第二部 欧州主要造船グループのミクロ経済分析
2. 財務分析
4.5 5.0 5.5 6.0 6.5 7.0 7.5
Jan-03 May-03
Sep-03 Jan-04
May-04 Sep-04
Jan-05 May-05
Sep-05 Jan-06
May-06 Sep-06
Jan-07 May-07
Sep-07 Date
DKK : $US
図 1.5-DKK/ドル為替レート
表記になっている。換算に用いた為替レートには、3 企業の監査済み財務諸表に おける貸借対照表の日付けである 2006年 12月 31日の値を採用した。
2.2 分析
3 つのグループは事業の規模や経営戦略において大きく異なる。フィンカンティ エリは依然として政府所有であり、2008 年に予定されている株式公開のあとも国 の管理下にとどまる可能性が高い。子会社を持つことなく、ほとんどの事業をイ タリアで行っており、客船の建造に大きく集中している。オデンセは民営で、主 に親会社である A.P.モラー(A.P. Moller)及びその系列会社マースク・ライン
(Maersk Line)向けに、コンテナ船を建造している。アーカーは正式にはノル ウェーで公開されている企業だが、最近、非ヨーロッパ系の主要株主として、韓 国の競争相手であるSTX からの出資を受け入れた。各グループの戦略とプロダク トミックスとの関連は、第三部にて報告する。
表 2.1.に、2006年の財務諸表から主要な財務指標を抜き出して示した。
表 2.1-2006 年 12 月 31 日締め会計年の財務指標
指標 アーカー フィンカンティエリ オデンセ
グループ売上高(百万米ド ル)
4,143 3,333 1,279
粗損益(百万米ドル) 553 291 (33)5
粗利益率(%) 13.3 8.7 -
純損益(100万米ドル) 165 69 (107)
労 働 コ ス ト / 営 業 費 用 率
(%)
19.4 18.6 35.9
平均従業員数 16,892 8,853 7,418
従業員 1 人当りの平均コス ト(米ドル)
41,178 63,855 48,983
従 業 員 1 人 当 り の 売 上 高
(米ドル)
245,000 376,000 172,000
売上高/従業員 1 人当りの 平均コスト
5.9 5.9 3.5
流動比率 1.22:1 1.08:1 2.79:1
5 ( )内の数値はマイナスを示す。
当座比率 0.51:1 0.13:1 1.31:1 自己資本/総資産(%) 21.5 13.8 11.7 ギアリング比率(固定利子
負債/投資資本合計)
40.5 22.0 84.6
自己資本増減・前年比(%) 20.9 4.2 (47.0) 長期負債増減・前年比(%) 56.8 (7.5) (11.1) インタレストカバレッジレ
シオ(倍)
5.8 13.2 -
資本的支出(100 万米ドル) 556 839 34 減価償却費/固定資本(%) 8.7 15.1 5.9 研究開発投資(100 万米ド
ル)
12.0 57.7 Not Available
アーカーは 3社の中で最も規模が大きく、粗利益率も最も高かった。ただし、2007 年の業績見通しは下方修正されており、2007 年の業績は 2006年と比べて大きく 下がると見られている。また低コスト国に造船所を分散させていることから、3 グループの中でアーカーは平均労働コストが最も低かった。これは第三部におい ても説明する。アーカーの資本的支出は比較的高かったが、研究開発費用は限定 的だった。
フィンカンティエリは高付加価値の製品に事業を集中させている(このため従業 員 1 人当りの売上高がもっとも高い)が、単位労働コストが高いことなどから、
利益率ではアーカーを下回っている。フィンカンティエリはまた、資本的支出と 研究開発投資が多く、建造工程や製品開発などに投資していることがわかる。
オデンセは3つのグループのなかで最も付加価値の低い分野に事業を集中してい る一方、単位労働コストが最も高く、現在は赤字を出している。資本的支出は限 定的だった。
上表からは、低コスト国の造船所との提携によるメリットを読み取ることができ る。フィンカンティエリのみが全ての建造能力を国内の造船所に集中させており、
それにより平均賃金コストがかなり高くなっている。
上表からはまた、プレミアム市場である客船(フィンカンティエリとアーカーの 両者)やオフショア支援船(アーカー)に進出していないために、オデンセのプ
ロダクトミックスが不利であることがわかる(第三部でも論じる)。低コストの造 船所との提携による労働コスト上の優位にもかかわらず、オデンセの採算性は低 い。
2.3 アーカー・ヤーズ・ASA グループの財務諸表および財務比率6
2.3.1 収益性および事業効率
アーカーは 2005 年と 2006 年に、造船業界の平均を上回る増収率を達成した
(2005 年は 32.7%、2006年は 55.7%)。2004 年に行った再編により、採算性も 改善された。粗利益は 2004年の値に比べて 2倍ないし 3倍の伸びを見せた。税 引き前・少数株主利益控除前の利益は 2006 年に、2004 年比でほぼ 6 倍になり、
諸経費がかなりの増加を記録したにもかかわらず、対売上高比で 4.7%に上った。
増収をもたらした主な理由は建造能力の拡大であり、建造能力は、フランス、ノ ルウェー、ウクライナの 4 ヵ所の造船所を含めて、2006 年に行った投資及び買 収により特に増加した。
材料コストが上昇したにもかかわらず、2005年と2006年はともに粗利益が2004 年の値を上回った。これは主として労働コストの管理により、労働コストの上昇 率が増収率を下回ったことによる。従業員一人当たりの売上高は、2004 年の 92 万 NOKに対して、2006年には 153 万 NOKに増えた。
