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グローバル・イシューと NGO 運動(1)

ドキュメント内 NGO 運動における「正当化」の社会学的考察 (ページ 112-126)

――COP13以降の「先進諸国の責任」論に対する戦略

第1節 気候変動問題対策における環境運動の価値判断モデルとフレーミング前提

――地球温暖化現象の科学を背景として ここから、グローバル・イシューである気候変動問題に関わるNGO 運動に焦点を絞っ て、運動の動向を分析していきたい。まず、本節では、気候変動問題が問題たる所以であ る、温暖化現象の科学から始め、それらに影響されている、環境運動の様相をモデル化し てみていきたい。

気候変動問題の中心的な問題現象である地球温暖化現象に対しては、後に触れるように さまざまな疑問点が投げかけられているが、まず政治性や論争がありつつも科学的知識と して認められている.......

気候変動問題の問題としての規定性についてについて確認していきた い。IPCC が気候変動問題の「問題としての規定性」を、気候変動枠組み条約締約国会議 に対して提供している主たる組織であるということから、気候変動問題に関わるこのよう な性質を、本論文では、IPCC モデルと呼んでおく。IPCC の組織体制は、主たる課題領 域ごとに分けられた3つのワーキング・グループから成り立っている。気候変動の予測、

科学的評価を行う第1作業部会、気候変動・温暖化の影響、および適応・脆弱性を測る第 2作業部会、対策、緩和策を検討する第3作業部会である。これら3つの作業部会がそれ ぞれの課題について検討し、その結果がグループごとに政策決定者向けの報告書を含む評 価報告書として提出される。さらに、それらは3つの作業部会の統合報告書としてまとめ られる。2013年現在の最新である第4次評価報告書は、2007 年11月にIPCC 総会で審 議・採択された。その統合報告書(AR4 SYR)には、次の5つの主題についての記述があっ た(表8-1)。

表 8-1 IPCC 第 4 次評価報告書統合報告書の構成

主題 主たる主張

主題1 気候変化のその 影響に関する観測結果

気候システムの温暖化は疑う余地がない。このこと は、大気や海洋の世界平均温度の上昇、雪氷の広 範囲にわたる融解、世界平均海面水位の上昇が観 測されていることからいまや明白である。(AR4 SYR :30 より引用)

主題2 変化の原因

20 世紀半ば以降に観測された世界平均気温の上 昇は、その大部分が人間活動による温室効果ガス の大気中濃度の増加によってもたらされた可能性 が非常に高い。(AR4 SYR :39 より引用)

113 主題3 いくつかのシナリオにお

ける予測される気候変化とその 影響

現在の削減政策を継続した場合、世界の温室効果 ガス排出量は、今後 20~30 年増加し続ける。いく つかのシナリオが考えられるが、いずれの場合にも 今後 20 年間に 10 年あたり 0.2℃の割合で気温が 上昇すると考えられる。

(AR4 SYR:44-53 より抜粋)

主題4 適応と緩和の オプション

今後数十年にわたり、世界の温室効果ガスの排出 量の緩和ではかなり大きな経済的ポテンシャルが あり、それにより世界の排出量で予想される増加を 相殺する、または排出量を現在のレベル以下に削 減する可能性があるとボトムアップ及びトップダウン の研究では指摘されている。(AR4 SYR :58 より引 用)

主題5 長期的な展望

今後 20~30 年での緩和努力とそれに向けた投資 が、より低い安定化濃度の達成に大きな影響を与 える。(AR4 SYR :66 より引用)

これら5つの主題は、大きく2つに分類することができる。ひとつは、地球温暖化を含 む気候変動に関する自然科学的な根拠であり(主題1・主題2・主題3)、もうひとつは、

自然科学的な根拠を前提とした気候変動問題対策である(主題4・主題5)。自然科学的根 拠については、「地球は温暖化しているのか」という基本的な問いとともに、様々な反論が 存在する82。こうした反論が正当であるかは別にしても、そうした意見の相違があること は、「地球温暖化」という事実認識に一定の価値判断があるとみてよいだろう。IPCCも第 4次評価報告書には、気候変動問題の存在を認めた場合にも、気候変動に対して人為的な

82 赤祖父ほか(2009)によれば、IPCC第4次評価報告書の内、次の5点について、自然科学者の間での 大きな意見の相違が確認できる。

①世界の二酸化炭素、メタン及び一酸化二窒素の大気中濃度は、1750年以降の人間活動の結果、大きく 増加してきており、氷床コア(氷床から取り出された筒状の氷の柱)から決定された、工業化以前何千 年にもわたる期間の値をはるかに超えている。世界的な二酸化炭素濃度の増加は第一に化石燃料の使用 及び土地利用の変化に起因する一方、メタンと一酸化二窒素については農業による排出が主な要因であ る。

②気候システムの温暖化には疑う余地がない。このことは、大気や海洋の世界平均温度の上昇、雪氷の 広範囲にわたる融解、世界平均海面水位の上昇が観測されていることからいまや明白である。(この点 は表2中の主題①と同様の点である)

③古気候に関する情報によって、過去半世紀の温暖な状態が少なくとも最近1300 年間において普通で はないとの考察が裏付けられている。

④20世紀半ば以降に観測された世界平均気温の上昇のほとんどは、人為起源の温室効果ガスの増加によ ってもたらされた可能性が非常に高い。識別可能な人間の影響が、気候の他の側面(海洋の温暖化、大 陸規模の平均気温、異常高低温や風の分布)にも及んでいる。

