観点から整理したものが表9-1である。5つの段落からなる趣旨文につ いて、それぞれの段落とフレーミング前提との関連性について法案の対応箇所も含めて検 討した。
「気候保護法」骨子案に示された9つの提案の内、さいごに掲げられた「国際的な取り 組みへの日本の積極貢献」が触れられていないがそれ以外は、提案趣旨に沿った形である。
フレーミング前提との関連性についてみていくと、COP13・京都議定書AWG第4回後半 会合での合意と同様の内容で前半部分が書かれている。
103 日本全国各地で行われている署名募集活動は、そのほとんどがボランタリーなものである。筆者もフ ィールドワークの際、ボランティア活動を行い、ボランタリーな活動が支えになっていることを確認して いる。
104 FoE UKのレポート(2008年3月に日本で開催されたイベントでの発表資料)」によれば、下記のよ
うなことが成功のポイントであったという。1)影響力のある3大政党(労働党、保守党、自由民主党)
が支持した。2)人気ミュージシャンが広報支援を行った。3)地域の議員に対しロビー活動を行った。
このイベントは、FoEジャパンと気候ネットワークが行ったものであり、そこでFoE UKから成功事例 を報告があった。その成功例から多くを学んだという(2008年3月25日および9月15日に行った気候 ネットワークE氏の聞き取りより)。イギリスでは、2008年11月26日に、気候変動法が成立している。
105 この点に関して、気候ネットワークは、国を相手に正確な排出情報の公開(特に鉄鋼・製造業部門に ついて)を求めて裁判をしている。
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図9-2:パンフレット『気候変動を防ぐ法律をつくろう』より抜粋
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後半の再生可能エネルギーについては、IPCC第4次報告書での言及はある106が、様々
106 IPCC第4次報告書には、その他に代表的な対策として、温室効果ガス(CO2)の吸収源としての森 表9-1 「気候保護法」骨子案の提案趣旨とフレーミング前提の関連性について
段落数 示された提案趣旨の内容 趣旨の要約 フレーミング前提との関連性
①
京都議定書の第1約束期間が始ま りましたが、日本の対策は遅々と して進まず、温室効果ガスの排出 量は一向に減りません。年々、気 候変動による悪影響が顕著になっ ており、このままでは私たちの暮 らしや経済活動の基盤に深刻な影 響が及び、将来世代に安全な地球 を引き継ぐことができなくなって しまいます。
京都議定書の第1約束期間 が始まったにも関わらず、
日本の対策は遅れている。
②
安全なレベルで気候を安定化させ ていくためには、科学の要請に基 づいて世界で温室効果ガスを大幅 に削減することが必要です。2009 年末の合意を目指して、現在行わ れている国際交渉において、2013 年以降の国際枠組みを、温室効果 ガスを大幅に削減する数値目標を 盛り込んだ包括合意とすることが 重要であり、日本の貢献も求めら れています。
2009年COP15における温室 効果ガスの削減数値目標を の合意に、日本も貢献すべ きである。
③
日本においても温室効果ガスを大 幅に削減し、持続可能な低炭素社 会を築いていかなければなりませ ん。そのためには、科学の要請に 基づく温室効果ガスの中長期の数 値目標を設定し、その目標を達成 するための政策を包括的に策定・
実施する法律が必要です。
日本国内で、科学の要請
(IPCC第4次報告書)に基 づく、温室効果ガスの中長 期の削減目標を設定し、さ らには、目標達成ための法 律をつくることが必要であ る。
④
また、知恵と工夫を凝らしてエネ ルギー消費を大きく減らし、再生 可能エネルギーを面的に拡大さ せ、エネルギー的にも自立した地 域づくりを進めることが必要で す。
再生可能エネルギーの拡大 とそれによる自立した地域 づくりが必要である。
フレーミング前提とは関連 性がありつつも、独自の価 値判断に基づくもの。
⑤
気候保護法案は、将来世代に安全 な大気と生活を引き継ぐために、
日本としての低炭素社会への道筋 を市民から提起し、その成立を求 めるものです。
法案を市民から提案する。
フレーミング前提とは関連 性がありつつも、独自の価 値判断に基づくもの。
科学的知見としては、IPCC 第4次報告を中心として、
特に温暖化の影響と対策に 関する箇所に基づいた見解
(先進諸国が中長期目標を 設定べきである)を行って おり、この点は、フレーミ ング前提をもとにしつつ も、COP13における附属書
Ⅰ国の更なる約束に関する AWG第4回後半会合での合 意内容と同様のものであ る。また、これらを国内で の法律制定に活かそうとす る点に特徴がある。