総資産も目覚ましく増加した(2005年に 59.3%増、2006 年に 55.7%増)が、こ れは売上高の増加にそれほど貢献しなかった(売上高=平均総資産額の 1.1 倍)。
しかし、固定資産の利用効率は 2006 年には改善した。売上高の平均固定資産額 に対する倍率は、2005 年の 7.2 倍に対して、2006年には 8.9倍に上昇した。
2.3.2 流動性と債務
建造能力の拡大は主として外部からの資金調達によって賄われた。これは、「負債
/自己資本」比率の上昇となって現れている。アーカーは短期借り入れやサプラ イヤーへの債務も増やしている。「負債/自己資本」比率は 2004年の 172%から 2006年は 364%に上昇した。また、「自己資本/総資産」比率は、2004年の 36.7%
に対して、2006 年には欧州の製造業の平均を大幅に下回る 21.5%に下がった。
6 付録1の表を参照。
2005年と 2006 年の間で長期負債がほぼ 57%増加したのに対し、自己資本は 21%
の増加にとどまった。負債増加の一部は、フランスの 2 造船所(サンナゼールと ロリアン)の買収のための資金調達による。2006 年にはシンジケート・ローン
(2011 年償還)が 10 億 NOK にまで増え、合計で 6 億 NOK が 2 回の社債発行
(償還期限 7年)で調達された。
借入金の増加に伴い、インタレストカバレッジレシオも低下した。2004年の 11.7 倍から 2005 年と 2006年は 5.8 倍に下がった。
2006年に流動性の水準は 2004年よりも低くなった。当座比率は 0.55:1 で産業平 均を下回る。正味運転資本比率も、2004 年の 20.5%から 14.1%へ下がった。
2.3.3 最近の動向
アーカーは 2007 年 8 月末、傘下のフィンランドのフェリー建造造船所で、手持 ち工事量に対応しきれなくなったために約 4億 NOK(約 7000万ドル)の特別損 失が生じると警告した。サプライチェーンの問題が納入の遅れを招くとの予想で あり、原料価格も上昇を見せている。損失はフェリーの手持ち工事総額の 4.7%
に当たる。また、2006年に買収したノルウェーの Floro 造船所でも、パフォーマ ンスが振るわず 1 億クローネの損失が計上されている。アーカーは、同造船所の 新経営陣に対して、コスト削減を実施させた。グループの年間業績は昨年度を下 回ると見られている。
2.4 フィンカンティエリ・グループの財務諸表および財務比率7
過去 3年間のフィンカンティエリの財務状況は、国の支援に依存し不安定だった 過去と比較すると、7 年間黒字を維持したことなど、緩やかで全体的にポジティ ブな業績の変化により特徴づけられる。このことは、2008 年に予定されるグルー プ株式 48.5%の公開時に、投資家の信頼を高める材料になりうる。
2.4.1 収益性および事業効率
2005年と 2006 年に同社は穏やかなペースの増収(それぞれ 6.4%と 9.1%)を確 保し、2003 年の 7.1%減から増収に転じた。2003 年の減収は、2001 年 9 月 11 日の同時多発テロ後に生じたクルーズ船の引き渡し日程の延期が原因となってい
7 付録2の表を参照。
た。しかし、付加価値は高いが浮き沈みが激しい少数の造船分野(クルーズ船、
フェリー、艦船)に事業を集中しているため、今後の成長は不安定になる可能性 がある。同社は、大型ヨットやオフショア船の建造に着手するなど製品の多様化 に徐々に歩みを進めており、またクルーズ船の修繕を中心に、アフターサービス も強化している。
粗利益は、2005 年(2 億 1380 万ユーロ)と 2006 年(2 億 2090 万ユーロ)に、
2004 年(1 億 7120 万ユーロ)と比べてかなりの増加を見せた。増益率は 2005 年が 2006年を凌いでいるが、これは、2005年には労働コストと原材料コストの 増加率(4.8%)が増収率を下回ったが、2006 年は原材料コストを中心に営業費 用の増加率(9.6%)が増収率をわずかに上回ったためである。
同社の造船事業はイタリアに集中しており、国外の子会社としてはドイツに修理 ヤード(Lloyd Werft)と米国に舶用システムの拠点がある程度である。フィンカ ンティエリは調査対象の3グループの中では従業員 1人当りの労働コストが最も 高い(表2.1 を参照)が、2006 年には従業員 1人当たりの売上高も最も高く、ア ーカーと同程度の生産性(「売上高/従業員 1人当り労働コスト」は 5.9)を確保 した。同社は、高コスト国に建造を集中していることから生じる競争上の不利益 を、下請けを多用することにより埋め合わせた。下請けは、ほとんどがイタリア 企業だが、同社よりも規模が小さく、労働コストが低い。
2005 年(4590 万ユーロ)と 2006 年(4630 万ユーロ)の営業費用は、2004 年
(1880 万ユーロ)を大幅に上回った。他方、2004 年には、保証基金の利用と研 究・投資のための運転資本向けの拠出金を受けたことにより、3650万ユーロの特 別収入を得ていた。これらにより、税引き前純利益は、2004 年(1 億 5200万ユ ーロ)よりも、2005 年(1 億 460 万ユーロ)と 2006 年(1 億 1110 万ユーロ)
の方が少ないという結果になった。
2005年にフィンカンティエリは創立以来初の配当を行い、配当は 2006 年にも行 われた。2005年の新規受注は 11 億4800 万ユーロで、2004 年の 30億 6900万ユ ーロを下回っており、生産性が下がる場合には、将来の業績に影響を及ぼす可能 性がある。2006 年の新規受注は 41 億 2300 万ユーロに増加したが、商船の新規 受注は専らクルーズ船(29億 8200万ユーロ)で、後はほとんどを艦船が占めて おり、それ以外では大型クルーザー1 隻と 6 隻のオフショア支援船の受注があっ たのみであった。売上高への影響がより迅速に現れるシステム及び部品と修繕の