⑤温室効果ガスの排出が現在以上の割合で増加し続けた場合、21世紀にはさらなる温暖化がもたらされ、

世界の気候システムに多くの変化が引き起こされるであろう。その規模は20 世紀に観測されたものよ り大きくなる可能性が非常に高い。

この中でも、気候変動問題を社会問題として規定づけるのに、最も大きな根拠である、④(温暖化の原因 は人間活動によるものである)については、5人のうち気候変動問題の科学を専門とする江守以外は賛同 しないということで、大きく意見の分かれる点であった。

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干渉があるという認識には、一定の価値判断が伴うことを示している。「『気候システムへ の危険な人為的干渉』がどのようなものであるかを決定するのは、価値判断を含むもので ある。科学は、どのような脆弱性が重要であるかを判断するための基準を提供することで、

意思決定を支援することができる」(AR4 SYR :64)。こうしたIPCCが示す価値判断が意 味しているのは、「地球温暖化」という事実を認めたうえで、かつ何らかの対策を取ること である。こうしたストーリーをIPCCモデルとすれば、環境NGOの価値判断モデルとの 関連を、以下のように示すことができる(表8-283)。

環境NGOの価値判断モデルとして、環境NGOの代表的な見解であるCAN・インター ナショナルの主張について取り上げる。

IPCC の見解を気候変動問題対策促進の最大の根拠として、問題の認識と対策を示して

83 8-2は、IPCCの第4次評価報告書、およびCAN・インターナショナルの提案書をも とに作成した。

①IPCC第4次評価報告書(統合報告書)(AR4 SYR)

(原文:http://www.ipcc.ch/pdf/assessment-report/ar4/syr/ar4_syr.pdf 環境省による報告書(仮訳)

http://www.env.go.jp/earth/ipcc/4th/syr_spm.pdf 2011.5.9)

②CAN・インターナショナルによる提案書(COP15へ向けた内容)

(http://climatenetwork.org/sites/default/files/CAN_FAB_Essentials_1.pdf 2011.5.30)

表 8-2 IPCCモデルと環境NGOの価値判断モデルの関連

気候変動問題 の規定に 関する項目

IPCCモデル 環境NGOの価値判断モデル

主題①気候変化とその影響に関する観測結果 主題②変化の原因

主題③いくつかのシナリオにおける予測さ れる気候変化とその影響

主題⑤長期的な展望

主題④適応と緩和のオプション ・適応、および緩和に関する記述

・金融、技術、法的整備に関する記述

は影響を与えていることを示している

気候変動の 事実と影響

気候変動問題 の認識と対策

・地球温暖化を産業革命以降の気温   上昇2℃未満に抑えること

・温室効果ガスの濃度を22世紀には   350ppmで安定化させること

・世界の排出量のピークを2013年から   2017年とし、2050年までに1990年比   で80%削減すること

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いる。CAN・インターナショナルの主張は、大きく分けて、2つに分けられる。ひとつは、

点線の矢印で示されているように気候変動の事実を前提にして影響関係にある、温室効果 ガスの排出抑制の目標設定に関するもの(主題①・②・③・⑤からの影響)、もうひとつは、

気候変動問題の認識と対策に関するシミュレーションを背景にした、地球温暖化の進行を 抑制するための施策に関するもの(主題④からの影響)である。

このような環境NGOの価値判断モデルとしてのCAN・インターナショナルの主張は、

次のような特徴を持っている。

①IPCC による気候変動の事実と影響の予測を前提として、問題の対策の方向性を 示していること(IPCCモデルの主題①・②・③からの影響)。IPCCが報告した、気 候変動の事実としての世界平均温度の上昇と世界平均海面水位の上昇があること、お よび、20世紀半ば以降の世界平均気温の上昇の大部分が人間活動によるものであるこ と、さらに、CO2が人間活動による温室効果ガスのなかで最大のものである。以上の ことを根拠として、人間活動による CO2 排出量の抑制という問題対策の方向性が示 されている。

②また、対策の方向性を決定する際、IPCC が示した主題⑤におけるシナリオ(表 3)のうち、最も期限の短いもの(Ⅰ)に焦点を当て、表 8-2中にあるように、温室 効果ガスのピークの期限や削減目標を示していること。

さらに、主題④からの影響として、CAN・インターナショナルは、上記の2つの特徴を 前提として、問題の認識や対策についての主張を形成し、次のような適応や緩和に関する 主張を挙げている。

表 8-3 安定化シナリオと気温上昇、海面上昇

区分 CO2濃度 温室効果ガス安定 化濃度(CO2換算)

CO2排出がピーク となる年

2050年のCO2 排出

産業革命前からの 気温上昇

熱膨張による産業 革命前からの海面 上昇

ppm ppm m

Ⅰ 350 – 400 445 – 490 2000 – 2015  -80 to -50 2.0 – 2.4 0.4 – 1.4

Ⅱ 400 – 440 490 – 535 2000 – 2020 -60 to -30 2.4 – 2.8 0.5 – 1.7

Ⅲ 440 – 485 535 – 590 2010 – 2030 -30 to +5 2.8 – 3.2 0.6 – 1.9

Ⅳ 485 – 570 590 – 710 2020 – 2060 +10 to +60 3.2 – 4.0 0.6 – 2.4

Ⅴ 570 – 660 710 – 855 2050 – 2080 +25 to +85 4.0 – 4.9 0.8 – 2.9

Ⅵ 660 – 790 855 – 1130 2060 – 2090 +90 to+14 4.9 – 6.1 1.0 – 3.7

ドキュメント内 NGO 運動における「正当化」の社会学的考察 (ページ 112-126)